人事のホンネ

日清紡

2024シーズン 日清紡〈後編〉
コツコツタイプが多い会社 ガクチカは学業や研究の頑張りでOK【人事のホンネ】

経営戦略センター 人財・総務室 人財グループ リーダー 田邉菜々子(たなべ・ななこ)さん

2022年12月07日

 人気企業の採用担当者への編集長インタビュー「人事のホンネ」、日清紡の後編です。コロナ禍で学生生活を過ごした就活生が悩む「ガクチカ」については、無理して「盛り盛り」にしなくても授業や研究室での頑張りでいいそうですよ。チームでの仕事が多いので、端的に分かりやすく話せるコミュニケーション力を重視。事業・部門別採用だけに、職種や事業製品への興味など志望度もポイントです。企業研究が大切ですね。(編集長・木之本敬介)
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■ES
 ──2023年卒採用のエントリー数は?
 WEBエントリーが5000人くらいで、ES提出は約1500人です。

 ──選考スケジュールの中に、技術系では「事業所見学」、事務系には「リクルーター面談」がありますね。
 事業所見学は選考の途中で実施します。実際に働くことになる工場や研究所を見て日清紡で働くイメージを持ってもらい、そのうえで日清紡で働きたいと思ってくれた人を最終面接に案内しています。入社後のミスマッチを起こさないためです。
 事務系のリクルーター面談にも選考要素はまったくなく、ミスマッチ軽減と学生に納得感を上げてもらうのが目的です。1時間くらいの1対1の面談で、何でも自由に聞いてもらっています。もちろん、採用担当は面談には入りません。リクルーターの社員には良い面も悪い面も含めて正直に話すよう徹底しています。2023年卒採用ではすべてWEBで行いました。

 ──ESの項目ですが、志望動機、自己PRのほかに「挑戦や創造をした経験」とあります。
 いわゆる「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)ですが、「挑戦や創造」は弊社の企業理念から取っています。2019年に掲げた「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る」という理念で、会社の考え方や想いの源なので、これを体現できる人やマッチする人に来てほしいと考えて入れました。

 ──コロナ禍でのガクチカに悩む学生が多かったようです。
 ガクチカが、ボランティアとかアルバイトとか学校の勉強以外の課外活動じゃないといけないとは思っていません。「大学の授業でこれに頑張って取り組みました」とか、技術系なら「研究室でこういう課題にぶつかって、こんな方法を試してみたらうまくいきました」でいいんです。
 中には「筋トレ頑張りました」という人もいましたよ。コロナ禍で筋トレやマラソンについて書くESが増えました。どれだけ頑張ったかのエピソード次第で自己PRになると思います。「盛り盛り」にしなくても、そういう日常の生活の中のことで構いません。

 ──技術系は研究内容が大事ですね。
 技術系で院卒以上の人はESとは別に研究概要1枚を出してもらいます。書式は自由です。

■面接
 ──面接はどんな形式ですか。
 1次は、各事業の担当者と人事担当による2対1の個人面接です。日清紡の面接は学生一人ひとりに会う個人面接が基本です。1回の面接時間は30分から45分程度です。コミュニケーション力があるか、簡潔に話せるか、ポジティブに考える人か。人柄も見ます。
 技術系だと研究をどれだけ頑張ってきたか、研究内容に弊社の事業とマッチしている部分があるかも聞きます。事業分野が決まった段階での面接なので、ブレーキ事業ならその担当者が面接して研究概要についていろいろ質問します。人事からは、志望理由の深掘りと今まで頑張ってきたこと、日清紡に合う雰囲気があるかを見ます。

 ──どういう人が合うのでしょう。
 真面目にコツコツやっていく社員が多い会社です。チームでの業務が多いので、チームで協力して仕事をしたい人やコツコツタイプの人は合うと思います。

 ──事務系の面接のポイントは?
 まずはコミュニケーション力です。技術系、事務系を問わず、チームでの仕事がメインとなります。端的に分かりやすく話せているか、質問への回答が質問の意図からそれていないか、基本的なところを見ています。そのほか、事務系もブレーキ事業ならブレーキ製品に携わると確定しているので、どれだけその職種、事業製品に興味があるか、といった志望度も見ています。自動車が好きじゃないのにブレーキに関わるのは苦痛だと思いますから。経理の志望なら数字に苦手意識がないか。数字と向き合う仕事なので、緻密で論理的に考えられるか。経理を通して何を身に付けたいかも聞きます。

 ──グローバル企業ですから語学力は重視しますか。
 採用時点ではとくに見ていません。日清紡では「まずは行って、やってこい」というところがあるので。新入社員研修では海外赴任経験のある先輩社員との座談会も行っているんですが、そこで海外赴任者は「語学力よりもコミュニケーションを積極的に取りにいくことが大事」とも言っていました。

 ──面接は何回ですか。
 事務・技術とも3回です。2次面接は人事部長との1対1です。1次通過者全員に会うので大変です。

 ──人事部長だけの面接は珍しいですね。
 2次面接は、学生がどんな人なのか、何をやりたいのか、といった見極めはもちろんしますが、加えて最終面接に向けてさらに志望度を上げてほしい、という思いも持って行っています。私が受験したときもそうでした。大学のある京都の話から始まり、会話の中に「なんで人事をやりたいの」「ゼミではどんなことをしてるの」と、ちょこちょこ面接の要素がはさまってくる感じでした。会話を通しての面接は緊張をほぐしてくれたので、自分の言葉で伝えたいことを伝えられたな、と感じます。内定者にも「じっくり話を聞いてくれたから」と決めてくれる人が多いですね。

 ──最終面接は?
 人事担当の執行役員1人と各事業会社の社長や執行役員による2対1の面接です。ブレーキ事業だとブレーキ事業の社長が出ます。ここで再度、研究概要の深掘りをします。
 面接担当者によりますが、最終では突拍子もない質問されることもあります。たとえば、経理志望なら「3桁×3桁の計算を暗算でやってみましょう」とか。私のときは「1日が25時間になったらどうしますか」と聞かれ、「何て答えたら正解なんだろう」と戸惑いながら「食事に時間を費やします」と答えました。食べることが好きなので(笑)。学生が準備してないことを聞いて、人柄や考え方、本質を見ているのかなと思います。

ニュースで企業研究も大事 インターン参加者には特典用意

■ニュース
 ──ニュースや世の中への関心度は重視しますか。
 重視しています。普段はニュースを見ない人でも、弊社の事業について調べれば何かしらニュースやトピックがあると思います。そこにぶつかるくらいまで企業研究をしていると、「ブレーキや自動車業界に興味あるんだな」「本当に人事がやりたいんだ」と指標になります。情報を取るのは大事で、入社してからもよく「アンテナを張れ」と言われます。
 面接では「最近、気になった記事やトピックはありますか」と質問することがあります。答えられる学生と答えられない学生で顕著に差が出ますし、熱意もはかれます。

 ──業界や会社に結びつくニュースが言えたら印象が違う?
 違います。できるだけ志望度が高い人に来てほしいですね。

■インターンシップ
 ──2024年卒向けのインターンシップについて教えてください。冬も開きますか。
 長期休暇に合わせて、1月から2月に予定しています。技術系は生産・開発拠点で1~2週間、研究テーマに取り組んでもらいます。夏と冬合わせて20人くらいなので、競争率は高いですね。事務系のインターンシップも12月から2月にかけて予定しています。
 インターンシップに参加した学生には、弊社への理解を深めるための座談会や、選考では書類選考免除といった特典を用意します。

 ──インターン参加者への優遇ですね。2025年卒からはインターンシップ直結の採用がOKになりますね。
 2025年卒の計画はまだできていませんが、インターンシップでの情報を活用して、早期に接触した学生が有利なるようにしていきたいですね。

 ──すると年内に内々定ということも?
 あり得ますね。秋ごろとか。

■社風
 ──日清紡って、ズバリどんな会社ですか。
 誠実な会社だと思います。創業時から「企業公器」「至誠一貫」「未来共創」という企業理念をずっと掲げてきました。真面目で正しい事業活動を体現している社員が多いと思います。誠実で優しい人が多い印象です。

 ──企業理念は「挑戦と変革」に変わったんですよね。
 2019年に変わりました。しかし、今までの企業理念が無くなってしまったわけではありません。日清紡では、多様な事業を抱える中で、従来にも増してグループとしての一体感の醸成が求められています。「企業公器」「至誠一貫」「未来共創」を受け継ぐ形で、各国のグループ会社・従業員が理解しやすく、かつ、それぞれの国の言葉に訳しても違和感のない表現にしました。これまで大切にしてきた理念も受け継がれている、それが今の企業理念です。

 ──M&A(企業買収)で事業を広げてきましたが、グループの一体感は大丈夫ですか。
 グループの一体感を醸成するために、求心力を働かせることがホールディングスの大事な役割のひとつです。一般的なコミュニケーションについて言えば、環境保全、安全、人権啓発、改善活動、グループ報で各種情報の共有などグループ全体でさまざまなことに取り組んでいます。
 また、ビジネスにおいても事業間の技術融合を積極的に進めています。環境素材、無線通信、電子デバイス技術を持ち合わせている企業グループはそう多くはないと思います。グループだからこそ、気軽にスピーディにいろいろなことに取り組むことができます。たとえば、日清紡ブレーキがブレーキ摩擦材の実車試験に使用しているテストコースに、今後ますます需要が期待される日本無線のローカル5G(自営ネットワーク通信網)を導入しました。日清紡ブレーキにとっては摩擦材の開発スピード・効率が格段に上がり、日本無線としてもローカル5Gの実用例としてお客様にも大きなインパクトを与えています。

 ──働き方や女性活躍の取り組みはどうですか。
 育休の取得率は100%ですし、ほとんどが復職しています。女性が仕事を続けやすい環境です。子育てをしながら時短勤務の社員もいますし、働きやすい環境だと思います。まだ多くはありませんが、男性の育休取得も増えてきました。

「1年目から人事の仕事できる」と「人」が決め手だった

■やりがいと厳しさ
 ──日清紡の仕事のやりがいと厳しさについて教えてください。
 人々の生活のいたるところに貢献ができていることがやりがいです。弊社には「環境・エネルギーカンパニー」というグループの事業方針があります。環境に配慮した製品を提供して、地球環境や人々の暮らしに貢献しているところにもやりがいを感じます。
 厳しさは、日清紡の名前は知られていても、何をしている会社か、一般の人々に認知してもらえないところですかね。

■就活と仕事
 ──田邉さんの就活について教えてください。
 メーカーを中心に見ていました。本音を言うと、ある程度安定していて、福利厚生がちゃんとして、土日も休みで……というところが良かったんです。
 あと、「営業職が希望です」と面接で言いつつ、人事をやりたい気持ちがありました。大学は社会学部だったのですが、ワーク・ライフ・バランスの授業が好きで、共働き世帯を調査するインターンにも行きました。従業員の働きやすさを支える仕事がしたい、いろんな人が働きやすい環境をつくりたい、人事をやりたい……と心の奥底で思いながら就活をしてました。

 ──どんなメーカーを受けたのですか。
 化学系、繊維系のメーカーが多く、3社ほど内定をもらいました。

 ──日清紡を選んだ決め手は?
 1年目から人事として仕事ができること。あとは「人」です。面接ではあまり緊張せず、自分を飾らずに会話ができました。2次面接の人事部長との面談では、直属の上司になる人なので、雰囲気が合うかどうかを見ていました。穏やかな人がいいなと思っていたのですが、高圧的じゃなく、じっくり話を聞いて理解してくれたことがすごく良かったんです。

 ──これまでの経歴と印象的な仕事について教えてください。
 2019年入社で、昨年までは採用と教育を担当していましたが、今年の6月ごろから採用専任になりました。1年目に初めて出た学内セミナーが印象に残っています。日清紡のブースに入れ替わり立ち替わり学生がやって来て説明して質問に答えるのですが、接客業をしているかのような忙しさでした。「人事ってこんなに泥臭い仕事なんだな」と感じる一方、別のブースに参加していた学生がうちにも来てくれるのが嬉しく、充実感を覚えました。
 採用はこの6月からリーダーになったので本当の成果を出せるのはこれからです。4年目でリーダーは大役です。

みなさんに一言!

 「内定がほしい」が第一にあると思います。自分を大きく見せたり、あまり興味がないことに「興味あります」と言ってしまったりすることもあるかと思いますが、そんなことはしなくていいと思います。興味がずれているから、第1志望じゃないから落とすという判断はしません。皆さんに対して素敵だなと思える面を見つけられたら、是非次の選考に進んでいただきたいと思っています。もし興味のある事業で募集が無くても、別の事業や仕事に少しでも興味をもっていただければ、そちらをおすすめすることもできます。ぜひ自分の気持ちを率直に言ってください。そうすれば私たちも、日清紡を魅力的に思ってもらえるよう頑張れます。飾らずに、自分のやりたいことを率直に伝えてもらうのが一番です。

日清紡

【自動車部品、精密機器、化学品、繊維】

 日清紡グループは「事業活動を通じて社会に貢献する」ことを使命とし、企業理念「挑戦と変革。地球と人びとの未来を創る。」のもと「環境・エネルギーカンパニー」グループとして人類社会最大の課題である地球環境問題の解決に向けたソリューションを提供しています。これまでに蓄積してきた多様な技術を活かし、「モビリティ」「インフラストラクチャー&セーフティー」「ライフ&ヘルスケア」の3つの分野を戦略的事業領域として、無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維、不動産の各事業を展開しています。