人事のホンネ

東宝

2022シーズン⑧ 東宝《後編》
映画・演劇ファンでなくてもいい お客様本位の「企画の会社」【人事のホンネ】

管理本部 人事部 人事企画室 人事課長 多田行宏(ただ・ゆきひろ)さん、人事課 富田玲実(とみた・れみ)さん

2020年12月23日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2022シーズン第8弾、東宝の後編です。国内トップの映画会社ですから、「誰よりも映画や演劇が好きで詳しくないと入れない」と思っていませんか。ところが、お話をうかがったお二人は「普通のファン」だったと言います。では、どんな人材を求めているのでしょう。(編集長・木之本敬介)

(前編はこちら

■求める人物像
 ──改めて、求める人物像を教えてください。
 富田さん(写真右) 活躍している人物像でいうと、東宝の企業理念や使命に共感し自分の目標を立てられる人。かつ、成長していける人です。成長できる人のキーワードは「プロデュース能力」「プロフェッショナル志向」「引き出しとアンテナ」「自分を磨く力」の四つです。社内のどんな部署でも、この要素を持つ人が活躍しています。

 ──アンテナが大事だとすると、面接でニュースについては聞きますか。
 富田 面接官によりますが、私は「最近気になるテーマはありますか」と聞きます。映画について話せばいいということはなく、むしろ違う話のほうが食いつきます。「引き出しとアンテナ」につながります。
 「引き出しとアンテナ」は私が就活をしていたころから東宝が発信していた言葉です。多くの人の関心がどこにあるか、という世間への広い興味はアンテナの一つです。それを自分に落とし込み、知識を整理整頓し、必要なときにスッと出せるようにしておく。ある映画プロデューサーが、若いころ上司にボツにされた企画も引き出しに残しておいてここぞというときに出すと言っていました。「昔NGだった企画も時代の流れが来たらいきる」と。

 ──最近の学生のアンテナの張り方や感度はどう感じますか。
 富田 大学生の活躍の幅が広がっていますね。SNSで自分の好きなことを発信したり、友人たちと起業したり、いろんな経験をしています。社会との接点が多い人ほどアンテナが広がっている印象です。自分の世界だけじゃなくて、何が世間で受けているのかを考えている人が多いのではないでしょうか。
 多田さん(写真左) 「YouTuberとして稼いだお金を学費の足しにしていました」といったエピソードを聞くと、時代が変わったなあ、と思いますね。

 ──採用ホームページに「必ずしも全員が映画・演劇の熱狂的なファンではない」とあり、意外でした。
 富田 学生にも誤解されていて、そのせいで自信を持てずに選考に来る人もいますが、本当に関係ありません。社長も、映画をやろうと思っていたんじゃなくて「面白いことをやりたいと思ったら、たまたまそれが映画だった」という人です。「でかいことをやりたい」というくらい漠然としていていいし、「映画・演劇が好き、詳しい」ということは入社時に求めていません。
 多田 映画が好きで入社したけれど、演劇部に配属されて立派な演劇プロデューサーとして活躍していたり、映画に詳しくなかった人がバリバリの映画プロデューサーになっていたりします。

 ──お二人も熱狂的ファンではなかった?
 多田 私は映画が好きで洋画を中心に見ていましたが、劇場で年に100本見るレベルではなく週に1本くらいでした。普通よりちょっと見ていたくらいです。
 富田 私も、映画も演劇も人よりちょっと好きというくらいでした。監督の名前も分からないし、普通のファンレベルです。

 ──「でかいこと」とは、たとえば?
 多田 「社会にインパクトを与えたい」とESに書く人もいます。社長はよく「我々は幸福産業なんだ。お客様を幸せにして我々も幸せになるんだ」と言います。周りの人の幸福が自分の幸せと思っている人は、それをビジネスにいかせる人です。

プロデューサーはリーダーで声かけ役 明るく前向きな人多い

■職種
 ──最近は「ジョブ型」採用を始める会社もある中、「新卒一括採用」「総合職」を強調していますね。
 多田 職種を一度決めてしまうと可能性が狭まってしまうので、ある程度の年月、個々の適性を見て判断します。営業・劇場・管理のうち二つを1年ずつ経験して3年目から定着し一人前になります。思わぬところに適性がある例があるので、柔軟に配属を変えられるほうが当社にはマッチしています。

 ──プロデューサーというと、その道一筋何十年という人が仕切っているイメージでした。
 富田 そういう人もいますが、映画プロデューサーの後に管理部門で新規事業の立ち上げチームに入り、今はゴジラの専門部署にいるとか、いろんな部署での経験をいかしながら次の部署へと異動していく人もいます。

■社風
 ──ズバリ、どんな会社ですか。
 多田 「お客様本位」が、会社の根幹にあります。そして、社長が常々言っている「企画の会社」です。映画・演劇に関わらず、不動産部門や管理部門、もちろん私たち人事の仕事でも、人事制度や採用を企画するなど、企画を生み出すことが大事だと全社員に浸透しています。
 エンタテインメントは安定するのではなく、どんどん企画して成長していかなくてはいけません。現状に満足せず殻を打ち破って、壁を乗り越え一つ上のステージに上がっていく、そんなチャレンジ精神をもった会社です。

 ──「企画を10本出して1本通ればいい」と聞きますね。
 富田 10本どころじゃないですね(笑)。
 多田 野球にたとえると100回でも1000回でも打席に立って1本ヒットが出ればいい、という世界です。ただし当たれば大きい。ワンシーズンにホームランが1本打てれば万々歳です。

 ──めったに当たらないと、つらくないですか。
 富田 とくに、種を生み出すプロデューサーの仕事は孤独な戦いですし大変ですが、その分返ってきたときの喜びが違います。高揚感とやりがいが強い仕事だと思います。
 多田 1人の創造力には限界があるので、プロデューサーの才能の一つはクリエーターとつながることです。当人に能力がなくても有能なクリエーターとつながればチームとして企画が生み出せます。

 ──不動産が事業の3本柱のひとつになっていますね。
 多田 もともと「百館主義」といって全国の一等地に映画館をもっていたんです。映画館が次第にシネマコンプレックスに変わっていく中で、その立地を有効活用しようと商業施設やオフィスビルへ形を変えていきました。ゴジラヘッドのある新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビルをはじめ、街のランドマーク的な物件も保有しています。
 富田 経営基盤としても、不動産事業による安定したテナント収入が下支えになっています。とくにコロナ禍で映画・演劇の興行に大きな打撃を受けた中では、不動産事業の存在に大いに支えられたと思っています。

 ──やりがいと厳しさは?
 富田 やりがいを感じやすい会社だと思います。自社が配給した映画がヒットすれば、どの部署にいても「この作品に何万人というお客様が足を運んで喜んでくれているんだ」とうれしくなります。社内でも面白いこと、楽しいこと、ムーブメントが大好きな人が多いので、誰かが担当した作品が盛り上がったり評価されたりすればみんな喜びます。担当者に「おめでとうございます」と伝えて盛り上げる楽しい会社です。
 多田 エネルギッシュな人間が多いですね。エネルギーを持っていないと、それを伝播させて一般の方まで届けられないですよね。

 ──メディア産業の中でも、出版社は多少暗くてもいいコンテンツをつくりあげる人がいます。
 富田 タイプが違うかもしれません。たとえばプロデューサーは、いろんな人の力を借りて引き出して「みんなで上がっていくぞ」「大ヒットさせるぞ」というリーダー役、声かけ役、旗振り役なので、明るくて誰の懐にでも入れるような前向きな人が多いですね。ただ、もちろん「陰キャ」もいますよ(笑)。いろんなタイプの人が集まっている職場です。