消極的な企業は生き残れない
太陽光、風力などの再生可能エネルギーを導入する日本企業が増えています。温室効果ガスを出さない地球にやさしいエネルギーですが、かつてはコストが高く経営にはマイナスという捉え方が一般的で、積極的な企業はあまりありませんでした。ところが近年、地球温暖化への危機意識が高まる一方、再生エネのコストが劇的に下がりました。加えて、導入に後ろ向きな企業は評価しない風潮が世界で強まったことで、日本の企業が一気に再生エネ導入に舵を切るようになったのです。温暖化対策、再生エネ導入に消極的な会社は国際的に生き残れない時代になりました。発電などのエネルギー関連企業の話ではありません。電力を使うあらゆる企業に関係する大テーマです。まず日本の現状を理解したうえで、再生エネ導入に熱心な企業を探してみましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、メガソーラー発電所=2018年9月28日、福岡県みやま市)
原発コスト高騰、石炭火力には批判
2020年4月1日、発電から小売りまでを担う大手電力から、電気を送る事業を切り離す「発送電分離」が実現しました。2011年の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故をきっかけに始まった電力システム改革の総仕上げです。電力市場の競争を促し、電気を消費者に届ける送配電ネットワークを公平に使えるようにする狙いです。再生エネの普及拡大につながると期待されています。
日本は1990年代以降、二酸化炭素(CO₂)排出量が少ない原発を推進する一方、排出量が多い石炭火力発電所を増やし続けてきました。しかし、主要7カ国(G7)で、原発と石炭をエネルギー政策の両輪とするのは日本だけ。国際的に厳しい批判をあびるようになりました。かといって、いまさら原発主軸には戻れません。かつて「安価なエネルギー」といわれた原発の建設コストは、福島第一原発事故以後の安全基準の強化で高騰し、欧州の例では1基1兆円超と事故前の2倍以上になりました。朝日新聞の国内の世論調査では56%が原発の再稼働に反対しています(2020年2月調査)。
(写真は、テロ対策施設が期限内に完成しなかったため運転を停止した川内原発1号機・2号機=2020年3月12日、鹿児島県薩摩川内市)
ドイツでは46%が再生エネ
そこで注目されるのが再生エネです。世界をみると、ドイツでは2019年、発電電力量に占める再生エネの割合が46%に達しました。2022年に原発、2038年には石炭火力を全廃する方向で着々と進んでいます。自然エネルギー財団によると、2018年の再生エネ比率は、デンマーク69%、英国33%、中国26%、フランス19%、インドと米国が17%でした。世界で再生エネ普及が進んだのは、温暖化対策に加え、発電コストが下がったからです。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、太陽光の発電コストは2010~18年に77%も下がり、火力と肩を並べるほどになりました。風力も同じくらいに下がりました。蓄電池のコストも急激に下がっています。
日本で発電量に再生エネが占める割合は、東日本大震災があった2010年度の10%以下から、2018年度には16.9%にアップ。海外には及びませんが、日本でも火力に次ぐ「主力電源」になりつつあります。しかし、再生エネは気象条件によって出力が不安定になることなどから、これまで政府は拡大にあまり熱心ではなく、2030年の再生エネ割合の目標は22~24%。ドイツの65%、英国53%(予測)、フランス40%に比べてずっと低い数字です。原発の再稼働は進まず、原子力の目標20~22%の実現は現実的ではありません。その分は、2021年にも予定されるエネルギー基本計画の見直しで再生エネの目標を引き上げるしか道はなく、再生エネ拡大のための施策が求められています。
パリ協定で企業に危機感
政府を横目に、企業の取り組みは急速に進んできました。京都議定書が採択された1997年の第3回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP3)のころ、産業界で温室効果ガスの削減はコスト増や企業活動の抑制を意味し経済的にマイナスだと思われていました。転機になったのは、2015年のCOP21で採択されたパリ協定です。産業革命前からの気温上昇はすでに1度に達しており、これを2度未満、できれば1.5度に抑えるというパリ協定の目標を達成するには、CO₂排出をできるだけ早く「実質ゼロ」にしなければなりません。すべての国や企業が「脱炭素化」しなければ実現できないという危機感が日本の企業にも広まってきました。海外の投資家が気候変動への取り組みを厳しく見るようになり、温暖化対策は企業の株価や投資を受けられるかどうかを左右する要因になりました。一方で、早く取り組んだ企業にはビジネスチャンスも生まれます。
大企業の集まりである経団連はいまだに「負担が増える」と温室効果ガスの急激な排出削減には後ろ向きですが、個々の企業の対応は様変わりしました。温暖化対策や再生エネ導入に積極的な企業連合がいくつも生まれています(左の表=数字は2019年12月5日時点)。
それぞれの企業連合にはどんな会社が参加しているのか。以下のリンクから確認してみてください。
●日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)
●RE100(REは再生エネ=リニューアル・エナジー)
●再エネ100宣言 RE Action(アールイーアクション)
● Science Based Targets(SBT)
●気候変動イニシアティブ(JCI)
アップルからのプレッシャーも
世界的な企業からのプレッシャーもあります。RE100に加盟する米アップルはデータセンターなどで使う電力の再生エネへの置き換えを進め、事業展開する24カ国中、日本を除く23カ国で再生エネ電力100%を達成しました。日本は、再生エネを調達しにくい国という烙印(らくいん)を押されたわけです。アップルは世界の部品供給網でも再生エネ転換を進めていて、その実現例として、日本の電子部品メーカーのイビデン(岐阜県大垣市)と、絶縁材メーカーの太陽インキ製造(埼玉県嵐山町)の名を挙げたため、両社は評判になりました。
このほか、英国の国際環境NGO「CDP」による企業の気候変動対策調査の最新版では、最高評価を受けた日本企業が前年の20社からほぼ倍増の38社となり、米国を抜いて国別で首位になりました。
◆気候変動対策で「最高評価の日本企業38社」ってどこ?【2020年1月24日のイチ押しニュース】参照
JCLPが昨年11月、「日本も2050年実質ゼロを宣言し、これに合致する温室効果ガスの削減目標を設定すべきだ」とする意見書を出すなど、積極的な姿勢が目立ちます。企業の間では「温暖化対策はコストではなく、将来への投資」という考えが共有されるようになりました。取り組みに熱心な企業は将来性が高い、と言い換えることもできます。いまや企業選びに欠かせないポイントですよ。
(写真は、東京で開かれた国際会議でアップルのクリーンエネルギー調達責任者は、世界23カ国で使用電力の100%再エネ化を達成したと講演。そこに日本の国旗はなかった=2017年3月、自然エネルギー財団提供)
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