人事のホンネ

三菱ケミカル株式会社

2019シーズン【第5回 三菱ケミカル】
合併で舞台広がる 自ら考え動ける人,周り巻き込める人来て

人材・組織開発部 採用グループ グループマネジャー 石田晃一(いしだ・こういち)さん、人材・組織開発部 採用グループ マネジャー 石田優子(いしだ・ゆうこ)さん

2018年01月16日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2019シーズン第5弾は、三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が合併して2017年4月にできたばかりの三菱ケミカルです。国内最大の総合化学メーカーは、社会基盤を支える誇りを持つ一方、BtoB(企業間取引)企業としての悩みも抱えていました。(編集長・木之本敬介)


■採用実績
 ──2017年4月に三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が合併して、三菱ケミカルが誕生しました。初めての採用をされたばかりですね。
 石田晃一さん(写真右) 三菱ケミカルホールディングス傘下の化学系3社が一緒になることで、それぞれの強みを持ち寄り、シナジーを発揮し、グローバル競争を勝ち抜ける会社になろうというのが合併の狙いです。2017年4月入社が三菱ケミカルの1期生ですが、引き続いて、2018年4月入社の2期生の採用が終わったところです。

 ──採用の面で変化はありましたか。
 石田優子さん(写真左) 良い面は会社のスケールが大きくなった分、「大きな舞台でチャレンジしたい」という学生が多く応募してくれるようになったことです。逆に、大きくなって何をしている会社か分かりにくくなったという指摘もあります。限定的に「この分野をやりたい」という学生は減りました。以前は、たとえば「三菱樹脂は樹脂加工製品」「三菱レイヨンならアクリル」と、事業内容が比較的分かりやすかったのですが、三菱ケミカルとなり、多岐にわたるようになったため「自分が仕事としてどんな事業に携わるのか」が分かりにくくなったようです。

 ――お二人の役割分担は?
 石田晃 私は全体の統括と、主に事務系の採用を担当しています。
 石田優 私は技術系の担当です。同期入社で同姓ですが、たまたまです(笑)。

 ──採用実績を教えてください。
 石田晃 2017年4月入社は事務系総合職が34人(男性21人、女性13人)、技術系総合職が122人(男性109人、女性13人)でした。2018年4月入社は事務系が42人(男性24人、女性18人)、技術系が114人(男性105人、女性9人)です。大学院卒は技術系で97%、事務系にも若干名います。
 旧3社とも積極的に採用したいという意向だったこともあり、採用数は増加傾向です。2019年卒採用数はまだ決まっていませんが、減ることはないと思います。

 ──事務系は女性の採用が増えていますね。
 石田晃 目標数値があるわけではなく、自然体で採用した結果です。性別は問わないスタンスです。

 ──最近の学生の特徴はありますか。
 石田晃 出会った学生のみなさんは、優秀で非常にしっかりした人が多いという印象です。就職も視野に入れ、かなり早い段階から考えながら学生生活のプランを練り、実践している人が多いようです。
 石田優 技術系も同じですね。優秀で元気でしっかりしていて感心します。特に女性は「中長期にわたって働ける会社」を求めているようで、たとえば「女性の先輩社員の働き方は?」「産後の復帰率はどのぐらいですか」といった質問が多いですね。男性からは一切、そういう話は出ませんが(笑)。

 ──技術系は女性が少ないですね。
 石田優 悩ましいところです。学生のみなさんは「自分がどんな舞台で働くか」をイメージして会社選びをするはずですが、合併で「自分が入って何をするか」がイメージしづらくなったことも多少影響しているのではないかと思います。事業所が日本全国にあり、転勤などを考えると「一生働く場」として考えづらいと思う人も少なくないのかもしれません。

 ──今はどの会社も「リケジョ(理系女子)」を求めていますが、化学の分野は機械や工学と比べると女性が多いのでは?
 石田優 当社の研究所も3~4割が女性で、働きやすい環境だと思います。女性対象セミナーも開催して、女性が頑張って活躍していることをアピールしています。
 石田晃 全社の社員数は1万3000人で、うち女性は約14%です。

 ──募集要項を見ると、事務系は全学部対象ですが、技術系は「化学、工学、機械、電気、電子制御を専攻されている方」と学部指定がありますね。
 石田優 それ以外の学部の学生も応募可能です。ポテンシャルも考慮して採用しているので、活躍できそうだと判断したら面接に進んでいただくこともあります。

 ──「化学」だけではなく、「機械」や「電気」の学生も採用するんですね。
 石田優 「ケミカル」ということで誤解されることが多いのですが、化学工業のモノづくりはまずプラントを建設して動かさないと始まりません。化学の知識だけでは難しいので、プラントを建てたりメンテナンスしたりできる機電系の人材を多く必要としています。しかし、応募してくれる学生は非常に少なくて、「機械、電気の学生が活躍する場はあるんですか?」といった反応です。ぜひ積極的に応募してほしいと思っています。

 ──技術系は推薦制度による採用も多いのでしょうね?
 石田優 2017年入社では技術系の40%くらいで、推薦からの採用は増える傾向にあります。自由応募だと、内々定を出しても学生の志望度がそれほど高くなくて、結果的に辞退されてしまうこともあります。

 ――売り手市場で優秀な学生の奪い合いですから、推薦で確実にということですね?
 石田優 そうですね。1~2年前までは自由応募も活発でしたが、弊社が推薦を大事にすることを先輩や教授から聞き、推薦で応募してくれる学生が増えています。

 ――推薦の対象校は何校くらいですか。
 石田優 特に限定はありません。例年50校以上から推薦をいただいています。

インターンと説明会で3月までに化学業界知って!

■エントリーと説明会
 ──エントリー数は?
 石田優 プレエントリー数は技術系が5000人くらいで、事務系は7000人ほど。正式応募は技術系1500人、事務系2500人くらいです。

 ──2018年卒採用のスケジュールをふり返ってください。エントリーシート(ES)の締め切りはいつでしたか。
 石田優 3月中に一度締め切りましたが、4月中旬と、ゴールデンウィーク明けにも締め切りを設けました。技術系はその後も受け付けました。

 ──会社説明会はいつごろ?
 石田優 3月の第2週ごろまでは大学主催の説明会に参加し、4月にかけて自社説明会を開催しました。それから、書類選考を通過した学生を対象に事業所見学や本社ショールーム「KAITEKI SQUARE」の見学会などを行いました。こうした見学会は、三菱ケミカルのことをよく理解してもらう非常に良い機会だと思うので、積極的に参加していただければうれしいです。

 ──会社説明会で工夫している点はありますか。
 石田晃 先輩社員から、実際に「どんな仕事をしているか」「どんな生活をしているか」をざっくばらんに話してもらっています。説明会の後、小グループで先輩社員と直接話せる懇談会も設けています。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 石田優 技術系は毎年夏季に2~3週間のインターンシップを実施しています。事務系は、5日間のインターンは合併前から数えて3年目で、2018年も2月上旬に実施します。新たな取り組みとして、事務系、技術系とも1日のインターンを実施しています。
 企業広報解禁の3月1日時点で名前を知らない会社を学生は志望しない傾向にあります。化学業界は日常生活でなじみのある商品を売っているわけではないので、知名度は決して高くありません。そこで、化学業界、ひいては三菱ケミカルのことをもっと知ってもらいたいとの想いで、1日のインターンを実施することにしました。

 ──各インターンの特徴は?
 石田優 技術系の夏季の長期インターンは課題設定解決型です。1日のインターンは会社説明の後ワークショップを行います。どんな会社なのか、どんな仕事をするのかをできるだけイメージしてもらえる内容にしています。
 石田晃 事務系の5日間のインターンは、本社の事業部等に入り込んで、社員に付いて仕事を体感してもらいます。たとえば、お客様を一緒に訪問し「こういうものを作りたい」という提案型営業や、技術部隊と連携した営業の実態などを垣間見てもらう。出張もありで、生産管理の現場を見学したりして、面白いと思いますよ。
 社員がよく面倒を見るので、学生の志望度は高まるようです。「ここまで見せてもらえるとは思わなかった」という学生が多く、好評です。

 ──インターンの選考は?
 石田優 技術系夏季の長期インターンと事務系の5日間のものは書類とスカイプ面接で選考しますが、1日のものは事務・技術とも登録順で選考はありません。

 ──インターン参加者はどのくらい本選考を受けますか。
 石田晃 事務系はほぼ100パーセント応募してくれています。
 石田優 技術系は60パーセントくらいです。

 ──インターンに参加した学生は違いますか。
 石田優 会社の中のことが少し分かっているので、具体的なイメージを形成してきていることが多いですね。楽しいことばかりでなく、仕事の大変さや苦労も見て、感じてくれているのではないでしょうか。

■エントリーシート
 ──事務系のESにある「人生最大の挑戦について自由にPRしてください」という質問はユニークですね。「挑戦」がキーワードですか。
 石田晃 そうですね。挑戦するスピリットを持つ人を求めているので、「人生最大」がその学生にとって、どのくらいのものかを知りたい。「大学受験です」というより、もう少し多様な経験やいろんな苦労をしている人に魅力を感じます。

 ──「挑戦」という聞き方で、どんな答えが返ってきますか。
 石田晃 大学入学時点から就職を見据えて4年間をどう過ごすかを考えている人が多く、感心します。留学して経験を積む人、大学主催の団体に入ってマネジメントを経験している人も多い。勉強を頑張ったという人、アルバイトやサークルに力を入れたという人もいて、バラエティーに富んでいます。たとえば、「留学して最初は全然コミュニケーションをとれなかったが、自分で工夫して1年後にはこんなにリーダーシップを発揮できるようになった」といったストーリーもあります。アルバイトやサークルでも、意識して取り組んでいる人は相応の体験をしています。面接でも、そのあたりはじっくり聞きたいですね。

 ──印象的な学生は?
 石田晃 留学のケースだと、挑戦すること自体、すごいなと感心しますが、現地でのアクティビティーやその密度によって、さらに驚かされることがあります。確固たる紹介もないのに現地の会社の門をたたき、断られながらも粘り強く交渉してインターン経験をした、とか。

 ──ESに「視野を広げるために取り組んだエピソード二つ(重複不可)」という項目もありますね。
 石田晃 「1人で黙々と」というより、組織に入ってマネジメントしたとか陰ながらサポートしたとか、人としての幅を広げる取り組みをしてきたかを確認したいからです。「人を巻き込む」の実践ができているかどうかも興味深いところです。

 ──技術系のESには「従来技術とご自身の研究テーマを明確に区分して記述してください」とあります。
 石田優 中には先輩や先生の研究内容と自分の研究を一緒にして書いてくる人もいるので……。知りたいのは、その学生自身が何をしたのかです。

 ──「研究時の課題と解決手段」とか「実験中にどのようなことに気づいて、誰のアドバイスで、どのようなことを考えたか」とか、かなり細かく聞きますね。
 石田優 ここまで丁寧な設問にしないと、「文献を読みあさりました」で終わってしまう学生がいて、よくわからないからです。「その結果こんなことに気づいた!」とあるとよいのですが。自分で何を考えながら研究しているかを聞きたいんです。

 ──「学生時代、課外活動を通じて挑戦したこと」の「挑戦」は事務系と同じですね。
 石田優 こちらは「人生最大」でなくても構いません。何も書けなければ研究に没頭していたのだと思います。ただ、これから企業でビジネスをするうえでは、いろいろなことに興味を持ってもらいたい。学生時代に何かしていたほうがいいので、「課外活動」を聞いています。

 ──ESで重視するポイントは?
 石田優 圧倒的に「研究の課題と解決手段」と「挑戦」ですね。研究概要は、研究の課題と解決手段を知るために記載してもらいます。自分で考えて自分で動ける人かどうかを確認します。研究と課外活動のバランスも重視しています。

 ──ユニークな学生や印象に残ったESは?
 石田優 技術系の学生で「課外活動の挑戦」が素晴らしい人は印象に残っています。優秀な学生で「野球を頑張って練習したけれどレギュラーになれず、でも声をからすまで応援して甲子園の予選の勝利に貢献した」という人がいました。このように直接の戦績だけではなく、自分がどういう形で貢献したのかをきちんとアピールしてくれればいいと思います。一方で「○○をやりました」と羅列するだけで深掘りしていないものは、印象に残りにくいですね。

 ──技術系のESでは英語力も問うんですね。事務系は問わないのですか。
 石田晃 ESでは問いませんが、面接では英語等の外国語のコミュニケーション力について尋ねます。
 石田優 技術系も英語力だけを問うわけではないので、TOEICのスコアで一律に合否を判定することはありません。