人事のホンネ

2025シーズン 講談社
【人事のホンネ 特別編】自分と人との違い、おもしろがって 人気ランキング2位・講談社に聞きました

人事部 岩崎志子(いわさき・ゆきこ)さん(左)、前田克也(まえだ・かつや)さん(右)

2024年04月03日

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」。2025シーズンの特別編第二弾として、2023年11月に学情が発表した就職人気企業ランキングで2位となった講談社の採用担当者へのインタビューをお届けします。人気の理由や採用に対する考え方、欲しい人材像、学生へのメッセージを聞きました。(編集長・福井洋平)

世界をターゲットにした「総合エンタメ企業」に

■人気の要因
 ――講談社は前回ランキングで3位、今回は2位と人気があがってきています。他の出版社も上位にランクインしていますね。
 岩崎さん(以下、本編は岩崎さんが回答) 出版業界そのものの人気があがっているのは、コロナ禍による巣ごもり需要でエンタ-テインメントコンテンツに接する時間が世界的に増え、ライフスタイルの中に定着したからだと感じます。
 エンタメ以外の趣味を楽しんでいた人達も、スマホで漫画を読んだり、動画配信サービスで漫画や小説が原作のアニメやドラマを見たりすることが生活に定着したように思います。接触機会の増加を入口に、コンテンツをつくっている会社に学生が関心を寄せるようになったのではないでしょうか。

 ――講談社は2021年度に、創業以来の最高益を計上しました。
 まさかこの時代に最高益が出るとは……。出版不況と呼ばれた時代もあったので、正直驚いています。ただ、大変な時代のときに継続して取り組んできたことが、いまにつながった、と思います。
 
 ――最高益の要因はなんでしょうか。
 電子書籍の売上の伸びが大きいと思います。講談社は業界の先陣をきって電子書籍の強化に取り組んだ会社です。2011年発売の漫画『宇宙兄弟』16巻では、紙の本と電子書籍を同時に発売する試みにもいち早く挑戦しました。当時は紙と電子書籍を同時発売すると紙の本の売れ行きに悪影響があるのではとささやかれていたのですが、実際にやってみると紙の売上にも相乗効果があることがわかりました。 その後、電子と紙を同時並行ですすめるための仕組みを整えていき、いまでは業界全体で同時発売が当たり前になっています。

 現在は『進撃の巨人』や『東京卍リベンジャーズ』などの大ヒット漫画、東野圭吾先生や西尾維新先生といった人気作家の文芸作品などを軸に、アニメやドラマ・映画へのIP(知的財産)展開、さらにインディーゲームクリエイターの方と組んでオリジナルゲームをリリースするなど、新しいコンテンツ製作にも事業領域を拡大しています。またIPの海外展開にも積極的に取り組むなど、かつての出版のイメージから脱却して、世界をターゲットにした「総合エンタメ企業」へと変化しつつあります。2020年度にはデジタル・版権分野中心の「事業収入」が紙媒体の「製品」売上を初めて上回りました。

 ――学生からは、どういう反応がありますか。
 書籍を通じてはもちろんですが、漫画や小説が原作のドラマやアニメ、映画が多くあることで、出版社にはコンテンツをつくる力があり、それを派生させていろいろなことができるということが学生に自然に理解してもらえる状況になっていると感じます。私たちは採用活動でも、紙の本だけをつくるのではなく「あなたのやりたいことが新しく叶う可能性がある企業だよ」ということを伝えています。IPビジネスを通じ、海外と仕事するチャンスが増えているという話もしています。

 ――会社の性質も変わりましたか?
 業務の幅は広がりましたが、その中心に良質なコンテンツがないと展開はできません。講談社の企業理念である「おもしろくて、ためになる」ものをつくり、届けようという気持ちはかわっていないと思います。

楽しいだけの仕事ではない

■志望者数
 ――志望者は増加していますか。
 2008年をピークに応募者は減少傾向にありましたが、2021年に急増しました。これはアニメが市民権を得て以降の世代が大学生になったことと、コロナ禍でエンタメ需要が増したことが重なったからだと思います。 漫画や小説が好きな子どもは昔からたくさんいましたが、アニメは敷居が低くて一般層へ広がるスピードがすごい。とりわけ『鬼滅の刃』(集英社)大ヒットの影響で幅広い世代が漫画やアニメを楽しむようになり、「鬼滅」に続くヒット作が多数生まれるようになったと思います。当社からも『東京卍リベンジャーズ』『ブルーロック』『ちいかわ』などの大ヒット作が生まれました。

 かつては漫画やゲームが好きな人でも、ある時期がくると生活環境の変化などを理由にそれらを「卒業」することが多かったと思います。一方いまはスマホなどを使っていつまでもあらゆるコンテンツを身近に置くことができ、「卒業」しなくてもよくなった。極端な表現かもしれませんが、ある意味、日本人が「総オタク化」しているのかもしれません。

 とはいえ、2025年度の出版業界の志望者数は、2021年の急増時よりはだいぶ落ち着いています。 いまは就活の情報を手軽に手に入れられるようになり、志望企業の倍率や難易度もかなり可視化されていて、非効率な就活はやらなくなっているように思います。出版社は採用数も多くなく、ESも多種多様な設問があるので、実際に応募いただくのは大変です。就活の初期段階で志望する学生は多いかもしれませんが、実態を知るにつれて離脱していくのでは、と考えています。だから私たちは、採用広報には力を入れているのです。

■採用活動
 ――どのような採用活動を行っていますか。
 夏まではオンライン、対面を問わず積極的にイベントなどに出て、できるだけ多くの就活生に講談社という選択肢があることを知ってもらおうと考えています。夏には社員が登壇し社風や業務を知ってもらうワンデーのオープンカンパニーを行い、昨年は1000人×4回実施しました。

 夏になると学生の興味関心も絞られて、志望度が高い学生が残ってきます。そこでより当社を好きになってもらいたいという思いで、冬は少人数を対象にワークショップを行っています。昨年は3日間のワークショップを2クール、各クール40人集めて行いました。選考があり、簡易的なESの提出と、学力をはからないタイプのウェブテストを2種類受けてもらいます。ウェブテストを実施する理由は応募のハードルを上げて応募数を落ち着かせるためでもありますが、受験者全員にフィードバックがあるタイプのテストなので、応募してくれた人みんなに何か役立つおみやげを持って帰ってほしいというのが一番の目的です。

 ワークショップは選考には直結していません。ワークショップに落ちて、本選考に通過し内定した人もいます。また、ワークショップに参加したことで本当に自分がやりたいことに気づくことができた、という人もいました。他の参加者と自分を比べたときに何が得意で何が苦手なのか、客観的に自分らしさと向き合ったことで、ワークショップ応募時と志望ジャンルを変えて本選考に応募して内定しました。選考に直結させないことで、こういった気づきの機会も得られたのではないかと思います。

 ――学生は、どこに魅力を感じて入ってくるのでしょうか。
 自分の興味関心を仕事に繋げられる、好きなクリエイターと一緒にものづくりができるなど、自分の夢が叶う可能性に魅力を感じるのではないでしょうか。身の回りにあるものをつくっている会社なので、そういう未来像を描きやすいんだと思います。だから入社後は実際の仕事とのギャップに悩む人もいますし、私たちも「楽しいだけの仕事ではない」ということは折にふれて伝えるようにしていますね。

 出版社のなかで当社が好きな理由を学生に聞くと、「社風」と言われることが多いです。イベントに登壇した社員同士の会話が、年齢や部署の垣根なくフランクで仲が良さそうで、自由な社風に感じられるそうです。私たちもイベントのときだけとりつくろったりはしませんし、普段通りの様子を見せるようにしています。

「自分と人との違いをおもしろがれること」が大切

■求める人材像
 ――どんな学生にきてほしいですか。
 多様なコンテンツは多様な人材から生まれると考えているため、「求める人材像」は掲げていません。ただ、自分の興味、関心事について日ごろから考え、言語化して人に伝えようとする意識があること。そしてコンテンツは自分ひとりでは生まれず人と人との繋がりのなかから生まれてくるものなので、コミュニケーションに対してポジティブであることは大事です。

 また、興味の幅が広い人にきてほしいという思いは昔から変わりません。総合出版社では自分の希望と違う部署に配属されることもよくあります。私は文芸編集志望で入社しましたが、最初に配属されたのはファッション誌でした。また、仕事内容によって人のポジティブなことにも、ネガティブなことにも向き合うことがあります。

 そういった総合出版社ならではの環境で仕事をするうえで、個人的に大切だと思っているのは「自分と人との違いをおもしろがれること」です。世の中には自分以外の人しかいないわけで、相容れない価値観や思想を持った人もたくさんいます。その「違い」に対して目を背けずに興味を持つことができたら、そこから新しいコンテンツや読者が生まれるかもしれません。また、担当についた作家さんのやりたい企画やテーマが、自分にとっても興味があることとは限りません。もし興味が持てないテーマだったとしても、自分なりに面白いと思えるポイントを探して最大化することができれば、新たなファンを増やすことができるかもしれません。逆にチャンス――と考えられる人がいいですね。どんな業務に対しても、自分なりの「おもしろくて、ためになる」を見つけられる人に入社いただけたら嬉しいです。

みなさんに一言!

(岩崎さん)
 私は学生時代に理系学部で制御工学を専攻していました。面接では研究内容や出版社を志望している理由を必ず深掘りされると想像していたので、志望動機や会社でやりたいことと今までの人生の選択をすべてつなげて話せるように準備しておきました。
 自分の話で恐縮ですが、大学で制御工学を専攻したのは、子供のころから映画「スターウオーズ」シリーズが好きで、ロボットと人間が共存するSF的世界を実現させるためでした。ただ、いざその世界に飛び込んでみると、ロボットづくりにフィクションの世界ほどの自由度はありませんでした。自分が本当にやりたかったのは、「スターウォーズ」のアナキン・スカイウォーカーが自分ひとりでロボットを作り上げたように、すべての工程に自分が立ち会い、最初から最後まで携わることだったんです。もし電機メーカーに入っても、ものづくりの工程で自分がかかわれるのは一部分だけ。理系の世界では夢の実現が難しいなと思ったとき、自分がロマンを感じるものづくりができるのは夢を与えてもらったエンタメの世界だ、と思い至りました。実際、編集者時代は驚くほど多くの工程に裁量を与えられ、クリエイターと二人三脚でものづくりをすることができました。あのときの判断は間違っていなかったと思います。

 ぜひ就活生のみなさんも、自分の原体験やこれまでの人生を振り返って再構築し、自分のやりたいことに結びつくストーリーを言語化してみてください。自分にとってはありきたりだな、と思うことでも、自分だけのストーリーが必ずあります。それを自分が理解して、言語化して、思いをもって伝えられるようになれば、それが内定への一番の近道かもしれません。

(前田さん)
 志望理由を答えようとすると、抽象的でほかの人と似たような答えになってしまう。そういう悩みを持っている学生がたくさんいるんじゃないかと、ESを見て思います。

 私たちのESでは「自由に考えてください」という問いが多いです。自由って、実は一番難しいと思います。でも正解がない設問だからこそ、どんなに小さなことでも自分のエピソードに具体的にひきつけて自由に話してほしいです。自分の行動や、何かを好きになった「きっかけ」を考えると、体重の乗ったエピソードがいくつも出てくるはずです。私たちの選考時のスタンスは、つねに「あなたのことを教えてほしい、ただ知りたい」ということです。「私のことを教えてあげよう!」というポジティブな感覚で向き合ってもらえたら、必ず面白くて魅力的なESや面接になるはずです。