目的は「デフレ脱却」
日本銀行(日銀)の「金融緩和」「マイナス金利」は難しい経済の話なので、取っつきにくいテーマだと思います。でも、日本の経済全体に関わる大きな政策で、あらゆる業界、企業の業績を左右します。大きな流れと基本的なことだけは押さえておきましょう。
「異次元の金融緩和」は、安倍政権が掲げる経済政策「アベノミクス」の「3本の矢」のうちの一つです。日本では長年、物価が下がって景気が低迷するデフレーション(デフレ)が続いてきました。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁(写真)はデフレ脱却を目指して消費者物価の前年比上昇率を2年間で2%上げる目標を立て、2013年4月に導入しました。
金融緩和は日銀が不況時に景気底上げのために行う政策。民間の銀行がもっている国債や金融商品を日銀が大量に買い上げるなど様々な方法で世の中に出回るお金を増やし、お金(円)の価値を下げて物価を上げるやり方です。流通するお金を増やす量が「これまでと次元が異なる」(黒田総裁)ため、「異次元緩和」と呼ばれます。
マイナス金利を知ろう
異次元緩和を始めた当初は、円がたくさん出回って円安が進み、輸出企業を中心に業績が良くなったため、株価も上がるなど景気は良くなりました。「円安・株高」です。しかし、2014年4月に消費税が5%から8%に上がって国内の消費が冷え込んだことや、中国経済の減速、原油価格の下落(原油安)などで物価は思うように上がらず、2015年の後半からは「円高・株安」が進みました。
日銀が次の手として、2016年2月から始めたのが「マイナス金利」です。私たちが銀行に預金すると、金利がつきますよね。日銀は「銀行の銀行」ですから、民間銀行は日銀にお金を預けています。ここでも金利がつくのですが、一定額を超える日銀への預金に「マイナス0.1%」の利息をつけるようにしました。つまり、日銀に預けると銀行は損をする仕組みです。
日銀が描いたのは「マイナス金利導入→銀行は日銀に預けずに企業や個人への貸し出しや投資を増やす→企業の設備投資や個人の消費が増える→景気が良くなる」という好循環のシナリオです。
苦しむ銀行
しかし、マイナス金利政策には副作用もあります。効果が出る前に、金利収入でもうけている銀行など金融機関の業績の悪化という副作用のほうが目立つようになりました。さらに、世の中のすべての金利が下がったため、長期国債の金利をあてにしている年金や保険の運用にも不安が出るようになりました。加えて、この3年間、国債を大量に買い続けたため、国債発行残高の3割超を日銀が保有するまでになり、あと数年で国債を買い占めかねないという異常事態にもなってきました。
そこで日銀は2016年9月から、金融緩和のやり方を「量から金利」に変えました。短期のマイナス金利0.1%は維持しながら、長期金利を「ゼロ%程度」に操作するやり方です。「物価上昇率2%」の目標達成期限については、「2年程度」を削除して「できるだけ早期に実現」に変更しました。
日銀の異次元緩和をめぐっては、「行き詰まり」「失敗」との評価が強まっています。金融緩和の失敗は、アベノミクスの挫折にもつながります。今後の経済状況と金融政策から目を離さないでください。