人事のホンネ

アイリスオーヤマ株式会社

2020シーズン【第9回 アイリスオーヤマ】(前編)
一芸、グローバル…多彩な採用コース 「会社選びの軸」が大事

人事部 採用チーム東日本エリア担当 リーダー 佐藤祥平(さとう・しょうへい)さん、人事部 部長 会田祐一(あいだ・ゆういち)さん

2019年01月08日

 人気企業の採用担当者を直撃する「人事のホンネ」2020シーズンの第9弾は、アイリスオーヤマです。独創的で便利な生活用品を次々と生み出し、最近では家電メーカーとしてもすっかり有名に。採用方法も極めてユニークでした。(編集長・木之本敬介)

※主な回答者は佐藤さん(写真右)。会田さんの発言のみ(会田)と表記しています。

■採用実績
 ──2019年卒採用はいかがでしたか。
 就活のスケジュールが早まりました。インターンシップで学生と雑談していて、受ける企業を絞っていると感じたので、エントリーシート(ES)の締め切り、面接の開始を前年より2週間早めました。企業説明会は3月1日からですが、ESの締め切りを3月末にし、4月末のゴールデンウィーク(GW)前から1次選考(集団面接)を始めました。前年と一緒のスケジュールでやっていたら採用人数がかなり少なくなっていたと思います。

 ――今年の学生の特徴は?
 福利厚生やワーク・ライフ・バランス、プライベートの時間をとれるかどうかを重視する学生が多くいました。説明会や面接の最後に質問の時間を設けていますが、「残業はどのくらい?」「どんな福利厚生がありますか」「休日は年に何日ですか」といった質問が多かったですね。

 ──採用実績を教えてください。
 2018年入社は165人で、うち営業・事務系が153人、技術系12人。男性127人、女性38人で、大卒採用としては過去最多でした。前年は107人だったので、かなり増やしました。大阪に採用拠点を設けたことと、家電のCMが増えて認知度が上がったことが大きいですね。最近は学生から「アイリスオーヤマさんは家電メーカーですよね」と言われます。
 2019年卒採用は134人でしたが、2020年卒採用では、営業・事務系170人、技術系30人とさらに増やす予定です。

 ──エントリー数はどのくらいですか。
 プレエントリーは2018年卒採用が2万人、2019年卒は1万8000人くらいでした。2019卒の本エントリーは4000~5000人で、前年より2割減りました。

■選考コース
 ──多様な職種がありますが、総合職採用ですね?
 はい。営業・事務系と技術系に分けて採用しています。理系は学部指定で機械系、電気・電子系、情報系、デザイン系の学科に限定していて、それ以外の学部の学生は基本的に受けられません。

 ──選考方法が異なる複数の「採用コース」があるそうですね。
 営業系だと「スタンダードコース」「トップアスリートコース」「グローバルコース」「プレゼンテーションコース」の4コースがあります。
 「トップアスリートコース」は体育会系学生向けのコースで、体育会で養った精神力、バイタリティーを発揮してもらうコースです。応募資格は日本代表、全国大会に出場したレベルで、競技は問いません。応募が40~50人、面接を受けたのは35人ほどでした。2018卒の採用数は10人ほどで、2019卒は2人です。
 普通のコースより早くGW前には内々定が出るので、GW中の試合や夏までの部活に集中しやすいようです。

 ──「グローバルコース」は?
 将来、海外で働きたい人向けのコースで、本人が仕事で使いたい言語での面接があります。最終面接で海外とテレビをつないで、中国、アメリカ、韓国で勤務している日本人社員と話してもらいます。営業で働くことになったとき、使えるレベルかどうかを見ます。
 TOEICの基準点を設けていて、何語志望でもTOEIC750点以上が必要です。下回っている場合は要相談です。
 2019卒では応募が200人、面接を80人が受けて、2人採用しました。

 ──「プレゼンテーションコース」とは?
 ESと「プレゼン予告編」を提出してもらいます。「最終選考のプレゼンまで行けたら、こんなプレゼンをします」という予告の30秒動画です。動画は2019卒採用から始めました。

 ──どんな動画が来ましたか。
 獅子舞、アフリカの鼻笛、ペン回しの世界チャンピオン、落語などいろいろです。
 落語の学生は面接当日、着物を着て座布団まで準備し、5席披露しました。内容はもちろん面白かったのですが、それだけでなく、「落語を通して間の取り方や人への伝え方を学んだ」と話し、「何を得たのか」をプレゼンの中に組み込んでいました。それを聞き、営業に対しても探究心を持ってやってくれると感じました。
 獅子舞、鼻笛、ペン回し、落語の学生はみんな内定しました。応募は50人、最終面接に残ったのは30人で内定が12人です。

 ──プレゼンは何分間?
 10分間と質疑応答です。本当にプレゼンによる「一芸」だけの試験なので、学生側は不安が大きいようです。「第1志望なんですが、プレゼンコースではなくスタンダードコースで受けるべきですか」という質問がありました。私としては、プレゼンコースでチャレンジしてほしいというのが本音です。
 技術系で本当に入りたい人は推薦制度を使います。コースの併願はできません。

 ──ユニークなコースを設けた狙いは?
 通常の面接をする「スタンダードコース」だけだと、アルバイト経験、留学経験などを語る人が多く、強みが似通った人が多くなります。今後の会社の成長を考えると、ダイバーシティーというか、いろんなタイプがいたほうがいい。少しとがった人材を採用するのが狙いです。私たちが一番採用したい人材がここに集まっているかもしれません。

 ──すでに入社した人材は?
 バリバリ活躍しています。グローバルコースは最初から海外に関わる部署に配属しています。プレゼンコースで入社すると基本的には営業職ですね。

「真剣に打ち込んでいる人」求む 勉強していたほうがいい

■ES
 ──通常選考の「スタンダードコース」について教えてください。
 ESは履歴書的な内容と、「趣味・特技」「アルバイト経験」「部活・サークル・課外活動」「保有資格・語学力」「会社選びの軸」「学生時代に情熱を注いだこと」を書いてもらいます。「志望理由」「強み、専攻分野・得意科目」は1次選考を通過した後に書いてもらいます。

 ──ESで「軸」を問うのは珍しいですね。
 「会社選びの軸」を聞くことで、他に受けている業界と当社志望の整合性を見ます。全然違う業界を受ける中で突然のように当社を受ける人は、「記念受験かな」「なんとなくエントリーしたのかな」と思います。2018卒採用で、まったく違う業界と当社と両方の内定が出て、他業界に行ってしまうケースが多くありました。選考の初期段階から見極めたいので、2019卒採用からこの質問を入れました。
 この問いで、その人の志望が一発で分かります。「営業志望だな」「企画がやりたいんだ」「本当にこの業界に来たいんだな」と分かったので、次回も入れようと思います。

 ──どんな軸を書いてきましたか。
 内定者を例にあげると、「メーカーで商品開発をしたい」「将来、営業で活躍したいので、若手のうちから活躍できる会社を選んだ」「説明会に行って、フィーリングの合った会社にエントリーしています」などと書いていました。

 ──「志望理由」と「学生時代に熱中したこと」を選考途中で聞くのはなぜ?
 学生の負担を減らすためです。面接直前に書くことで、自分が何を書いたか覚えておいてもらうためでもあります。内定者から聞いた話ですが、「いろんな会社にESを出すので忘れてしまう」と。

 ──「強み、専攻分野・得意科目」は勉強中心の質問ですね?
 はい。理系の人たちはみな研究内容を書いてきます。文系は、ゼミなのか、フィールドワークなのか、力の入れ具合を見ています。そこを聞けば本人の大学生活も分かります。あまりに浅いと、「あんまり大学に行っていないな」という評価になります。
 しっかり勉強している人のほうが考える力があるので、勉強はしていたほうがいいですね。

 ──プレゼン採用、体育会系採用とは全く違いますね。メインは真面目な人がほしい?
 (会田)真面目というか、真剣に打ち込んでいる人ですね。スポーツ、プレゼンもそれぞれ真剣に打ち込んだ人たちです。頭の良さというよりは、何かに真剣に取り組んだかどうかが大事です。

挨拶・自己紹介が大事 受けている業界聞けば志望度わかる

■面接
 ──面接について教えてください。
 応募者が多く時間的な問題から、2019卒採用では1次を集団面接にしました。社員1人対学生4人で30分間。聞ける時間は1人5分くらいと短いのですが、選考期間が長くなると離脱者が増えるので効率重視です。

 ──どこを見ますか。
 ポイントは表情や話し方です。文系の6~7割は営業職に配属するので、挨拶や自己紹介は大事です。最初に私たちが自己紹介して、学生に1分程度で話してもらいます。和んで話しやすくなるので、私は趣味を必ず聞きました。
 全員に聞いたのは、ESにもある「会社選びの軸」と、他に受けている業界や会社です。軸が私たちの考えとズレていないかを見ます。当社は全国勤務なので、軸が「絶対に地元に残って働きたい」だと困ります。「生活に貢献したい」など表面をなぞっただけのもの、どの企業にでも話せるような内容もダメですね。

 ──2次以降は個人面接ですか。
 2次はエリア担当者の個人面接で、趣味の話などを通して、学生によりリラックスしてもらえる環境をつくるよう工夫しています。3次は人事部長による個人面接で、いずれも30分ほどです。
 個人面接では、本人の考え方やどんな経験をしてきたかを一歩踏み込んで聞きます。志望理由や受けている業界を聞いて志望度も見ます。他にはメーカーを1社も受けていないのに「第1志望です」と言う人がいますが、嘘をついていると分かります。ホームページに書いてあるようなことばかりいう人、会社には触れずに業界のことばかり話す人。たとえば「生活を豊かにしたい」としか言えない人は、ウチには興味ないのかなと思います。

 ──本当に志望している人は、どう違う?
 たとえば「説明会で○○という話を聞き共感しました」とか、社員と会う機会を何回か設けているので「○○さんがこのように話していて、私もそのように働きたいと思いました」というような話ですね。社員に実際に会った話をしてくると、「この人は本気かな」と思います。
 NGなのは志望動機の丸暗記。当社の採用メッセージをそのままいう人もけっこういます。

■求める人物像
 ──求める人物像は?
 行動力、考える力、使命感、責任感があることが大前提。活躍している社員はこうした能力を持っています。あとは面接で人となりが伝わってくるので、面接官のフィーリングや判断で決めています。

 ──面接でニュースについて聞きますか。
(会田)最終面接で聞きます。今回は米中経済摩擦について聞きましたが、あまり答えられなかったですね。そもそもニュースを見ていない人が多かった。
 アメフトやボクシングなどスポーツ界でパワハラが頻発していたので、「パワハラはなぜ起こるか。あなたならどう解決するか」「あなたが受ける側なら、どう対処したか」といった聞き方をしました。

 ──仕事を始めたら、ニュースを見ていないと困る?
 (会田)はい。ビジネスマンですから、日経新聞や朝日新聞などの経済面は見なくてはいけません。だから、ニュースや社会に関心があるかどうかは聞きます。

 ──世の中のトレンドを知らないとアイデアを出せないでしょうね?
 アンテナを張っていないと。後手では困ります。
後編に続く)

(写真・岸本絢)

みなさんに一言!

 自分の仕事に対する考え方、意志をしっかり持ってほしい。今は就活媒体が多すぎるせいか、自分で足を運ぶなど苦労をしなくなりました。その分、動機が不純だったり、退職について深く考えなかったりする人もいます。「入社して合わなければやめればいいや」ではなく、しっかり意志を持って入社し、入社後のビジョンを思い描いてほしいですね。(会田さん)
 就活はどんどん便利になっていますが、自分で足を運んで感じたことや、「こういうことをやりたい」という感性を大事にしてほしい。「いいな」と思う会社があったら社員に会ってみる、説明会に行ってみるといったフェイス・トゥ・フェイスの機会を増やしてください。新卒というゴールデンチケットは1回しかありません。今後の自分の人生を豊かにするためにも頑張ってほしいと思います。当社は参加型をメインにした楽しい説明会をやるので、1回は見に来てもらいたいですね。人事部に連絡をくれれば、OB・OG訪問の紹介、セッティングもしています。(佐藤さん)

アイリスオーヤマ株式会社

【生活用品】

 原点は、大阪の小さな町工場。プラスチックの成形で初めてオリジナル商品を開発してから53年、「快適生活」をコンセプトにくらしに寄り添い、時代とともに移り変わるニーズに対応し、様々な分野、業態にわたって事業を展開しています。そして、フィールドをくらしだけでなくビジネスへと展開し、社会生活のあらゆるシーンにおいて新たなソリューションの実現を目指します。