
■もう一つのインターン
――他には?
もう一つ、2016年から地方創生のインターン「TURE-TECH(ツレテク)」を実施しています。学生時代に働く体験をしてから就職先を決めるという選択肢を作りたいという思いから始めたものです。ソフトバンクに興味がない人にも仕事体験をしてもらいたくて考えました。
地方自治体が抱えている課題を解決するプログラムで、2016年は長野県塩尻市で、2017年は塩尻と兵庫県丹波市の2カ所で行いました。2016年は応募者が約1300人、2017年は約1500人あり、それぞれ30人、60人を地方に連れて行きました。
――どんなことをするのですか。
まずソフトバンク本社で2日間の事前研修です。6人のチームで、「廃校校舎の利活用」「インバウンド人口の増加策」「移住促進」といった地方のリアルな課題について、机上で考え、ネットで調べて解決法を考えます。3日目から現地に4日間滞在し、ヒアリングやフィールドワークを通して、仮説が正しいかどうか検証します。現場に行くと、考えてきたものが木っ端みじんに砕かれ、真のニーズが見えてくる。リアルな声をもとに解決方法を考え、市長に提案します。良い内容なら政策として採用される「リアルプログラム」です。
――実際に市の政策につながったものも?
2016年は2件採用され、予算が付いて動いています。一つはワインのブランディングです。塩尻市にはワイナリーが八つほどあって、おいしいのに広がっていない。調べると、卸値が安く農家がブドウを作らないのが原因とわかりました。ヨーロッパで使われているブドウやワインの味の測定器を塩尻市が導入し、おいしさをアピールしてブランド価値を上げる。ブドウの価格に転嫁して農家がちゃんと収益を上げられるようにしよう、というプランです。
もう1件は、昔ながらの宿場町「奈良井宿」を訪れる観光客が少ないという課題の解決です。観光客のデータを数値化することにし、観光客の年齢や出身地、訪問先などをソフトバンクのヒト型ロボット「ペッパー」がアンケート形式で情報収集するという取り組みを始めました。英語・韓国語・中国語・日本語のパンフレットも作りました。
とにかく実践にこだわり、2017年は計3件採用されました。夏に東京に2カ月以上滞在して23社のインターンを受けた東北大学の学生が、「一番良かったのはツレテクだった」と言ってくれました。
――社員も大変ですね。
インターン自体が僕らのリーダー開発の研修にもなっています。6人のチームごとに市職員1人と社員2人がつきます。社員の1人は課長クラスでリーダー役、もう1人は人事や総務系の若手です。リーダーは個性的な学生たちをうまくまとめて市長提案まで持っていかなければならない。自分がやるんじゃなくて人を巻き込む、リアルなリーダーシップトレーニングです。総務系の若手にとっても、オピニオンリーダー的な学生の中で「どんな価値を発揮して何に貢献できるのだろう」と自分の価値を見つめ直す機会になります。参加した社員は「ものすごくよかった」と言っています。
――学生、ソフトバンク、自治体の「三方よし」ですね。
自治体は課題解決のための提案を受けられる。学生はリアルに働く経験ができる。社員はリーダーシップや自己開発のトレーニングになります。
「ツレテク」では就活的な要素は一切出していませんが、結果的にソフトバンクの強力なプロモーションになり、就活生に向けたイメージ向上にもつながりました。みんなにとってウィンウィンです。2016年に参加した30人中、もともとソフトバンクに興味があったのは1人でしたが、翌春には10人が入社しました。
――インターンの内容がよほど魅力的だったのでしょうか。
就職する会社を決める要素が二つあります。「どんな仕事ができるか」と「誰と働けるか」。インターンでソフトバンクの社員と1週間みっちり一緒にいたことで、「こんな人と働きたい」という魅力が生まれたのだと思います。
――仕事への理解も深まった?
ソフトバンクにはありとあらゆる職種がありますが、学生はビジネス面では「ショップで携帯をめちゃくちゃ売らされる」という印象があるかもしれません。エンジニア職も、ネットワークエンジニア、人工知能(AI)、データサイエンティスト、システムエンジニア、ソフトウェア開発など多様ですが、イメージがわかず「ソフトバンクのエンジニアは何をするのかさっぱりわからない」ということが多いです。
でも、ツレテク参加者は「ソフトバンクってこんな働き方があるんだ」「職種も想像していたのと違った」と理解したうえで入社します。彼らはすごく行動的で、内定者の中でもリーダー的な立ち位置で、みんなを引っ張ってくれています。
■ナンバーワン採用
――他にも「攻めの採用」が?
大学の研究室や学生団体を訪ねたり、「逆求人」のイベントを回ったり、地道な活動もしていますが、「ナンバーワン採用」という採用手法も取り入れています。ジャンルを問わずナンバーワンの実績を持つ人を対象とするもので、2010年から続けています。書類選考のあとプレゼンテーションをしてもらいます。採用数は年によって異なりますが、2018年卒は6人でした。
――どんな「ナンバーワン」が来ますか。
水球や陸上、ラクロスの日本代表、囲碁の学生チャンピオン、学術発表やビジコンの受賞者、衛星の設計をした人もいました。変わり種はマジシャン系ですね。ルービックキューブ日本一の人は、キューブを一度見ただけで頭の上でカチャカチャ動かして数十秒でそろえられる。普通じゃない(笑)。
――マジックの能力が仕事とどう結びつくのか、想像がつきません。
マジックの能力で入社した社員の上司が「彼の法人営業、最高ですよ」と。営業先でフォークを曲げたりするので、バカウケだそうです(笑)。多くのマジシャンは心理学を勉強していて、目線や手の動きでお客さまの購買心理がわかるらしい。「ここに興味を持ってる、ポイントだな」と気づけば、それだけ早く提案の軌道修正ができます。法人のお客さまの課題もわかるのではないでしょうか。
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