
■ESとインターン
――ESの特徴は?
項目は職種ごとに違いますが、みな手書きで郵送してもらいました。エントリーした学生の思いや熱意は、手書きだからこそ伝わるものがある。字のうまい下手ではなく、カゴメに対してどんな思い、どんな熱意をもって書いているかが伝わってくる気がします。
――「マイブーム」や「カラオケの持ち歌」を尋ねる欄がありますね。
ESではその人らしさを見たいので、幅広い項目を聞くように意識しています。手書きで書くにはパワーがいるので、リラックスして楽しみながら書いてほしいという意図もあります。私はハスキーな声なので、就活のときカラオケの持ち歌欄に「ブルーハーツ」と書きました。面接では結局聞かれませんでしたが(笑)。
――面接でネタにすることもありますか。
もちろんです。僕らもそういう意識をもってESを見ています。ですが、奇をてらった答えを求めている訳ではありません。
――「好きな食べ物、嫌いな食べ物」という欄は食品メーカーならではですね。印象に残った答えは?
「生トマトが嫌い」と書いてきた学生がいます。味は嫌いでも栄養価などの価値をちゃんと把握してお客様に提案できれば営業はできるのでマイナス評価にはなりません。好き嫌いではなく、自分が仕事とするものに価値を見いだせる、付加価値をつけられれば大丈夫です。面接で「生トマトは苦手だが加工すると食べられます。トマトケチャップは特に好きです」と言った学生もいました。実は私も学生時代は生トマトが苦手でしたが、トマトの価値は十分認識していて今はトマトジュースを毎日飲んでいます(笑)。
――どのような人か自由に表現して、という大きな自由記述欄もありますね。
学生にとっては工夫しがいがある一方、スペースが大きいので書きづらいという人もいます。それでも個性を見るには、自由に発想してもらったほうがいいと考えてこの欄を作りました。
――どんなものが多いのでしょう?
文字で埋める人もいれば、絵で視覚的に訴える人もいます。大切なのはデザインが優れている、完成度が高いものが評価されるわけではない、自分がどんな人間かが伝わらなければ意味がない、ということ。伝わるなら体裁はなんでもOKです。
――印象に残った記述はありますか。
読み手の視点に立って書かれたESは頭にすっと入ってきて、印象に残りますね。
ESを書くうえで大切な事は、対策本やノウハウ本から転用したような言葉より、自分でしっかり考え、不器用でも自分の言葉で語る事です。そういうESは光って見えます。
――「自分の持ち味、勉強してきたことや培ってきた経験をいかしてどのような仕事をしたいですか」という欄の狙いは?
よくある「大学で頑張ってきたこと」と「会社でしたいこと」の二つを聞いているので難しいですよね。書き方は様々ですが、自分の持ち味や経験と、どう仕事に生かすかがちゃんと文章に入っているか、質問の答えがしっかり書かれているかを見ます。
――カゴメの仕事を具体的にイメージしていると有利ですか。
カゴメのことをよく調べずに書いたESか、実際に社員に会って質問を重ねるなどして、カゴメのことをよく調べて書いたESかは中身に差があるのでわかります。この段階で仕事について具体的に書けている人は、入社後のミスマッチが少ないのではないかと思います。具体的でないとダメなわけではありませんが、書けているとよく考えているなという印象は持ちます。
「カゴメでないといけない理由」の欄は志望動機ですが、それだと書く側もつまらないと思い、熱が入りやすくなる聞き方をしています。
――「最近の関心事と、それに関してとった行動」の欄は?
世の中のことに関心を持って行動してほしいというメッセージです。情報に触れて終わりではなく、自分の学校ではどうか、自分の家族はどうかとか、自分の周りに落とし込んで考え、それをきっかけにチャレンジしたことはないか。そこを知りたくて設けています。
――ニュースを引用する学生が多いのでしょうか。
そうですね。新聞やテレビ、ネットをはじめいろんな情報ツールを使って書いてきます。食品メーカーは消費者に身近な商品を扱うので、例えば消費税が上がったらどういう影響があるかとか、そういった関心事を仕事につなげていくことが大事です。視野をどんどん広げてほしいと考えています。
ニュース以外にも、最近体重が増えてはやりのダイエット法を実行したと書いた人もいます。好奇心とそれにともなう行動の両方を聞いているということです。
世の中のことを知ってほしいので、好奇心は大事ですね。引き出しが多いということは人間の魅力にもつながると思います。
――採用担当者は2人だそうですが、ESは何人で読みましたか。
人事部のメンバーや現場の社員にも入ってもらい、分担して見ました。何千通とあるので1枚あたり数分間。読み手の視点に立っていないESは見づらいですね。文字数が決まっていないので、米粒くらいの文字で埋められたりすると見にくい。見出しが付いていたり、伝えたいことを強調したり、簡潔に書かれていると見やすいしパッと目につきます。もちろん内容が大事で、見やすいからプラスというわけではありませんが。
――今年はインターンシップも実施しましたね。
2015年2月、理系対象に5日間のインターンを初めてやりました。学生に食品業界の仕事を理解してもらう、カゴメのことを理解してもらうなど目的はいろいろありますが、一番良かったのは選考より長く接することで私たちは学生をしっかり見られますし、学生も仕事内容やカゴメのことをよく理解することができて、ミスマッチを防げることですね。インターン生から内定者も出ました。ただ、経験しないとカゴメに入れないということはありませんし優遇されることもありません。
――2017年卒採用では面接などの選考が「4年生の6月から」に前倒しになります。どんな採用フローを予定していますか。
学生の視点に立って、スケジュールを立てる予定です。時期が変わったからといってこの方針に大きな変更はありません。
■求める人材
――求める人物像を教えてください。
当社は個性を大事にしていて、いろいろな個性が集まった多様性のある会社にしたいと思っています。様々な環境で育った様々な価値観を持った人が集まり、様々な強みを持った会社のほうが強いし、世の中の変化に柔軟に対応できる。だから、「こういう人材がほしい」ではなく、いろんな人に来てほしいというメッセージを発信しています。
ただ、それだけでは学生もピンとこないと思うので、一つ言っているのは「食に関心があること」です。「食べることが好き」でも、「こんな食べ物、食べ方をお薦めしたい」でも、「食を通じて世の中に貢献したい」でもいい。そもそも食に興味がない人は難しいと思います。
もう一つ、多様性や個性を大事にする中で「わいわいがやがや」議論するのが好きな人、という人物像を挙げています。いろいろな価値観や個性を持った人が重なり合い、いろいろな意見があるからこそチームとしてよい成果、よい結論を導ける。その際には、人の意見を頭から否定するより、相手の意見を受け入れ、組み合わせて最終的にチームとしての成果を出せるような議論が好きな人がいいですね。
――個性的な人を採るために心がけていることは?
「個性的な人」を採用したいのではなく、一人一人の個性を活かした、多様な組織を作っていきたいということです。一人ひとりの良さを知るために、それぞれが経験してきたエピソードの中でどんなことを経験し学んできたかをしっかり見るようにしています。
もう一つ、役員面接を除き、選考には私服で来ても良いことにしています。カゴメらしい選考活動として十数年前から取り入れているのですが、リクルートスーツを着たら緊張してしまい、自分らしさを見せられないということなら、「私服で来てリラックスした状態であなたらしさを教え下さい」と会社説明会で話をしています。その人の個性を「より見える化」するための手段として、私服、普段着はいい。素を見るのに効果的です。
――私服率はどれくらいですか。
最初は悩む学生も多くてスーツが多いのですが、選考が進んで周りに私服が増え、私服の人が自分らしく振る舞っているのを見ると、切り替える人が増えてきます。私自身もかつてジーパンにパーカーで面接を受けました。スーツよりリラックスできて相手との距離も近くなった気がするし、背伸びしたり着飾ったりする必要を感じませんでした。