人事のホンネ

トヨタ自動車株式会社

2020シーズン【第8回 トヨタ自動車】(前編)
希望職種聞きマッチング図る 「仕事に通じる学び」深めて

人材開発部 採用・計画室 採用グループ長 唐澤俊章(からさわ・としあき)さん

2018年12月11日

 人気企業の採用担当者を直撃する「人事のホンネ」2020シーズンの第8弾は、トヨタ自動車です。時価総額や売上高はダントツの日本一、自動車販売台数で世界一を競うトヨタですが、就活早期化でエントリー数の減少に悩んでいるそうです。そこで、とった打開策とは?(編集長・木之本敬介)

■2019年卒採用ふり返り
 ──2019年卒採用はいかがでしたか。
 各企業の採用日程が前倒しされた影響で、相当早い段階から学生が志望企業を決めていました。当社は経団連の指針に基づいて3月から会社説明会を始めましたが、すでに業界を絞っている学生が多く、「まだ何も決めていないので、とりあえず説明会に来てみました」という学生は例年よりかなり少なかったですね。
 その結果、エントリー数が減りました。

 ──早めに志望企業を決めるのは良いことでは?
 多様な業界の情報が平等に行き渡った状態で早めに志望を決めるのであればいいのですが、現状はそうではありません。学生とミスマッチがないよう、3月からの説明会で当社や自動車業界をしっかり知ってもらいたいのに、すでに学生のほうが業界等を絞っていてなかなか来てくれない。一方で、参加して実際に話してみて「ちょっと違うな」と思った学生は行き先がなくなってしまいます。

 ──実際には夏のインターンシップから企業PRが始まっていて、「3月の時点で企業理解が深い学生が来てくれて良かった」という企業もあります。
 もちろん、企業理解が深い学生もいます。当社も前年まで技術系は1カ月間のインターンをしていました。参加した学生の理解は深まりますが、最大250人しか受け入れられない。技術系の採用数はそれより多いので数が足りません。

 ──企業理解が浅いまま内定するケースもありますか。
 3月のスタート時点ではマイナスからのスタートでしたが、追い上げて最終的には学生と良い関係をつくれたと思っています。

■就活ルール
 ──経団連が就活日程の指針を廃止しますが、当面は政府主導でこれまでと同じ「3月企業広報解禁、6月面接スタート」になりそうですね。
 ルールはあったほうがいい。全くなくなると、学生の就活が長期化する心配があります。ルールがなくなり通年採用になると、常時採用に注力できる会社が有利になり、結果として「大手一人勝ち」の採用マーケットになってしまいかねません。

 ──「大手一人勝ち」で良いのでは?
 大手一人勝ちが良いこととは思いません。変化が激しい今の情勢ですし、一企業だけで成り立つ世の中ではありません。多様な会社の方と協力していくことが大切であり、それが日本全体としても、よい方向につながると考えています。

車は「すり合わせ製品」 チームワークと幅広い知識必要

■採用実績
 ──2018年の新卒の新入社員数を教えてください。
 「事務系」が124人で、うち女性が47人でした。「技術系」は546人、うち女性は74人。「業務職」は54人で全員女性です。2019年入社の内定数は前年並みです。

 ──業績は好調なのに採用数を増やさないのは、AI導入やIT化とも関係していますか。
 はい。単純作業はAIやRPA(Robotic Process Automation=業務自動化)に替わっていくと思います。そのために、業務の効率化と採用数のバランスを考えていきたいと思っています

■職種
 ──事務系と技術系は「総合職」で、学部の指定はなしですね?
 はい。ただ、実はこの職種を見直すかどうかの検討をしています。トヨタはいわゆる「日本的な会社」です。長期雇用が前提で、人事制度は「長期間会社にいるとメリットがある」制度です。採用も将来性を見極めて長期で育成する「ポテンシャル採用」を長年続けてきました。
 ところが、当社が最近手がけているモビリティサービス事業などは、変化のスピードがものすごく速い。10年かけて育成して、アウトプットするころには製品が2サイクルくらい回っています。そこで、即戦力の中途採用を増やしていきたいと思っています。
 近い将来、新卒の学生も「車両技術」「生産技術」「コネクティッド」といった機能ごとに採用し、短期集中で育成していくことも考えようと思っています。

 ──総合職採用から職種別採用に?
 まずは2020年卒の採用で、学生の希望を聞くところから始めたい。「トヨタにはさまざまなコースがあるけれど、どこに行きたい?」と聞いて、マッチングを図りたいと思っています。将来的には業務を細かく分けた職種別採用も検討したいと思います。

 ──採用方法の大きな変更ですね。
 トヨタがやろうとしているモビリティサービスなどの世界では、情報系の知識をもつ人がものすごいイノベーションを起こせます。
 一方で、自動車は「すり合わせ製品」です。一つひとつの部品を単独で持ち寄っても動かず、各部署が調整しながら最終的な製品に仕上げていきます。チームワークや幅広い知識が必要なため、「私はここしか知りません」という人材では困る。従来型のポテンシャル採用もある程度は必要だと思います。
 これからは属性が違う2種類の人材をうまく組み合わせ、シナジー効果が出るような採用を考えていかなければいけません。

 ──職種別採用は、かなり専門的な勉強をしてきた人が対象になるのですか。
 最終的にはそういう世界をつくりたい。今は技術系の面接では「研究内容」を聞きますが、事務系に聞くのは「学生時代に頑張ったこと」や「チームで成果をあげたこと」。大学で学んできたことはあまり聞きません。大学教育と企業が分断していることの表れです。しかし職種別採用になると、トヨタが学生に何を求めているか、募集要項の中で見えてくるはず。そうすることで大学教育との相乗効果を図れたらいいですね。

 ──採用担当者から「大学教育を変えたい」という話は初めて聞きました。
 それができるといい。企業が求めるものと大学教育があっていないと思っている企業が増え、学生に求めることが変わっていけば、大学教育は変わると思います。
 トヨタは経団連に対してもさまざまな提案をさせていただいています。

 ――学生に求めることは?
 今までの学生は私も含め、「仕事に通じる学び」が足りなかったと思います。大学で「この学問は本当に仕事にいかせるのか」と思ったら、現場やインターンに行ってみる。インターンに行って「この学問には世の中の知見が必要だ」と感じれば、大学の枠を超えてマーケティングの会社を見てフィールドワークをしてみる。そうした取り組みで「学び」を深めてほしいと思います。