人事のホンネ

日清紡

2024シーズン 日清紡〈前編〉
ブレーキ、産業ロボ、ケミカル…多様な展開 採用は事業・部門別【人事のホンネ】

経営戦略センター 人財・総務室 人財グループ リーダー 田邉菜々子(たなべ・ななこ)さん

2022年11月30日

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」。今回は、「名前は知ってるけど~、何をやってるかは知らない~」のテレビCMで話題の日清紡の登場です。もとは紡績、繊維のメーカーですが、今では売り上げの9割以上が繊維以外の事業だそうです。じゃあ、いったい何の会社? じっくり聞いてきました。(編集長・木之本敬介)

■CM
 ──最近、日清紡のテレビCMをよく目にします。主に誰に向けたメッセージですか。
 CMはリクルート目的が大きいですね。CMのおかげで「名前を知っているからエントリーしよう」という人が多くいます。BtoB(企業間ビジネス)企業は、BtoC(一般消費者向けビジネス)のように学生の手元に商品が届いているわけではないので、CMがなかったら今ほどエントリーしてもらっていないかもしれません。

 ──CMでエントリーが増えたのですか。
 2012年に今のようなCMを始めてからエントリー数が4割増えました。「なぜエントリーをしましたか」というアンケートへの回答の内訳を見ると、「CMを見て」がほぼ4割を占めているので、明らかにCM効果だと思います。
 かつての繊維産業は日本の主要産業でしたが、1990年代ごろから認知度の低下が採用にも影響してきました。手を変え品を変えいろんな広告を出しましたが、当時のCMは「日清紡はこういうものをつくっている会社です」と、よくあるパターンでした。人気が上がらないので、思い切って「まずは名前を知ってもらおう」と今のようなCMにしました。何をやっている会社か、興味を持って調べたい人にはお知らせするスペシャルサイトもあります。

 ──採用チームもCMに関わっているのですか。
 私は今年、初めて企画段階から関わりました。「採用の目線、若い人の目線から意見がほしい」と言われたので、「インパクトがあって面白い」「ちょっと画面が暗いんじゃないですか」と、ざっくばらんに話しました。そして出来上がったのが「歌おう!ニッシンボー」シリーズです。4月に「うま編」、7月から「カワウソ編」が流れています。

 ──若い目線で意識したことは?
 インパクトがあるかどうかですね。ネットに慣れている今の学生は、たくさんの情報を一気に見たり聞いたりしない傾向があります。そういう煩わしさがないか、簡潔なCMかという目線で見ました。

 ──出来上がりの評価は?
 大変満足です。「うま編」は、CM総合研究所の好感度調査で過去最高のポイントが出て、総合順位もトップ10に入りました。若者の「テレビ離れ」がいわれますが、インターンシップやイベントで「CMを見たことありますか」と聞くと、多くは流れないCMなのに半数以上が手を挙げてくれます。印象に残るんだと思います。よく「変なCM」とも言われますが(笑)。

売り上げの9割が繊維以外だが、多くは紡績の技術を応用

■何の会社?
 ──「歴史のある紡績、繊維の会社」というイメージでしたが、今は何の会社なんですか。
 今は売り上げの9割以上が繊維以外です。学生には「いろんなことをやっている会社ですよ」「多様な事業を展開しています」と伝えています。ブレーキ事業を見ると自動車部品メーカーになりますし、半導体メーカー、化学メーカー、繊維メーカーでもあって、いろいろな業界に属している会社です。
 東証(東京証券取引所)では最大セグメントに業種分類を分けるルールがあって、2015年に「繊維」から「電気機器」に変更されました。

 ──学生に「電気がメインの会社」という言い方はしないのですか。
 しないですね。理系の技術職採用が大半ですが、化学、機械、電気と、さまざまな専攻の人を必要としています。ケミカル事業とかテキスタイル(繊維)事業に興味を持った化学系の学生が「自分の研究分野とマッチしそう」と多く応募してくれますが、化学系の人はブレーキでもメカトロニクスでも活躍できます。「自動車が好きだけど、化学系専攻の仕事はないんだろうな」と思っている人でも、活躍分野がブレーキ事業にあったケースもたくさんあります。説明会で「ブレーキやメカトロニクス事業でも化学の知識が生かせるんだ」と発見する人もいます。

 ──メカトロニクスではどんなものをつくっているのですか。
 エアコンに使うファンが大きな事業です。そのほか、生産・開発拠点で使用される産業用ロボットもつくっています。オーダーメイドで一から設計、製作してお客様に手渡すので、機械をつくりたいという人が応募してくれます。

 ──祖業の紡績とは関係なさそうですが。
 今の主力事業でみると、無線や半導体は紡績とは関係ありませんが、実はブレーキの技術もメカトロニクスもケミカルも、繊維からの派生なんです。たとえばエアコンのファンは、紡績で糸を巻く回転体の技術を応用してプラスチックのファンを回す技術に活用しています。ブレーキ摩擦材は、繊維を撚(よ)ったり、織ったり、抄(す)いたりする綿紡績の技術を応用して航空機用の摩擦材を生産したことがきっかけです。現在、環境規制適合の銅フリー摩擦材で世界シェアNo1の地位を確固たるものにしています。

 ──テキスタイル事業は本業の流れですね。
 はい。ノーアイロンの形態安定ワイシャツが一番の主力製品です。テキスタイル事業は服が好きな人、ブレーキ事業は自動車好きな人が多いですね。

 ──紡績メーカーには化学系に業態を変えた会社が多いと思いますが、違う路線を歩んできた?
 綿紡績から合成繊維にシフトしたメーカーも多くあります。ただ、日清紡は当時、「合成繊維にはいかない」という経営判断をしました。1952~53(昭和27~28)年ごろ、消費構造の変化で合成繊維の需要が急速に増え、当社にとっても合成繊維への進出は大きな課題でした。しかし、原料となる石油をアメリカの石油メジャーが支配している以上、メーカーとして製品の安定供給やコスト管理が難しいと判断しました。

 ──多様な事業の説明に対する学生の反応は?
 学生からも「もともと紡績会社だったのに、なんでこんなにいろいろやってるんですか」と、よく質問されます。実はつながりがあるとか、事業を広げてきた理由を説明すると納得してもらえます。