人事のホンネ

パイロットコーポレーション

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン第5弾は、筆記具でおなじみのパイロットコーポレーションです。多くの文房具ファンが志望しますが、「好き」だけでは厳しいそうですよ。どこで差がつくのでしょうか。(編集長・木之本敬介)

■コロナ禍の採用
 ──前代未聞のコロナ禍での2021年卒採用はいかがでしたか。
 とまどいが大きかったですね。学生を集められないので、説明会、面接はWEB化を余儀なくされました。最初は選考の精度が担保できるのか不安が大きかったのですが、何度か面接するうちに慣れてしっかり見ることができました。ただ、途中で緊急事態宣言が出て採用活動全般を4月下旬まで3週間ほど中断。再開のタイミングには苦慮しました。学生にコンタクトをとり「早く再開してほしい? 今はまだ不安?」と聞いて確認しました。総じて「早く始めてほしい」という意見だったので、再開を決断しました。学生からも「パイロットはすぐに再開してくれたし、その後のスケジュールも知らせてくれたので、うれしかった」と聞いています。

 ──当事者の学生の声を直接聞いたんですね。
 今後どうなるのかすごく不安だったようです。再開の見通しが見えれば安心できますが、アナウンスなしの企業が多かったとか。選考のとき学生に「安全面で不安もあるのでは?」と聞くと、「不安もありますが、次に進めるほうが心が楽です」と。ただ、中には「まだ不安」という学生もいて、面接を対面にするかしないかは社内でかなり議論しました。結局、1次面接はすべてWEB、選考が先に進んでいた理系は2次面接までWEBにしました。文系は2次面接から対面にしましたが、切り替えるタイミングは迷いました。

■採用実績
 ──2021年卒の採用実績を教えてください。
 内定者は全部で約30名です。文系・理系でほぼ半々、デザイン職が若干名です。男女比もちょうど半々でした。
 今回はモノづくりをするメーカーの人材として技術開発職を増やしています。最近は理系の学生を採用しづらい状況ですが、今回は予定より多く採用することができました。

■WEB説明会
 ──WEB説明会はいつから、どんな内容で?
 3月の企業広報解禁までは学内の企業説明会、合同の企業説明会に出ていましたが、その後、対面の説明会が一切できずWEBで行いました。
通常の説明会の内容を録画し、予約してくれた学生がWEB上で見られるよう、特定の時間に動画を流すようにしました。通常60分のところをWEBでは30分にし、6回行いました。

 ──参加者数は?
 前年に東京・大阪で開いた説明会の参加者は400人程度でしたが、WEBにしたところ約5倍に増えました。リアルの説明会は枠が小さく先着順や抽選なので参加できない学生もいました。WEBで間口が広がり、今まで来なかった人、特に地方の学生にも見てもらえてとても効果的でした。少しでも興味のある人が見てくれたのだと思います。プレエントリー数も前年の約2倍に増えました。
 2022年卒採用でもWEB説明会をおこない、新型コロナの状況が改善したら対面説明会をプラスするつもりです。

自分の長所と志望動機、結びつけて考えて

■書類選考
 ──選考の流れを教えてください。
 WEB説明会の後、まずESで選考をして、詳しい仕事説明会と筆記試験、同時にWEB録画面接をする予定でしたが、コロナの影響で詳しい説明会は省略。筆記試験もWEBテストに切り替えました。

 ──ES選考の後に、筆記試験とWEB録画面接ということは、書類選考が2段階あると。
 WEB録画が「書類選考」なのかはわかりませんが、そういう意味合いですね。
 筆記試験は学力をはかる簡単な独自テストで、文系は国語・算数・英語のような内容です。ここでかなり絞ります。筆記試験とWEB録画面接を合わせて総合的に判断します。

 ──筆記試験を自宅でのWEBテストにして問題は?
 答えを調べようと思えば調べられるので、回答できる時間を限定して一斉に受けてもらいました。一つひとつ調べていたら間に合わない問題量です。

 ──WEB録画面接とは?
 WEBのシステムにアクセスし、いくつかの質問にそれぞれ1分間ずつで答えてもらいます。前年から導入しましたが、映像は情報量が多いのでESでは分からないその人が持つ雰囲気や意気込みなどが伝わり、判断しやすくなります。
 部屋の背景を工夫する人もいて壁のボードに「〇〇です。よろしくお願いします!」と自分の名前を書いてあったり、「私の特長は……」「PRポイントは……」とテロップを使って説明したりする人もいました。とくに制限は設けていませんし、できるだけ目立とう、分かりやすくしようという努力を感じました。
 あとは質問に対し、どれだけしっかり考えたか、掘り下げたか、自分を分析したかなどを見ていました。

■志望理由
 ──ESはどんな内容ですか。
 最大の特徴は手書きということです。A3サイズで、左上半分は氏名・大学名などの基本情報、左下半分が「志望理由」です。文系は右半分が「学生時代にぶつかった壁」。理系も左側は同じで、右上半分が「学生時代にぶつかった壁」、右下半分は「今、自分が行っている研究内容」です。
字数制限はなく、罫線だけです。

 ――ESのポイントは?
 読み手に分かりやすく伝えようとしているか、どう表現しているか、自分の言葉として表現しているかは大事です。自分本位に書きたいことを並べ、読み手のことを考えていないのでは困ります。次に内容です。

 ──「志望理由」欄だけで300文字は書けそうです。
 「学生時代にぶつかった壁」を乗り越えた経験も加点になりますが、アルバイトやサークルなど同じ内容になることが多いので、志望理由を重視します。「パイロットはすごくいい会社で」「社是に共感しました」と書く人が多いのですが、それだけでなく「自分のこういうところをいかして、こう役に立ちたい」「会社に入って自分はこうなりたい」という部分があるかないか。「自分ごと」としてとらえているかどうかを見ています。

 ──文房具は誰もが使うので体験を盛り込みやすいですね。
 ただ、「社是に感銘を受けました」「御社の商品が好きで」などしか書いていないと、「文房具が好きなだけなのかな」「好きだからとりあえずESを出したのかな」と思ってしまいます。
 「どういうことなら自分が納得して仕事ができるか」「自分の考え方にパイロットが合っているか」を考えてほしいです。文房具や筆記具が好きなだけで入社するとギャップに苦しんでしまうこともあると思います。現実の仕事内容をしっかり受けとめたうえで、ミスマッチではないかをよく考えてほしいと思います。

 ──ギャップとは?
 華やかな業界というイメージを持っている人が多いですね。大型雑貨店の人気店舗の売り場に営業に行って商品紹介や売り場の提案をするというイメージが先行してしまう人もいます。しかし、最初のうちは、店主が一人で経営しているような小さな街の古い文房具店も担当します。なかなか売れなくても、新たな提案をしたり、お店のメンテナンスとしてストッカーから商品を取り出してきて並べたり。店頭のペンの本数を確認して注文をとることもあります。正直、当初のイメージと違うなと思ってしまう新人もいます。みなさんが思っているより地道な仕事もあります。

 ──だから「自分ごと」として考えているかが大事だと?
 はい。自己実現と言うとカッコいいのですが、「なりたい自分になるために、この会社で何ができるのか」といったことですね。たとえば「サークル内で発揮してきたリーダーシップや調整力をいかしてパイロットでもまとめ役として頑張りたい」などと、自分の長所と志望動機を結びつけられるとよいですね。