人事のホンネ

三井不動産

2018シーズン【第3回 三井不動産】
周りを巻き込んで成し遂げる仕事 粘り強さとやりきる力大事

三井不動産 人事部人材開発グループ企画統括 吉田正之(よしだ・まさゆき)さん

2016年12月22日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2018シーズンの第3回は、国内最大手の不動産会社、三井不動産です。
 都心の再開発に力を入れるのに加え、商業施設やホテル、住居などを幅広く手がける総合ディベロッパーは、どのような方針で採用を進めているのでしょうか。歴史ある重厚なビルの一室でお話をうかがいました。(編集長・木之本敬介)

■採用実績
 ──2016年卒の採用実績を教えてください。
 三つの職種があり、「総合職」が35人(男性24、女性11)。プロジェクトの一役を担い、チームの仲間をサポートする役割の「業務職」は4人(女性4)。オフィスビルをはじめとする当社施設の運営管理を担う「管理技術職」は2人(男性2)でした。

 ──理系の学生はいますか。
 例年2割程度は理系の学生です。ちなみに私自身は文系の学部出身で当社に中途採用で入社しました。1996年に大学を卒業した後銀行で約6年働き、三井不動産に移ってから15年目になります。前職での経験も含めて不動産に関する知識はありませんでしたが、不動産に関する知識などは入社後に業務を遂行しながら習得してきました。新卒の場合も、入社時に不動産などに関する知識は不問としています。

 ──2017年卒の採用人数は?
 ほぼ前年同様です。

■社員訪問、オープンセミナー、トークセッション…
 ──エントリー数はどれぐらいですか。
 就活の期間が短かったこともあり心配していましたが、結果的にエントリー数は増えました。短い期間でしたが、採用広報活動は効果的におこなうことができたと考えています。

 ──2017卒の採用ホームページを拝見すると、3月上旬から「社員訪問」、中旬から「オープンセミナー」、下旬から「トークセッション」、4月中旬から地方の「支店社員訪問会」と、会社説明会やセミナーが実に多彩ですね。
 「社員訪問」はWEBで予約するシステムを用意していますが、社員数があまり多くないので「なかなか予約が取れない」という声がありました。そこで、近年は「トークセッション」という社員1人対学生10人ぐらいの座談会形式のセミナーを各地で開くようにしました。「社員の生の話を聞いて、より意欲が高まった」という感想もあったので、それが大きいのではないでしょうか。

 ──オープンセミナーはどんな形式ですか。
 デベロッパーの業務を体感してもらうために、街づくりに焦点を当てた「体感型価値創造アカデミー」と、三井不動産の実際のプロジェクトの業務内容を追体験してもらう「プロジェクト実感セミナー」の2種類のセミナーを開催しました。いずれもグループワーク3時間ほどのセミナーですが、ここで当社の業務に興味をもってくれる学生が多いですね。

 ──金融などには説明会の参加回数を重視する会社もあって、学生の間では「スタンプラリー」などと言われています。
 私のころの就活はWEBではなくハガキでのエントリーでしたが、「何枚も書いて熱意を見せるといい」と聞いて志望先に同じハガキを10枚以上書いて送りました(笑)。今思えば冗談のようなエピソードですが……。今も、もしかすると参加回数を数える会社があるのかもしれませんが、弊社ではイベント参加回数は一切見ていません。ただし、社員の実際の話を聞いたりすることで当社についての理解を深めてもらいたいという思いはあるので、ぜひ積極的に参加してほしいと考えています。

 ──2017卒就活は「短期決戦」だったため、「企業理解の浅い学生が多かった」という企業が目立ちます。
 今年の学生の企業理解が浅かったとは特に思いません。私がお会いした学生については例年との違いはあまり感じませんでしたね。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 今年度は秋と冬の2回インターンシップを実施します。
 私たちの仕事の大きな部分はプロジェクトマネジメントです。ただ、大きなプロジェクトに関われるのは、特に海外では商社だと考える学生も多いようですね。「仕事が大きい」「海外で活躍できそう」というイメージです。
 私たちも海外での街づくりや投資を積極的におこなっており、秋のインターンシップは「海外」「投資」という切り口で実施しました。米国・ニューヨークでは「55ハドソンヤード計画」という大規模な複合開発プロジェクトに取り組んでいます。国内外での大きな投資に関して、自分が担当者として取り組むことができる当社の魅力に目を向けてほしいという強い思いをもっています。

 ──インターンは手間ひまがかかりますよね。
 そうですね、人事部だけでなく、いろいろな社員が関わります。冬のインターンは日本橋の本社と柏の葉で合計5日間おこないますが、実際にプロジェクトに取り組んでいる社員がメンターのような形で指導や助言をします。学生と社員が一緒につくっていく点が魅力だと思います。

 ──インターン参加学生から内定者は出ましたか。
 もちろん内定した方はいますが、インターンの参加の有無が選考に影響するということは全くありません。インターンに参加した学生に対しても、学生時代に何をして、どういうことを考えてきたのかをきちんと聞いています。

多様なメンバーと交わり何かを成し遂げてきた人を重視

■エントリーシート
 ──選考スケジュールは、3月からES受け付け、5月締め切り、面接は6月からですね。
 当社の面接は経団連の指針に従い、6月から実施をしています。セミナーなどでもその点についてはしっかりと説明しています。

 ──エントリーシート(ES)の項目は、学生時代に取り組んだことが中心ですね。漠然と聞かず細かく尋ねる印象です。
 わが社では「アプリケーション(申し込み)シート」と呼んでいます。質問項目は毎年見直しています。
 一つひとつについて「いつ」「どういう活動だったか」と詳しく聞きます。その方が学生も書きやすいし、読む方もポイントをつかみやすいですから。
 字数は年によって異なりますが、1項目400~500字、中には800字近いものもあります。

 ──見るポイントは?
 「周囲の人たちと協力して目標を達成したか」「粘り強さはあるか」などですね。弊社のプロジェクトは、短くて2~3年、長いと10~20年かかります。新しいプロジェクトを進める際には時に地域の皆様などから反発を受けることもあります。しかし、私どもの開発は地域にも貢献するものであり、完成した暁にはさまざまな方に喜んでいただけることが多いと考えています。当初は「迷惑をかけてしまっているのかな」と思うかもしれませんが、「この開発は地域に貢献するものとなる」という信念を持ち粘り強く進められるかが大事です。粘り強く何かに取り組んできた経験や、あきらめず最後まで「やりきる力」が重要です。

 ──「これだけはこだわりたいこと」という問いの狙いは?
 その人の人間性や価値観、つまり「譲れない部分」「大切に思っていること」を聞き、そのエピソードなども知りたいと思い、この設問にしました。

 ──仕事選びの「軸」ですね。志望動機は「街づくりに関わりたい」という内容が多い?
 私たち自身もアピールしていますから「街づくりがしたい」という記述は多いことは事実です。
 「社員の良さにひかれた」という声もあります。学生から「どんなことに取り組んでいますか」「こだわっていることは」などと聞かれた際には社員がしっかりと自らの言葉で答えているので魅力的と思ってもらえるようです。

 ──WEBテストやSPIはどう活用していますか。
 プレエントリーし、アプリケーションシートを提出しWEBテストも完了した時点で本エントリーしたことになります。面接での評価などと合わせ、総合的に判断をしています。

■面接
 ──面接はどんな形式ですか。
 面接は3回ですが、2017卒採用は短期決戦で6月半ばまでにはほぼ終了しました。
 いずれも個人面接です。各回20分ぐらいですが、3回の面談で学生時代の経験などをかなり突っ込んで聞きします。

 ──学生時代の経験で重視することは?
 どの面接でも学生時代、ときに困難に直面することがあっても、真摯に向き合い多様なメンバーと一緒に何かを成し遂げた経験をしているかどうかについて聞くことが多いです。私たちの仕事は当社の社員だけですることは少ないからです。たとえば「ららぽーと」をつくる場合、ゼネコン、デザイナー、代理店、あるいは弁護士などいろんな方と、長い時間をかけて一緒に進めます。プロジェクトに関わっていただく方とときに利害が衝突することはあるかもしれませんが、それを自らの力で乗り越えて、社内外の多様なスペシャリストを束ね、プロジェクトを成功に導くのが当社の仕事です。
 「ゼミの幹事長」「サークルのリーダー」といった肩書きは必ずしも必要ありません。気の合う仲間内だけではなく、多種多様なメンバーといかに関わってきたかを聞きます。ボランティアでも、地域コミュニティでの活動、海外の経験でも何でもいいのですが、様々な価値観の人たちと交わって何かを成し遂げてきた人。そういう人が当社に向いていると思います。

 ──どんなことを成し遂げた学生がいましたか。
 たとえば「海外留学中に、得意な野球やサッカーで地元の学生も含めたチームを作りまとめてきた」「部活やサークル活動で、みんなで意見を戦わせながら優勝や成功に導くために努力した」「地域の祭りなどで他の大学や年代の違う人と交流して、一つのことを成し遂げた」といった学生がいました。

 ──面接で、時事問題やニュースへの関心を聞くことは?
 アイスブレイクで話すことはありますが、あまり多くは聞かないですね。それよりは、性格や人となりを見たい。ただ、「世の中への感度」があるかどうかは重要です。好奇心旺盛な人が向いていますから。

 ──学生を見極めるポイントは?
 大きな商社やメガバンクと比べ採用人数が多くはないこともあり、「一人ひとりがどういう人なのか」を徹底的に見ます。入社する社員は、ずっと一緒に働いていく「仲間」だと思っています。面接する社員には、学生を「部下」として見ないように言っています。部下として見ると「言うことを聞きそうだな」と、行儀の良さそうな学生ばかり選んだりする(笑)。誰しもたとえば「体育会系の学生が好き」「自分と同じ理系の大学院生が好き」など、バイアスや好みはありますから、できるだけ複数の社員で面接して、その学生が将来当社で活躍できるのか、当社に入社することがその学生にとっても幸せなのかをじっくりと判断したいと考えています。

 ──採用で競合するのは?
 同業他社に加えて、三井物産や三菱商事などの商社と競合することが多いですね。

プロジェクトは30~40代のチームリーダーと若手2人で進める

■社風
 ──三井不動産ってどんな会社ですか。
 社員は総合職で1200人弱、管理技術職・業務職を入れて1400人弱です。私は1996年入社ですが、中途採用を入れても同期は22人。これくらいの人数だと、どの部署に行っても「この人とは○○で飲んだな」という感じ(笑)。だいたい顔見知りで社員同士の仲がいい。役職者に対しても肩書ではなく「さん」付けで呼ぶし、社内の内線電話はみんな「こんにちは」と言って出ます。そういう会社は珍しいようですが……。
 面倒見のいい社員も多い。「どうしようかなあ」と悩んでいると、「それだったら知り合いが詳しいから聞いてやるよ」と世話を焼いてくれる人がたくさんいます。
 一方で、商業施設やホテルなどでは海外からのお客様も増えており、私たち自身も多様化していく必要があります。

 ──以前にいた銀行とはかなり違いますか。
 そうですね。転職して一番驚いたことは人事部の社員が毎年、全社員と面談していることでした。人事部の社員が各職場に行って全社員に対して「最近どうですか」と聞くんです。本当に社員を大切にしている会社だと思いました。

 ──風通しもいい?
 いいですね。他社と会議をしていると、「部長だけが発言し、社員が横でうなずいている」という場面を見ますが、当社は一番若手の社員が上司などに「それは違うと思います」と言う会社です。他社の方からは「大丈夫ですか、あんなこと言って?」と心配されることもあります(笑)。当社では、若手が黙っていると「担当として一番分かっているのに、どうして発言しないんだ」「担当として、きみはどう考えているのか」とむしろ突っ込まれますね。

 ──厳しい面でもありますね。
 確かに大変です。私は経済学部出身で銀行から転職しました。入社直後は図面の見方も分からないし専門用語も知らない。チームリーダーから「自分の代わりに一人で会議に参加し、仕切ってこい」と言われて、正直分かっているふりをしていたこともあります。それがとても悔しくて、会議の後に現場所長に個別に質問して教えてもらったり、建築用語辞典や建築に関する本を買ったりしてキャッチアップしました。
 当社では少人数の若手に任せることが多く、普通のプロジェクトは30~40代前後のチームリーダーと若手2人くらいで進めます。
 上司は基本的に現場の打ち合わせには出ません。チームリーダーと若手だけでその場で決めることが多い。もちろん逐一報告はするし、会社である以上決裁権限の枠はあるので、その点はきちんと手続きを踏んでいく必要はあります。ただし、日ごろからしっかりとコミュニケーションがとれていれば、チームリーダーが決めたことはよほどのことがない限りひっくり返らないと思います。

 ──不動産業界では一般的なやり方ですか。
 同業他社も多かれ少なかれ似てはいると思います。ただ、当社は社員数が少ないこともあり、少人数で進めていく傾向があります。
 ですから、若いうちからやりがいのある仕事ができますが、きちんと考えて判断できないと厳しい。多くの人からいろんなことを言われて、コンセプトがぶれてしまわないようにしなければならない。

 ──必要な勉強は、個人の努力に任されているのですか。それとも研修が充実しているんですか。
 それぞれの階層ごとに集合型の研修もありますが、実務的なことは現場によって違うこともあるのであまり多くはありません。むしろチームリーダーのやり方をはじめいろいろなことを実際の現場で覚えて、また違う現場に行って学ぶという感じです。基本はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)です。

 ──資格はたくさん必要ですか。
 宅建(宅地建物取引士)は全員取得してもらいます。最近は取引の際に金融知識も必要なので、「不動産証券化協会認定マスター」の取得なども推奨しています。私は以前、法人のお客様にさまざまな事業を提案する「法人ソリューション部」にいて、バックグラウンドとして必要なので取得しました。

 ──「勉強」が嫌いな学生は向きませんか。
 何が「勉強」なのかにもよりますが、好奇心は必要ですね。
 たとえば、「良い商業施設をつくってほしい」「良いインテリアにしてほしい」と言われても、何が「良い」かは難しい。商業施設だけではなく、いろいろな物件を見て回って、「あの物件の、吹き抜けを使ったエントランスの雰囲気がこの物件のコンセプトに近い」といった具体例を出して、設計者やデザイナーと話すことが大切です。この場合は、多くの現場を見ることが「勉強」になります。
 プロジェクトを進めるとき、ただ「良いものをつくってください、よろしく」と言っただけでは誰の心にも響きません。誰だって、そんな人とは仕事をしたくありませんよね。「この立地とターゲット層を勘案し、こういうコンセプト、デザインの建物にしたい」といった打ち合わせができないと、事業は進みません。人によってやり方は違いますが、みんな自分のこだわりやコンセプトを大切にしています。

 ──好きな人には、たまらない仕事でしょうね。
 そうですね。一種の職業病かもしれませんが、休暇中にリゾートにいっても「ここにこんなタイルを使っているんだ」とか「芝生から泥が流れない工夫してるな」と考えてしまうこともあります。ホテルに泊まっても、「この洗面や浴室は担当者がこだわって作りこんでいるな」などと思ってしまいます。

 ──もともと建物やインテリア、街づくりに興味がある人が向いていますか。
 建物やインテリアというよりも、ハード面・ソフト面などを含め、街づくりに興味があることは大事だと思います。仕事が順調なときはいいですが、状況が厳しくなったときには、やはり興味があるかないかで結果には大きな差が出ると思います。

東京五輪後にも魅力的な街づくりしたい

■吉田さんの就活と仕事
 ──吉田さんご自身の就活ですが、最初なぜ銀行に入ったのですか。
 経済学部出身で金融には興味があったし、学生時代に家庭教師やチューターをして「育てる」面白さを知っていたので、銀行に入って企業を経営やファイナンスから支援するのも面白そうだと思っていました。不動産には昔から興味があり当社も含めて不動産会社のOB訪問をしていましたが、当時の銀行は内定者に対する拘束があり、銀行より選考が後だった三井不動産は受けられませんでした。

 ──転職の経緯は?
 最初は名古屋の営業部で法人営業を中心に4年間働き、その後、社内公募に応募して系列の証券会社の資本市場部門に出向しました。証券会社でも約2年間、法人営業を担当して社債発行などに関わり楽しかったのですが、たまたま独身寮で日曜日に新聞で三井不動産の中途採用者募集の案内を見つけ、「これは自分が応募するしかない」と思ったんです。

 ──そもそも不動産に興味を持ったのは?
 1980年代、浦和の自宅から東京の八重洲や八丁堀にある進学塾に通っていました。通塾している間に、古い建物だった区域が開発されてきれいなオフィスビルやマンションに建て替わり街路樹や歩道もしっかりと整備され、「このような開発ができる不動産の仕事は面白そうだな」と漠然と思ったんです。

 ──三井不動産ではどんな仕事を?
 2002年2月に入社し、本社の都市開発事業部で4年間、分譲マンションの開発をしました。そのあと名古屋の支店に行き、マンション・戸建ての開発とアフターサービスセンターの副所長を務めました。アフターサービスセンターではゼネコンなどから転職された方々が、現場で活躍できるようサポートする役割でした。お客様からのクレーム対応などときに厳しい仕事もありましたが、技術力があり誠実に仕事をしている年配の人たちと自分がいかに向き合い、どうすれば一緒に頑張ってもらえるかを考え続けました。自ら現場に行くことも多かったですね。

 ──その後は?
 5年半ほど、「法人ソリューション部」で法人に対するCRE(コーポレート・リアル・エステート、企業不動産)営業 を担当しました。不動産を持っている企業に対して不動産を中心にした経営戦略を一緒に立案し、実行する仕事です。近年、「CRE戦略」という考え方が広まってきました。単に不動産を所有するだけでなく、その会社の本業に有効に活用したり、必要がなければ売却するだけではなく収益不動産として開発したりすることもあります。
 仮に、ある会社が工場の閉鎖を考えていたとします。長年操業してきたこともあり、単に閉鎖するのではなく雇用の問題も含めて行政や地元の方々に納得していただける方向性を検討しなければならない。そこで、三井不動産が関わって「ららぽーと」や「スマートシティ」として新たに活用する方法を提案します。さまざまな打ち合わせを重ね、「弊社ならこうできますよ」とお話しし、時には地元の自治体などとも調整して活用方法を詰めていきます。たとえば「ららぽーと」が一つできると、アルバイトの方も含め数千人の雇用が生まれます。近隣住民の方にも「工場がなくなるのは寂しいけれど、ららぽーとができるなら嬉しい」「家族で楽しい時間をすごすことができる」と喜んでいただけます。工場を売却する企業、地元の方々、自治体、弊社全員がウィンウィンの関係になる。そういう仕事をしていたと思います
 
 ──もっとも印象に残っている仕事は?
 とある郊外の街で10年ほど前に完成したマンションの仕事ですね。最初は建設反対の声が強く、1万人以上の反対署名が集まりました。地元の方々は敷地内の森が残るかを心配されていて、「森を残す」ことをテーマに、住民の方々とワークショップを何度も重ねて、森をいかに残し、完成後にその森をどうやって維持管理していくかなどを話し合いました。最終的にはその土地の緑を守り育て伝える活動の記録という冊子をつくり、最後には住民の皆さんと理解しあうことができた物件だと思っています。

 ──立案からどのくらいの期間がかかりましたか。
 最初にお話をしてから建設工事に入るまで1年半くらい話し合いを継続し、当社が保存樹木移設などの工事も実施しました。幸い、このマンションは現在も人気のある物件です。多くの方に楽しく暮らしていただけているのは本当に嬉しいですね。今も時々現場を見に行きます。

 ──最後に、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、三井不動産、デベロッパーの課題は何でしょう?
 東京五輪に向けて日本経済全体が盛り上がりつつある一方で、東京の国際競争力の低下も言われています。五輪で世界の視線が東京や日本に集まることは大きなきっかけになりますから、東京五輪が終わった後も日本に行ってみたい、働いてみたい、住んでみたいと思っていただけるようなさまざまな仕掛けが大切だと思います。
 今、グローバル企業のアジアのヘッドクォーター(本部)はシンガポールなどに置かれることが多くなっています。以前は東京に多くあったのですが……。それを取り戻すため、我々はいろいろなエリアで魅力的な街づくりをしていきたい。
 日本の人口が減っていくのは変えようのない事実ですが、悲観はしていません。東京には教育面や医療面などにおいて工夫の余地は多い。今後の開発では単にオフィスビルや商業施設をつくるだけではなく、その街のなかに、インターナショナルスクールなどの教育施設や、外国語で診療できる医療機関を充実させて、生活のインフラを整えていきたいですね。
 「住んでいて楽しいね」「また来たいね」と思ってもらう街づくりができれば、年月を経ても人気は落ちません。当社は、時が経つにつれて、ブランド力が上がり価値が高まるという「経年優化」という考えを大切にしています。たとえば東京ミッドタウンは2017年3月でオープンから10年が経過しますが今も人気があり、古さを感じることはないと思います。むしろ価値が更に高まっているのではないでしょうか。これからもそういう街づくりをしていきたいと思っています。

みなさんに一言!

 学生のうちは就活をあまり意識することなく、多様な方々とさまざまな経験をしていると思いますが、どんなことでも、自分1人だけで完結するのではなく、周りの人々を巻き込んで、ひとつのことを成し遂げていくと良いと思います。
 そこで、辛いことがあっても逃げないで、周りの人たちと何か形に残すことができれは、その経験が将来にわたって自らの財産になります。そうすることによって、どのような組織においても周りの人々を巻き込みながら引っ張っていける人材になれるでしょう。学生時代は長いようで短いですが、そういう経験をするのは、今からでも決して遅くはないと思います。

三井不動産

【不動産】

1941年、三井合名会社の不動産部門を分離し、三井不動産(株)として設立。 三井不動産はこれまで、オフィスビル、商業施設、ホテルなど、幅広く不動産を取り扱う総合デベロッパーとして歩んできました。  さらに、これらの事業で培った企画開発、事業推進、運営におけるノウハウを融合させながら、大規模な複合開発を国内のみならず海外においても数多く手がけています。 「東京ミッドタウン」「柏の葉スマートシティ」「日本橋再生計画」など、単なる「開発」で終わるのではなく、それぞれの街の記憶や歴史、文化、伝統を、未来へとつないでいくとともに、環境、エネルギー、防災など、これからの社会が直面するであろう課題を解決へと導くアプローチにも取り組んでいます。私たちはこれからも、時とともに熟成する「経年優化」の思想に基づいた街づくりを力強く推進してまいります。