4400億円の投資を決定
ここ数年、企業や国の成長戦略に欠かせないキーワードとなっているのが「AI」(人工知能)です。IT大手のマイクロソフト(MS)は4月9日、岸田首相の訪米にあわせて、日本での人工知能(AI)関連のインフラ整備に29億ドル(約4400億円)を投資すると発表。15日にはMSが出資している対話型AI、チャットGPTの運営会社であるオープンAIがアジア初の拠点となる東京オフィスを開きました。いまやAIに無縁な業界はないといって過言ではなく、日進月歩で成長するAIの最新情勢を把握しておかないとビジネスに乗り遅れてしまいます。MSの動きをきっかけに、AIと日本経済の現在地、いま指摘されている問題点をまとめました。就職活動にも生かせる知識です。(編集部・福井洋平)
(写真はPIXTA)
自民党のキャッチフレーズもAIで
「AI」という言葉がニュースで流れない日はありません。最近の朝日新聞から、「AI」が登場した記事をピックアップしてみます。(見出しの後ろは記事が掲載された日付)
・移動クライシス:2 バスの完全無人化、見据え(4/16)
北海道上士幌町は2021年に国内初となる自動運転バスの公道での雪道走行実験をし、2022年には日常運行を開始。オペレーターと呼ばれる補助員が同乗する「レベル2」という段階だが、町は完全無人化を見すえて車内の画面に映るキャラクターが乗客の質問などに応じる「AI車掌」を今年4月に導入した
・カラフルなCGで極楽浄土を体験 島根県江津市の寺が仏生会で(4/16)
島根県江津市の蓮敬寺(れんきょうじ)で4月8日夜、デジタル技術を駆使して極楽浄土のイメージを演出する催しがあった。色鮮やかなコンピューターグラフィックス(CG)画像が本堂内に投影され、テンポのいい曲とともにAI音声がお経を唱え、まるでコンサートのような法要だった。
・解散視野?自民新ポスター フレーズ案作りにAI活用(4/16)
自民党は4月15日、政治活動用の新しいポスターを発表した。キャッチフレーズは「経済再生 実感をあなたに。」。キャッチフレーズの発案には党が開発した「自民党AI」を初活用したという。
・(ぶらっとラボ)ラフから、プロ並み描画生成(4/15)
初心者のラフスケッチからプロ並みのイラストを生成するAIを北陸先端科学技術大学院大と早稲田大の研究チームが開発した。上手に描ける楽しさを、誰でも享受できる世界を目指しているという。
きりがないのでここまでにしますが、お寺の活性化から自民党のキャッチフレーズづくりにまで、AIが幅広く活用されていることがわかります。「あさがくナビ」でもチャットGPTをつかってエントリーシートや自己PRを作成するサービスを昨年から提供するなど、就活でもAIを活用するのがごくあたりまえになっています。
(写真・自民党の新ポスター。キャッチフレーズはAI発案のほかコピーライターの案を含め500以上の候補から絞り込み、首相らが決めた=2024年4月15日/朝日新聞社)
オープンAIの東京オフィスも開設
AIをめぐる投資の動きも活発化しています。前文でも触れたように、MSは日本でAI関連に29億ドルを投資すると発表、さらにチャットGPTを手がけるオープンAIの東京オフィスも開設されました。オープンAIが米国以外に拠点を置くのは英国、アイルランドに続いて3カ所目。日本語性能を高めた最新のチャットGPTを企業や自治体に売り込むほか、さらなるAI開発に向けて政府や研究機関などと協力を進めるとのことです。
経団連は4月16日、日本の産業競争力の強化に向けた政府への提言を公表しました。そのなかで、日本の強みを生かして国際市場で優位に立てる「勝ち筋」の産業を見極めて「積極投資や事業環境の整備を官民で進めることが重要だ」と指摘。「勝ち筋」になりうる戦略分野の候補としてAI・ロボット、半導体、エネルギーなど7つを挙げました。さらに今後、人手不足が深刻になる日本は「AI・ロボット大国」をめざすべきとし、競争力の基盤を強化するため、今後3年程度を「集中投資期間」として大胆な予算や税制、規制緩和などの政策を総動員するよう求めています。今後、AIの成長を名目に官民をあげて投資が進むことが予想されます。
(写真・東京オフィスを開設したオープンAI日本法人の長崎忠雄社長(右)と米国本社のブラッド・ライトキャップ最高執行責任者(COO)=2024年4月15日/朝日新聞社)
原発の再稼働にもAIが影響?
AIの成長は関連産業も活性化させています。一例が、海外に大きく遅れをとっていた半導体産業です。2月には、世界最大の半導体受託製造会社であるTSMCの工場が熊本に完成。さらに次世代半導体の国産化を目指す国策会社「ラピダス」は4月、米シリコンバレーで新会社を設立したと発表しました。米IT大手への売り込みのほか、ソフトウェアやデザインの技術者の確保をめざすとのことです。
AIの普及は、電力需要も押し上げると予測されています。そのため国は、原発の再稼働に大きな期待をかけているといいます。4月15日、新潟県の柏崎刈羽原発で、東京電力が再稼働についての地元の同意を待たずに7号機の原子炉に核燃料を入れる作業を始めましたが、これは国の姿勢も影響しているとみられています。AIは日本のエネルギー政策にも影響を及ぼしているのです。
(写真・東京電力柏崎刈羽原発。左から5、6、7号機=2023年6月/朝日新聞社)
現状ではAIの学習は許諾不要
AIの普及にはリスクもあります。現在指摘されているリスクのひとつが、著作権侵害です。チャットGPTをはじめとする、文章や画像を人間のようにつくりだす生成AIは、その前提としてネット上にある膨大な情報を学習しています。その結果、オリジナルに近い文章や画像がかんたんに生成できるようになっています。
日本では2018年に著作権法が改正され、AIは原則として著作物を許諾なく学習できるとされています。この結果、AIの進化が後押しされたことは否定できません。日本に進出したオープンAIの幹部は朝日新聞の取材に対し、「何が許されて、何が許されないかが明確に示されていることは、研究開発において非常に重要だ」と話し、AI開発に寛大な日本の政策的立場を支持しています。
グレーゾーンいまだ大きく
しかしAIが拡大した結果、オリジナルの文章や画像を生み出す活力がなくなってしまうことは避けなければいけません。私たちマスコミにとっても、これは大きな問題です。
文化庁の文化審議会著作権分科会で今年3月、「すでにある著作物の表現を出させるために学習させる」などの場合はAI学習であっても著作権侵害になりうる、という考え方を示しましたが、まだグレーゾーンは大きいとみられています。適切な規制をするためにはAIがどのように学習を行っているかについての情報開示が欠かせませんが、AIの有力企業は海外事業者が大半で、うまく規制が及ぼせるかは未知数です。政府もしっかり役割を果たす必要がありそうです。
新しい技術の発展には常にリスクがつきものです。AIにより今後、あらゆる産業で革新が進んでいくことが予想されます。その担い手は間違いなく若い世代となっていくことでしょう。AIに関してはできるだけ情報をアップデートして、就活や今後のキャリア形成につなげていきましょう。
(図は朝日新聞社作成)
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