アフガン政権、一気に崩壊
中央アジアのアフガニスタン(アフガン)で政権が崩壊し、反政府武装勢力のタリバンが全土を制圧し新政権をつくることになりました。2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロの首謀者をかくまったとして、米軍が当時のタリバン政権を攻撃して追いやり、米国を後ろ盾とする政権ができてから20年。この間、「駐留米軍・アフガン政府軍VS.タリバン」の戦いは泥沼化し、巻き込まれるなどして犠牲になった民間人は4万人を超え、米兵約2400人を含め計17万人が死亡しました。200兆円もの莫大な資金をつぎ込んできたのに「出口」が見えない状況に、バイデン米大統領は「米国史上最長の戦争」を終わらせるとして、同時多発テロから20年の節目までに駐留米軍を完全撤退させると表明。撤退が始まると、米軍に頼ってきた政府軍の統率が崩れる一方、勢いづいたタリバンは地方を次々に占拠して8月15日には首都カブールを支配、アフガン政府のガニ大統領は国外に脱出しました。かつてのタリバン政権は極端なイスラム教の解釈をもとに、女性が教育を受けることや人々が音楽や映画を楽しむことを禁じ、公開処刑もする恐怖政治を行いました。今は女性の教育や社会進出を認めるとしていますが、国際社会に向けたポーズかもしれませんし、選挙などの民主主義制度には反対の姿勢です。アフガンがイスラム過激派やテロの温床になる心配も強まっており、今後の情勢から目が離せません。アフガニスタンってそもそもどんな国で、何が起きているのか、「キホンのキ」を押さえておきましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、カブールの国際空港で米軍機に群がる人々。機体にしがみつく人も多く見られた=衛星放送局アルジャジーラがツイッターに投稿した動画から)
バイデン大統領の「失敗」
カブール国際空港から飛び立とうとする米軍機に、大勢のアフガン市民が殺到し、機体にしがみつき振り落とされる映像が世界に流れました。米国が敗れたベトナム戦争で大使館員がヘリコプターで脱出した映像とも比較され、「敗走」を印象づけました。バイデン大統領は政権崩壊が「予想以上に早かった」と誤算を認めたものの、撤退については国益につながる「正しい決断だ」として正当性を強調しています。アフガンからの撤退はトランプ前大統領が敷いた路線で米国の世論も支持してはいますが、今回の大混乱はバイデン大統領の「失敗」として歴史に刻まれることになりそうです。
シルクロードの要衝
アフガニスタンはユーラシア大陸の内陸国で、今の憲法には14の民族名と八つの言語が列挙される多民族国家です。ほとんどがイスラム教徒で、宗派は主に二つに分かれています。かつてアジアと欧州を結んだシルクロードが枝分かれする交通の要衝にあるため、周りの大国に振り回されてきた歴史があります。古代ギリシャのアレクサンドロス大王の東方遠征、インドやペルシャなどの王朝の支配のほか、19世紀にはインドを植民地化した英国と、南下してきた帝政ロシアの覇権争いの舞台にもなりました。1979年にはソ連が軍事侵攻し、米国が支援するムジャヒディン(イスラム戦士)がゲリラ戦で対抗します。10年後にソ連が撤退すると内戦が始まり、混乱の中で力をもったタリバンが1996年に政権を樹立しました。
仏教遺跡を破壊
タリバンはアフガン南部で1990年代に生まれた武装勢力です。政権をとった時は極端なイスラム教の解釈をもとに女性の教育や音楽のほか偶像崇拝も禁じ、貴重な仏教遺跡を爆破したこともあります。2001年に米国の攻撃でタリバン政権が崩壊すると、国際社会の協力で誕生した新政府ができ、「やっと平和な時代になる」と多くの国民が期待しました。
しかし、タリバンとの戦闘や反米・反政府のテロはやみませんでした。米軍による誤爆も多く、誤爆で家族が犠牲になった市民がタリバンの戦闘員になって報復テロに加わり、そのテロを鎮めるために米軍が空爆を強化するという「暴力の連鎖」も続きました。結局、「タリバンの圧政からの解放」を強調してきた米国に、アフガン国民は見捨てられる形となりました。
「イスラムの教えの範囲内で」
タリバンがつくる新政権に国際社会はどう向き合うのでしょう。かつてのタリバン政権は、圧政が批判され、ほとんどの国が承認しませんでした。今回も国連安全保障理事会はこれまで「タリバン政権の復活は支持しない」との立場でしたが、政権崩壊を受け8月16日、「包括的な交渉」を求める報道声明を発表しました。「結束し、包括的で、(市民を)代表する新政権の樹立」を求め、「女性の完全かつ平等で意義のある参画」も要請。新政権の人権問題への対応などを見極める構えです。
アフガンには日本政府も深く関わってきました。米国主導の「テロとの戦い」によって2001年にタリバン政権が崩壊した後、アフガンの復興や新政府の国づくりを支援。2001年以降の支援総額は米国に次ぐ69億ドル(約7500億円)。警察育成や元タリバン兵雇用といった治安回復や農業やインフラなどの開発に充てられ、最近は感染症対策も強化していました。世界も日本も、今後の対応はタリバンの姿勢次第といえそうです。タリバンの報道官は8月17日、女性の教育や就労、メディアの活動などを保障すると表明しましたが、「イスラムの教えの範囲内で」との条件付きです。今後の動向に注目してください。
(写真は、8月17日、アフガンの有力テレビ「トロ」の番組に出る女性キャスター。タリバンが首都を占拠した翌日の16日は画面から女性キャスターの姿が消えていた=同テレビの公式ツイッターから)
中村哲さんを忘れない
最後にアフガンといえば、医療、農業支援に長年尽くした医師・中村哲さんにも触れないわけにはいきません。「復興は軍事ではなく農業から」と、干ばつで渇水した村を捨てて人々が難民にならぬよう、井戸を掘り、用水路を通す壮大な事業に取り組み多くの命を救いました。アフガンの名誉市民権も授与されましたが、2019年アフガン東部で武装集団に銃撃されて亡くなりました。こんな日本人がいたことを忘れず、中村さんの考え方や行動を語り継いでいかなければいけないと思います。
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