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2022年08月31日

国際

今さら聞けない!核軍縮 「核なき世界」は無理? NPT、核禁条約って?【時事まとめ】

ロシアの「核の脅し」で高まる危機感

 核軍縮は進まず、「核なき世界」は実現しないのか──。「核不拡散条約(NPT=Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)」の再検討会議がロシアの反対で最終文書案を採択できずに終わり、世界中から落胆の声があがりました。1発でも使用されれば壊滅的な被害をもたらす核兵器は世界に1万3000発以上。地球を何度も滅ぼすことができる数です。ウクライナを侵略したロシアのプーチン大統領は核兵器を脅しに使い始め、広島、長崎から77年間保たれてきた「核兵器を使ってはならない」というタブーが破られるのではとの危機感が高まっています。核保有国が核を減らす義務を果たさないことにいら立つ国々は6月、「核兵器禁止条約(核禁条約)」の第1回締約国会議で核兵器廃絶への決意を示した政治宣言や行動計画を採択しましたが、唯一の戦争被爆国である日本は参加しませんでした。核軍縮にもう望みはないのでしょうか。そもそも「NPT」「核禁条約」って何なのか。日本はどうするのか。核兵器をめぐる「基本のき」をまとめます。(編集長・木之本敬介)

(写真は、NPTの再検討会議の最終会合=8月26日、米ニューヨークの国連本部)

「NPT」って?

 「残念ながら、たった一つの国が反対を表明した」
 米ニューヨークの国連本部で開かれていたNPT再検討会議最終日の8月26日、議長の声が響き、会場は静まりかえりました。全会一致が原則ですが、ロシアが反対したため最終文書案を採択できないまま幕を下ろしました。最終文書案は、ロシアを名指しする文言を外すなど、ロシアに配慮する内容でしたが、ロシアは直前になって突然、文言の大幅な修正や追加を要求し決裂しました。

 NPT再検討会議は5年おきの開催で2020年春の予定でしたが、コロナ禍で延期され、ようやく開かれました。1970年に発効したNPTは、核兵器をすでに持っていた米国、ソ連(現ロシア)、英国、フランス、中国には核兵器保有を認める代わりに核軍縮の交渉に誠実に取り組むよう義務づけた条約で191カ国・地域が加盟しています。「核不拡散」「核軍縮」「原子力の平和利用」が3本柱で、冷戦期以降、核をめぐる国際ルールの支柱です。2000年の会議では核保有国が核兵器を廃絶するという「明確な約束」が最終文書に盛り込まれましたが、前回2015年は最終文書を採択できませんでした。2回続けて決裂したことでNPT体制は揺らいでいます。

 今回の会議には、岸田文雄首相が日本の首相として初めて出席して演説。「核兵器のない世界」に向け、首相は核兵器のない世界という「理想」と、厳しい安全保障環境という「現実」を結びつける道筋として「ヒロシマ・アクション・プラン」を打ち出しましたが、出ばなをくじかれた形です。

 もともと、NPTには限界も指摘されてきました。米ロ英仏中の5カ国のほかに、インド、パキスタン、イスラエルはいずれも独自に核兵器を開発したといわれていますが、NPTに入っていません。北朝鮮は2003年に一方的に脱退を宣言し、今は核兵器を持ったとみられています。

「核禁条約」とは?

 核禁条約は、核保有国による「核軍縮」が進まないことへの批判や不満が高まって生まれました。「使う」「開発する」「実験する」など、核兵器をめぐるあらゆることを禁止する史上初めての条約です。2017年に122カ国・地域の賛成で採択され、2022年6月、条約を批准した62カ国・地域の代表が集まってオーストリアのウィーンで第1回締約国会議が開かれました。政治宣言では、ロシアを念頭に「核の脅し」を非難し、核抑止論を否定。核保有国や「核の傘」に頼る国が「真剣な措置をとっていない」と断じ、条約は核廃絶に向けた「基礎となる一歩」だとしました。50項目の「行動計画」も採択。NPTとの協力分野を探る担当者を置くことも決めるなど具体的な一歩を踏み出しました。

 条約の効力は締約国にしか及びませんが、米ロ中など核を持つ国は、核兵器で安全が守られている現実を考えていないと批判してどの国も条約に入らず、米国の「核の傘」で守ってもらう約束をしている日本も足並みをそろえています。岸田首相は「核兵器のない世界への出口」と言うものの参加には慎重で、NPTでの演説でも核禁条約に触れませんでした。同じく米国の核の傘の下にいる韓国や北大西洋条約機構(NATO)の国々も加盟はしていませんが、ドイツ、ノルウェー、オランダなどがオブザーバーとして参加。いずれも核禁条約に加わる意思がないとする一方で、「核兵器なき世界」という目標には共感を示し、対話の重要性を訴えました。

日本はどうする? 考えよう

 唯一の戦争被爆国として核兵器の恐ろしさを一番知っている一方、米国の「核の傘」の下にあるのが日本です。中国、北朝鮮、ロシアという保有国に囲まれている厳しい現状もあります。核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」の非核三原則を堅持してきましたが、ロシアのウクライナ侵略を受けて、故安倍晋三元首相や日本維新の会などから、米国の核兵器を配備して共同運用する「核共有」について議論すべきだとの主張も出始めました。

 今年11月に国際賢人会議、2023年5月にはG7首脳会議が、ともに広島で開かれます。核保有国と非保有国の溝を埋める「橋渡し役」を果たし、核の脅威を減じていくことができるのか。広島選出の議員として核軍縮をライフワークに掲げる岸田首相の真価が問われることになりそうです。

 核の問題は、みなさんにとっても決してひとごとではありません。難しい問題ですが、被爆国であり「核の傘」の下にある国の一員として、考えてみてください。

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