人事のホンネ

株式会社ニトリ

2016シーズン 【第2回 ニトリ】
ロマンとビジョンが大切 成長と成功をつかんで欲しい

ニトリ 人材採用部マネジャー 斉藤安良(さいとう・やすよし)さん

2014年08月27日

■採用実績
 ――採用実績を教えてください。
 2014年度春に入社したのは300人です。男性が6割の180人、女性が120人。大学院修了者は24人で8%、理系は47人で15.7%でした。

 ――2015年新卒採用の現状はいかがですか。
 採用計画は去年より50人多い350人です。採用の門戸は常に開けています。いい学生がいれば積極的に採用していきたい。海外に留学した人や秋卒業の人のほか、公務員などから進路変更した学生が夏から就活を始めるため、会社説明会もいろんなタイプの学生のタイミングに合わせて毎月何らかの形で開き、ニトリを知ってもらう活動をしています。今でも毎日のようにエントリーがあります。秋採用では、20人くらい採用する予定です。就活は10月1日の内定式が一区切りなので、ニトリもそのようにしています。

 ――採用人数が増えていますね。今後も増やしていくのですか。
 10年ほど前から300人規模で採用してきました。ニトリの未来を作るのは新入社員ですから、会社の業績や景気動向に左右されずに、ある程度大量に採って育てるやり方です。今後も引き続き350~400人規模の採用を続けると思います。

 ――エントリー数はどうでしょう?
 2015年新卒採用でプレエントリーは12万人。本エントリーは2万5000人くらいですね。プレエントリーは2年前が8万2000人、2014年新卒が10万5000人と増えています。

■独自の「製造物流小売業」
 ――ニトリは製造から小売まで一貫してやっていますよね。
 ニトリでは、独自の「製造物流小売業」というビジネスモデルを構築しています。ベースは、アメリカの進んだ流通業の成功モデルをもとに国内で流通革命を起こすために作った「チェーンストア理論」です。1960年代、日本の流通業はメーカー主導で、結果的に国民の求めるものが提供されていませんでした。生活を豊かにするためには、流通業が商品づくりをしてお客様と直接ふれあう中で商品を変えていく。作る・売る立場から、使う・買う立場で考え仕組化していく。こうしたやり方が「チェーンストア理論」です。さらにニトリの「世界の人々の暮らしを豊かにしていきたい」というロマンの実現のために、お客様の立場で現状否定をし続けた結果、現在では、海外数十カ国で製造やソーシング活動を行い、貿易・物流、そして品質管理、販売まで一貫した独自のビジネスモデルを構築するにいたっています。ただ、これはゴールではなくて、これからこのビジネスモデルはもっと進化し続けていきます。

 ――モノづくりというと理系のイメージです。理系の社員が担当するのですか。
 素材開発など専門的なことを社内でやっているわけではありません。たとえば、わが社のヒット商品である機能素材の「Nクール」は帝人さんと組んでいます。ユニクロさんがヒートテックなどで東レさんと組んでいるのと同じ形です。企画、モノづくりなどは共同作業で一つの商品をコンセプトに基づいてつくっていきますが、科学の専門的なところは帝人さんの担当です。今後は、新素材などの領域に携わっていくことを含め、専門知識を持った理系の学生も採用していきたいですね。

30部署以上100職種以上で「配転教育」 現場主義徹底

■入社後の配属と人材育成方針
 ――地域別採用などはありますか。
 全国一括採用です。採用試験は札幌、名古屋、大阪、福岡など全国の主要都市で行います。関東圏と関西圏でどの程度の母集団にするかといった計画は立てますが、地域別の割合などは決めていない。必ずそのエリアで働いてもらう前提でもありません。

 ――入社後の人材育成はどのようにされていますか。
 ニトリには独特の「配転教育」があります。2~3年ごとに本部や店舗のさまざまな部署を経験しながら育てる方法です。そのためにも最初はみんな平等に、全国に配属されていく。入社後の10年間は、店舗や物流センターといった「現場」が中心です。違うエリア、違う規模の店舗、違う役割など、現場の中でいろんな経験をしてもらう。その後配属される本部でも2~3年ごとに部署がいろいろ変わり、また現場へ出る。「現場主義」を徹底しています。社長以外は役員も現場の一担当者に配転します。役職と役割は別で、ニトリにはチェーンストアと総合商社とメーカーが一体化したような幅広い事業領域と職種や仕事があります。部署は30以上、職種は100以上もある。いろんな経験をして、多面的多角的にものを見ることで「新しい価値」を生み出せる人を育てていくのです。

 ――すると、入社後の配属も全国どこに行くかわからない?
「配転教育」の仕組みのもと、色々なところで様々な経験をして欲しいので、「全員引っ越し」が基本です。もちろん配属エリアの希望は聞きます。

 ――役員まで現場に配属するのはなぜですか。
 現場が最前線であり、一番重要なところだからです。お客さんが求めるものは、現場を知らずにはつくれません。本部にいるのは長くても5~6年。その後いったん現場に入って今求められていることや現場の状況を知って、さらに本部の別の部署に行きます。

 ――役員が配属されたら、現場はやりづらくないですか。
 それが当たり前なので、やりづらいことはありません。うちは社長を含めて「さん」づけで呼ぶ会社です。東京本部でいうと、ワンフロアの何も間仕切りがない中で1000人が仕事をしています。パートさんを含めるともっと多いです。隣で何をやっているかわかるし、配転するのでいろんな部署に知り合いがいます。

 ――しょっちゅう異動していたのでは、各分野のスペシャリストが育たないのでは?
 たとえば法務や財務のスペシャリストなら、ひたすらその道を経験して極めていく考え方があります。でも、専門を極めるだけでは世の中に新しい価値をつくれません。私たちが求めるのは、専門分野しかわからない視野の狭いスペシャリストではなく、物事を総合的に考え、かつ専門的な技術や知識を活用できるスペシャリスト。そういう「製造物流小売業」ならではのスペシャリストを育てるには、多様な部署を経験する必要があります。

 ――異動の希望は聞くのですか。
 毎年2回、自己申告があって、今やっている仕事に対する思いと、将来どういうキャリアを積みたいかを書きます。それをしっかり見て配転を決めます。

 ――たくさんの部署の中で、一番の核になるのはどこですか。
 商品部、いわゆるメーカーの部分ですね。ニトリの店舗では自社商品(プライベートブランド)の比率が85%に上ります。たとえば「商品部のバイヤー」は、世の中でどんな商品が売れていて、どんな価格で何を作ったらいいかを考えて企画を立てる仕事です。それ受けて実際にモノづくりをするのが「マーチャンダイザ―」という仕事。商品部は人数が多く、東京本部で300人くらい。流通業には自社ですべてモノづくりをする体制を整えている会社が他にもありますが、商品部の社員数はうちが圧倒的に多いと思います。他社はアウトソーシング(業務の外部委託)したり関連会社を使ったりしていますが、ニトリは全て自社でやっています。

■自分に合う仕事とは
 ――入社したら店舗に配属される学生に、現場のやりがいと厳しさを伝えてください。
 現場は、ひとことで言うとすごく楽しい。ただし、楽しく思えるかどうかは本人次第です。楽しみを見いだす努力をしてほしい。どの会社でも、大きな夢を描いて入社しても現実とのギャップはあると思います。そのときギャップと戦うのではなく、現実を受け入れてそこに新しい価値をつくっていける人が一番強い。楽しもうと思うと、広がりが見えてきます。お客様にちょっとしたやり取りですごく喜んでもらったり、自分で企画したことがみんなの作業効率を良くしていることに気づいたりする。
 ただ、本当に「現場は楽しかった」と思えるのは、そこでの努力が次につながり振り返ったときです。あのとき苦労したけど楽しかったと。毎日毎日自分の成長を実感できて楽しいのではなく、振り返って楽しかったと思えるよう努力をしてもらいたいですね。

 ――私も学生に「面白がる」ことが大事だとよく話します。
 話を就職全体に広げると、いま入社3年後に3割の人が辞めると言われます。「仕事が自分に合わなかった」というのが大きな理由です。でも、そもそもあなたに合う仕事や会社が用意されているわけではありません。仕事とは学びながら知って成長していくもので、そこに楽しみがある。どこで何をするにしても、向き合い方次第で変わる。まずは、楽しもうと努力することが一番大切だと思います。
 そういう意味では、「現場10年」は決して長くないと思います。たとえば体育会で野球やサッカーの強豪チームに入ったとき、いきなりバットを握らせてもらいましたか、ボール蹴らしてもらいましたか。まずは基本的なことやランニングをさせられる。でも後で振り返ってみたら、あの練習をしていたからこそ今の自分があると実感できる。同じようにニトリで現場に配属されても、毎日大きな成長は実感できないかもしれない。でも、これから現場で新しい価値をつくっていくためには、その場所にいることと、そこで価値をつくろうとすることが重要です。現場を前向きに捉えてほしいですね。

 ――ニトリの入社3年後の離職率は?
 12%くらいです。採用担当としては100%、誰も辞めないでと言いたいところですが、辞める人にはそれなりの理由がある。この会社が嫌だ、辛いということではなく、前向きな理由が多いです。