人事のホンネ

株式会社帝国ホテル

2019シーズン【第12回 帝国ホテル】
歴史の1ページつくる仕事へのプライドと努力 「論理性」が必須

人事部 人事課 支配人 丘由紀子(おか・ゆきこ)さん

2018年04月10日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2019シーズンの最終回は、明治時代に鹿鳴館の隣に開業し、日本の迎賓館の役割を担ってきた歴史をもつ帝国ホテルを訪ねました。意外なことに、総合コースの仕事で大事なのは、「おもてなし」より「論理性」だそうです。どういうことでしょう?(編集長・木之本敬介)

■採用実績とエントリー
 ――2018年春入社の採用数を教えてください。
 総数は108人です。うち四年制大学卒業者が対象で、将来マネジメントを担う「総合コース」は17人で、男女はだいたい半々です。文系理系は特にこだわっていません。職種別の「専門コース」は東京採用60人、大阪採用31人です。四大卒と専門学校卒等がいます。

 ――総合コースのエントリー数はどのくらいですか。
 プレエントリー、本エントリーという段階を設けず、3月1日にオープンした採用サイトからエントリーした人全員にイベント案内を出しています。この段階では1万人前後です。

 ――たった17人の枠に1万人がエントリー!?
 大変ありがたいことに、「帝国ホテル」という名前に興味を持って多くの学生が登録しているのかなと思います。

 ――専門コースは、いろいろなホテル業務の専門職になるんですね。
 専門コースは職種別に採用しています。とくに東京は宿泊部門とレストラン部門ではっきりと分けていますが、中には四年制大学の学生もいます。調理部門は調理師専門学校や高校の調理師コースの履修者など、調理師の免許を持っている学生を採用します。

■履歴書
 ――では、ここからは総合コースについて教えてください。エントリーシート(ES)はどんな内容ですか。
 ESはなく、「履歴書」を提出してもらいます。弊社には「みなさんにきちんとお会いして選考するべきだ」という考えがあるためです。最初にグループディスカッション(GD)を行い、その際に出してもらいます。つまり、申し込んでもらえれば書類選考なしでどなたでも当社の選考に参加していただけます。
 履歴書の左は経歴欄、右側の欄がESのような内容ですね。

 ――志望理由と自己PRの欄は、色を使っても写真を貼ってもいいんですね。
 絵を描く人も、折り紙で扉を作って立体的なものを出してくる人もいます。自由です。

 ――罫(けい)線もありません。
 真っ白のほうが志望度合い、力の入れようが見えやすいんです。どこにでも使い回せるようなふわっとしたことしか書いていないのか、弊社の事業内容を踏まえて書いているか、非常によくわかります。

■グループディスカッション
 ――GDではどんなことをするんですか。
 時間は30分ほどです。1グループ6~8人で、ディスカッションのテーマはさまざまですが、たとえばブランドについて考えてもらうといった内容です。最後にグループごとに提案をまとめて人事担当者に3分間プレゼンしてもらいます。

 ――どこを見ますか。
 「論理性」ですね。与えられたテーマに対して自分が持っている情報、他者から得た情報を咀嚼(そしゃく)し、組み立て直して、きちんと筋道立てて相手が納得するように説明できるかを見ています。「発想力」なども大事ですが、総合コースの場合、将来マネジメントに携わるときに絶対に必要なのが「論理性」です。求める人物像について役員全員にヒアリングしたときにも、「論理性は絶対に大事」という話になりました。

 ――意外ですね。ホテル業界は「ホスピタリティー」や「協調性」を最重視するのかと思っていました。
 もちろんホスピタリティーも持っていてほしいのですが、数が少ない総合コースの社員はまわりを引っ張っていく役目です。「何となく感じたから」や「こんな風に思うから」と感性で話しても、まわりは付いてきません。ホテルとして一流であるためには企業として一流でなければなりません。他社との折衝の際にきちんと説明できる力も必要です。

 ――GDで「論理性」をどう判断するのですか。
 場当たり的ではない発言が大事ですね。「思いつきました。発言しました。でも根拠がない」では困ります。GDで違いがはっきり出ます。学生のみなさんは感性豊かなのでアイデアはポンポン出ますが、それを引き取ってさらに一段上の話に持っていける人は目立つ。色々な意見をまとめてブラッシュアップしていく力ですね。

将来マネジメント担う総合コース「お客様に笑顔を」の人は専門コースへ

■面接
 ――GDの後は?
 グループ面接や個人面接を複数回実施します。

 ――面接のポイントは?
 履歴書と同じことしか言わない人は「用意してきたんだな」と思います。深掘りできないので「それ以外に何かありませんか」と聞いたり、小学校時代に遡って質問したりします。

 ――お客様相手の仕事ですから、「カフェのアルバイトでお客様に笑顔で……」という人が評価されるのですか。
 接客が好きで今後も極めていきたいという気持ちは、専門コースでは真っ先に必要ですが、総合コースは違います。だから、アルバイト、留学、部活……何でもいい。なぜそれをやろうと決めたのか、困難をどう乗り越えたのか、そこから何を学んだのか、それが今どう役立っているのか、が重要です。

 ――総合コースに求める人材について、学生にはどう説明を?
 総合コースに期待するのは「株式会社帝国ホテル」に貢献してもらうことなので、接客だけでなく「将来マネジメントに携わりたい」という人に来てほしいと説明しています。
 たとえば、履歴書の「やってみたいこと、実現してみたいこと」の欄に、「世界のお客様に笑顔を届けたい」と書かれると「あれ?」となります。そういう方は専門コースを受けてほしい。求められている人材像と自分がやりたいことが合っているのか、見極めていただく必要があると思います。

 ――すると、採用で競合する会社は?
 他のホテルをたくさん受けている人は少なくて、「ホテルは当社だけ」という人が多い。百貨店は競合することがありますが、他はホテルより商社や金融、鉄道などと競合します。

 ――他に面接で重視するポイントはありますか。
 協調性を見ます。会社で一人でできることは限られています。自分の決断でやるにしても、サポートしてくれた人の存在を認識しているかどうか。「全部自分でやりました」「私は何でも自分一人でできるんです」というのでは困ります。「周りを巻き込んで大きなことを達成する力」を重視しています。

 ――最終面接は?
 複数の役員との個人面接です。基本的には履歴書に沿って質問し、本当に弊社の総合コースに入りたいのかもあらためて確認します。みなさん途中までは横並びですが、最後は「この会社で自分を成長させたい」「この会社の成長に貢献したい」と、より強く思っている人に入ってほしいので熱意も大事です。比較的短時間の面接なので、言いたいことを端的に伝える「論理性」が問われます。

 ――みんな熱意をアピールしますよね。
 本当に熱意のある人はよく企業研究をしています。役員面接の前、学生に「総合コースに入るなら有価証券報告書くらい読んでおいてね」と伝えます。読んで、この会社の強みや課題を自分なりに考えてくる学生は頼もしい。時間がない中、弊社に時間を割いた学生はわかります。有価証券報告書をパッと見てわからなければ、書物を読むなり人に聞くなりすれば何となくひもとけるはず。総合コースで入る以上は、自分なりに考えた弊社の強みや課題を見ておいてほしいですね。

 ――英会話面接もあるとか。
 最終面接に合わせて英会話面接をやります。ネイティブスピーカーと10分くらい話してもらい会話力を見ます。「自己紹介」と「どんなことが好きなのか」といったざっくばらんな会話です。みなさん心配しますが、参考程度です。一生懸命話せば全然できない人はいないので、恐れなくて大丈夫です。

 ――語学力は必須ですよね。TOEICなどの最低ラインはありますか。
 とくに設けていません。ただ、会社に入ったら英語は絶対に使うので語学力はあったほうがいい。ないと自分が困りますが、入社してからでも間に合います。

 ――大学名は関係ありますか。
 問いません。考え抜く力、何でだろうと深く考える力がある人を採用したいと考えています。考える力がある人は「これがこうなったら、こういうことを達成しうるよね」と筋道を立てて発展性のある発言ができます。論理性も感じますね。

■職種
 ――総合コースの募集要項には、経営企画や総務のほか、フロント、宴会、レストランなど現場の職種も載っています。総合コースでも必ず現場を経験するのですね?
 そうです。入社して1年半は現場配属勤務期間です。現在はまず、上高地(長野県)のホテルに全員配属して7カ月接客を担当します。12月からは東京で調理研修3カ月。レストランだけでなく宴会場の調理場や、食材を下ごしらえする調理場、お菓子を作る調理場に分かれて、調理の補佐などを行います。調理を覚えるためではなく料理がどんな道筋でできるのかを知ってもらいます。ホテルの大切な商品の一つである料理の現場で、ホテルの安心安全がどう守られているかを学びます。
2年目は東京の宿泊部門やレストラン部門で半年間勤務した後、本配属です。サービスの現場部門だったり管理部門だったりします。