人事のホンネ

アステラス製薬株式会社

2017シーズン 【第8回 アステラス製薬】
人の心に残る仕事! 「個の力」「グループでの力」両方必要

営業本部人材開発部人材企画グループ 船井俊秀(ふない・としひで)さん

2016年03月10日

■採用実績
 ――2016年春入社の採用人数と男女比、文理比を教えてください。
 トータルで約100人、そのうち約半分が営業職(MR=Medical Representative、医薬情報担当者)で、あとの技術系は創薬研究職、技術研究職、開発職の三つに大別されます。男女比、文理比ともほぼ半々で、理系の半分は薬学部、残りが農学部など他の理系学部です。人数は近年、ほぼ横ばいです。

 ――MRは男性が多い印象があったので男女半々は意外ですね。社員全体の男女比は?
 過去の歴史があるので圧倒的に男性が多く、女性は10%強。20代は3分の1が女性で、ここ数年の新入社員は半々くらいになってきました。ただ、女性を意図的に増やしているわけではありません。

 ――学生に男女差は感じますか。
 女性は出産などライフイベントが多いせいか「この年齢にこうなっているためには、今年はこれくらいやらなければいけない」としっかり考えている学生が多く、面接でも話がわかりやすい人が多い印象があります。

 ――MRの適性に男女差はありますか。
 さほどありません。最近は多くの女性MRが活躍しています。営業現場でいきいきと働いている女性も多く、適性に差は無いと考えています。

 ――応募資格は?
 文系はMRのみの募集です。技術系の職種は専門分野で何を学んできたかが問われます。総務や人事などのコーポレート部門については、新卒は採用していません。MRは学士も修士も対象ですが、技術系は理系修士以上です。

 ――「DISC」という別の採用ルートがあるそうですね。
 Drug discovery Innovator Selection Campの略で、創薬研究職採用のプログラムです。創薬にはイノベーションが必須です。多種多様な価値観を共有し、常に新しい価値を創造することができる人材、そして、専門性、経験、知識、情報、人的ネットワークなど、あらゆるリソースを活用して課題を解決できる力を持っている人材を、私たちは必要としています。また私たちは、採用活動とは一方的な選考の場ではなく、お互いに一緒に仕事をしたいと思える相手か、双方が対等に選び合う場であると考えます。ですから、一般的な面接ではなく、研究所の近くでキャンプのように生活してもらいながら選考を実施するスタイルを取っています。参加者同士や当社の研究者とのディスカッションを重ね、テレビの「ウルトラクイズ」のように脱落者が毎日出る。5日間のプログラムを経て最後に残った人に内定を出します。世界中から応募が来るので、留学先のアメリカからはるばる参加したのに、その日に脱落することもあります。

 ――技術系の採用に推薦制度はありますか。
 ありません。すべて自由応募です。

MRのいい面も悪い面も理解を HPそのままのES…そこに君の言葉はないのか!

■エントリー数とスケジュール
 ――2016年卒採用のMRのプレエントリーとエントリーの数は?
 MRのプレエントリーは約15000人、本エントリーは3分の1の5000人くらいです。この数年横ばいですが、2015年は3月の広報解禁から8月選考開始まで間が空いたため、面接に来ない学生が非常に多かった。エントリーシート(ES)の提出は多かったが、7月後半に面接の受け付けを始めると申し込みはその半分程度でした。他で内定を得てそこに行ったということなのでしょう。

 ――全体の採用スケジュールは?
 経団連の指針通り、2015年3月に企業広報が解禁されてから各大学の学内セミナーを回り、自社の会社説明会は4月にスタート。4、5、6月と会社説明会をして8月1日に面接を始めました。お盆前までのほぼ1週間で内々定を出し、ぎゅっと凝縮して終わらせました。

 ――他の製薬会社は指針を守ったのでしょうか。
 大手の国内企業は守っていたと思います。

 ――説明会はどのような内容ですか。
 従来は第1部で会社の紹介、第2部で現場社員の座談会という2部形式を1日でやっていたのですが、2016年卒採用は第1部を4月、第2部を5月と2日間に分けて開催しました。間が空いたので途中で選考意欲を失わないでほしいという狙いでしたが、「会社への理解が深まった」という学生もいれば、「何度も同じ会社の説明会に足を運ぶのは非効率的だ」という学生もいて賛否両論だったようです。

 ――説明会の規模は?
 4、5月は1回50人程度で、東京と大阪で12~13回開催しました。エントリーが遅かった人向けの説明会は1日完結で、6月に100人規模を8回実施しました。ただ6月は当日のドタキャンが例年以上にあり、出席率は7割くらい。6月後半になると半分来ればいいほうでしたね。説明会の受け付けを始めるとすぐ満席になるのに来ない人が多かった。これまでなかったことです。

 ――リクルーターは使っていますか。
 現場社員に負担をかけるので使っていません。

■ES
 ――ESに「あなたが明日を変えた経験」と、その目標設定、成果を聞く質問がありますね。
 アステラスのコミュニケーションスローガンが「明日は変えられる。」なので、それにかけています。学生時代に何を頑張ったかをアステラス風に聞いています。他社のESを使い回したり、WEBにある模範解答のようなものをコピペしたりしないよう、こういう質問にしました。学生時代にやったことを思い出して深掘りしてくれればいいと思っています。

 ――「あなたはどのようなMRになりたいですか、一言で表して下さい」という質問の狙いは?
 業界・企業研究をして、MRという仕事をある程度知っていないと書けない内容にしています。これもコピペできないよう、何らかの言葉を頭からひねり出さなければいけない質問にしました。MRという仕事のいいところも大変な面も理解しているか、ミスマッチがないかを見る趣旨なので、それさえ理解していればOKです。

 ――船井さんなら、どう答えますか。
 「相手の心に残る仕事をしたい」ですかね。MRは患者さんには直接相対することはできませんが、実際に患者さんを治療される医師と同じく、患者さんのことを第一に考えた治療提案をしていくことで、薬物治療のパートナーとして医師の心に残る、という仕事をしていきたいと思っています。学生には「地図には残らないけど、人の心に残る仕事が出来るよ」という話をします。

 ――「アステラス製薬でなければならない理由」も聞いていますね。
 各社で企業戦略が違うので、その違いを理解しているかを知りたいという狙いがあります。たとえば、当社はいま一般用医薬品はやらず医療用医薬品に特化しているので、そこを理解しているかどうかで文言に色が出てくると思います。「これなら同業他社でもいいんじゃないの」と思う志望動機もある。それで不可にはしませんが、企業理解が浅いとミスマッチにつながるのではないか、と心配になります。

 ――印象深い内容のESは?
 200点だったTOEICのスコアが、オーストラリアに渡って皿洗いを半年間して、フィリピンを回って帰国したら900点に上がったという学生がいましたね。去年入社した男子です。

 ――MRに英語力は必要ですか。
 英語論文を読む可能性があるので、読む能力はあったほうが仕事の幅が広がります。

 ――ありがちな志望動機は?
 「病気で苦しんでいる人の役に立ちたい」という社会貢献性の高さをあげる人が多いですね。自分の経験のほか、家族や友人の病気がきっかけになったとか……。文系はそういう原体験をもとに書く人が多いですね。よく見る内容であっても自分の言葉でちゃんと書けていれば全く問題ありません。何らかの経験に基づいた言葉だと説得力が出てきますね。
 一方でホームページ(HP)に出てくる言葉をただ並べただけのESは響きません。「アステラスは新薬に特化していて~」とか、HPに書いてあることそのまま。「そこに君の言葉はないのか!」と思います。

何かに強みを持つ人がいい 医学は日進月歩 勉強継続できる習慣・体力は大事

■面接
 ――面接はどんな形式ですか。
 グループディスカッション(GD)の後、個人面接2回です。
 GDは1テーブル最大7人程度で時間は約30分。テーマは内緒ですが、あえて学生間の意見がぶつかる仕掛けをしていて、最終的には一つの結論にまとめてもらいます。自分の意見を押すときに論理的にしっかり主張できるか。チームで物事を進めるときには「全体最適」を考えてどこかで折れなければならない。その駆け引きができるか。「個の力」と「グループでの力」を両方発揮できる人かどうかを見ます。

 ――それがMRに必要な能力?
 MRは、自分の力で物事を解決したり意見を通したりする力と、組織を巻き込んで成果を出す力と、両方が求められる仕事で、どちらかだけではダメなんです。両方持っているかどうかを見極めるために試行錯誤しています。

 ――求める学生のタイプは?
 どんなタイプでもいいんです。営業だからしゃべりが上手ならいいか、というと必ずしもそうでもない。人としゃべるのはうまくないけど勉強がすごくできるタイプでもいい。勉強はあまりせず部活で日本一を目指していて根性は誰にも負けないタイプも、アルバイトで頑張って店の赤字を黒字に変えた人も、何も頑張ってないけど自分がひと声かければ友だち500人がノート貸してくれる人もいい。何かそういう強みを持っている人がいいですね。
 ただ、似たタイプばかりにならないようにしています。私たちは環境の変化を大きく受ける業界です。たとえばかつてのような医師への接待ができなくなったとき、接待がうまい人だけを集めた組織では対応できません。どんな環境変化が起こっても対応できる強い組織を作るためには様々なタイプの人を集めることが大事。「こういうタイプ」というよりバリエーションを持たせることを意識しています。

 ――7人中何人くらい通過しますか。
 一テーブル何人という枠はなく、7人全員通過することもあれば全員ダメということもあります。ディスカッションをせず安易に多数決で決めたり、対立を嫌がって建設的なディスカッションを避けたりするグループは全員ダメということもあります。あえて意見がぶつかるようにしているのに、学生が素を見せてくれないと通過は難しいですね。

 ――1次面接は?
 1対1で30分間。ここでは業界への理解度や志望度よりも、過去の経験を深掘りしてその人のコンピテンシー(行動特性)が確認できればいい。過去の成功体験を聞いて、それを会社で再現できるかどうかを確認したりします。基本は大学時代の体験ですが、高校までさかのぼって聞くこともあります。

 ――最終面接は?
 営業本部の部門長、あるいは現場を統括している支店長が対応します。部門長が2人でジャッジ役、人事の社員が横につき、学生から見れば1対3の形式で30分です。この段階になると、業界への理解度、志望度も見ますし、物事をわかりやすく論理的に相手に伝えられるかどうかも見ます。

 ――薬の知識は必要ですか。
 知識は入社してから身につけるので全く要りません。ただ、しっかり勉強しなければいけない業界だということは理解してほしい。医学や医療は日進月歩なので日々勉強し続けないとついて行けません。だから「勉強を継続できる習慣、体力」は大事ですね。「1日30分以上勉強したことがない」というような学生は当社には合わないと思います。

 ――すると大学の成績は大事ですか。
 最終面接に成績表を持ってきてもらいます。すごくいい必要はありませんが、あまりにギリギリの成績ばかりだと、社会に出て「やりたいこと」だけじゃなく「やらなければいけないこと」をする局面で力を出せないんだろうな、という見方になります。

 ――アルバイトもサークルもせず、ひたすら勉強を頑張ってきたという学生はどう評価しますか。
 いいと思います。学生時代に一番力を入れたことは研究活動だったという学生はいますし、その情熱や思いを自分で語ってもらえれば全く問題ありません。

■新聞
 ――面接で「気になるニュース」などを聞くことはありますか。
 定型で決めてはいませんが、面接官によっては「今日の新聞記事で一番気になるニュースは?」と聞く人もいます。「読んでいません」という答えが多いですが。私も、最近気になったニュースは聞きますね。学生の興味のありどころがわかるし、そこから話を広げることもできるので。MRは情報提供が大事ですが情報収集も大事ですから、その素養もこの質問である程度わかります。

 ――なぜ情報収集力が必要なんですか。
 医師に会っていきなり薬のことを話し始めるわけではなく、まずニュースの話題から始めることはよくあるし、知識の幅が人間の幅を広げるので間口は広い方がいい。どんな話を振られてもちょっとくらい話を合わせることが必要ですから、新聞を読むのは大事ですね。

 ――医師とはどんな話をするんですか。
 その医師の興味に合わせて、株が好きな医師とは株の、野球が好きな方とは野球の、お酒好きな方にはお酒の話をします。「鉄板」はスポーツ、あとは子どもの受験情報などですね。

■インターン
 ――インターンシップは実施していますか。
 MRは実施しています。2015年は夏に1回、冬は12月末からスタートし、春は2月から、それぞれ必ず5日以上はやります。1回40人程度で計6回です。応募は多いですが本選考ほどではなく、多い時は20倍程度の倍率です。書類と適性検査を通過した人を面接に呼んで、最終的な参加者を決定します。。

■MRという仕事
 ――MRってどんな仕事ですか。
 日々、医師をはじめとする医療関係者を訪問するのが仕事の基本です。医師は患者さんを診察して治療しますが、運動療法や理学療法など様々な治療方法がある中で、薬を使う「薬物治療」が選択されたら我々の出番。患者さんを健康にするためにはどういう薬を使ったらいいかを医師とともに考えて提案するのが主な仕事です。ただ、昔のように「この薬がいいですよ」と売り込むだけではやっていけません。患者さんごとに細かい個別対応をしないと通用しない時代になりました。

 ――いつごろ変わったんですか。
 医師の専門性に合わせて仕事をするようになって10年くらい経ちますが、患者さんごとに切り口を考える流れになったのはここ数年のことです。インターネットの発達で薬の情報だけなら誰でも取れるようになり、忙しい医師に面会してもらうには、個別の患者さんにカスタマイズした情報を提供することが重要になってきました。仕事の質が変わり、昔より難度が上がりました。

 ――MR1人が担当する施設数は?
 開業医なら1人で200施設くらい担当しますが、全てまんべんなく回るのは無理ですから、その2割の施設を重点的に回るイメージです。

 ――治療法が難しい患者さんだと、社に持ち帰って検討する?
 そうです。患者さん一人ひとりについて医師とディスカッションするのが大事ですが、よほど医師に信頼されないとできません。コンサルタントとして中立な情報提供も求められるので、場合によっては他社の薬も紹介します。そこが他の商品の営業とは違うところかもしれません。もちろん「タイプの違うこういう患者さんが来られたら当社の薬を使ってください」とは言いますが、自社の薬を売るためだけに営業しているMRより、本当に患者のことを考えて提案するMRのほうが信頼されます。他社の薬を薦めるのも、それが「信頼」という目に見えない貯金につながると思うからです。

 ――医師に時間を取ってもらうだけでも大変なんでしょうね。
 1人の医師に対して定期的に面会しているMRが50~60人。そのうち医師がパートナーと認めるのは3~4人だけと言われています。そこに選ばれないと仕事が成立しない。だから、「エッジ」を立てないと通用しない。普通のことを普通にしていたら埋もれてしまうので、たとえば感染症ならこのMR、糖尿病で困ったらこのMRに聞いてみようと思ってもらわなければなりません。開業医の場合は、医療経営に困ったらこのMR、出張先のグルメに詳しいとか、とにかく急ぎの用件に対応してくれるとか、他のMRから頭ひとつ飛び抜けたものが必要。困ったときに顔をパッと浮かべてもらう存在になることが大事です。

 ――パートナーになれた医師のところには毎週顔を出す?
 その優先順位も自分でつけます。開業医なら一番多い頻度で1週間に1回、あとは2週に1回とか1カ月に1回とか、自分で濃淡をつけます。大学病院なら毎日顔を出します。
 会える時間は開業医なら5~10分。いろいろ話を聞いて、次の訪問時に改めて提案を持っていく、という感じです。

 ――MRには一匹狼のイメージがありますが、チームで働くことはありますか。
 市町村単位の「医療圏」をチームで担当し、連携して対応することもあります。ただ、医師との関係は1対1が基本です。

自律できない人には向かない 「お金でなく自分を評価され成果をあげる」MRに魅力感じた

■ワーク・ライフ・バランス
 ――MRは、営業職の中でも特に大変そうなイメージがあります。
 大学生に聞いても、MRと聞いて最初に浮かぶのが「激務」だと言うんです。「じゃあ、楽な仕事ってあるの?」と聞いても返事がないんですが(笑)。ただ、難しい仕事なので誰でもできるわけではありません。一番求められるのは自律。細かく管理されない、ということは非常に裁量権が大きくやりがいもある半面、サボろうと思ったら果てしなくサボれますし、細かいスケジュールの指示もなく自分で決めないといけない。セルフコントロールができない人には向かない仕事だと思います。

 ――産休や育休は取れるんですか。
 医薬品業界はどこも制度が整っていると思います。産休や育休もしっかり取って、もちろん大半が復職しています。
 男性の育休はまだ取れていない状態ですが、私がMRだったころの経験でいうと、時間管理される仕事ではないので育休を取らなくても育児ができました。市民病院を担当していたときは、病院への出入りが午後6時までと決まっていたので、速攻で帰って子どもを風呂に入れたりご飯を食べさせたり。その後の大学病院では訪問時間が正午まで。午前中融通がきくので毎朝幼稚園に送っていました。

 ――フレックス制とは違う?
 時間管理されていないんです。子どもの誕生日に午後4時ごろ帰ったこともあります。自分で時間を裁量できるのがこの仕事の魅力で、今日がんばって明日ゆっくりするといった調整もできます。会社というより職種の特性ですね。

■仕事の理想と現実
 ――MRという仕事の大変さとやりがいを教えてください。
 顧客より営業のほうが商品知識があるのが普通ですが、私たちの業界は逆。顧客である医師は医療ヒエラルキーの最上位にいます。専門知識が高い顧客に営業する難しさがあります。また、医師が直接「こういう薬が欲しい」というニーズを口にすることはまずないので、医師の抱えている課題を引き出す難しさがあります。さらに、医師は自分の治療方針にプライドを持っている方が多いので、ご自身の治療方針に反する提案をされると激怒される方もいらっしゃいます。ですから、MRから薬物治療に関して提案する際は、医師の現在の治療方針を否定せず、なおかつ異なる角度からの提案をしなければいけません。商品の提案も難しいわけです。

 ――かなり専門知識が必要ですね。
 医師にしっかり提案するためには知識のブラッシュアップが必要だし、ものの言い方も大切です。ただ、何より大事なのは、自分の提案が本当に患者さんのためになるかどうか。そこを外すと提案を聞いてもらえないので、「この判断・行動は患者さんのためになるか、と常に考えよう」が私たちの基本です。
 逆に言うと、ここにやりがいもあります。仕事の向こう側には必ず患者さんがいて、健康な状態になれば患者さんに明日がある喜びを感じてもらえるのですから。
ある泌尿器科の先生から「医療を志すというのは普遍的かつ絶対的な正義である」というお言葉を頂いたことがありますそういう信念をもった人と仕事ができることもモチベーションにつながります。

 ――患者さんのその後については医師からフィードバックがあるのですか。
 あります。自分の提案で患者さんがどうなったか、中でも副作用が出ていないかどうかは極めて重要。だから日常のコミュニケーションが大事なんです。「あの提案はよかったよ、ありがとう」と言われることもあります。

 ――社内で勉強する仕組みは?
 新入社員の研修期間が約半年間あります。MRには認定試験があって、資格がないと訪問できない医療機関もあるので絶対に取らないといけない。しかも一度取って終わりではなく、更新のために年間何時間も研修することと定められています。だから入社後も月1回くらいの頻度で研修を行い、製品知識や疾患知識、最新情報を身につけます。プラスアルファとしては、所属チームで勉強会を実施したり自分で学習したり。日常の業務の中で医師から学ぶことも大きいですね。

■社風
 ――アステラス製薬はどんな会社ですか。
 現在、国内2番手なので、「ナンバーワン」に対するこだわりは強いと思います。だから挑戦する姿勢、常に上を向いて頑張っていく向上心は非常に強いと感じています。上を引きずり下ろして自分が上にいくということではなく、みんなで一番になろうという一致団結した組織風土が魅力ですね。
 あと、コンプライアンスがしっかりしています。勝つことにこだわって仕事をしていますが、いつも「道の真ん中を歩け」「王道を歩け」「360度、誰から見られても恥ずかしくない仕事をしなさい」と言われます。だから働いていて気持ちが良い。会社との板挟みにあって悩むことはなく、ダメなことはダメというところがいい会社だと思っています。堅苦しいと思う人もいるかもしれませんが。

 ――2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬が誕生しましたが、合併して変わったことはありますか。
 いきなり業界2番手になって周りの見る目がすごく変わりました。合併前の藤沢薬品・山之内製薬のときと同じくらいのレベルの仕事内容だと「そんなもんか」と思われてしまいます。顧客からの期待値が上がり、それを越えていく難しさが出てきた。その分、やりがいも大きくなったと思います。
■船井さんの就活と仕事
 ――船井さんの就活を振り返ってください。
 1998年に藤沢薬品に入社しました。私がいた商学部は銀行に行く学生が多かったので、私も特に深く考えずに話を聞きに行ったのですが、何となく合わない。証券会社にも行ってみたが、これも合わない。どうも金融機関は肌に合わないと感じて、そこから真面目に考え始めました。スポーツの経験や自身の性格から、勝ち負けがはっきりしている世界がいい、職種は数字でフェアに成果が問われ頑張れば頑張っただけ成果が出る営業がいい、売るものは日本の技術力の高さ、世界でのプレゼンスの高さを考えて製造業がいい――などと考えた。でも、まだ考えが浅く、知名度の高い食料品メーカーなどを受けたが、うまくいきませんでした。
 その後、電卓をたたいて値下げしてモノを売るような営業なら自分でなくてもいいんじゃないか、と思い始めたとき、たまたま知人が勤めていた藤沢薬品の説明会に行きMRという仕事を知りました。「営業なのに価格交渉をしない」「お金ではないところで自分を評価してもらい成果に結びつける」というところが職人っぽくてかっこいいと思い、MRに絞って就活を進めて藤沢に入社しました。

 ――藤沢薬品にした決め手は?
 臓器移植で使う 免疫抑制剤が世界ナンバーワンだと知り感動したことです。もう一つ、自分のポリシーとして、噓をついて入社しても後で苦労すると思い、面接では就活の履歴などを隠さずしゃべっていました。「受けてる会社がバラバラで何をやりたいかわからない」と言われた会社もありましたが、藤沢薬品は「文系だったらこれくらい受けるよね、正直に言ってくれてすがすがしい」って。なんてええ会社なんやと思いました。

 ――会社に入ってからの経歴を教えてください。
 最初の配属は愛知県で、私立の大学病院を3年間担当しました。その後、愛知県岡崎市の病院を6年、滋賀県で大学病院を5年担当し、2012年から採用の仕事をしています。

 ――一番印象に残っている仕事は?
 過去にトラブルがあった施設の立て直しの経験です。転勤したとき、担当先のある医師にごあいさつに伺ったのですが、前任者が担当の医師と何かあったようで、出した名刺を破られて「アステラスは来なくていい」と言われました。ただ、ある薬の適用範囲が拡大される時期で、その薬を使うには私たちの情報が絶対必要なため、門前払いされずに済んだのが幸いしました。情報を提供するときには文献を持って行きますが、最初は10持って行ったら9返された。医師が受け取った1から「こういうものが必要なのか」と考え、違う切り口でまた情報提供すると今度は3くらい受け取ってくれた。そのうち役に立つと認めてもらって話をしてもらえるようになり、1年かけて「アステラスもまともな仕事をする」という評価まで戻しました。そこから転勤するときはその医師から「寂しくなるな」と言われたのが思い出です。

みなさんに一言!

 学生と話していてもったいないと思うのは、「私はこれができない」「これが弱い」「あの人に比べてここが未熟」などとネガティブな自己分析をする人が非常に多いことです。できないことができるようになっても、何か秀でるものがないと「その他大勢」に埋もれてしまいます。MRでいえば50~60人の中から医師に選ばれる1人にならないといけない。飛び抜ける1人になるには、弱みをなくすより自分の強みを見つけて磨くほうがいい。自己分析で強みを見つけて磨き、武器にして私たちにぶつけてきてほしいと思います。
 就活の初期段階では幅広く業界を見ることが大事です。可能な限りいろいろな会社でいろいろな人の話を聞いてほしい。そうすればどこかにワクワクするポイントが見つかると思うし、その共通点が「就活の軸」になっていきます。
 「世界は誰かの仕事でできている」という缶コーヒーのCMがありますね。自分のワクワクを実現するには社会でどんなことをすればいいのか、自分が仕事でどういう世界を作っていきたいのか。こう考えれば、けっこう楽しく就活ができるのではないでしょうか。

アステラス製薬株式会社

【医薬品・医療機器・医療関連】

 アステラス製薬株式会社(http://www.astellas.com/jp/)は、東京に本社を置き、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ことを経営理念に掲げる製薬企業です。既存の重点疾患領域である泌尿器、がん、免疫科学、腎疾患、神経科学に加えて、新たな疾患領域への参入や新技術・新治療手段を活用した創薬研究にも取り組んでいます。さらには各種医療・ヘルスケア事業との融合による新たな価値創出にも挑戦しています。アステラス製薬は、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変えていきます。