人事のホンネ

東京ガス株式会社

2018シーズン【第6回 東京ガス】
首都圏のインフラ支えつつ変革中! 自分の頭で考えて話して

人事部人材開発室長 岸澤剛(きしざわ・ごう)さん

2017年03月22日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2018シーズンの第6回は、生活や産業の基盤であるインフラを支える東京ガスです。
 電気やガスなどの自由化が進むエネルギー業界にあって、東京ガスはいま大きく変身しつつあります。採用でも新しい試みをしています。(編集長・木之本敬介)

■採用人数と職種
 ──2017年春入社の新卒採用人数を教えてください。
 「文系職」と「理系職」があわせて111人、現場のリーダーなど各分野のエキスパートを目指す「プロフェッショナル職」が62人。大学、大学院卒を合わせた数字です。
 男女比は文系では半々くらいです。応募時には男性7対女性3くらいですが、結果的に入社するのはほぼ半々です。2016年春入社では初めて女性が半数を超えました。一方で理系は大学に女性が少ないこともあり2割くらい。プロフェッショナル職は今のところ圧倒的に男性が多いですが、徐々に女性も増えてきています。

 ──理系職と文系職はいわゆる「総合職」ですか。
 総合職・一般職という区別はしておらず、会社への貢献のタイプで分類しています。入社後の貢献タイプは「ジェネラル」「ビジネス・フェロー」「エキスパート」の3タイプあります。「ジェネラル」は各分野の専門を磨きつつ、部門を横断して全社的に活躍するイメージ。「ビジネス・フェロー」は、ある分野で日本を代表する第一人者というイメージで、いわゆる研究職が多いです。入社時は、ジェネラルとビジネス・フェローは同じ枠組みで採用し、採用時には「文系職」「理系職」と呼んでいます。
 「エキスパート」は生産部門や導管部門の現場や事務職など、ある分野で長く働き、専門性を高めていきます。前述の「プロフェッショナル職」は入社すると貢献タイプが「エキスパート」になります。大卒、大学院卒の「プロフェッショナル職」での採用は2014年入社から導入しました。

 ──なぜ「プロフェッショナル職」を導入したのですか。
 もともと現場の仕事に就く社員は高卒の人の割合が多いのですが、業務内容が工事会社の方々を束ねたり、役所等と折衝したりと、役割が高度化してきています。コミュニケーション力や現場をまとめて推進する力が必要となったことから、高い能力を持ったリーダーを育てるために大卒の採用をするようになりました。
 必要な人数は確保できていますが、理系学部出身の学生からの人気が思うほど伸びていない点が課題です。インフラを技術で支えるためには、理系の学生にもっと関心を持ってほしいと思うのですが、学生に職種の違いを伝えきれていない思いがあります。

 ──文系は女性の比率が上回ったそうですが、女性の方が優秀?
 一般的な印象では、女性の方が「やりたいこと」が明確ですね。男性の場合、良くも悪くも「絶対にこの仕事をしたい」というより、東京ガスの社風や経営理念、人柄にひかれて、という人が多い印象です。やはり具体的に「私はこういう仕事がしたい」というイメージを語る人は迫力があって、「よく考えてくれているな」と思います。
 一方で、あまりに一つの仕事のイメージが強すぎると、入社してから苦労するかもしれません。必ずその仕事をすぐにできるとは限りませんから。東京ガスは、LNG(液化天然ガス)を調達して船で運び、LNG受入基地でガスや電力に加工してお客様にお届けする「バリューチェーン」が強みで、幅広い仕事があります。さらには2020年に向けて、これまでの「(ガス事業を軸とする)富士山型経営」から、「(数々の山々が連なり多くの頂上がある)八ケ岳型経営」への転換を目指しています。具体的には海外事業やエンジニアリング事業、不動産事業、LPG(液化石油ガス)などのリキッドガス事業、暮らしサービス事業など、新たな事業の柱を増やしていこうとしているところです。その中である程度「私はこういうことをやりたい」という希望を自分自身の価値観で語ってくれる人は魅力的ですが、「これしかやりたくない」と言われてしまうとミスマッチの可能性を心配してしまいますね。

 ──どんな学生がいましたか。
 たとえば理系の女性で「食に興味があり、厨房機器の開発をしたい」という人がいました。食や暮らしに関する希望は、女性に比較的多いですね。ただ、私たちはメーカーではないので、大人数で機器の開発をするわけではありません。もちろん希望を明確に持つのは良いことですが、そのうえで、東京ガスが目指すところや、お客様にどういう価値をお届けしようとしているかという点にも共感できるなら、「この会社でいろんなことを体験してみよう」と思って入社した方が楽しめるよ、と面接では話すようにしています。もちろん、希望通りの配属になることも十分にあります。

 ──理系採用にも営業職があるんですね。
 「技術営業」と呼んだ方がいいかもしれません。私も理系で、営業を希望して入りました。理系が70人入社すると20人程度は営業を担当します。たとえば、お客様の建物の建て替えの話があった場合、新しいエネルギーシステムを提案します。「コージェネレーションシステムを設置していただき、発電時の排熱を使い、空調システムをこのように設計したら高効率で経済的なメリットがありますよ」といったプランですね。そこに当社から供給する電力を組み合わせたり、それらのシステム、機器を東京ガスグループの資産として保有してサービスを提供するスキーム「エネルギーサービス」を提案したりします。お客様のそばで、技術力を含めたコミュニケーション力を発揮して、「お客様に自分を買ってもらう」という面白さがあります。
 営業には大まかに言って、マンションや一戸建ての「家庭用」、工場などの「産業用」、それ以外の都市エネルギーの「業務用」と3部門があります。先ほどの例は業務用分野のものです。どの部署にも理系・文系ともにいますが、「家庭用」が一番文系の比率が高い。「産業用」は理系が多く、「業務用」がその中間という感じです。

 ──「理系の営業職」は珍しいですね。
 システムエンジニアもお客様のところに行って営業することがありますよね。それのエネルギー版と考えれば分かりやすいと思います。
 私は大学でエネルギー・環境系の研究室にいたのですが、研究開発そのものより、お客様の前で自分が提供したエネルギーがどう使われているかを見て、効果が分かるような仕事を希望していました。東京ガスの「技術営業」はまさにお客様に自分の技術力を提供でき、お客様も喜んでくれる仕事だと思い、魅力を感じました。その点に憧れて入社しました。

 ──営業職で入社して、その後研究職に転じることは?
 「ジェネラル」の社員は5年に一度くらいは異動するので、いろんな部署を経験します。ただ、営業から研究職への異動は多くはないですね。逆に、研究職から営業系の職場への異動は比較的ありえます。一言で「技術営業」といっても、お客様に直接営業を行う営業担当のほかに、後方支援をしたり、営業部門の中でお客様に提供する技術開発をしたり、種類がいろいろあります。

夢を熱く語って 企業理解度やビジョンへの共感見る

■選考スケジュール
 ──2017年卒採用では、多様な説明会を開いたそうですね。
 最初の「企業説明会」は、東京ガスにまず関心を持ってもらう場です。その後の「東京ガスセミナー」は関心を持ってくれた人が足を運んでくれる、いわゆる自社説明会ですね。入社5~10年目の若手社員が参加する「社員座談会」もあります。学生が社員を囲んで座談会をし、先輩の仕事の内容や、就職活動時の実体験を聞く場です。会社を知り仕事への理解を深めてもらいます。
 次の「社員インタビュー」は、社員と1対1で会う機会です。社員の経歴をホームページに載せ、学生が会いたい社員を選んでWEBで予約してもらいます。30分~40分ほど、選考とは関係なく先輩の話を深く聞いてもらう場です。

 ──並行して施設見学会も?
 特に技術系の職場にはバラエティーに富んだ現場があります。LNGの受入基地や研究所、パイプライン、それから新宿副都心などで周囲のビルに熱を供給する地域冷暖房のセンターがあるのですが、そういう施設を実際に見てもらい説明します。ショールームを見てもらう機会もありますね。
 見学できるのは1人1~2回です。

 ──「女性向け」「原料調達・海外事業」というセミナーもありますね。
 女子学生は、女性の先輩のキャリアに関心があるので、活躍している女性を見てもらう機会をつくっています。安心して働いてもらうためのアドバイスをして、女性応募者の増加にもつなげたい。
 「原料調達・海外事業」は、八ケ岳型経営の柱の一つでもある海外事業など、東京ガスの新しい戦略に関心を持ってもらうために企画しています。私たちは一般的に「東京でガスを供給している会社」というイメージを持たれがちなので、国内志向の志望者が多かったのですが、新たな面も打ち出していきたいと思っていますし、実際にそういう新しい領域の志望者は年々増えています。もちろん、既存のインフラを支える仕事は当社の根幹を支える重要な仕事ですので、そちらにも関心を持ってほしいのですが。

 ──セミナーはすぐ満席になって、なかなか参加できないのでは?
 会社説明会はかなりの回数あるので、全く参加できないということはありません。「社員インタビュー」は社員1人がお会いできる人数が限られるため、「会いたい先輩に会えない」ことはあるかもしれませんが……。
 施設見学会も各年の傾向を見ながら、多くの人に足を運んでもらえるように工夫しています。

 ──多彩ですね。
 「社員インタビュー」は、内定者に聞いても「親身にいろいろなことを聞いてくれる」と評判がいい。当社には人柄が良い先輩が多くて、「東京ガスに絶対来いよ」というよりは、話を聞きながら例えば「他の業界も見てみたらどう?」と学生の目線に立ってアドバイスすることが多いですね。そういう雰囲気に触れることで、「こういう社員がいるなら働きたい」と感じてもらっているようです。

 ──2017年卒採用は就活期間の短期化で企業研究が浅くなると心配されていました。何か工夫は?
 特徴的なイベントをと考え、トヨタ自動車と合同イベントを開きました。トヨタは水素自動車を販売していて、東京ガスも水素社会に向けてさまざまな取り組みをしています。そこで「水素社会」というキーワードで説明会を開きました。トヨタに関心のある学生が「東京ガスの話も聞きたい」と思ってくれたし、その逆のパターンもありました。東京で4月の終わりと5月に行いました。1回目の参加者は400人くらい、2回目は内容が深くなるため人数を少し絞って行いました。

 ──説明会の参加回数をカウントする業界もあるようですが。
 まったく関係ありません(笑)。もちろん、「東京ガスが大好きで、イベントに全部行きました」という人はありがたく熱意を感じますが、だからと言って選考で優遇することはありません。逆に、5月の時点ではそれほど関心がなくても、魅力的な学生もいます。そういう人も含めたいろいろな人に関心を持ってもらいたくて多くのセミナーを開いています。東京ガスってこんなこともやっているんですねと言う声はよく聞きますね。

 ──セミナーに参加する意義は?
 理解度が深まるし、いろんな社員に会えます。当社の仕事はバラエティーに富んでいるので、各分野の社員に会い、それぞれの仕事を知ることで、入社後のミスマッチを防げると思います。

 ──学校推薦は受けていますか。
 一部受けています。2017年卒は電気系の学科で学校推薦を導入しました。実は理系の学校推薦は十数年前に全てなくなり、いろいろな学校のいろいろな学生を採用するようになりました。電気系で推薦を再開したのは、八ケ岳型経営の大きな柱の一つである電力事業に貢献できる人材を育てる必要があるからです。発電所の運営や電力事業の計画、技術営業など、電気系の仕事は増えています。

■エントリーシート
 ──2017年卒採用のエントリー数は?
 プレエントリーが約8400人、本エントリーが3800人くらい。前年より少し減りました。就職活動の期間が短くなった分、学生の皆さんが志望企業を絞り込んできたためだと思います。

 ──筆記試験は?
 いわゆる適性検査はWEBで行い、筆記試験は足を運んでもらいました。当社の社員が立ち会い、言語や計算に関する問題を解く形です。2018年入社からは筆記試験もWEB上で行う予定です。

 ――何割が面接に進む?
 なるべく多くの人に会いたいので、2017年卒採用では面接のブースをかなり増やしました。ES提出者の8割ほどと面接しました。

 ──エントリーシート(ES)の志望動機は「あなたは東京ガスを舞台に活躍し、何を実現したいか」という聞き方ですね。
 志望動機をストレートに聞くより「何をやりたいか」を聞くと、当社のことを含め働くということを考えているかどうかがわかるからです。どんな夢を持っているか、熱く語ってほしい。「思いの丈」を聞きたい。
 企業理解度のほか、将来のビジョンや当社の経営ビジョンへの共感などを見ています。落とすための質問ではなく、面接でいろいろと話してもらうための設問です。

 ――各項目にタイトルを書かせる欄があります。
 タイトルを20字くらいでまとめるのも一つの能力です。うまくまとめてあると、時間がない中でも読みやすく、目に止まりますからね。

 ──「チームで成果を得るために自分の意志で挑戦したエピソードと、そこから学んだこと」という設問があります。チームワーク重視ですか。
 当社の仕事はチームワークが基本です。リーダーシップを強調しても、協調性をアピールしてもいいが、「お客様にガス、電力、エネルギーを安全に、安定して供給する」使命を果たすには、チームワークは不可欠です。
 もちろん、個人の力も問われます。営業では、お客様の前に1人で立つこともある。最近力を入れている海外事業では、東京ガスの知名度があまりない土地で、自分でネットワークを切り開いていかねばなりません。

 ──少し協調性に欠けていても、突破力のある学生なら採用しますか。
 多様な人材に入社してもらいたいので、本当に突破力が魅力的な人はもちろん来てほしいですね。残念ながら、心配するほど尖った人は当社のような企業には関心を持ちにくいようです。社内には尖った社員もいますが、協調性も持ち合わせている人が多い。自分の力もあるけれども、周囲とも合わせていく人が多いですね。

 ──東京ガスには「絶対つぶれない安定企業」のイメージがありましたが、エネルギー業界は激変しました。
 これまでは1100万件のお客様がいて、規制に守られる環境の中でしっかりと運営し改善を重ねていけば、利益が大振れしない企業でした。しかし、エネルギーの自由化を機に今後は「八ケ岳型経営」を志向し、これまでの「チームワーク」「管理能力」「統制力」のほかに、「社内に前例のない状況で、自分で仕事を作って成長させていく力」も必要になります。ぜひそういう力のある人材に来てもらいたいですね。

 ──そういう人材は増えている?
 増えていると思います。採用広報のイメージを変え、採用サイトでも海外事業を積極的に紹介しています。「いろんなチャレンジをしている会社」ということは学生に伝わっていると感じます。

 ──印象に残るESは?
 私は理系中心に見ますが、研究に深みがあり、自分で考えて新しいことにチャレンジしている学生は印象に残ります。「教授に与えられたテーマを淡々としています」だと印象に残りにくい。研究やプロジェクトについて、自分の言葉で熱く語ってくれる学生は、「自分の考えで熱意をもってやっているのだな」と頼もしく感じますね。

 ──体育会の学生は熱く語りそうです。
 運動をしていた人は多いですが、体育会だからといって優遇することはなく、個人を見るようにしています。たとえば「部活でチームが日本一になった」という学生がいたら、「あなたはどのような立場で、何をしていたか」を詳しく聞きます。

 ──「インフラに関わりたい」という志望動機は多いですか。
 そうですね。「インフラで人の生活に役立つ仕事がしたい」という人は多いし、私が就職活動したときも同じようなことを言っていました。最近は「水素社会の実現」「未来のエネルギー」「電力事業」というキーワードも多くあります。

 ──光る志望動機は?
 志望動機で差がつくことはあまりありません。「なるほど」と思うのは、長期的な視点や社会的な意義と目の前の出来事が結びついている時でしょうか。たとえば「長い目で見ると、こういう社会を実現したい。それに向けて今、自分ができることや強みは○○です」と自分のキャリアイメージをストーリーとしてスムーズに説明できる人は、「よく考えているな」と思います。

1時間自由にプレゼンする「フリースタイル採用」も

■面接
 ──面接は何回?
 個人面接を最大3回です。1次、2次、最終いずれも、学生1人と社員2人が話します。1次面接は入社10年目くらい、2次面接は人事部のマネジャークラスが担当します。2017年卒の最終面接は、文系を人事部長、理系は私が担当しました。時間は20分強です。

 ──岸澤さんが面接でポイントを置いている点は?
 「自分の頭で考えて、自分の言葉で話せるか」ですね。虚を突くような質問をいくつかするなど、毎年工夫しています。研究されてしまうので詳しくは言えませんが(笑)。なるべく、その場で頭に汗をかいてもらうようにしたいと思っています。
 たとえば、「あなたが○○の立場だったらどうしますか?」「こういう状態だと仮定して、何か良いアイデアはありますか」という感じの変化球の質問ですね。
 2016年卒採用までは、1次面接の最初の7分間「好きに質問してください、どうぞ」という「逆質問」を入れていました。

 ――いきなり、学生の質問からスタート?
 「あなたの能力が東京ガスで活かせるかどうか、確信を得るために、いろんな角度から聞いてみてください」と言っていました。面白かったのですが、すぐ学生の間に情報が広まってみんな準備してくるようになりました。面接が始まる前から「逆質問するんですよね」と聞いてくる学生も結構いました(笑)。
 そこで2017年卒採用はスタイルを変え、「東京ガスを就職人気ランキングでトップ10にする方法は?」「あなたが東京ガスの人事部長だとしたら、この問題にどこから取りかかりますか?」といった質問をしました。東京ガスに関係のない設定の質問もいくつか混ぜました。「あなたが旅館のオーナーだとしたら……」とか。

 ──その質問で、何を見るんですか。
 やはり、自分の頭で考えて話せるかどうか。考える時間はとっても構いません。考えをいかに相手にうまく伝えられるかどうかです。
 もちろん、面接の準備をすることは熱意の表れですし、準備を練り上げるのはビジネスパーソンに必要な要素です。一方で、その場でパッと言われたことに対して頭が働くかどうかも見たい。準備してきた内容と違って、普段どのようにものを考え、どのようにコミュニケーションを取っているかという素の部分が見られます。ただ、口ごもってしまったからすぐにNGというわけではありませんし、総合的に判断します。減点することが目的ではなく、その人の個性が表れる面接にしたいと思っています。

 ──面接でニュースへの関心を聞くことは?
 あります。社会にアンテナを張っていることは重要です。入社後も社会の出来事を自分の仕事につなげられるかは大切ですから。

 ──特定のニュースについても聞く?
 聞くこともあります。政治的な話題は避けますが、シンプルに「最近、どんな問題に関心があった?」ということは聞きます。あるいは、先ほど話した変化球の質問に対して、学生が「最近の世の中の流れは○○なので、○○と考えます」と語ってくれることもあります。

 ──エネルギー業界に関するニュースも大事ですか。
 そうですね、皆さんよく勉強しています。エネルギー関連だけではなく、いろいろなことに関心を持っている人はやはり魅力的です。

■フリースタイル採用、インターンシップ
 ──「フリースタイル採用」というユニークな手法があるとか。
 筆記試験やESを抜きにして、学生がA4用紙1枚に好きなことを書いてエントリーするプレゼンスタイルの採用です。通常のエントリーとの併願はできません。「私たちに『会いたい』と思わせてください」という問いに対して、好きなことを書いてもらいます。良いと思った学生には夜に来てもらい、最初の30分は一緒にお弁当を食べて雑談します。その後は1時間、自由にプレゼンしてもらいます。
 テーマは何でも構いません。プレゼンが良ければすぐ最終面接です。2017年卒採用で初めて行い、3人が入社予定です。

 ──大胆な制度ですね。何人応募しましたか。
 50人くらいです。一般採用と併願はできないのですが、面白そうな採用スタイルに惹かれて、今まで東京ガスに関心が無かった人にも受けてもらえれば、と考えて実施しました。
 2018年卒採用でも、まったく同じ形式かどうかは分かりませんが、行いたいと思っています。大々的には広報していませんが、採用ウェブサイトで紹介して、学生の間に口コミで広がっているようですね。

 ──どんな学生が来ましたか。
 ある分野で日本一になったり、起業して仕事をしていたり、ビジネスコンテストで受賞したり、現代版わらしべ長者をやったりと、面白い人がいました。入社して周囲に良い変化を与えてくれれば、会社全体の雰囲気も少しずつ変わってくるのではないかと思います。

 ──役員会で反対されませんでしたか。
 思っていたより前向きな反応でした。こういうチャレンジには理解を示してくれる人が多いのではないでしょうか。

 ──インターンシップについて教えてください。
 文系・理系とも夏と冬に実施しています。規模は夏が100人、冬は200人くらい。夏は受入職場の事情によりますが5日間から2週間、冬は5日間です。2016年の夏は受け入れる部署を多くして、回数を増やしました。

 ──内定者にインターン経験者は多い?
 年によって違いますが、内定者全体の2~3割でしょうか。

激しい競争の時代 「東京」から「グローバル」へ

■社風
 ──東京ガスってどんな会社ですか。
 人柄の良い社員が多く、間違いなく「働きやすい会社」だと思います。ただし、これからガスの自由化を迎えて競争が激しくなっていく。競争を勝ち抜くための意識改革も進んでいます。前向きな人が多いので、自由化を後ろ向きに捉えている社員は少ないと思います。どちらかというと、先に自由化された電力業界や海外の事例も見て、「変わるチャンス」と捉えていますね。
 自分の入社時にも前向きな先輩がいて、「こういう先輩がいる会社はいいな」と思いました。その雰囲気が受け継がれていて、社風になっているのだと思います。

 ──「お役所的で堅い真面目な会社」というイメージがありましたが。
 想像以上に自由にできる会社です。やりたいことに対して「それは前例がない」と言われたこともありません。比較的フラットに若い人の意見も聞いてくれます。外からイメージされるほど、お役所的な会社ではないと思います。

 ──東京ガスで働くやりがいと厳しさを教えてください。
 131年という歴史のある会社で、かつて経験したことのない変化が起こりつつあります。これまでの成功体験を捨ててとまでは言いませんが、大きく舵を切っているところです。首都圏のインフラを支えるという社会的責任をしっかり持ちながらも、大きなチャレンジができるのはとても面白いし、夢が持てる会社だと思います。
 一方、厳しい面でいうと、競争を戦っていかなくてはいけません。さまざまな会社がガス事業に新規参入してくる中で勝ち残っていけるのか。これからは、ただ「安定した会社」というイメージで入社すると、ずいぶん違うと感じるかもしれません。

■海外展開
 ──海外事業を前面に打ち出していますが、若い社員が海外に出る機会もある?
 とても多くなりそうです。2017年度に向けて東南アジアに新たに二つの拠点を設け、人数も増やす予定です。若い社員も含め、かなりの人数が海外に出て行くチャンスがあると思います。
現在、海外事業に携わる社員は160人くらいですが、今年度末に200人規模に増やす予定です。

 ──この転換期に学生に考えてほしいことは?
 当社を志望する学生であれば、「東京」や「ガス」という言葉にとらわれないでほしい。ガス業界に限らず、国内で仕事をしてもグローバルな動きに影響を受ける時代ですし、あまり境界を意識しない考え方を身につけておくとよいと思います。

 ──採用で競合する会社は?
 やはりエネルギー関係が多いですね。大阪ガスや東京電力。石油関係だとJXエネルギー、東燃ゼネラル、昭和シェル石油など。インフラ関係では鉄道や通信系。海外という切り口では、商社もあります。

■就職活動と経歴
 ──岸澤さんはどんな就活をして、なぜ東京ガスに?
 大学では機械工学科で大学院まで進みました。研究も面白かったんですが、いろいろな人とやりとりして物事を進める仕事や、自分のしたことが世の中にどのように役立つか分かる仕事に興味がありました。エネルギーや環境系で就職先を探し、東京ガスの「技術営業」を見て「これだ!」と思いました。その先はガス業界に絞って活動していました。

 ──技術営業を知ったきっかけは?
 研究室の先輩が東京ガスにいたので、初めから関心のある企業の一つでした。仕事内容を見るうちに「これは自分に合っているかもしれないな」と思いました。振り返ると、あまり視野の広い就職活動はしていません。東京ガスに入社したことは良い選択だったと思いますが、せっかくの機会なのでもっといろいろな業界の話を聞いておけばよかったと後悔しています。

 ──入社後の経歴を教えてください。
 7年間、都市エネルギー事業部で業務用の技術営業をしました。最初の4年は千葉の営業部署、その後の3年間は本社の営業部門で大手ディベロッパーを担当し、再開発物件やショッピングセンターなどにエネルギーシステムを提案する仕事をしました。
 社内留学制度を利用して国内留学でMBA(経営学修士)を取得後、8年半、原料調達の仕事をしました。ガスの原料であるLNGの調達ですね。2015年の4月から人事部で働いています。

 ──印象深い仕事は?
 原料調達は、海外の人たちと価格交渉をするなど非常にエキサイティングな仕事でしたね。交渉相手であるLNGの売主は「産ガス国」の国営のエネルギー会社や、シェブロンやシェルといった石油メジャー会社です。月に1~2回は海外出張がありました。世界中の様々なバックグラウンドを持つ人たちと交渉し、お互いのニーズを見極めながらウィンウィンになる結果を導くのは、面白く勉強になりました。
 思い出に残っている仕事は営業時代に初めて一から十まで自分一人でお客様に提案をして、ガス空調機「ガスヒートポンプエアコン」を採用していただいた物件です。

 ──どんなお客さんですか?
 カー用品のお店でした。普通は、設計事務所やオーナーさんのところに足繁く通って建て替えの予定を聞き、話が出たときにすかさず提案します。でもそのときは、更地に「店舗」の建築看板があるのを偶然見つけたんです。通常は看板が立っている時点で既に図面もある程度完成していて手遅れなんですが、あえて電話してみました。「少しお話だけでも」とお願いし、元々の予定はLPガスだったところを、何回か通ううちに東京ガスのシステムに変えていただくことになりました。自分の初めての成約だったし、お客様にも喜んでもらえて嬉しかったですね。システムのメリットやデメリットを説明するうちに、「こいつなら任せてもいいかな」と思っていただけたのだと思います。

みなさんに一言!

 就職活動は、いろいろな会社の人と話せるチャンスです。利害関係なく人の話を聞ける、一生に一度といっていい機会です。ぜひ楽しんで、多くの人の話を聞いてもらいたいと思います。もちろん、どこかのタイミングで志望を絞ることも大切ですが、その過程を楽しんでほしいですね。幅広いことに好奇心を持っている学生は、企業から見ても魅力的です。何より楽しそうにしているのがいい。
 大変だとは思いますが、あまり悲観的にならず、楽しんでみてください。リラックス感が良い結果をもたらすかもしれませんし、自分の人生の糧にもなると思います。

東京ガス株式会社

【エネルギー】

 東京ガスは1885年に誕生して以来、日本で初めてLNG(液化天然ガス)を導入するなど、エネルギーフロンティア企業としての歩みを進めてきました。海外からの原料調達、国内でのネットワーク整備、産業や暮らしにおけるエネルギー活用、次世代を見据えた技術開発など、エネルギーを社会にお届けする企業として、様々な挑戦を続けてきました。エネルギー自由化を迎えた今、東京ガスは「総合エネルギー企業」として、ガスはもちろん電気や新エネルギーにも力を注ぎ、国内だけでなく海外へもそのフィールドを広げ、新たな時代をこれからもリードしていきます。