韓国の音楽グループが取り上げ大ブームに
性格検査の「MBTI」を知っていますか? 「外向型か内向型か」といった指標をもとに人の性格を16類型に分ける性格検査の一種で、結果は「ENTP」「ISFJ」などアルファベット4文字であらわされます。開発されたのは1960年代ですが、2022年に韓国の音楽グループ、BTSがMBTIを話題にした動画を公開し、一気に流行しました。ウェブ上で簡単に診断できるとされるサイトも登場し、SNSで自身のプロフィールにMBTI診断結果を載せる人も増えてきています。
「ENTJ(指揮官)=大胆で想像力豊か」「INFP(仲介者)=詩人肌で親切な利他主義者」など、自身のタイプを端的に説明してくれることから、この診断を仕事探しに生かそうという動きも出ているようです。ただ、こういった性格診断をうのみにして自分の仕事や方向性を決めてしまうのは得策とは思えません。向き合い方を考えてみました。(編集部・福井洋平)
(イラスト・iStock)
16の類型に分類
MBTIは著名な心理学者ユングの理論をもとに開発されたとされています。開発者の名前をとった「マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標」の英語の頭文字をとって、MBTIと称されています。
MBTI診断では人間を「興味関心の方向=外交的/内向的」「ものの見方=感覚型/直感型」「判断の仕方=論理型/感情型」「外界への接し方=判断型/知覚型」の4つの軸で分類し、合計16の類型にあてはめます。ネット上ではMBTIの判断が簡単にできるツールが出回っています。朝日新聞の記事で「若者ではやっている」と紹介されているサービスを、筆者もためしてみました。「行動方針を決定する際に、人々の感情よりも事実を優先する」「社交の場では大抵、最初に他の人が自己紹介するのを待つ」といった60問程度の質問に答えていくと、約10分で診断は終了。「INTP=論理学者」タイプという結果が出ました。知的好奇心と分析力に優れていて抽象的思考を好むそうです。
(図表は朝日新聞社)
社員全員のMBTIタイプを公表する企業も
MBTIブームは、ビジネスの分野にも広がりつつあります。自分の適性を知りたいと考える就職・転職活動中の人が利用するだけではありません。社員にあった仕事を提供するためにMBTIの活用を検討するという動きも出てきているのです。
朝日新聞の記事によると、ある県は県内への転職を考えている社会人向けに開いたオンラインセミナーで、「自分の性格を知る」ための手段としてこのウェブサービスを紹介。また、職探しのミスマッチを減らせるとしてこのサービスを詳しく紹介している求人用ウェブサイトもあるそうです。ほかにも、スタッフの適性にあった業務を提供して退職を防ぐためのツールとしてMBTIやこのサービスを紹介している業界専門誌のコラムもあります。このサービスをつかって全社員のMBTIタイプを診断し、結果を公表しているベンチャー企業も複数見つけることができます。MBTIブームに乗って若い層に会社をアピ―ルしつつ、社員のタイプ分布を見せることで社風も伝えることができる、という意図が見えてきます。
(写真・iStock)
事典に「心理測定学的な裏付けがない」
ただ、朝日新聞の記事によれば、前述のウェブサービスについて日本MBTI協会は「妥当性が検証されておらず、MBTIをまねているが『全く別のもの』」と主張しているそうです。日本MBTI協会は2003年に設立された団体で、同協会で検査をする場合は資格を持った専門家が4時間以上かけて行い、93項目の質問をして2択で答えてもらうそうです。サービスを提供しているウェブサイトの運営会社は朝日新聞の取材に「我々のアプローチはマイヤーズ・ブリッグスと多くの点で異なっている」と回答しています。
この記事では、MBTIそのものについて「大人気で長続きもしているが、社会心理学や性格心理学とは別世界のものだ」とする論文が専門誌に掲載されたこと、2020年に発行された性格心理学の事典がMBTIの項目で「心理測定学的な裏付けがないと考えられ、批判されている」と総括していることも紹介しています。
適性診断は視野を広げるためのツール
自分の適性や興味が何なのかについて検査できるツールは複数知られています。労働に関する調査研究を行っている労働政策研究・研修機構は、「厚生労働省編・一般職業適性検査」「職業レディネス・テスト(VRT)」「キャリア・インサイト統合版」「VPI職業興味検査」を紹介しています。所要時間は長いもので90~120分程度、一番短いVPI職業興味検査でも15~20分かかります。自分の適性を正確に知ることは、それなりに手間がかかると考えたほうがよいでしょう。筆者がやったMBTIタイプがわかるウェブサービスは10分程度の診断時間で、意図的に回答を操作して望む結果を出すこともできるかもしれません 。そういう診断を、会社の一大事である採用で重視する企業はそうはないと思います。
また、こういった診断ツールの目的はあくまで、自分の職業適性を把握して進路や職業を考える「素材」を提供することです。人の適性は簡単なテストで測りきれるものではなく、また経験や環境によって変化しうるものです。「自分はこういうタイプだから、こういう仕事につくことはNGだ」と決めてしまうのではなく、「意外にこういう仕事も向いているかも」というように、職業選択に関して視野を広げるという使い方が有効でしょう。
(写真・iStock)
◆朝日新聞デジタルのベーシック会員(月額980円)になれば毎月50本の記事を読むことができ、スマホでも検索できます。スタンダード会員(月1980円)なら記事数無制限、「MYキーワード」登録で関連記事を見逃しません。大事な記事をとっておくスクラップ機能もあります。お申し込みはこちらから。