人事のホンネ

ミズノ株式会社

2020シーズン【第5回 ミズノ】(後編)
体育会出身だけじゃない!「スポーツの多様な価値」に関わる

人事総務部 人事課 課長 田中肖吾(たなか・しょうご)さん

2018年11月06日

 人気企業の採用担当者直撃インタビュー「人事のホンネ」2020シーズンの第5弾、ミズノの後編です。東京五輪・パラリンピックに向けて注目度が高まるスポーツ関連業界。ただ多くの仕事は、そんな華やかなイメージとはギャップがあることも知っておいてほしいそうですよ。一方でスポーツの可能性は広がっています。(編集長・木之本敬介)
前編はこちら)

■個人面接
 ──グループ面接の後は、いよいよ個人面接ですね。
 2次は各部門長と人事部の社員2人対学生1人の個人面接で、時間は20分です。人事的な観点での質問は人事が聞きますが、その他は部門長に自由に質問してもらっています。

 ──部門長に質問内容をまかせる理由は?
 人事が考えつかないような質問が飛ぶので、そこにどう対応するかを見るためです。突拍子もないことを聞くこともあるので学生は驚くようですね。変化球が飛んできます。
 小学生のときのことを深く聞いたり、「嫌いな人のことを思い浮かべて、どうして嫌いなのか説明してください」といった質問もあったりしたようです。明らかに言葉に窮してしまう人もいる一方、さらりとかわす人もいます。「今のは上手にかわしたなあ」と評価が上がりますね。また、この学生がミズノで一緒に働いているイメージが持てるかどうかも部門長には判断してもらっています。

 ──面接でニュースや時事的なテーマについて聞きますか。
 はい、よく聞きます。2次面接で最近の気になるニュースについて聞くことが多いですね。
 やはり世の中への感度は大事なので、面接の中で確認しています。

 ──最終は役員面接ですか。
 はい。人事部長、人事担当役員、ほかにもう1人人事担当以外の役員が担当します。時間は15分間くらいです。

 ──最終面接まで進んだらほとんど落ちない?
 いえ、最終面接でもしっかり選考します。15分は短いですが、3人それぞれ見る視点が違います。人事部長は質問というよりも受け答えの中で、ロジカルに物事を捉えられているか、質問にきちんと答えているかを見ています。

 ──面接時の服装について何か指示していますか。
 最終面接は普段の雰囲気や姿を見たいので、普段着で来てもらいます。そうはいってもきちんとした格好で来る人がいたり、半ズボンで来る人もいたり、さまざまです。ちなみに、半ズボンで来た人は受かりましたよ。

 ──半ズボン、アリですか! 「半ズボンで面接」は勇気がいります。
 ええ、アリです。“普段着”なので(笑)。本人は「自分は本当に夏は半ズボンだから、こだわってきました」と言っていました。

安全靴、ナースウエア、車の部品…非スポーツ部門にも力

■求める人材
 ──「求める人物像」についてもう少し詳しく教えてください。
 ミズノには創業110年の歴史があり、創業者や2代目、3代目の社長が「フェアプレー」「フレンドシップ」「ファイティング・スピリット」の「3つのF」を大事にしていました。「フェアプレー」は試合でも仕事でも公平性を大事にする、「フレンドシップ」は仕事をするうえでのチームワーク、「ファイティング・スピリット」は熱意、逆境に負けない精神です。そうした素養、経験があるかどうか、1次面接や2次面接で聞きます。人事部としては、この「3つのF」をベースに、その人ならではの個性や経験があれば、より魅力的に感じます。

 ――どんな学生がいましたか。
 海外メディアのアルバイトスタッフをしていたり、アフリカの奥地でフィールドワークをしていたり、大学時代にはスポーツとは関係ないことに熱中していた学生もいます。

 ──応募者は体育会出身者が多いのでしょうか。
 説明会でも「甲子園に出ていないとダメですか」「記録を持っていないとダメですか」とよく質問されますし、かなり誤解されてるんですが、「体育会出身者しかダメ」ということはなく、「絶対、大丈夫です」と答えています。
 体育会出身者は内定者の4割ぐらいです。ただ、まったく運動をしたことがない人は少なくて、やはり学生時代に何かしらスポーツをしている人が多いですね。

 ──スポーツ経験はなくても、たとえば「イチローの打撃理論に関心があって」というような人は?
 今のところ内定者の中にはいませんが、今後はそういう人も出てきてほしいですね。ミズノはスポーツや競技で育ってきた会社ですが、今は非スポーツ部門にも力を入れようとしています。スポーツシューズやスポーツ用品を開発するために培ってきた技術を、非スポーツ部門にも転用したいと考えています。
 たとえば、工事現場の安全靴を軽くて蒸れにくいものにしたり、作業着や病院のナースウエアも開発したり。ゴルフクラブのシャフトに使ってきた軽くて丈夫なカーボン繊維の加工技術は車の部品に転用しています。そうしたモノづくりだけでなく、運動プログラムの企画・販売などソフトビジネスにも広がっているので、スポーツをしてきた人だけでなく、一般の生活者に明るい人材も必要になってきています。
 他にも、行政からプールや体育館などの運営を請け負う指定管理ビジネスもあるので、スポーツ施設ビジネスに興味のある人にも来てほしいですね。

■社風
 ──ずばり、ミズノってどんな会社ですか。
 働きやすい環境であったり、チャレンジを奨励する制度があったり、社員一人ひとりに優しい会社です。社員は、明るく元気で真面目な人が多いですね。

 ──2020年の東京オリンピック・パラリンピック、昨年はテレビドラマ「陸王」もヒットしましたが、世間の盛り上がりは採用に関係しますか。
 学生から「オリンピックを控えているので」と聞くことは多かったですね。2019年はラグビーワールドカップ(W杯)、2020年はオリンピック・パラリンピック、2021年はワールドマスターズゲームズと「ゴールデン・スポーツイヤーズ」を控えているので、「何かしらの形でスポーツに携わりたい」という学生が多かったのだと思います。

 ――「陸王」の足袋はミズノがつくったとか。
 『陸王』の足袋は少し前まで社内に飾ってありました。ドラマの反響はすごかったですね。

 ──社内的な盛り上がりは?
 オリンピックについては来年から社内で取り組みが始まると思います。社内では、オリンピックや2021年のワールドマスターズゲームズに関連したイベントや新しい提案を公募して、少しずつ気運を高めようとしています。特にワールドマスターズゲームズは関西ですし、大会に参加する社員も出てくると思います。

 ──社内のクラブ活動が盛んだそうですね。
 そうですね。多くの社員が何かしら楽しめる活動をしています。社内のクラブ活動を通じて、所属部署を越えて社員間のコミュニケーションが活発になり、仕事にも良い影響を与えています。

多様な働き方整備、女性営業職増やす

■働き方
 ──「働き方」については、学生にどう説明していますか。
 意識して説明するようにしています。
 出産・育児を経ても活躍したいと思う女性や育児・介護との両立を目指す男性をサポートするため、今は在宅勤務や柔軟なフレックス勤務など多様な働き方を整備している段階です。この制度も少しずつ浸透してきており、女性の産休明けの復帰率は100%になりました。
 また、活躍の場を広げるため、ここ5年ほど女性の営業職を積極的に増やしています。私が営業をしていた10年前には女性の営業職はほとんどいず、女性用の水着も自分で営業しなくてはならずやりにくかったですね(笑)。当時は業界全体で営業職の女性は少なかったのですが、他社ではさすがに水着だけは女性が担当していました。

 ──採用で競合するのは同業他社ですか。
 同業他社はもちろんですが、BtoC(消費者向けビジネス)で身近な商品を扱っている有名メーカーが多く、金融や商社の志望者は少ないですね。

 ──勤務地は大阪中心ですか。
 営業部門は全国、営業部門以外だと大阪勤務が多いです。

■やりがい
 ──仕事のやりがいと厳しさを教えてください。
 説明会でも言うのですが、学生はミズノに対して、オリンピック、プロ野球、Jリーグといった華やかなイメージを持っています。ただ、みんながみんなそのような仕事に携わるわけではなく、多くは街のスポーツ用品店や学校等への営業担当からスタートしてもらいます。華やかなイメージとはギャップが大きいので、そこのギャップはなくすよう意識して説明しています。
 ミズノはそれなりに大きな会社ですが、国内海外合わせて約5000名と巨大企業ではないので、一人ひとりの仕事の裁量が比較的大きく、やりがいがあります。たとえばシューズの企画担当なら最初から最後まで「このモデルは自分が担当する」ことになります。もっと大きな会社だとシューズの中でも「この部分だけ」といった仕事になると思います。

■田中さんの就活
 ──田中さんは、どんな就活をしましたか。
 1999年入社、超氷河期の時代です。1999~2001年は「氷河期の底」と言われていて、悲惨というかほんと大変でした。正直、今の学生がうらやましいです。
 当時はインターネット受付は一部の先端企業だけだったので、手書きや電話で説明会に申し込んでいました。私は大阪生まれの大阪育ち、地元志向が強かったんです。若いときは転勤であちこち行ったとしても最終的には関西で暮らしたいので、関西に本社のあるメーカーを中心に受けていました。

 ──ミズノに決めた理由は?
 ずっと野球をしていたし、野球だけに限らずスポーツが好きだったからです。
 スポーツは、単に体力を向上させることに留まらず、言葉の分からない者同士が仲良くなったり、多くの人に感動を与えたりと「スポーツの持つ多様な価値」に魅力を感じていました。

 ──入社後はどんな仕事をされてきたのですか。
 最初はスポーツウエアをどれだけ売って、どれだけ作るかを計画し管理する「事業管理部」にいました。次に営業部門で百貨店を担当。その後は大阪・淀屋橋の売り場担当、さらにアメリカのアトランタで3年半ほど直営店の出店準備をしましたが、こちらは結果的に店を出しませんでした。帰国して人事部に異動になり6年経ちます。

 ──印象的な仕事について教えてください。
 どれも充実していましたが、目に見える形で結果が出せたのは営業の仕事です。創業100周年の2006年に担当していた大手百貨店で記念イベントを企画。各売り場にミズノの商品を置いて売り場をジャックするミズノ創業100周年イベントを提案しました。1社が売り場を独占するのは難しいのですが、先方のご協力で実現できました。やりがいも感じたし、嬉しかったですね。結果的にすごく売れたため、先方にも感謝していただけた良い思い出ですね。

(撮影・MIKIKO)

みなさんに一言!

 就活生は21~22歳ですよね。今考えている「やりたいこと」「これしかやりたくないこと」にとらわれ過ぎないでください。やりたいことは年齢とともに変わっていくこともありますし、「これしかやりたくない」と思っていると、できなかった時のショックも大きいですし、自らの可能性を狭めることにもなります。目先のことにこだわらず、視野を広く持ってほしいですね。「この仕事がやりたい」だけではなく、「社会でどんなふうに働いていきたいか」「どんな人たちと働きたいか」も考えてみるといいですね。
 企業を決めるのは難しいと思いますが、そこで実際に働いている人で決めるのは精度が高いと思います。インターンシップやOB・OG訪問で社員と接する機会も積極的につくってください。

ミズノ株式会社

【スポーツ用品】

 ミズノ株式会社は1906年の創業以来、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」を経営理念に、スポーツ品の製造及び販売、スポーツ施設の運営、各種スクール事業を展開しています。スポーツの価値を活用した商品やサービスを開発し、日常生活にもその価値を積極的に広め、スポーツの力で世界中の人々を幸せにすることに貢献していきます。