人事のホンネ

伊藤園

2022シーズン⑫ 伊藤園《前編》
地域密着の「営業の会社」 相手の立場に立って行動できるか【人事のホンネ】

能力開発部 副部長 菊地洋子(きくち・ようこ)さん

2021年02月24日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン最終回、第12弾は「お~いお茶」でおなじみの伊藤園です。急須でいれて飲まれてきた緑茶を、いつでもどこでも飲めるようにして「緑茶飲料市場」をつくり広めてきた会社です。「お客様第一主義」への理解が大事だというのですが、学生にどこまで求めているのでしょう? ポイントは相手の立場に立って行動できるかどうか、だといいます。そんな経験ならみなさんにもきっとありそうですね。(編集長・木之本敬介)

■採用スケジュール
 ──コロナ禍の2021年卒採用はいかがでしたか。
 2020年4月に緊急事態宣言が発出され通常の採用活動を一時ストップし、WEB説明会、WEB面接に切り替えました。学生のみなさんも不安だったと思いますが、我々も試行錯誤しながら進めました。
 3月から会社説明会を始めました。3月は対面の説明会を実施できましたが、緊急事態宣言が発出された4月以降はWEB説明会に切り替えました。WEB説明会はライブではなく、伊藤園に登録してくれた学生に案内する採用ページで繰り返し見られるようにして後から質問も受け付けました。大学から「説明会をしてほしい」という要望にも、そのサイトで対応を行いました。

 ──WEB説明会のメリット、デメリットは?
 メリットは遠方の学生の参加がすごく増えたことです。一方で、対面の説明会なら「理解してもらっているな」と共感度が分かるのですが、WEBだと学生のうなずきとかが感じられないので、どこまで伝わっているか少し不安でしたね。

 ──エントリーも増えましたか。
 1.5倍くらいになりました。本エントリーは約9000人、プレエントリーは2万人を超えました。伊藤園に登録してくれた学生に案内する採用ページ上にずっと説明会の動画を掲載していたので、それを見てエントリーしてもらえたのだと思います。みなさん、コロナで対面の説明会がなくなった分、「まずは、できるところにエントリーしよう」という気持ちが大きかったのではないでしょうか。

 ──どのくらいの期間、中断したのですか。
 準備に1カ月くらいかかり、内々定を出すのも少し遅れました。内定は6月に出しましたが、7月になった人もいます。ただ、結果的には求める学生を採用できたので安心しています。先日も内定者とのWEB懇親会を開催しましたが、積極的で意欲的な学生が来てくれたのかなと。

■採用実績
 ──2020年卒の採用実績と、2021年卒の内定者の数を教えてください。
 2020年の大卒の新卒採用は187人で、男性148人、女性39人です。文理では理系が34人、文系が153人でした。理系は院卒のほうが多いですね。
 2021年卒の内定者は82人です。もともと少なめの100人前後を予定していました。コロナ禍ということと、定年延長を予定していて社員の年齢構成比も考えているためです。中途で専門的な人材を採用していることもあります。新卒採用は、男性が74人、女性8人。文理は理系が6人、文系76人です。2022年卒も100人程度の予定です。

■職種
 ──職種について教えてください。総合職一括採用ではなく、職種別採用ですね。
 伊藤園には、営業、事務、研究開発、販売、生産等の職種があります。
 伊藤園の代表的な営業は地域密着型のルートセールスで、小売店、販売店、自動販売機など既存の顧客への営業活動や納品、担当エリア内の新規開拓です。営業職の中には販売の仕事も含みます。販売職は、百貨店や商業施設内の伊藤園ショップや専門店などで一般のお客様に茶葉などの対面販売をします。生産職は生産管理のほか、工場のラインの仕事もあります。
 事務職は全国196拠点の営業事務および本社での管理業務ですが、人数はかなり少ないです。
 割合は、営業が7割、事務2割、研究が1割弱くらいです。

 ──研究開発は技術系の仕事ですか。
 はい。静岡相良工場の中央研究所を中心に、基礎研究、商品開発、品質管理のほか、農家の方に指導する農業技術を行っています。
 商品開発については、商品企画をするマーケティング本部が本社にあります。実際に商品を開発するのは多くが理系ですが、商品のレシピや企画には理系ではない営業経験者も多く携わります。

 ──食品・飲料メーカーの中では技術系が少ないですね。
 弊社は「営業の会社」ですから。全国196拠点で各担当エリアのお客様を1人で担当するスタイルで、地域密着の提案型営業をしています。営業職が多いため文系の採用が多くなっていますが、理系の営業もいますよ。

 ──地域密着の提案型営業とは?
 各拠点で、営業員が自分のルートを持っています。自動販売機、売店、地場のスーパーなどのお客様への商品の提案や導入を担当し、足りない商品があれば実際に納品して陳列もします。自動販売機は1軒のお客様とみており、清掃や空き缶、空きペットボトルの回収もします。エリアの新規開拓も行い、各営業員が責任をもって担当しています。
 弊社はグループ制をとっており、3~6人で構成されるグループがあります。30人いれば6グループくらい。そこに必ずグループリーダーがいて、メンバーを見ているので、まずはグループリーダーに相談します。グループリーダーは拠点の副支店長、副支店長は支店長に相談して、支店全員で拠点の担当エリアの営業をしていきます。

 ──自動販売機の営業は何をするのですか。
 自動販売機の商品構成の提案と新規開拓です。自動販売機はビルのオーナーと話したり、ビルに入っている企業に福利厚生として設置してもらえないか交渉したりして設置します。ビル内と路面の自動販売機では売れる商品が異なるので、設置後はエリアの特性を自分で把握して、「女性が多ければコーヒーより紅茶の販売率が高い」といったマーケティングもします。スーパーでは商品の導入と売り場づくりを提案します。

 ──営業職にはエリア別採用がありますね。
 はい。ただ、みなさんと面談すると、エリア別採用を希望していても最終的には「全国どこでも大丈夫です」と気持ちが変わる人も多く、最終的に希望する人数は少なめです。数年前、学生の地元志向が強くなったこともありエリア採用を設けたのですが、実際にふたを開けてみるとあまり多くなく例年10人前後です。

経験から学んだこと つたなくても自分の言葉で

■ESと求める人材
 ──エントリーシート(ES)を拝見します。資格取得欄が多いですね。
 語学の資格を書く人が多くいます。最近は栄養士の資格を持っている人も多いですね。入社後に職種変更を希望する人もいて、営業する場合もあるので、自動車運転免許は入社までに必須です。

 ──栄養士の資格があると有利ですか。
 弊社はお茶のセミナーだけでなく、野菜ジュースのセミナーなども開いていて、そこでは栄養士の資格を持つ社員が説明するなど活躍する場が多くあります。資格を持っているとアピールポイントにはなります。

 ──「学生時代の取り組みと成果」の欄があります。あえて「成果」を聞くのはなぜですか。
 経験だけを語るのはみなさん得意です。結果を見るというわけではないのですが、何を学んだのかが伝わるように書いてほしい。「そこで何を学んだの?」を聞くことで、学んだことを伊藤園でどういかしてもらえるのか、想定ができます。

 ──アルバイトやサークルなど似通った内容が多いと思いますが、どう見極めますか。
 けっこう表面的な感想もあるのですが、つたなくても自分の言葉でちゃんと語っているかどうか。たとえば、「失敗したけれども、こんなふうにリカバリーできた」「最初はつらかったけれども、こんなことができた」といった内容が書いてあるといいですね。「頑張りました!」という表現だけではなく、「こういう経験があったのでこうしました」と具体的にどうしたのかを自分の言葉で語れる人がいいですね。

 ──ESでとくに重視するポイントは?
 一つは経営理念である「お客様第一主義」を理解して行動できる人かどうか。もう一つは「自分の夢」。自分の夢や希望を持って実現したいと思っているかです。目標に向かって行動できる人を求めているので、最後の質問の「伊藤園で実現したい夢や目標」を、きちんとストーリー立てて考えているかどうかを見ます。

 ──たとえば、どんな例があるのでしょう?
 弊社は「世界のティーカンパニー」を掲げていますので、「海外で飲んだ緑茶が甘かった。本当においしい日本の緑茶を世界に広げていきたい」と書く人や、「自分はアルバイトの接客で、お客様第一主義を学び、それを大事にしてきた。だから伊藤園に入り、お客様第一主義を実現するために〇〇をしたい」などと書いてあると、自分の経験に基づき感じたことを、伊藤園の中で目標として実現したいんだなと伝わります。

 ──「お客様第一主義」が大事なのは分かりますが、学生は商売をしているわけではないので、なかなか難しい面もあるのでは?
 弊社のお客様は消費者だけではありません。弊社に関わる地域社会のみなさま、金融機関、株主、販売先、仕入れ先、我々に関わっている人すべての方を「お客様」としてみており、その方たちの立場に立ってきちんと行動するのが「お客様第一主義」の定義です。そういう説明をすると「学園祭でリーダーになりました。来場してくれる人の気持ちを考えて準備をしました」「塾で生徒の立場に立って考えました」などと書いてきてくれます。大事なのは、相手の立場に立って行動できるということです。

「対面+WEB」か「録画面接+対面」で選考

■面接
 ──面接はすべてWEBに切り替えたのですか。
 いえ、2回の面接のうち、必ず一度は対面で行いました。1次面接で会えた学生は2次をWEB面接にし、緊急事態宣言以降は直接会えなくなったので1次をWEB面接にし、2次面接を対面にしました。

 ――それぞれどんな面接でしたか。
 対面の1次面接は、社員2人対学生1人の個人面接で10~15分くらいでした。「どのくらい伊藤園のことを理解しているか」「伊藤園でどんなことをしたいか」の確認でした。
 2次の最終面接はWEBで、時間は15~20分くらいでした。こちらも2対1の個人面接です。
 面接を担当するのは、営業を希望するなら1次は営業の社員、2次は営業の部長と能力開発や人事等管理部の部長です。

 ──WEB面接をやってみていかがでしたか。
 2次面接は、弊社で頑張ってくれるかどうか、雰囲気やコミュニケーションを見る場なので、すごく難しかったですね。相手の熱量や、こちらが言いたいことが本当に伝わっているのかが分からず不安ではありました。
 2022年卒採用は対面を原則としたいのですが、コロナの状況次第です。ただ、お互いにWEBに慣れてきたので、2022年卒採用では、WEB面接であっても対面に近い形で受け答えや相手の表情をうまく見られると思います。

 ──選考のポイントは?
 表情から、どんなふうに語っているか、画面をきちんと見て相手に伝わるように話しているか。緊張していても言いたいことを発言できているかといったところを見ました。

 ――早期に直接会えなかった学生は?
 1次面接は、新しく導入した録画面接のシステムで受けてもらいました。自己PR5分と「学生時代にどういったことをしていたか」を5分話してもらい、その映像を見て選考しました。
 みなさん、ジェスチャーを交えていろいろ話してくれたので、人物像も伝わりました。対面の面接と異なり最初にお題が設定されるので、すごく上手にPRしている人が多かったと思います。

 ──録画面接を経て対面面接ですね。例年とは違う形式になりましたが、同じ基準で選べましたか。
 先行した学生のWEBによる2次面接と同じように2対1で、質問内容は変えず同じ質問をしました。実際にその人を見て、雰囲気やコミュニケーション能力を確認できたので、特段問題はありませんでした。
後編に続く)

(写真・山本倫子)

みなさんに一言!

 今はコロナ禍でいろんな会社に行けないと思いますが、まずは自分が社会に出て何をしたいのか。あるいはどういった姿になりたいのか、自分が何を好きなのか。その軸を一つ決めて、それを実現できる業界はどこなのか。その業界の中で自分はどの企業と合っているのか。社是だったり、コーポレートメッセージだったり、合うと思ったところがあれば、ぜひ挑戦してください。すぐに内定をもらうのは難しいかもしれませんが、友人をつくるときでも本当の友人になるのはほんの数名です。何かの縁があって友人になるのと同じように、企業とも縁があって入社・内定することになると思います。一喜一憂するのではなく、前向きに積極的に動いて、自信を持って自分をPRしてください。自信を持ってPRする人は、我々が面接していても輝いて見えます。きちんとPRすれば「やっぱり自分はここでよかった」と思える企業に巡り会えます。自分のPRが企業との上手なマッチングにつながります。頑張ってください。

伊藤園

【食品・飲料】

 創業以来、経営理念である「お客様第一主義」のもと、「お~いお茶」ブランドをはじめとした茶系飲料やリーフ(茶葉)製品の提供を通じて、日本文化のひとつである“お茶”の魅力を国内外に発信しています。今後とも、お茶のリーディングカンパニーとして時代に合わせた新しいお茶の楽しみ方を提案していくとともに、「世界のティーカンパニー」に向けた持続的な成長を図ってまいります。