人事のホンネ

Honda

2022シーズン⑦ Honda《前編》
ガクチカは結果よりプロセス重視 「夢の力」を信じる会社【人事のホンネ】

人事部 採用グループ 相澤くる美(あいざわ・くるみ)さん

2020年12月02日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン第7弾は、Hondaです。「HONDA The Power of Dreams」を掲げる会社だけあって、「夢」という言葉が何度も飛び出しました。夢が詰まったESには熱量を感じるそうです。でも、ただ夢を書くだけでは説得力がありません。ポイントは?(編集長・木之本敬介)

■2021年卒採用
 ──2021年卒採用はいかがでしたか。
 新型コロナウイルスの影響が本当に大きく、3月以降の対面イベントはすべて中止になり、面接はすべてWEBで実施しました。一度も会わずに内定を出した人もいます。一方で、これまで対面が当たり前と思っていましたが、WEBでもできないことはないという気づきもありました。

 ──WEBの良い面、悪い面は?
 良い面は、地方や海外留学中の学生が距離の障壁なく参加でき、学生も我々もスケジュールが組みやすかったことです。面接では論理的思考力は問題なく判断できました。
 事実や考えは伝わりやすい一方、思いや熱量、人柄を知るには対面に勝るものはないな、と。対面に比べ、学生には自分らしさや思いを伝えることに少し抵抗があるように感じました。

 ──内定後に会ってみたら、「えっ!?」という例は?
 会ったときの立ち姿や雰囲気で、「あっ、こういう印象なんだ」という驚きはけっこうありました。真面目そうで堅い印象だった学生が、会ってみると雰囲気が柔らかくて気さくなタイプだった例がありました。

■採用実績
 ──採用実績を教えてください。
 2020年4月の新入社員数は、事務系75人程度、技術系480人程度です。
 2021年卒の内定者数は、事務系が60人程度、技術系は440人程度です。

 ――男女比は?
 事務系の2020年入社は6対4で男性が多かったのですが、今年は半々くらいです。技術系は男性が85%、女性が15%程度です。

■事務系職種
 ──採用ホームページを見ると、事務系には「職種別採用コース」と、従来型総合職の「ポテンシャル採用コース」があるんですね。
 2021年卒採用で新たに導入しました。「職種別採用コース」は、エントリーの時点で「セールス&マーケティングコース」などと選択し、該当職種の面接官とも話して、内々定の時点で入社時の職種が決まります。
 最近、学生が希望していない部署への「配属リスク」を心配していると聞きます。入社しても販売店や工場での研修の間、「どこに配属になるんだろう」「希望はかなうか」と不安を抱える人が多く、かなわない人もいます。せっかく「こういうことをやりたい」と言って入社するのだから、しっかり向き合いたいと思い、職種別を導入しました。

 ──ジョブ型の専門職採用ではなく、総合職採用で入り口を決めるのですか。
 はい。ただ、Hondaのキャリアステップは専門性を高めていくのが基本なので、購買コースでスタートした人は特別な制度を利用しない限り、購買の中で購買職種としての専門性を高めます。Hondaでどういうキャリアを歩んでいくか、入社のタイミングで決めます。
 事務系の職種は大きくは「セールス&マーケティング」「生産管理・物流」「購買」「コーポレート」の四つで、さらにコーポレートの中に「人事」「知的財産・法務」「経理・財務」「IT」があります。応募の時点で七つから選びます。

 ──職種をまたぐジョブローテーションはないのですか。
 たとえば「購買」の中で部品の購買から一般の購買に変わったり、二輪営業から四輪営業に移ったりすることはありますが、職種をまたぐ例は多くありません。ただ、社内の「チャレンジ公募制度」に手を挙げて、購買社員が採用チームに異動するようなケースもあります。

 ──「職種別採用コース」導入の成果は?
 内定した学生がまだ配属されていないので(笑)。学生のリアクションは非常に良く、「よく導入してくれた」という喜びや期待感を感じます。面接する社員にも「自分が採用するんだ」という当事者意識が生まれました。

 ──どちらのコースが人気ですか。
 「職種別」7対「ポテンシャル」3くらいです。学生がやりたいことを選んで自分のキャリアを具体的に描けるからだと思います。
2年ほど前から、事務系のインターンシップも同じようにコース分けしています。インターンで職種の理解が深まり、本選考もその職種で応募する学生が多かったですね。
 インターンは定員が少ないので職種ごとの説明会もしました。プロフェッショナルな社員が、自分のキャリアやチャレンジングな経験、根底にある価値観などを語り、学生には「あなたはHondaで何をやりたいの?」と将来を考えてもらうイベントです。「Hondaに応募する=Hondaで何を実現したいか」を考えて応募する学生が増えたと思います。

 ──ミスマッチが減りそうですね。一方で「ポテンシャル採用コース」に応募した学生は、「とにかくHondaに入りたい」「何でもやります!」という人ですか。
 前向きに「ポテンシャル採用コース」を選んだ学生が多かったですね。「やりたいことありき」ではなく、Hondaの考え方と自分がマッチしているからという人もいました。インターンで生産管理コースに参加して仕事の責任感や面白さを知ったが、「もっと広い可能性があるかもしれない」とあえてポテンシャルで応募した人もいます。

「野球で日本一」でなく「1回戦勝利に全力」にも可能性

■技術系職種
 ──技術系は「総合職採用コース」と「職種別採用コース」ですね。
 「職種別採用コース」は、自動運転や通信関係など最近のCASE領域で注目される技術を有する学生に働きかけたいと思っています。ただ、実は「総合職採用コース」の採用がほとんどで、職種別は1割くらいです。技術系は「〇〇の技術を有している」という前提なので、入り口に対する考え方が違うのかもしれません。

 ──自由応募と学校推薦はどちらが多いのですか。
 学校推薦ですね。2021年卒では自由応募は4分の1くらいでした。

 ──採用数が減ったのは景気の影響?
 2018年卒から2020年卒まで、CASEやMaaSへの対応のために、前倒しして多めに採用しました。2021年卒採用で適正数に戻ったイメージです。コロナの影響でもありません。

■エントリー数
 ──エントリー数を教えてください。
 プレエントリーが約2万人、本エントリーは約4000です。近年増えています。今年はコロナの影響が大きく、インターンの応募数も前年比の数倍でした。Hondaにあまり興味はないけれど、とりあえずチェックしておこうという学生が増えているのかと。
 とはいえ、本気で考えている学生たちは、職種別インターンの満足度が非常に高く、それほど心配はしていません。

 ──2021年卒の3月解禁後のスケジュールを教えてください。
 エントリーシート(ES)の締め切りは、事務系は1次募集が3月25日。2次募集が5月10日でした。技術系の自由応募は4月13日でした。
 4月、5月にジョブマッチング面談をして、事務系は6月の1週目に内々定を出しました。技術系は学校推薦があるので6月中旬でした。コロナの影響があっても選考を止めることはなく、スケジュールは予定通りでした。

■ガクチカ
 ──ESは、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)が200字、その過程での困難が300字、乗り越えるために「どうしたか」を自身の想いを踏まえてという質問が500字。さらに、「何を学びましたか。それをどのように仕事に活かしていきたいですか」が500字。しつこいですね(笑)。
 どんどん深く聞いていきます。ガクチカはどの企業も聞くので、みんな用意していますが、困難に直面したときに何を考え、どういう価値観で行動して乗り越えたのか。そこに表れる思い、価値観、考え方、その人らしさを知りたいからです。
 行動と今後やりたいことを聞くと、自分をしっかり持っている人は一本筋が通り、回答の中にその人が浮かび上がってきます。考えをまとめられていない人、自分と向き合い切れていない人は違和感があったり、伝わってこなかったりします。

 ──ガクチカはアルバイトやサークルが多く、ありきたりな内容になりませんか。
 「日本一になった」「世界一になった」といったすごい経験を持つ人は意外と結果ありきで、そのプロセスが薄いこともあり、モヤッとしてしまいます。
一方、野球やサッカーで「地方大会の1回戦を勝つことに全力を注いだ」という人もいます。強くなくても、1勝のためにこんなチームミーティングをしたとか、できることを考え抜いて1勝をもぎとったという話だと、可能性があるなと感じます。

 ──字数が多くて学生は大変です。
 本気でない人からは敬遠されるでしょうね(笑)。ただ、自分自身にしっかりと向き合ってHondaのESを書けば、1本のストーリーを棚卸ししているので、他社でも「意外と使い回せる」という声は聞きます(笑)。

ESに「私がHondaを世界一に」…熱量感じる

■志望動機
 ──志望動機では「仕事を通じて成し遂げたいこと」を問い、さらに「その根底にある想い」を書かせます。狙いは?
 うちの企業ロゴは「HONDA The Power of Dreams」。夢の力を社員が信じている会社です。簡単に実現できないとしても、技術系なら「空飛ぶ車をつくりたい」「おしゃべりする車をつくりたい」、事務系だと「世界一のモビリティカンパニーにする」といった理想を語り、夢の根底にある価値観を生々しく書き出してもらいたい。熱量をもって伝えてほしいですね。

 ──熱量を感じる志望動機と感じないものの差は?
 「私がHondaを世界一の会社にする」「私がみんなの夢をかなえるんだ」といった主体性や当事者意識を持っている人は、自然と熱量や思いが伝わってきます。
 たとえば、塾のアルバイトで「この子を合格させるのは無理」とみんなが言っても諦めず、目標達成から逆算して地道な取り組みで合格したと。粘り強く目標に取り組む人だと分かった後に、「空飛ぶ車をつくりたい。私はこういう努力ができる」と書いてあると一本筋が通って説得力が増します。

 ──ガクチカとセットで説得力が出ると。ESには夢が詰まっているんですね。
 私自身も、OB訪問で「日本一の製品を展開したい」と書いたESを見せたら、社員に「ここは世界一でしょ。Hondaの社員はみんな思っているし、そう書いたほうが絶対なじむよ」と言われました。入社したら本当に大きい夢を自分自身がかなえたいと話す人ばかりでした。だから、採用スローガンも「どうなるかじゃない、どうするかだ。」です。

■面接
 ――WEB面接の形式は?
 事務系は3回で、2回目はグループディスカッション(GD)の予定でしたが、すべて個人面接に切り替えました。学生1人対社員1~2人で、時間は30~40分です。
 技術系は基本的に2回で、学生は1人で社員は最大4人です。

 ──事務系の最終の3次は役員面接ですか。
 もともと年次の高い部長クラスが最終面接をしていましたが、2021年卒採用からすべての面接で年次を一段階下げました。1次は20代後半~30代前半くらいの若手から中堅、最終は人事系の課長と各部門の部長が担当しました。
 学生と話していて、親子ほど年が離れているから話がかみ合わないよね、という話が出たんです(笑)。年次を下げてみたら、学生が臆せずコミュニケーションをとれるようになりました。社員側もHondaを担う人をどういう視点で採用するか、全員が当事者意識を持つ良いきっかけになったと思います。

 ──面接で重視するポイントは?
 ESと同じで、結果よりプロセス、その中の個人の葛藤、価値観、行動の軸を見ます。能力や経験だけでなく、やりたいこともしっかり聞きます。

 ──学生の対応で気になった点は?
 面接した社員からは、カンペの丸読みが気になったと聞きました。「読んでいいよ」と言ったら、ずっとWEBのカメラから視線がずれていたと(笑)。NGではなく、逆にしっかり準備をしてきたと捉えます。ただ、「聞きたいのはあなたの思いややりたいことだから、本音で会話しましょう」と言ったらドキッとした様子でしたが、緊張がほぐれたのか素を出してくれたそうです。

 ──面接で「気になるニュース」は聞きますか。
 面接官によっては聞くと思います。社会状況やニュースが志望企業や生活にどう影響するか、アンテナを張って考えを巡らせることには、学生時代から絶対に取り組んでおくべきです。新聞やニュースでなくても、美術や読書、スポーツなどどんな方向でも構いません。アンテナを高く張って感性を磨いてほしいですね。
 普段からいろんなことを考えている学生は、想定外の質問にも自分なりの考えを整理して伝えることができるので分かります。日々の積み重ねのたまものですね。
後編に続く

(写真・山本倫子)

みなさんに一言!

 採用のスローガン「どうなるかじゃない、どうするかだ。」を伝えたいです。コロナも含め、いろんな外部状況やネットの情報にアンテナを張っておくことも大事ですが、就活は自分がこれまで何を大切にしてきて、これから何を大切にしていきたいのかを見極めて次のステップに進む場です。外部的なものに左右され過ぎず、自分自身に向き合ってください。その答えを何か一つ行動に移す。それが「どうするかだ」です。何か一つ、小さいことでもいいので行動に移してもらいたいと思います。

Honda

【自動車製造】

 私たちHondaは、一人ひとりが抱いている「こんなものがあったら楽しいなあ」「これができたら、多くの人が喜ぶだろうなあ」という夢や想いを大事にして、日々新しい製品の創造や技術にチャレンジしています。夢があるから失敗を恐れず、夢の実現へとチャレンジする勇気と力が湧いてきます。夢は私たちを動かす大きな力。Hondaは「The Power of Dreams」を原動力に、世界に新しい喜びを提案していきます。