人事のホンネ

東宝

2022シーズン⑧ 東宝《前編》
ESは悩んで見せ方工夫して 選考で「引き出しの多さ」見る【人事のホンネ】

管理本部 人事部 人事企画室 人事課長 多田行宏(ただ・ゆきひろ)さん、人事課 富田玲実(とみた・れみ)さん

2020年12月16日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン第8弾は、東宝です。ゴジラから、メガヒット中のあのアニメ映画まで、数々の名作を世に送り出し続けています。老若男女が楽しめる作品づくりには、世の中にアンテナを張って流行を押さえる「引き出しの多さ」が大事だとか。それを見るために行った独特のテストとは……。(編集長・木之本敬介)

■「鬼滅の刃」
 ──共同配給した「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が歴史的なヒットですね。
 多田さん(写真右) 超メガヒットで、映像部門全体に活気がみなぎっています。コロナ禍で映画館・劇場が閉鎖になった後、スタジオジブリの旧作上映で興行が再開。新作では7月に「今日から俺は!!劇場版」がヒットしました。営業部門の社員に会うと表情が明るくて、映画が1本ヒットすると活気が出るんだなと肌で感じました。

 ──コロナでエンタテインメントが消えたときは?
 富田さん(写真左) 当時私はWEBでの新入社員研修を担当していました。右肩上がりだった映画興行が難しい局面に入って、どんな思いで入社してくるのか心配でしたが、みんな未来志向でした。研修中はステイホームでネットフリックスのドラマが盛り上がっていることなどが話題になり、「今はない新しいことができるかも」「東宝でこんなことはできないのか」と前向きでした。逆境にへこたれないポジティブな人が集まっていると実感しました。

■コロナ禍
 ──コロナ禍の採用を振り返ってください。
 多田 私は2020年春に人事部に来るまでずっと営業で人とのつながりを活力にしてきたので、コロナ禍でまったくコミュニケーションをとれない中、WEB面接とはいえ学生と会えるのが楽しかったです。
 富田 コロナ禍の最中はどうなることかと思いましたが、ドラスティックにこれまでと変えなければならない転換点でもあり、すごく面白かったです。

 ──前向きですね。自社説明会は?
 富田 自社説明会は中止しました。代わりに3月中旬、エントリーシート(ES)の受付期間中にWEB上で社員が質問に答える「オンライン質問箱」を開設し、双方向でやりとりしました。「プロデューサーは主題歌を決めたりするんですか」「原作漫画の映画化の権利をとるのもプロデューサーですか」など、たくさん質問が寄せられました。それこそプロデューサーの仕事なんですが、意外と伝わっていないんだと気づきました。これまでの採用広報活動では情報不足で学生に不安を与えてしまっていたのだなと反省しました。今後にいかしていきたいと思っています。

 ──その後のスケジュールは?
 富田 まず適性検査とインターネット小論文で選考し、次がESによる書類選考です。4月中旬に書類選考の結果を通知したところでいったん中断し、5月下旬に再開しました。予定よりずいぶん遅れました。

■ES
 ──ESにはどんな特徴がありますか。
 富田 たとえば、いわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」「学生生活で頑張ったこと」ではなく、問題文に含みを持たせているのが当社のESの特徴です。どれも字数が多いので、いかに具体的、多角的に表現できるか。読み手が想像できるように自分の経験を魅力的に伝えられるかがポイントです。他社の「ガクチカ」のコピペで済まさないでほしいんです。内定者は「分量が多い分、書き込めました」とプラスに捉えていました。エピソードの見せ方とか、この設問ならどこを強調して書こうとか工夫した人が輝きやすいですね。

 ──設問の意図を読み取るのは、企画に必要な資質ですか。
 富田 どの部署も多くの人と関わる仕事なのでコミュニケーション能力が求められます。相手の意図をつかんで自分で表現して返せるか、その片鱗を見たいと思いながらESに目を通しています。

 ――どの設問も他社では見かけないユニークなものが多いですね。
 富田 全体を通して、悩むESだと思います。多角的に出すのか、一つを深掘りするのか。正解はないので悩んで書いてほしい。きれいにまとまっていなくても、「これだ!」「このアイデアだ!」と自分の発想に自信を持って書いてほしいと思っています。

「一つだけじゃないオタク」多い 時代が求めるもののヒントは世の中に

■WEB面接
 ──書類選考後、約1カ月半の中断を経て面接ですね。面接はどんな形式でしたか。
 富田 WEB1回、対面2回です。一度も会わずに内定を出すことは考えませんでした。5月末に緊急事態宣言が解除されたこともあって、6月からの面接は対面で行いました。残っている学生の数も多くなかったので、複数人が滞留しないよう心がけて来社してもらいました。

 ――WEB面接で何か変わりましたか。
 富田 WEB面接は1対1で10分ちょっとです。例年、1次面接は対面で、学生2人対複数の社員という形でした。グループ面接では自分が話していない時間に緊張したり、「自分の時間を有効活用しなきゃ」と思ってワーッとしゃべったりしてしまいます。WEB面接はずっと1人の話を聞けるのでコミュニケーションがスムーズだったと思います。学生はリラックスして話してくれました。普通におしゃべりする感覚で、だんだん「そうなんですよ~」と自然な表情を見せてくれる人も多くて。素の人柄を見るのにWEB面接はすごくいいツールだと思いました。
 多田 リラックスさせるためにこちらも表情豊かに、和やかにスタートするように気をつけました。学生は緊張せず言いたいことを話してくれた印象です。質問は、ESの内容を中心に、ベーシックな質問をしつつ関心を持ったことについて深掘りしていきます。

■筆記試験
 ――次は対面の面接ですね。
 富田 いえ、ここで筆記試験を受けてもらいました。例年であれば会場に集合して受けてもらうのですが、今年はWEBで行いました。時事問題、一般常識問題を中心に構成したオリジナルテストです。選考として得点差をつけるため、解ききれないぐらいの問題数を短時間で解いてもらいました。ふたを開けてみると、すごい高得点の学生も多数いました。
 多田 筆記試験では作文も書かせます。時間は作文も含めて50分です。

 ──多くの学生は最後まで解ききれない?
 富田 順番にじっくり考えていたら難しいと思います。高得点の学生は、最初に捨て問を決めるなど短時間でどう解くか頭を巡らせたと思うので、戦略的な人が残る結果になったと思います。

 ──戦略的な人を求めているのですか。
 富田 柔軟に対応できるのはすばらしい能力です。高得点の学生は「この辺が出ると思って予習しました」と言っていました。
 オリジナルテストは「引き出しが多いかどうか」を見る選考です。何か一つに秀でている人もすばらしいのですが、当社で活躍するのは、いろんな話題に「あっ、それ知ってますよ」「あれ、すごくいいですよね」とポンポン返していける人材です。世間に広くアンテナを張って、いろんなことに詳しいうえ、浅い知識でも流行りは押さえている。そんな引き出しの多さを見ています。

 ──だからジャンルが広く問題数も多い。
 多田 たとえば今年の変わり種問題でいえばプロ野球の阪急ブレーブスとか南海ホークスとか今はない球団の問題が出たり、昭和の歌謡曲の問題が出たり、相当幅広い範囲から出ます。
 富田 昨年シティポップがはやったり、山下達郎さんのラジオが若い人にも聞かれたり……、注目するニュースがあったときに深掘りして知識をためられていたかどうかですね。

 ──特定分野に詳しい「オタク」とは違う?
 富田 ちょっと違います。当社には「ひとつだけじゃないオタク」が多いですね。世の中の多くの人が今何に心を動かされているかを知るのはプロデューサー気質ですし、時代が何を求めていくのかは常に頭の中にあってほしい。そのヒントは世の中に散らばっているということです。当社は企業理念に「健全な娯楽を広く大衆に提供する」と掲げています。全国の老若男女のお客様に求められるもの、かつ健全であることがポリシーで当社の軸です。広く愛されるエンタテインメントに価値があると考えています。
 多田 映画は、小さいお子さんからおじいさん世代まで、同じ空間で楽しめる数少ない娯楽だからです。

 ──作文はどのようなものですか。
 多田 こちらの提示したフレーズに対して即興で400字書いてもらいます。
 富田 小論文ではなく作文なので、自由な発想で、人に読んでもらう文章を書く能力を求めています。

WEBだけでなくリアル面接対策忘れずに 伝統の全役員面接

■対面面接
 ──次の対面面接はどんな形式ですか。
 富田 面接官4人対学生1人です。時間は15分ほどです。
 多田 「あれ? WEB面接ではあんなに流暢に自分の言葉で話していたのに」と思うくらいガチガチに緊張して自分を表現できない学生が何名かいたのが印象に残っています。「対面面接は初めて」「3カ月ぶりです」という人が多く、対面に慣れていなかったからだと思います。
 富田 学生はWEB面接の対策はしてきますが、対面でいかに自分を出すかを忘れないでほしいですね。WEBと同じことを言うにしても目と目を合わせて力を持って伝えるとか。
 ここは人物を広く見て最終面接に上げる人を精査します。通過した人には個人面談をします。最終面接に向けて人事部が「君のこういうところはいいよ」とフィードバックして、疑問点があればその場で解消してもらいます。

 ──最終はどんな面接ですか。
 富田 最終は社長以下、全役員がそろう個人面接です。

 ──全役員! 面接官が多いですね。
 富田 私の就活のときも東宝が最多でした(笑)。時間は10分弱です。私自身めちゃくちゃ緊張して一瞬で終わりました。学生には直前に「自分に嘘をつかず、あるがままの自分で質問にテンポ良く答えることだけを意識してね」とアドバイスします。無理に自分を出そうとせず、自然体で臨むことが勝ちにつながります。新卒入社は毎年10人程度、社員400人以下で全員の顔と名前が一致する規模なので、全役員で選ぶのだと思います。
 多田 「最後は全役員で学生を選ぶ」と長く続いてきた伝統です。「何を言ったか分からない」「夢見心地で終わりました」という学生が多いのですが、同じ難関を突破した仲間意識みたいな絆は強まります。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 富田 2021年卒対象まで実施していましたが、今年は見直す予定だったところに、コロナの影響も残り実施しませんでした。次年度からは違う形で行いたいと思っています。インターンが就活の前哨戦のようになり、就業体験を通じてキャリアを考える本来の目的とは違ってきているので、ふさわしい形を検討しています。従来なかった自社発信の説明会や、現場社員が登壇するセミナーをWEBで実施したいと思います。
後編に続く

(写真・岸本絢)

みなさんに一言!

 いま就活しているみなさんは不安だらけだと思います。この1年間、学校に行けずキャンパスライフもなくて、「就活で何を話そう」と不安に思っているかもしれません。でも面接官は何をしてきたかの経験を聞きたいのではなくて、どんなことを考えているか、どんな風に人と関わってきたか、どういう考え方をする人なのかを見ようとしています。経験が少ないからと自信を失わず、「きちんと毎日を過ごして考えていることがあるんだ」と自信を持って選考に臨んでください。(富田さん)

 コロナ禍にあって、今まで経験したことのないようなメガヒット作品「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が誕生しました。エンタテインメントの可能性を改めて感じています。映画・演劇が好きでなくても、「社会にインパクトを与えたい」「社会貢献したい」という気持ちでも構いません。エンタテインメントが持つ可能性にチャレンジしてくれる若い方々とお会いできるのを楽しみにしています。(多田さん)

東宝

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 東宝は「朗らかに、清く正しく美しく」をモットーに、映画、演劇、不動産を事業の三本柱としています。すべての仕事において「企画」の力が大切だと考え、飽くなき向上心をもって成長を続けています。エンタテインメントを通じてお客様の心を揺さぶり感情を豊かにすることが私たちの使命です。