人事のホンネ

国分グループ

2021シーズン⑫国分グループ《後編》
ESと発言・表情で「信用」判断 創業308年の挑戦する会社【人事のホンネ】

人事総務部 人材開発課長 梅澤篤(うめざわ・あつし)さん、人事総務部 人材開発課 主任補 住谷宏樹(すみや・ひろき)さん

2020年02月26日

 人気企業の採用担当者に聞く「人事のホンネ」2021シーズン第12弾、国分グループの後編です。創業はなんと1712年! 本社の住所が「東京都中央区日本橋1丁目1番地1号」という老舗中の老舗企業です。歴史が築いてきた「信用」を担える人材かどうかを、ESと面接から判断するそうです。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■ES
 ──どんなESか教えてください。
 住谷さん(写真左) A4サイズ1枚で、手書きです。「学生時代に力を注いだこと」(ガクチカ)にはタイトルもつけてもらいます。表現力や本人の考えが分かるからです。あとは、「食を通じて実現したいこと」と「あなたの個性を自由に表現して」だけ。「個性」の欄は狭いのですが、学生は絵を描いたり色をつけたり工夫してきます。当社の商品「缶つま」を描く人もいました。

 ──あえて手書きにしている理由は?
 梅澤さん(写真右) 性格が出るからです。私は名前をよく見ます。自分の名前は幼いころから書き続けてきているので、大きく書く人、小さく書く人、斜めに書く人と個性が出ます。字のきれい下手ではなく、ESに思いを込めようとすれば丁寧に書きますよね。反対に「おお、この誤字・脱字はすごいなあ」と思うもの、枠からはみ出して途中から縦書きになっているものも。1枚のESから集中力や良識が伝わってくるんです。かといって、ハードルの高い項目はなく、文字量もさほど多くない。志望動機欄もありません。
 住谷 手書きで大変なのは分かりますが、明らかに雑でちょっとしか書いていないESもあります。必ず目は通しますが、気持ちがマイナスから入ってしまう。反対に、何度も書き直してきっちり枠内に納めたんだなと感心するものもあります。私が就活生のときもESを何回も書き直しました。

 ──志望動機ではなく、「食を通じて実現したいこと」を聞くのはなぜ?
 住谷 食にまつわる経験、思いをベースに「将来何をしたいか」が当社に入ってやりたいこと。そこを書いてほしい。商品からイメージしやすい食品メーカーと違い、当社は口に入るものは何でも扱うし、お得意先も多岐に渡ります。それを理解したうえで、食をどう変えるかを書いてほしいですね。たとえば、「日本の食を私の手で変えたい」「海外旅行で改めて日本食はおいしいと思った。大好きな日本食を海外に広めたい」などと書いてきた学生がいます。

■面接
 ──次は面接ですね。
 梅澤 すべて1対1の面接です。面接官と学生がテーブルを挟んで向かい合う30分の面接を、最終まで4回繰り返します。面接の場を通して企業側は学生を選考し、学生もまた企業を選ぶ。お互いに選び合う場ですから対等な力関係であるべきで、この形をとっています。距離が近いので、たまに評価シートをのぞき込む学生もいますが(笑)。
 1次面接は係長クラス、2次が課長クラス、3次が人事担当で、最終面接は役員が対応します。30分の面接を4回も繰り返せば、どんな人か分かります。WEB適性検査でごまかしたとしても必ずバレます(笑)。面接では、ESの内容と実際に発言する内容、そのときの表情などが一致しているかを見て、信用できる人物かどうか判断します。当社の社是は「信用」です。ESに無理に奇抜なことを書いたり、過去の内定者のESをコピペしたりしていると、「残念ながら……」となります。自分本来の個性を大事にしてほしいですね。

 ──それぞれの段階で見るポイントは?
 梅澤 1次、2次で、学校生活に関することはほぼ確認がとれます。3次では、PDCA(Plan計画→ Do実行→ Check評価→ Act改善)を回す力ですね。目標を持って、そこに向かって自分なりにPDCAを回した具体的な体験談が聞きたい。とくに、人をどう巻き込んだかが大切です。メーカーと小売業の間に入って、商品と情報をつなぐのが商社の仕事ですから、基本は「ヒト」です。目標を達成するにはいろんなパターンがありますが、そこに「ヒト」が入っているかどうかは大きいですね。

 ──面接で「気になるニュース」を聞きますか。
 梅澤 私は「今日のトップニュースは?」「今日の日経平均株価は?」といった聞き方はしませんが、本題に入る前のアイスブレイクとして聞きます。そこで普段どんな情報を取り入れているか、新聞を読んでいるかどうかは分かります。新聞はコンパクトに論理的に書いてあるので、読んでいる人はネットしか見ていない人よりも自分本位ではなく客観的に話ができます。
 たとえば「オリンピックのチケット当たった?」と聞いて、「選考方法をいろいろと調べました」なのか、「ボランティアをしようと思いましたが、あの時期は就活生には難しい」なのか。情報の取り方によって話の膨らみ方が違います。情報を取っていない学生だと、「応募しませんでした」だけで話が終わってしまいますから。

 ──行動力や人間関係が見えてきますね。
 梅澤 自然なコミュニケーションが大事です。

求めるのは①コミュ力②戦略的に考える力③PDCA回す力

■求める人材
 ──求める人物像は?
 梅澤 まず、「人と関係をつくる力」。平たく言えばコミュニケーション能力です。面接で、何気ない会話から積み上げていけるかで、人との関わり方や巻き込み方がわかります。
 次は「戦略的に考える力」。地頭の良さや話の組み立て方、論理的な思考ができるかを確認します。
 最後が「PDCAを回す力」。「甲子園でベスト8になりました」とアピールする学生がいますが、150キロの剛速球を投げられても国分の仕事にはいかせません。それより仕事に置き換えても再現性の高いPDCAをどう回したか、チームにどう貢献したか、リアリティーをもって語ってくれると「仕事に貢献してくれそう」と分かります。

■社風
 ──どんな会社ですか。
 梅澤 株式会社なので利益を出す必要がありますが、私たちだけでなく、メーカーや小売業もしっかり利益を出していることが前提となります。
 「メーカーが利益を出すことで新しい商品ができる→国分は良い商品を仕入れる事ができる→小売業が利益を出すことで新しい店舗ができる→国分は売り場が増えてたくさん商品を販売できる」という好循環になるからです。根底にあるのは、和をもって仕事をしていくことの大切さです。
 住谷 良くも悪くも「面倒見のいい人が多い会社」です。積極的に仕事をやらせてくれて、ミスしても先輩が尻ぬぐいし、分からないことは指導してくれます。夜の飲み会はたまに長くなるときもありますが、それも愛情の裏返しです(笑)。業務外でもしっかり向き合いながら部下を巻き込んでくれる面倒見の良さを感じます。

 ──創業308年。赤穂浪士の討ち入りの10年後だそうですね。老舗の良さは?
 梅澤 たとえばサントリーさんは1900年ごろに創業しました。コンビニが登場したのは1970年代。創業当時からずっとお付き合いしてきた信頼関係は歴史の浅い会社にはないものです。当社の「信用」は歴史が築いてきたものであり、採用でも「信用」がベースにあります。
 一方で学生には「古い」「堅い」と思われがちですが、扱う食品は絶えず新しいものが出てきて、それらをすべて扱う会社です。歴史に甘んずることなくいろいろなことに挑戦できる。「食を通して自己実現ができる会社」です。

 ──食品商社のトップ2は財閥系です。国分は非上場で社長は12代目。独立系商社のメリットは?
 住谷 いろんな会社としがらみなくビジネスを広げていけるところです。他社の経営戦略はトップの任期期間に重なりますが、当社は10年先、20年先を見据えて戦略が立てられます。
 梅澤 12代続く「安心感」があることです。入社して二十数年。大学の同級生に会うと社名や経営方針が変わったりしていますが、当社は会社のスタンスも価値観も変わりません。「今どきじゃない」と思う人もいるでしょうが、変わらない企業理念と社是がありつつ、食品で新しいチャレンジができる会社です。

 ──食品卸のやりがいと厳しさは?
 住谷 食品卸のミッションは二つ。「豊かな食文化をつくる」ことと「しっかり食品を届けきる」ことです。そういう場面に立ち会えたときはやりがいを感じます。一方で大規模な災害などの有事の際は社員が物流センターで夜中まで商品を集めたり、営業が小売店の人と一緒に商品を並べたりもします。そういう泥臭さはありますね。

扱うのは多様な食品 「大きな仕事」ができる

■就活
 ──お二人の就活を振り返ってください。
 住谷 2017年入社です。人と人の間に立つ経験が多く、人と人をつなげる仕事がしたいと思いました。たまたま他の食品卸会社のブースに入って国分を知り、面接では先ほどの「選び合う」を実感しました。当時は生意気で「この会社で働くうえで大変なことは何ですか」などと聞いたのですが、ざっくばらんに何でも答えてくれた。良い面だけ言うこともできたと思いますが、悪いところも良いところも全部話してくれたのが印象的で、「この会社で働きたい」と思いました。

 ──当時の「大変なこと」とは?
 住谷 今でこそ「働き方改革」が進んでいますが、「お店のトラブルがあれば土日でも電話がかかってくるよ」「商社というとスーツでビシッと決めて何億円の商談するイメージだと思うけど、うちはね……」といった話です。「それがつらいと思うならやめたほうがいい。でも、そこを含めてお得意先のために何かやりたいなら向いていると思う」と。

 ──梅澤さんは?
 梅澤 入社は1998年です。食品業界志望でしたが、国分に決めたのは「大きなこと」がやりたかったからです。食品メーカーも志望ましたが、「定年まで同じ商品を売り続けるのか」と思うと、仕事の広がりが感じられませんでした。食品卸はいろんな商品を扱えてより大きな仕事ができる、自分も成長できる。いろいろな可能性があると思いました。

 ──入社後の経歴と印象に残っている仕事を教えてください。
 住谷 1年目の研修で「国分フードクリエイト」の営業内勤をし、2年目から採用担当です。40人強のGCの内定者が一堂に会したときや、各ACの内定者が決まったときはいろんな思いが込み上げてきました。大学に行っても3人しか説明会に来てくれなかったり、内定を辞退されたり、苦労が報われた気がしました。もともとは地域産品を広げる仕事がしたかったのですが、今は人事の立場で食品業界を支えていきたいと思っています。
 梅澤 最初の配属は物流担当で、物流センターの設計や構築、システム開発をしました。2009年から人事総務部に配属となり、人事プロセス全般に関わる仕事をしています。転機は2016年にカンパニー制度になり、「グループみんなで採用しよう!」「採用した社員はみんなで育てよう!」と方針が変わったときですね。自分が採用した社員が新しい職場で元気に頑張っている姿を見たり、適材適所の配置ができたりするとうれしいですね。

(写真・岸本絢)

みなさんに一言!

 視野を広げて、自分の目や心で就活をしてください。私もそうでしたが、就活を始めた当初に知っている企業や業界はごく一部だと思います。私も国分を知ったのはたまたまです。食わず嫌いをせず、いろんなところに首を突っ込んでみてほしい。今はネットでいろんな情報が集まりますが、自分から出向いて話を聞いてみてください。企業が何でも情報を開示してくれるのは今だけです。視野を広く持って、自分で聞いて得た知識・感情を大切にしてください。(住谷さん)
 
 出会いやご縁を大切にしてほしいですね。ビジネスの基本は「ヒト」です。人に会って、その場所に行って、共感した先にゴールがあると思います。ネットで探せば口コミ情報はあふれているし、企業のホームページにはキラキラした言葉が並んでいますが、自分が直接ゲットした情報にはリアリティーがあります。就活は諦めなければ必ず良い結果が出ます。最後まで頑張ってください。(梅澤さん)

国分グループ

【商社】

 国分グループは1712年の創業以来、300年を越え、全国各地のグループ企業とともに食の流通に携わってきました。「食のマーケティングカンパニー」として、食を扱うすべての事業者の真のニーズに対して主体的にお応えし続け、顧客満足度No.1企業を目指してまいりました。国内においては各エリアの国分グループ各社の連携により「地域密着全国卸」としての機能を発揮するとともに、海外においても卸売業、物流事業の展開を図っております。