人事のホンネ

星野リゾート

2025シーズン 星野リゾート〈後編〉
日常とは異なる場所で働く 大変さの先にやりがいがある【人事のホンネ】

人事グループキャリアデザインユニットディレクター 鈴木麻里江(すずき・まりえ)さん

2023年11月29日

 人気企業の採用担当者に編集部が直撃インタビューする「人事のホンネ」の2025シーズン第1弾、星野リゾートの後編をお届けします。お客様に「非日常」体験を提供するということは、多くの人の「日常」とは異なる環境で働くということでもあります。「日本全国の様々な魅力を伝えていくということは、それだけ大変なこともあるが、その分、やりがいも大きいです」というメッセージも。チームのマネジメントを決定する、自分で手を挙げることができる立候補プレゼンというユニークな制度もあります。
(編集部・福井洋平)

(前編はこちらから)

地道で難易度の高い挑戦に向き合う仕事

■内定者へのフォロー
 ──内定者に対しても、入社までに様々な機会を設けてマッチングをはかっていくというお話ですが、具体的にどういった機会を設けてらっしゃいますか。
 一つは、星野リゾートの宿泊体験ができる特別優待プランです。入社後に自身が提供する商品を、顧客目線で体験することが大切であると考えています 。他にも、オンラインで全国各地、ときには海外で活躍している社員をゲストに呼び、働く魅力やキャリアについて、さまざまな視点で紹介をしていく座談会も開催しています。 質問会も含めると、この半年間で約70回以上開催しており、施設に直接来ていただくオフラインの機会も設けています。

 ──B to Cプロダクトに学生は影響されてしまうとおっしゃっていました。
 そこはここ数年の大きな課題です。以前は、挑戦を続けている企業というイメージをお持ちいただく事も少なくなかったのですが、近年は「OMO(おも)」など都市部でも身近に感じていただける ブランドも展開しており 、学生がプロダクトと直接の接点を多く持てるようになってきています。宿泊施設としての華やかな イメージが私たちが採用上訴求したい「働く場としての星野リゾートのイメージ」とバッティングしているのではないかと思っています。
 日本の様々な地域の魅力を伝え、観光を盛り上げるというのは魅力的で、やりがいもある仕事だと考えます。しかしその裏には、地道で、難易度の高い挑戦に向き合う必要がある。それが楽しさに繋がっているんだ、というのが星野リゾートの仕事です。そのイメージを理解いただくことにハードルの高さを感じていますね。

 ──キラキラしたところでホテルマンができる、と思っているとマッチングしないと。
 そうですね。星野リゾートの仕事の本質的な面白さ、というのは、やはり、競合ホテルや他社とは異なる方法で、価値を提供しようとしているところにあると思います。 その点を理解していただくためには、私たちから適切な情報を発信する必要があるとも思っています 。今後は、うまくSNSを活用しながら、「働く場としての星野リゾート」のブランディングをしていかなければならないですね。

 ──しっかりとした志望動機が必要ですね。
 そうですね。 とはいえ、選考中はどうしても得られる情報が限られてしまうため、内定後も「入社0年目」という位置付けで、さまざまな情報を提供しながら、入社に向けての準備を一緒にしていくことができればと思っています。

 ──星野リゾートで働くイメージをしっかりと持った状態で入社してもらいたい ということですね。
 そうですね。また、内定者同士の繋がりを大切にしてほしいという思いから、内定者向けのLINEグループを作りました。内定者同士の繋がりを作るのも大事です。今は数百人が入っているLINEグループがあります。 同期というのは大事な存在で、私も127名の同期とはいまだにいろいろなところで繋がっています。仲間を得て、大変だなと思うことにも果敢に挑んでいただきたいですね。
 最近、観光産業の中ではコンサルタント的な役割を果たす人は十分にいると言われています。しかし、地道に現場で汗をかいて観光の価値を高めていける人材が、特に地方の観光において圧倒的に足りていませんし、その方々が本当の価値を提供していると考えています。私たちは気持ちよく汗をかける環境を作り、一緒に観光の未来を創る仲間を増やしていきたいです。

社員に会社の戦略を広く情報公開

■インターンシップ
 ──インターンシップはやっていらっしゃいますか。
 2種類あります。一つは長期休みの期間に星野リゾートの施設で 、サービスチームの スタッフとして実際に勤務する インターンシップです。長い方 だと2~3カ月参加するケースもあり 、インターンシップを経て入社する方も多くいます。
 もう一つが、1ヶ月かけて、観光の未来について議論をし、戦略提言をしていただくというインターンシップです。1ヶ月の間に、創業の地である軽井沢を見学いただき 、星野リゾートの組織文化や考え方を体感いただく機会もあります。しかし、これらの機会だけでは参加できる人に限りがあるため 、特に地方在住の方に向け、オンラインで実施するインターンシップも今年から開催しています。ご当地のいろんな魅力 について語り合っていただき 、それをビジネスとして形にしていくとしたら何が必要なのかを一緒に考えるという内容です。

──インターンシップは選考にも直結しますか。
 そうですね 。インターンシップにご参加いただいた皆さんには、基本的には一次面接は省略し、最終面接のみ実施しようと考えています。マッチングという観点でも、インターンシップは非常に大切な機会だ と思っています。

 ──このインターンシップに参加するためにも選考が必要ですか。
 はい。サービスインターンシップの参加者は1カ月以上の勤務を参加条件としています。もう一つの議論型インターンシップはのべ50名ほどしか参加いただけないため、小論文の内容で選考します。1200字程度で、「今の観光業の課題」について、自身が学校で学んでいることと関連させて書いていただきます 。

マネジメント職に挑戦できる「立候補プレゼン大会」

■キャリアについて
 ──「立候補プレゼン」という制度について教えてください。
 1年に2回、施設の総支配人やユニットのディレクターなど、チームの中でマネジメントという役割に挑戦したいという社員が参加する「立候補プレゼン大会」というものがあります。1人15分、質疑応答10分という持ち時間の中で、自分が立候補する施設やユニットの戦略をプレゼンします。それがオンライン上で全社員に向けて発信され、視聴した 社員が評価をし、マネジメントを担うスタッフが決まります。毎回、50人前後の参加者がおります。リーダーを決めるプロセスが公開されていて、公正性が保たれているということは、信頼関係を持ったチームを作っていく上で欠かせないと思いますので、これは非常に大事な制度です。

 ──もともとそのポジションについている社員はどうするのですか。
 もともといた社員が経験の幅を拡げるために他の施設に異動するパターンや、より難易度の高いマネジメントに挑戦するパターンもあります。時に、ライフステージの変化によりマネジメントが担いにくい状況になることもありますが、そのような場合は充電に入るということで、プレイヤーとして別の施設で勤務することも、当たり前にあります。現在、運営拠点は増え続けているので、挑戦の機会はたくさんあり、自分自身を含め多くのスタッフにとって、成長の機会になっています。

 ──鈴木さんも立候補されたんですね。
 私は、一回目は、星のや京都のサービスのユニットディレクターに、二回目は人事担当のディレクターに立候補しました。育成や組織作りという側面で「今後の星野リゾートの10年先、20年先を考えると、今こういうことをやっておく必要がある」という話をしました。

(写真・星のや京都時代の鈴木さん=星野リゾート提供)

1年目は全国3カ所に異動

■鈴木さんのお仕事
 ──鈴木さんのこれまでのキャリアを教えてください。
 2012年に新卒で入社しました。同期は127人いました。
 1年目は「全国の3カ所に異動する」という新入社員期間があり、最初は軽井沢の「コミュニティゾーン」に配属されました。新入社員としての初仕事は、ゴールデンウィークに唐揚げとトンカツを揚げて定食を仕上げるという調理の仕事でした。
 星野リゾートはリゾート運営会社であり、運営には私たちが「4種目」と呼んでいる調理、レストランでのサービス、フロントでのサービス、客室清掃といった技能が必要です。私は4カ月ほど軽井沢で調理、レストランサービス、イベントの企画などを経験した後に、沖縄県八重山諸島の「西表島ホテル」に配属されました。そこでは客室清掃を一から教わったり、ビュッフェレストランで大量調理をするという経験をし 、最後は福島県の「磐梯山温泉ホテル」に異動しました。

 ――2年目からは。
 「星のや京都」という、お客様を船で送迎する京都・嵐山の施設に異動し、2020年まで京都を本拠地に仕事をしていました。この間、「学習休職制度」を活用してMBAを取得しました。大学では文学部の美学美術史学専攻という全くビジネスの”ビ”にも触れないような学部でしたので 、星野リゾートでビジネスに関わるからには、ちゃんと基本的なことを学びたいと思ったの です。
 復職後、「立候補プレゼン大会」に挑戦して2017年の終わりから「星のや京都」のサービスチームのユニットディレクターを担当しました。この間に出産しまして、2カ月ほどで復職しています。それから再度「立候補プレゼン大会」でグループ全体の人事のディレクターに立候補し、2020年3月に異動し、現在は採用を主管するユニットのディレクターを務めています。

(写真・客室で働く鈴木さん=星野リゾート提供)

自分の軸が3つ重なった 覚悟を決めて入社

■鈴木さんの就活
 ──鈴木さんの就活についても教えてください。2年間、就活をされていた?
 もともと、人の感情に訴えかけることを仕事にしたいと考え、美学美術史学を専攻し、留学もしたので大学は5年間通いました。また、私は地方出身なのですが、東京の大学に出てきたときに、世の中にはいろいろな価値があるのにそれが伝わる機会が少ないと感じまして、 アートや映画・ドラマに関わる仕事を目指しました。就活1年目はかなり業界を絞って受けていました。
 ただ、就職活動 をやればやるほど自分は社会を知らないなと痛感しましたし、このままでは自分の成長機会が失われると感じました。就活2年目は社会をちゃんと見ようと思いシロアリ駆除の会社やメガバンクなど100社ほど見たんです。就職活動じゃないと見られない会社の世界をたくさん見たなかで、出会ったのが星野リゾートでした。

 ──知名度は高かった?
 当時は、私の両親も含め、周囲に星野リゾートを知っている人はかなり少なかったです。私も名前は知っていましたが、宿泊業やサービス業に良いイメージがなかったこともあり、複数見ている会社の中の一社でしかありませんでした。でも 話を聞いていくうちに非常に戦略的にビジネスを展開していることが分かり、面白そうだと思いましたし、それをチームでやろうとしていることにも好感を持ちました。もともと私がアートを志した理由でもある、いろいろなものの価値を伝え続けていくという軸にも重なりましたし、自分が地方出身なので地方の魅力を伝えるという軸にも重なった。3つぐらい軸がビシッと重なってしまったんです。なので、他にも2社内定がありましたが覚悟を決めて星野リゾートに入ることにしました。

 ──選考のフローは今と一緒ですか。
 ほとんど一緒でした。説明会で、次はペーパーテスト、面接も同じようなコンセプトで2回ぐらいでした。面接のときは結構質問させてもらったのと、「あなたは何を大事にしていきたいの」というようなことを繰り返し聞かれたので 、先ほどお話したような、自分の軸の話 をしました。2年目の就職活動のときは既に大学を卒業していて肩書がなかったのですが、バイアスなく受け入れてもらい、マッチングしたんだろうなと思います。

 ──入るときには相当の覚悟を?
  それなりの覚悟を持った決断だったので、入社した以上はできるだけ期待以上のことをお客様に対しても、チームに対してもできるように頑張ろうと思ってキャリアをスタートさせました。

内定してから初めてフラットに話ができる

■思い出深い仕事
 ──これまでの仕事で印象深かったこと、一番ハードルが高かったなという仕事を覚えてらっしゃいますか。
 もうエピソードには事欠かないですね。私たちは「非日常」を提供していますが、それはつまり日常生活とは異なる体験ということですので、都会で暮らし、仕事をする環境とは大きく異なります。 場所によっては、不便さを感じる部分もありますし、様々な動物、植物とも出会います。時には自然災害にも立ち向かわなければいけない時もあります。さまざまな不確実性に向き合う中での仕事というのが私の日常でした。
 このような環境の中で非日常的な体験をお客様に提供するというの は、体力も精神力も必要であるにもかかわらず、労働集約型なのでビジネスとして収益を作り出すのが非常に難しい。高い報酬や良い 労働環境を提供できれば良いのかもしれませんが、そこにはまだ課題がある業界です。とはいえ、旅館を運営する人がいなくなったら、100年経っている価値ある建物、苔むした庭の価値を継承する者はいなくなる。そういう使命感で頑張っています。

 ──京都では洪水もありましたね。
 配属されて半年ぐらいして4カ月間、休館になりました。
 突然の出来事でしたが、まずはすでに 予約が入っているお客様全員に電話をかけて事情を説明し、返金対応や代わりの宿探しをしました。 ちょうど紅葉のシーズンの直前 で、京都全域の宿は予約が困難な状況でした。さらに、海外のお客様が多くいらっしゃいましたので 、電話、メールで全員に対応して……。不可抗力とはいえ、お客様に残念な思いをさせてしまい、大変な対応でした。
 また休館中、スタッフは全国に異動してちりぢりになりました。私は、温泉旅館文化が根強く残る熱海の施設に希望して行かせてもらいました。

 ──乗り越えた決め手は使命感ですか。
 本当に悩みに悩んで星野リゾートに入ることを選んだから 、中途半端なことはできないという覚悟はありました。それと あのとき自分が頑張れたのは、自分の施設が好きだったというということも あったかもしれません。奥嵐山の運営が難しい環境にありますので、私たちが運営をやめたら、廃墟になるかもしれないと……。自分自身が地方の出身で、地域の衰退や、価値あるものが失われていることの切なさ、保持することの難しさを感じていたので 、放っておけば失われる価値を継承し、進化させていくことをやりたいと思っていたので。しかし、こんなに難しいとは思いませんでしたね。そこでやっと自分の甘さや未熟さと向き合わざるを得なかった、成長させてもらえた経験でした。

■星野リゾートのやりがい
 ──星野リゾートで働くやりがいとは。
 変化し続けていることです。入社して11年間、同じときが一時もありませんでした。
 施設の運営は毎日いらっしゃるお客様は違いますし、季節も変わっていきますが 、ある種、オペレーションをしっかり回していくというのはルーティンワークなのですよね。その精度を上げていくことは非常に重要な仕事で、私たちの場合は施設戦略全体に繋がる活動の一部という位置づけです。それが評価制度とも繋がっているので、日々の客室清掃一つをとっても星野リゾートの戦略と繋がっているんだなと感じられることが、やりがいです。
 また、日々顧客と接することで、市場環境の変化を実感し、自分をブラッシュアップする必要性を痛感しながら、仕事を通して、成長し続けることができるというのもモチベーションを維持できる理由でもあります。

(写真・星のや京都外観=星野リゾート提供)

変化を楽しめる人と未来を創りたい

■求める人材像
 ──これからどういう学生に入ってほしいですか。
 今の日本も世界も、捉え方によっては、非常に悲観的になってしまうような情報がすごく多いと思います 。インターンシップで学生に「人生100年時代と言われていますが、100歳まで生きたい人はいますか」と聞いてみたところ、誰も手を挙げませんでした 。せっかく人類の健康寿命が延びたにもかかわらず、そう思ってしまっているとしたらすごく残念で切ない気持ちになってしまって……。そうではない未来を描きたい、私たちが生を受けて、日々様々な 人と接して色々な来事があって、変化していくということを楽しみたい、大事にしたいと思える方と一緒に未来を創っていきたいです。

 ――高いコミュニケーションスキルが必要なんでしょうか。
 コミュニケーションはスキルの集合で、 後から身に付けられるものだと考えています。新入社員が入社して最初に学ぶのが、傾聴 です。コミュニケーションは、伝えることではなく、まず聞くことから始める。ここはとにかく訓練次第で身に着けられますし、サービスはお客様とのコミュニケーションを取る仕事 なので 、人生の資産となるスキルを身に付けることができると考えています。

(インタビュー写真・植田真紗美)

みなさんに一言!

 日本全国にはまだまだ知られてないその土地ならではの魅力がたくさんあります。この魅力をチーム一丸となってお客様に伝える。そんな観光のお仕事を一緒に盛り上げていく仲間お待ちしています。

星野リゾート

【ホテル】

 星野リゾートは、1914年、長野県軽井沢町の温泉旅館からスタートし、国内外に約70の施設を運営しているホテル運営会社です。 「旅は魔法」をMissionに掲げ、世界中に旅の楽しさを発信していきながら、世界で通用するホテル運営会社を目指しています。 そして、地域の方々と協働してその土地の魅力を発掘し、お客様に旅の楽しさを感じていただけるよう、サービスを提供していくことが私たちの使命だと考えています。