「中国vs民主主義国」
英国で開かれた「主要7カ国首脳会議(G7サミット)」が閉幕しました。ワクチンやインフラの国際支援による新型コロナウイルス「2022年終息」の目標など盛りだくさんの首脳宣言を採択し、国際社会での存在感を示しました。昨年までは「アメリカファースト」を掲げたトランプ前米大統領が結束を乱し、世界への影響力も低下。2020年は新型コロナの影響で対面でのサミットは中止され、テレビ会議を行いました。今年は国際協調を重視するバイデン米大統領の登場で「G7復活」を印象づけた形です。首脳宣言のほとんどの項目が台頭する中国を意識した内容で、「陰の主役」は中国でした。「専制主義的な姿勢を強める中国vs.民主主義国」の構図を強調したのが今年の特徴です。毎年、大きなニュースになる「G7サミット」は、そもそもどうしてこの7カ国で、どんな集まりなのでしょう? 今さら聞けない「基本のき」から、今後の展望を学びます。(編集長・木之本敬介)
(写真は、G7サミットで記念撮影をする菅義偉首相〈後列左から2人目〉ら各国首脳=2021年6月11日、英国・コーンウォール、代表撮影)
サミットの歴史
サミットのもとの意味は「山の頂上」。世界の主な先進国のトップが集まる「頂上会議」です。「G7」は「グループ・オブ・セブン」の略。第1回は1975年、直前に起きた石油危機(オイルショック)への対応を話し合うため、米国、日本、ドイツ(当時は西ドイツ)、イギリス、フランス、イタリアの6カ国がフランス・パリ郊外のランブイエ城に集まって開きました。翌年からカナダが加わりG7に。その後、欧州連合(EU)も参加するようになりました。当初は世界の経済問題を話し合う場でしたが、各国の首脳が一つのテーブルを囲んで顔をつき合わせて討議する貴重な機会です。テーマは国際政治から紛争、テロ、貧困、環境、感染症まで、あらゆる国際問題に広がりました。1998年からはロシアが加わり「G8」になりましたが、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島に侵攻して併合したことに抗議してロシアを排除。再びG7に戻りました。
G7には、国連のような憲章も、常設の事務局もありません。毎年春から夏にかけて(第1回は11月)、7カ国が持ち回りで担当する開催国が議長国となって準備し、2~3日の討議を経て首脳宣言を発表します。首脳会議の前に、財務相会議、外相会議なども開かれます。日本では1979年、1986年、1993年は東京、2000年は九州・沖縄、2008年は北海道・洞爺(とうや)湖、2016年には伊勢・志摩で、計6回開催されました。
(写真は、G7サミットのセッションに臨む各国首脳=2021年6月11日、英国・コーンウォール、代表撮影)
「G20」は世界経済の8割
かつて、G7のGDP(国内総生産)の合計は7割近くを占め、その影響力は絶大でした。しかし、21世紀に入ると、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国)と呼ばれる新興国の経済発展で地位は低下し、G7だけで何かを決めても世界経済を動かせなくなりました。2008年に世界を揺るがすリーマン・ショックが起きたのを機に、「主要20カ国・地域」(G20)の首脳会議が初めて開かれました。参加したのは、G7の7カ国とBRICSの5カ国に、韓国、オーストラリア、メキシコ、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えた19国とEUです。G7に代わり、世界のGDPの8割ほどを占めるG20の存在感が増すようになりました。
さらに、2016年に国際協調に消極的なトランプ氏が米国の大統領になると、不協和音が目立つようになりました。貿易政策などをめぐって意見が対立し、2018年にはトランプ氏が閉幕後にツイッターで「宣言を承認しない」と表明。翌2019年に採択された合意文書はわずか1ページにとどまりました。この流れを変えたのが、バイデン大統領の登場です。バイデン氏は「価値観を共有する国々とともに世界をリードする立場に、米国は戻って来た」と強調。今年の首脳宣言は25ページになりました。
民主主義、人権、自由
今回のG7サミットは、英国南西端のコーンウォールで6月13日までの3日間開かれました。首脳宣言の主な内容は左の表を見てください。項目は多岐にわたりますが、いずれの合意も中国に対抗する内容で、「陰の主役」だったのは中国です。
インフラ投資計画で念頭にあるのは、中国が進める巨大経済機構「一帯一路」への対抗。ワクチン支援は、中国が途上国に展開する「ワクチン外交」を意識したものです。中国が圧力を強める台湾問題について「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記したほか、中国が海洋進出を勧める東シナ海と南シナ海についても「深刻な懸念」を表明。新疆ウイグル自治区や香港における人権や自由を尊重するよう中国に要求し、国家主導の強制労働など、世界的なサプライチェーン(供給網)の問題点も指摘しました。
G7サミットは、曲折はあったもののこれまで45年以上にわたり、世界に一定の影響力を示してきました。その根底にあるのは、「民主主義」「人権の尊重」「言論の自由」という共通の価値観です。ソ連の崩壊による東西冷戦の終結で世界的に勝利したかと思われたこの価値観は近年、共産党一党体制の中国の台頭で脅かされるようになりました。G7は、経済でも政治でも影響力を増す中国への危機感で再び結束。「世界を民主主義でリードする」と宣言したのが今回のG7サミットなのです。
10月のG20に注目
さらに今回は、韓国、オーストラリア、インド、南アフリカも招かれ、議長国・英国のジョンソン首相はG7に4カ国を加えた11カ国を「D11」(デモクラティックイレブン)と呼びました。民主主義の価値を共有する「民主主義陣営」を広げる意図で、ジョンソン首相は「価値観を他国に押しつけるのでなく、民主主義や自由、人権がもたらす恩恵を世界に示すことが重要だ」と強調しました。
ただ、中国に対するスタンスはG7の中にも温度差があります。米中対立を深める米国、隣国として危機感が強い日本、香港の旧宗主国だった英国に比べ、地理的には遠いものの中国との経済関係が深いドイツや独立心が強いフランスは「敵対的な関係」には慎重です。もちろん、敵対関係を強調するだけでは世界の平和や安定は望めません。2021年10月にイタリア・ローマで開かれるG20首脳会議には、中国やロシアも参加します。グローバルな課題がG7からG20にどう引き継がれ、パンデミックで大混乱した世界をどう導くのか、注目してください。
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