人事のホンネ

花王

2021シーズン⑪ 花王《後編》
「気になるモノ、コト」聞く 全ての商品にESG視点入れる【人事のホンネ】

人財開発部門 キャリア開発部 採用担当・評価育成担当 久米夏子(くめ・なつこ)さん

2020年02月12日

 人気企業の採用担当者に聞く「人事のホンネ」2021シーズン第11弾、花王の後編です。安定した大企業のイメージですが、そこにひかれて受けるのはリスキーだそうです。いったいどうしてでしょう? インタビューでは「チャレンジ」という言葉が何度も飛び出しました。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■動画選考
 ──動画選考はどういうものですか。
 質問項目に対する答えを録画して送ってもらうWEB面接システムです。録画する前に考える時間もあり、準備時間1分、回答時間3分など質問項目によって違います。画面上に「残り何分」と表示されるので、持ち時間が分かります。
 質問は、花王でチャレンジしたい仕事や事業分野の具体的なイメージ、ESで書いたガクチカに関連する困難や課題、工夫、学んだことなどESとリンクした質問ですが、動画ではより詳しく深掘りして聞きます。オーソドックスな質問で、花王に対する興味・関心、志向、チャレンジ精神や倫理観があるかどうかを見極めます。

 ──どんな動画がありましたか。
 野球のユニフォーム姿でグラウンドに立っていたり、自分の部屋で撮っていたり、個性が出て面白いですね。残念なのはESの内容を読み上げている学生ですね。いい意味で目立つのは、考えたことや実際にやったことを自分の言葉で詳しく話してくれる学生です。具体的なほど、その人の考えや経験が分かり、こちらに伝わる情報量が多くなります。

 ──質問内容を事前に知ることはできますか。
 採用ホームページ上で公開した後は見られます。見ずにいきなり受験すればぶっつけ本番ですがESの深掘りなので、そんなに突拍子のない質問はしません。一番アピールしたいことを語ってほしいですね。
 ESも動画も、きれいな言葉を並べて自分をつくっても全然響きません。詰まってもいいから、下手でも自分の言葉で話してほしい。思ったこと、考えたこと、実際にやったことを語ったり書いたりしてください。

■面接
 ──次は、いよいよ学生に直接会う面接ですね。
 2次選考は来社してもらって面接、3次選考が最終面接です。学生は常に1人で面接担当は2~3人の個人面接です。社員は最初がマネジャークラス、最終は部門長クラスで、それぞれ30~40分です。

 ──グループディスカッションやグループ面接をしない理由は?
 一人ひとりと話さないと分からないからです。かつてはグループ面接もしていましたが、個人面接でじっくり聞いたほうが、その人のことが分かります。
 個人面接のポイントはESや動画選考と変わりません。「花王で何がやりたいか」「やりたいことが花王にあるのか」といった志向の確認と、倫理観、良いモノをつくりだそうというチャレンジ精神があるかどうかですね。

 ──倫理観は面接でどうやって確認しますか。
 それが難しい(笑)。試行錯誤ですが、「困難な壁があったときに逃げないか」「諦めないか」「あの手この手で考えて打開策を見つけられるか」ですね。これは過去の経験を聞くことでしか分かりません。アピール上手な学生もいますが、学生が本当に頑張ったことは分かります。その話を引き出すのは個人面接でないと難しいですね。

 ──面接で「気になるニュース」については聞きますか。
 面接担当によりますが、花王は化粧品もあれば、柔軟剤、オムツもあるモノづくりのメーカーなので、「気になるモノ、コト」を聞きます。とくにマーケティングの面接担当は、「何に関心があるか」「どこに着目しているか」をよく聞いていますね。

 ──花王の商品について語れるといいのでしょうか。
 花王の商品に限らず、自分の興味があることなどを語れるほうがいいですね。過去の面接では「サバにマグロを産ませる研究をしています」という人がいて驚きました。何でもいいんです。モノ、コト、何にアンテナを張っているかを教えてください。

 ──採用で競合するのは?
 メーカーですね。食品、飲料、電機、化学などメーカーであれば重なります。

生活に必要なモノ届ける使命感 挑戦し続けなければ安定はない

■社風
 ──どんな会社ですか。
 本当に実直に「よきモノづくり」をしている会社です。CMをたくさん放映していますが、「花王」という名前やロゴより、ブランド名を表に出します。たくさんの思いが詰まっているブランドを知ってほしいんです。ブランド担当、研究開発など、いろんな社員と話していると、モノづくりへの情熱や愛情をすごく感じます。各部門にあらゆるプロフェッショナルがいて、育ての親のような感覚かもしれません。

 ──同じ部署でキャリアを積むそうですが、担当する商品やブランドも変わらない?
 いえ、部署内で担当する商品は変わります。たとえば研究なら、ヘルシアを担当してメリーズをやってアタックも、と商品が変わります。マーケティングでも担当するブランドは変わります。早いと1~2年、長い人は5~6年で変わりますが、人によるので何とも言えません。

 ──化粧品のカネボウ化粧品を統合しましたが、採用は一緒ですか。
 別です。花王にも化粧品部門があるので、両方エントリーすることもできます。
 カネボウ化粧品の人事部も同じフロアにいて、制度や仕組みも一緒になってきました。一緒にランチも食べますよ。会社は違えど「仲間」ですね。化粧品ブランドとしてはカラーが違う部分もありますが、互いの良いところを吸収して、それぞれ成長していければいい。カネボウ化粧品の社員は美への関心が高く、みなさん華やかです。

■やりがいと厳しさ
 ──花王の仕事のやりがいと厳しさは。
 赤ちゃんからお年寄りまで、これほどいろんな人に使ってもらえる商品を出している会社はないと思います。事業は幅広く、商品数が多く、可能性も広い。何でもできますし、どこにでもやりがいを見いだせます。生活に必要なモノを届けるという使命感を持てる仕事ですね。
 厳しさは、世の中や市場の変化が大きいところです。とくに海外での競争が激しい。今40%弱の海外の売り上げ比率をどんどん拡大しないといけないのですが……。まだまだ商品が海外に行き渡っていないので、使ってもらえる余地はあると考えています。

 ──欧米よりアジア中心かと思いますが、海外で活躍できる人財の採用には力を入れていますか。
 花王はグローバルで存在感を高めることを目指しています。「海外の仕事は全然やりたくありません」と言われると困りますが、海外アレルギーがなければ大丈夫です。どの部門の人も、どの段階で海外とのやりとりが発生するか分かりません。語学はできるにこしたことはありませんが、採用で「〇点以上」といった基準は設けていません。「入ったら勉強しようね!」という感じです。

 ──ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)を非常に重視していますね。
 今後、花王が継続的に事業を発展していくために必要な取り組みです。2019年にはESG戦略の「Kirei Lifestyle Plan」を発表し、澤田道隆社長自ら「ESG経営に大きく舵を切る」と宣言しました。世の中の変化が目まぐるしいので、変化をどんどん先取りしていかないと企業は取り残されてしまいます。これまでのやり方やあり方、考え方を抜本的に変え、商品設計の最初の段階からESG視点を入れる「ESGよきモノづくり」へと高めていきます。

 ──「超安定企業」のイメージを持っていましたが、実は違う?
 正直なところ「安定企業だから」という理由だけで受けるのは危険です。安定するためにはチャレンジし続けないといけません。新しいことをどんどんやっていかないと、すぐにダメになるという危機感を私たちは持っています。