人事のホンネ

楽天株式会社

2017シーズン 【第2回 楽天】
目指すは「世界一のインターネット企業」 会社とともに成長を!

楽天グローバル人事部採用推進課採用グループマネージャー 井上悠(いのうえ・ゆう)さん

2015年07月31日

■採用スケジュール
 ――楽天は経団連に加盟していないので「就活後ろ倒し」には左右されないと思います。2016年入社の採用はどんなスケジュールで進んでいますか。
 当社は2014年12月からエントリーシート(ES)の受け付けを始めました。最初の選考は2015年3月ごろの1次選考から始まり、回を重ねて6月から4次選考です。
 8月から選考を開始する経団連加盟の大手企業を同時に受ける学生もいるので、最終的な内定者数が確定するのはもう少し後の時期になると思います。

 ――6月現在でどのくらい内定、内々定を出していますか。
 具体的な数字は言えませんが、順調にオファーは出しています。

 ――大手が8月まで正式に決まらないから、それまで何回かに分けて内定を出すわけですね?
 そうですね。学生には様々な企業を比較したうえで楽天を選んでほしいし、納得して入社してほしいと思っています。中には8月まで結論を出せない学生もいるので、そこは待ちたいと思います。

 ――経団連指針や日本の採用システムについてはどう思いますか。
 スケジュールに関しては、外資系企業が大学3年生のうちから採用に動くので、4年生の8月から選考を始めたのでは遅いと考えています。だから当社は8月より前に選考を始めました。スケジュールは学生にとって一番良い形にしてほしい。8月選考開始で学生の負担が減って学業優先になればいいが、現状は必ずしもそうなっていないように思います。

■採用実績
 ――2015年春入社の人数と男女比や文理を教えてください。
 春入社の新卒だと全部で約320人で、男女比はほぼ半々です。全社的にも女性社員は4割を占めます。
 文系、理系の比率データはありませんが、エンジニアも採用しているので理系の学生は多いですね。開発職は全体の約15%、春入社組みだと約320人中約50人がエンジニアとしての採用です。残りの約270人がエンジニア以外のビジネス総合職で営業、マーケティング、コーポレート系に配属されます。
 エンジニアに関しては、2017年度入社の採用から中途採用と同じ通年採用に切り替えます。エンジニア採用は特に外国籍の方の志望者が多く、4月入社が都合いいわけではないので、「エントリーレベル」という、いつでも入社できる形に変えます。

 ――ビジネス総合職の入社時期は?
 現在は従来通り10月と4月の入社です。今後会社のグローバル化が進めば採る人材や出身国も変わる可能性があります。そのあたりは柔軟に変化する会社なので入社時期も変えるかもしれません。

 ――新入社員の国籍は?
 今年の春採用は約23%、約70人が日本以外の国籍です。アジア系も欧米系もいます。外国籍枠は特に設けていないし採用も一緒に行います。面接での使用言語は日本語と英語を選べるようにしています。1次面接はブースごとに、こっちは日本語、こっちは英語でという感じです。社内公用語が英語なので対応は問題ありません。

■採用フローとWEBテスト
 ――2015年入社採用の総エントリー数を教えてください。
 登録ベースで4~5万人、本エントリーは1~2万人ですね。会社の知名度が向上したこともあり、エントリー数は順調に増え続けています。

 ――どんな選考フローでしたか。
 時期によって変わりますが、基本的には会社説明会後にESを提出、WEBテストを受けてもらいます。面接を複数回、一般的には3回くらいやって内定です。2013年12月にスタートした第1次選考の場合、ESとテストが2014年1月末~2月、面接が3月で、早い人は3月中、基本的には4月ごろに内定を出しました。(編集部注:2017年卒採用はフローの変更あり)

 ―-WEBテストの内容は?
 書類選考を通った人に受けてもらう適性検査のようなものです。言語や数学的な知能と、パーソナリティーのコンピテンシー(能力・特性)を見る内容です。言語や数学の要素は成績の良いほうから通します。
 楽天には社員に求める行動規範「成功のコンセプト」があり、これを実現するための11のコンピテンシーがあります。これと学生のパーソナリティーとの合致度も見ています。テストは市販のものをベースに当社がカスタマイズしたもので、自宅でPCで受けてもらいます。

入社までにTOEIC800点が条件 海外へのあこがれだけでは通用せず

■ES~面接
 ――書類選考でかなり落とすのですか。
 ESは落とすことを目的にしたものではなく、学生のみなさんが楽天に対する理解をより深めてもらうことと、楽天で働くことを考える機会、また面接官がより深い質問するための資料ととらえています。

 ――ESの項目を教えてください。
 「就活の軸」「楽天のどこに興味を持ったのか」「利用したことのある楽天のサービス」といった質問に加え、サークル、部活、アルバイト、インターン経験などを書いてもらいます。英語能力、留学経験、資格、研究テーマを書く欄もあります。

 ――英語力が足りない人は落としますか。
 当社は選考では英語の能力は見ず、あくまで参考情報です。我々がお願いしているのは、入社2週間前までにTOEICで800点とってくださいということ。とれない場合は内定を取り消します。2015年4月入社の際は選考時点で800点未到達者が100人弱いましたが、最終的に全員入社までに800点を取得し入社しました。我々も勉強法をアドバイスしたり、TOEICを無料で受験できる仕組みを整えたりしてサポートしています。

 ――なぜTOEICを基準にしているのですか。
 あくまでいくつかある指標の1つという位置付けでTOEICだけで見ているわけではありませんが、会社の人事制度としてTOEICを導入しているためです。英語力=TOEICではないと考えていますが、我々のビジネスの進め方は、「目標を立て、それをブレークダウンして小さな目標に落とし込み、達成しながら成長していく」というものです。英語に関しても単純に「英語力を上げましょう」ではなく、第1フェーズとして「読み」「書き」の能力を高めることを目標にしているのでTOEICがその指標に最適と考えました。第2フェーズはコミュニケーション能力の向上。さらに第3フェーズとして海外での経験、就業体験を積むことも研修プログラムの一環として導入しています。

 ――「就活の軸」という質問の狙いは?
 その人のキャリア観、どういう希望を持って会社を選んでいるのかを把握するためです。

 ――就活の軸や志望理由で、多くの学生が書くパターンは?
 多いのは、グローバルな場でキャリアを築きたいというものですね。私個人の見解ですが、「グローバル人材」といっても世界中を股にかけて仕事している人はそれほど多くない。むしろ一つのローカル市場に専心して仕事をしていても、グローバルな視野や海外市場の情報を意識して持っているのがグローバル人材だと思います。
 「海外で働きたい」というあこがれだけでESを書いてくる学生もいます。でも我々の世界展開は、eコマースなど日本での成功事例を世界に輸出し、海外に楽天市場のビジネスモデルを構築していくフェーズにある。だからまず日本で働いて成功事例を吸収してもらいたい。「最初から海外」ではなく、基礎的なビジネススキルを身につける期間、日本の成功事例を習得する期間が必要です。単に「海外で働きたい」というだけの希望だと、我々と学生が期待する働き方の間に齟齬が出てくるので、ESをもとに面接で深掘りして聞きます。

 ――志望度を見るポイントは?
 我々は「世界一のインターネット・サービス企業になる」という目標を掲げていて、この企業理念に本気で共感しコミットしてくれる人を探しています。社内公用語を英語にしたのもこの目標のためですから。
 だから、学生が考える今後の理想的なキャリア像と我々の方向性が合っていることが大事です。同じ野球をするにしても、甲子園を目指すチームと県大会で善戦できればいいと思っているチームでは関わり方が全然違いますよね。学生も、ただ食うために稼げればいいやと仕事を探している人と、仕事を通じて社会に価値を与えたいとか自分が仕事を通じて組織に貢献したい、世界一の企業を創り上げたいといった意思を持っている人では全然違うと思います。

■学生時代の経験
 ――ESの勉強、サークル、アルバイト、インターン経験欄がそれぞれ200~400字。こんなに書かせる目的は?
 面接の材料の肝ですから。「Always Improve, Always Advance」(常に改善、常に前進)という楽天の成功のコンセプトを考えると、勉強でもサークルでも継続的に何かに力を入れて改善していく、より良くしていこうとする働きかけ、継続的な努力をしてきているかを注目して見ます。

 ――そこを面接で深掘りして聞くのですね?
 具体的なアクションに対してその結果うまくいったのかいかなかったのか、うまくいかなかった場合はどう対処したのかを聞いたりします。ある一日すごく頑張った人より、長期的な目標を持って努力し、様々な困難にぶつかりながら何かを良くしていったり、いい成果が得られなくても何か学んでいたり、そういうことをしてきた学生は我々の価値観と合致する感じがします。

 ――たとえば、どんな学生が合致しましたか。
 定番ですが、サークルや部活の部長を務めて、チーム全体の成果や順位を目指してチームをまとめていった、練習方法を変えていったという人。たとえば、部活で県大会に備えての練習中に顧問の先生が病気になった。そのとき役割を即座に変え、自分が練習メニューを考える立場に回り組織全体の練習方法を変えていった、という学生がいました。我々の価値観に合致しましたね。

 ――学生からは「ESに書けるような特別な体験がない」という悩みをよく聞きます。
 特別でなくても、普通の飲食店アルバイトの経験でもいいと思います。その中で自分なりに考えながら工夫して取り組んだり、努力し続けたりしたことがあればいい。その努力の仕方を見ます。

 ――大学の勉強を頑張ったという経験でも?
 いいと思います。たとえばゼミでも10人くらいのゼミ生の組織を動かす役割、ゼミの先生以外の人と交渉する渉外の役割など様々な役割があるわけで、ゼミの中でもいろんな経験をしている人がいますよね。

 ――小中学生からずっと続けてきた経験はプラスですか。
 長く続けたからいい、というわけではありません。続ける過程の中で創意工夫し、継続的な改良をしてきたか、高い目標に挑戦する姿勢があるかを見ます。TOEICのスコアを上げた学生にも、ただ勉強時間を増やしたという学生と、自分の弱点はリスニングかリーディングか語彙力かを分析し、目標を分解して集中的に勉強して成果を上げた学生がいます。同じ結果に至ったとしても、その間のアプローチ、アクションの仕方は違う。そういったところから、我々の価値観と合致するかどうかはわかります。

 ――サークルやアルバイトは頑張っても勉強はしていないと、マイナス評価ですか。
 そんなことはありません。サークルを頑張った学生も、アルバイトを頑張った学生も、勉強を頑張った学生もいる。すべて100%なんて珍しい。そこでどう頑張ってきたかを見るだけで、「君は勉強していないじゃないか」という見方はしません。

 ――大学の成績を判断材料にする企業もあります。
 大学や学部によって評価のばらつきがあるので、判断材料の主軸にはしていません。