人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2020シーズン第8弾、トヨタ自動車の後編です。エントリーシートや面接で重視するのは「周囲巻き込めるか」と「人の話が聞けるか」だとか。なぜでしょう?(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら)
■エントリー
──2019年卒の本採用のエントリー数を教えてください。
プレエントリーは事務系で1万2000人、技術系で6000人くらい。本エントリーは事務系4000人、技術系1200人ほどで、業務系は600人くらいです。技術系の学校推薦は含んでいないので実際はもう少し多くのエントリーしてもらっています)
2018年卒採用で3割減、2019年卒採用ではさらに1割減りました。
──3月の企業広報解禁後の説明会は?
基本的には全国の大学の学内説明会に参加し、自社説明会、合同説明会はしていません。
エントリーシート(ES)は、事務系は3月末、技術系は5月中旬に締め切りました。技術系は学校推薦の時期がまちまちなので、少し締め切りを遅らせています。
■エントリーシート
──ESを見せてください。「身近な人からどのような人だといわれますか」はユニークな質問ですね。狙いは?
チームで仕事をして成長するには、人の話を聞いて、それを自分の課題としてとらえて改善していけるかが大事。家族のように近い「身近な人」は、自分は気にもとめないことをいろいろ言うと思います。それをしっかり受け止めて、「自分はこういう人間なんだ」と客観的にとらえて改善していける力があるかどうかを見ます。
ESで読んでもインパクトがありませんが、面接で「この学生は人の話をちゃんと聞けるのかな?」と思ったときにこの質問をします。書類選考より面接の材料です。
──学生はどんなことを書いてきますか。
ESの段階だと「挑戦する力がある」「主体的に動ける」などですね。そこを突っ込んで聞くと、どんな人か分かります。たとえば「あなたのどういう行動が、そういう言葉になっていると思いますか」と聞くと、自分のことを把握しているか、どういう行動で改善したかが分かります。
──「チームを巻き込んで成果を出したエピソード」とは?
求める人材像は「高い目標を掲げて周囲を巻き込んでいける人」です。車は部門間調整が必要な「すり合わせ商品」なので、周囲を巻き込んで仕事ができないと困る。それを模擬体験で証明できるような学生時代の経験を聞きます。「学生時代に力を入れたこと」と重なりますが、運動部の主将やサークルの経験を書く人が多いですね。
──「コミュニケーションが苦手なAI人材」の場合は?
「何もないです」と書く人もいますが、ソフトウェア開発を競うハッカソンについて「○○大会で優勝しました」などと書いてくる人が多いですね。複数人で何かをして、どのように働きかけをしたかを書いてもらえればOKです。
──「志望動機」はどんな内容が多いですか。
一つは「社会貢献」です。「日本の経済を支えたい」「日本に良い影響を与えたい」という人も多い。産業を通じて日本を豊かにするという「産業報国」という企業理念に共感した人ですね。
もう一つは「自動運転」。ご家族や本人が事故に遭い、「安全な社会をつくりたい」という人が多くいます。本人の経験に基づいていると伝わります。
社会貢献でも自動運転でも、「なぜそこに至ったか」をしっかり書いてくれれば響きます。
──書類選考はESとSPIですね。
はい。
トヨタ自動車株式会社
2020シーズン【第8回 トヨタ自動車】(後編)
「日本一」企業の影響力実感 !面接で聞く「周囲巻き込める?」
人材開発部 採用・計画室 採用グループ長 唐澤俊章(からさわ・としあき)さん
2018年12月18日
ダイナミックなことができる会社 本社は「子育てしやすい」
■面接
──面接は何回ですか。
19年卒採用では2回でした。技術系の場合、オープンエントリーは2回、学校推薦は1回です。
1次は「面接官2人対学生は最大6人」の集団面接で時間は70分。集団面接にしているのは多くの学生に会いたいからです。個人面接で6人に1人10分聞いても60分。部屋の出入りや移動で時間がそがれるし、6人一度に聞いたほうが効率的です。
最終面接となる2次は、「面接官2人対学生1人」の個人面接で50分間でした。
──面接のポイントは?
事務系、技術系ともに「周囲を巻き込めるか」「人の話を聞けるか」を重視しています。技術系では専門性、研究内容とトヨタ自動車とのマッチングも見ます。
──「面接2回」とは、少ないですね。
学生は他企業も受験していて結果が早く必要だと思うので、できる限り早く判断するようにしています。
──唐澤さんが聞くポイントは?
私は、「人の話を聞けるか」ですね。「身近な人からどんな人だといわれますか」と「影響を受けた人」も聞きます。その人がなしてきた仕事や功績を知って自分がどう変わったかを聞く。そこから、会社の先輩の姿を見て変えていける人かどうかを推察します。
──「人の話を聞けない人」はダメですか。
信念があって、人の話を聞いても曲げない人はOKですが、聞く耳を持たずに信念を曲げないのはNG。ただ、人の話を聞いても浅いのはダメです。「はいはい、分かりました」「右に行きます」「左に行きます」ではなく、「なぜ右に行くのか」をしっかり考え、学んでほしいですね。
──面接で自動車業界のニュースについて聞きますか。
知らないより知っていたほうがいいのですが、入社すれば自然と目に入ってきます。業界ニュースよりモビリティやシェアリングサービスについてアンテナを張っているほうがいいですね。
■社風
──ずばり、「日本一」のトヨタってどんな会社ですか。
トヨタに関するニュースがメディアで取り上げられることも多く、思っている以上に社会に与える影響が大きいのではないかと思っています。ですから、一つひとつの判断が自社の利益になるかだけではなく、社会にとってどのような影響を及ぼすのかも踏まえて実施していくことになります。たとえば日本の雇用維持のための「国内生産300万台の堅守」などがあげられます。それだけに、事前調査や影響確認など大変なことは多いですが、やりがいのあるダイナミックなことができる会社だと思います
──「すごい会社だけど堅物」というイメージがありますが、実際には?
「ハンコ10個もらわないと決裁できない」といった堅苦しいイメージですよね(笑)。それでは社会の流れに乗り遅れるという危機感があり、今はチャレンジングな提案ができるようになってきました。私も人事で自由にやらせてもらっています。
──豊田章男社長が「車をつくる会社からモビリティの会社へ変える」と宣言しました。
古き良きトヨタの文化があります。じっくり人を育て、その人たちが良い車をつくる。そうした文化は残していかなければいけません。一方でモビリティやサービスで勝負するにはスピード感が大事なので、それに見合った採用や処遇を考えていきたいと思います。
──愛知県豊田市に本社があるメリットは?
採用上のメリットはなかなか厳しいと思いますが、自動車をつくるにはとても良い土地です。部品メーカーが近くにたくさんあり、しっかりサプライチェーンを組めるのは強みです。本社と工場が近いことで、現場の声を取り入れた人事制度ができたり、現場を見ながら品質管理ができたりします。
──ほとんど豊田本社勤務ですか。
国内の社員の8割近くが本社近辺にいます。
本社に転職してきた女性は「子育てがしやすい」と言います。社内託児所があるし、地域にはお母さん同士が協力するネットワークもあります。「今日は私が子どもを預かれるよ」といったやりとりができるようです。
──中京地区の学生の応募が多いと思いますが、首都圏の学生はどうですか。
中京と首都圏、半々くらいですね。
──本社は全員、車通勤?
6割くらいです。電車も通っているので大丈夫です(笑)。
──グローバル志向の学生も多いと思います。海外駐在の社員数は?
2000人くらいです。グローバル志向の学生は多く、「ずっと日本で働きたい」という人はいませんね。ただ、英語力は採用の時点では重視しません。入社してからは必要になります。
──面接は何回ですか。
19年卒採用では2回でした。技術系の場合、オープンエントリーは2回、学校推薦は1回です。
1次は「面接官2人対学生は最大6人」の集団面接で時間は70分。集団面接にしているのは多くの学生に会いたいからです。個人面接で6人に1人10分聞いても60分。部屋の出入りや移動で時間がそがれるし、6人一度に聞いたほうが効率的です。
最終面接となる2次は、「面接官2人対学生1人」の個人面接で50分間でした。
──面接のポイントは?
事務系、技術系ともに「周囲を巻き込めるか」「人の話を聞けるか」を重視しています。技術系では専門性、研究内容とトヨタ自動車とのマッチングも見ます。
──「面接2回」とは、少ないですね。
学生は他企業も受験していて結果が早く必要だと思うので、できる限り早く判断するようにしています。
──唐澤さんが聞くポイントは?
私は、「人の話を聞けるか」ですね。「身近な人からどんな人だといわれますか」と「影響を受けた人」も聞きます。その人がなしてきた仕事や功績を知って自分がどう変わったかを聞く。そこから、会社の先輩の姿を見て変えていける人かどうかを推察します。
──「人の話を聞けない人」はダメですか。
信念があって、人の話を聞いても曲げない人はOKですが、聞く耳を持たずに信念を曲げないのはNG。ただ、人の話を聞いても浅いのはダメです。「はいはい、分かりました」「右に行きます」「左に行きます」ではなく、「なぜ右に行くのか」をしっかり考え、学んでほしいですね。
──面接で自動車業界のニュースについて聞きますか。
知らないより知っていたほうがいいのですが、入社すれば自然と目に入ってきます。業界ニュースよりモビリティやシェアリングサービスについてアンテナを張っているほうがいいですね。
■社風
──ずばり、「日本一」のトヨタってどんな会社ですか。
トヨタに関するニュースがメディアで取り上げられることも多く、思っている以上に社会に与える影響が大きいのではないかと思っています。ですから、一つひとつの判断が自社の利益になるかだけではなく、社会にとってどのような影響を及ぼすのかも踏まえて実施していくことになります。たとえば日本の雇用維持のための「国内生産300万台の堅守」などがあげられます。それだけに、事前調査や影響確認など大変なことは多いですが、やりがいのあるダイナミックなことができる会社だと思います
──「すごい会社だけど堅物」というイメージがありますが、実際には?
「ハンコ10個もらわないと決裁できない」といった堅苦しいイメージですよね(笑)。それでは社会の流れに乗り遅れるという危機感があり、今はチャレンジングな提案ができるようになってきました。私も人事で自由にやらせてもらっています。
──豊田章男社長が「車をつくる会社からモビリティの会社へ変える」と宣言しました。
古き良きトヨタの文化があります。じっくり人を育て、その人たちが良い車をつくる。そうした文化は残していかなければいけません。一方でモビリティやサービスで勝負するにはスピード感が大事なので、それに見合った採用や処遇を考えていきたいと思います。
──愛知県豊田市に本社があるメリットは?
採用上のメリットはなかなか厳しいと思いますが、自動車をつくるにはとても良い土地です。部品メーカーが近くにたくさんあり、しっかりサプライチェーンを組めるのは強みです。本社と工場が近いことで、現場の声を取り入れた人事制度ができたり、現場を見ながら品質管理ができたりします。
──ほとんど豊田本社勤務ですか。
国内の社員の8割近くが本社近辺にいます。
本社に転職してきた女性は「子育てがしやすい」と言います。社内託児所があるし、地域にはお母さん同士が協力するネットワークもあります。「今日は私が子どもを預かれるよ」といったやりとりができるようです。
──中京地区の学生の応募が多いと思いますが、首都圏の学生はどうですか。
中京と首都圏、半々くらいですね。
──本社は全員、車通勤?
6割くらいです。電車も通っているので大丈夫です(笑)。
──グローバル志向の学生も多いと思います。海外駐在の社員数は?
2000人くらいです。グローバル志向の学生は多く、「ずっと日本で働きたい」という人はいませんね。ただ、英語力は採用の時点では重視しません。入社してからは必要になります。
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