落選→再選は史上2人目
11月5日に行われたアメリカ大統領選で、共和党のドナルド・トランプ前大統領が当選を決めました。今週の週間ニュースまとめでも触れましたが、再選に失敗したあと大統領に復帰したのはアメリカ史上2人目です。
いま就職活動中の学生のみなさんのほとんどは、社会人としてトランプ大統領時代を経験することになります。トランプ氏の返り咲きによりアメリカの進路は大きくかわり、日本も世界全体もまちがいなく大きな影響を受けることになります。就職活動をするうえでもこれからの社会人生活を考えるうえでも、トランプ氏の返り咲きでアメリカがどうなるかを見通すことはとても大事だと思います。この記事をきっかけにして、ぜひ関心を大きく高めてください。(編集部・福井洋平)
(写真・米ミシガン州グランドラピッズで開かれた集会で演説するトランプ氏=2024年11月5日)
実業家としてメディア露出も多かった
まず、トランプ氏とはそもそも何者なのでしょうか。8年前の2016年に米大統領に当選し、前回は民主党のバイデン大統領に敗れ、今回は3回目の立候補でした。来年1月の就任時には78歳7カ月となり、バイデン大統領を抜いて史上最高齢での就任となります。
米大統領になる前は、実業家として広く知られていました。ニューヨーク生まれで若いころから父親の不動産業を手伝い、1983年には本拠地「トランプ・タワー」をニューヨーク五番街に建設。名門ホテル買収やカジノ経営など事業を広げています。大ヒットした映画「ホーム・アローン2」にも登場し、テレビ番組の司会者としても人気を集めるなど、わかりやすいお金持ちキャラとしてメディアへの露出も多い人物でした。2007年には、全米で人気の高いプロレス団体「WWE」に登場し、当時のオーナー、ビンス・マクマホンとリング上で対立のすえ、ビンスの髪の毛をバリカンで丸刈りにするパフォーマンスを見せています。米大統領になるまで、公職についたことはありませんでした。
(写真・ニューヨークのトランプ・タワー=2017年)
高関税を公約に、厳しい交渉を求めてくる可能性
トランプ氏の主張は「アメリカ第一主義」という言葉でまとめられます。
第二次世界大戦後、主戦場となり国力が低下したヨーロッパ諸国にかわり、アメリカは世界のリーダー的存在となりました。そして自由貿易や民主主義、「法の支配」といった理念を掲げ、世界にそういった価値観を広めていこうというスタンスの外交を続けてきたのです。しかしその結果、アメリカは疲弊し、アメリカ国内で貧富の差が広がったとトランプ氏は訴えました。
そして、トランプ氏がめざすのが、自由貿易路線の大幅な転換です。自由貿易体制のもとで、アメリカは世界中からものを輸入し、ドルを支払ってきました。アメリカにとっては「貿易赤字」が増え、国内産業にとっては逆風の状況です。トランプ氏は、その見直しを強く訴えました。外国から輸入された商品にかけられる税金を関税といいますが、トランプ氏は選挙戦中に関税について「辞書のなかで最も美しい言葉だ」と発言。経済面で最大のライバル国である中国に対しては、全部の中国製品に60%の関税をかけると公言しています。第一次政権のときは中国からの輸入品の多くに7.5~25%の「トランプ関税」をかけ、中国も報復して関税をかけたことで「貿易戦争」といわれる事態に発展しました。トランプ氏は中国だけでなく、すべての輸入品に対しても1~2割の一律関税をかけると公約しています。
関税をあげれば物価もあがり、インフレにつながる可能性もあります。最悪の場合はアメリカ経済の失速にもつながりかねません。なので、トランプ氏は高関税をいわば「見せ球」にして、各国との交渉に臨むのではないかという見方もでています。日本を含む同盟国に対してトランプは「米国の負担が大きすぎる」と不満を述べており、アメリカに多くの自動車などを輸出している日本にとって厳しい交渉がはじまる可能性は十分考えられます。また、日本製鉄が約2兆円をかけて年内の完了をめざす米鉄鋼大手USスチールの買収問題も、トランプ氏は「絶対に阻止する」と宣言しており、先行きは不透明です。
ウクライナ、イスラエル情勢も不透明に
「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏の再登板で、国際情勢にも大きな影響が出るでしょう。
前述のように、第二次世界大戦後のアメリカは世界のリーダーを自認し、世界で特別な責務を担っていると考えてきました。「例外主義」ともいわれるこの考え方をトランプ氏は否定し、多額の国防費を使って同盟国を守っている米国の犠牲の上で日本やドイツなどが豊かになっているとの不満も抱いているといいます。そのため、米国から遠い同盟国や地域の防衛は軽視する発言を繰り返してきました。同盟国である日本に対しても、防衛費の増額を求めてくる可能性があります。
トランプ氏は、ウクライナへの支援についても否定的であるとされています。ウクライナ情勢について「24時間で戦争を終わらせる」とトランプ氏は語っていますが、その具体的な方法は明らかにせず、ウクライナの勝利を望むかどうかも言及を避けています。トランプ氏の言動をふまえると、支援を人質にして、ウクライナ側にロシアへの大幅譲歩を要求する可能性も否定できない、とされています。こうなるとロシア側は自国の「勝利」をアピールできることになり、ルールに基づく国際秩序が崩れることにもつながりかねません。
同じく混迷が続く中東情勢についてはどうでしょうか。トランプ氏は第一次政権期に、露骨なイスラエル寄りの姿勢を示していました。トランプ氏が国連大使に指名したステファニク下院議員は、イスラエルに対する批判が広がる国連への資金拠出の見直しを訴えている人物です。バイデン政権下でもすでにアメリカはイスラエルに過去最大の軍事支援を行っていますが、今後トランプ氏がその傾向を強めるのか、影響力をつかってイスラエルを止めようとするのかは、まだ未知数です。
世界情勢は混迷、日本への影響も大きく
トランプ氏は気候変動対策にも消極的です。第一次政権のときは地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」から離脱し、今回も再離脱を宣言しています。米国はいま世界最大の石油・天然ガス生産国となっており、トランプ政権はエネルギー開発を進めるために環境規制を大幅に緩和するとみられています。環境問題はビジネスにも直結するだけに、米国の動きに加えて米国のあとを追ってパリ協定を離脱する国が出てこないかにも注意を払う必要があります。
テレビ討論会で「移民はペットを食べている」と発言するなど公然と人種差別的発言を繰り返し、前回大統領選で敗れた際に結果をくつがえそうと手続きを妨害した罪などで4つの刑事裁判をかかえているトランプ氏ですが、それでもアメリカ国民は彼に国の行く末を託しました。経済格差がなかなか是正されず、低所得層や若者が生活に苦しむなかで、トランプ氏は希望の光となっているのです。今後、彼はよりいっそうアメリカ第一主義を推し進めていくと考えられます。世界の混乱は避けられず、日本への影響も小さくありません。ニュースをチェックし、情報をつねにアップデートしつづけることが、変化に対応するいちばんいい方法です。
(写真・第一次政権期には日本を訪れ、大相撲も観戦したトランプ氏=2019年5月)
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