人事のホンネ

丸紅株式会社

2015シーズン【第13回 丸紅】
内なる熱い思いを自分の言葉で 前向きに就活楽しんで

丸紅 人事部企画・採用課 採用担当課長 毛利幸雄(もうり・ゆきお)さん

2014年01月31日

■採用実績、エントリー数
 ――2014年度入社予定の採用実績を教えてください。
 総合職が131名(うち女性19名)で、理系は約20%、大学院修了は15%くらいです。一般職は39名で全員女性。合計170名です。

 ――近年、採用数に変化はありますか。
 2013年度入社は総合職148名、一般職48名と若干多く採りましたが、総合職が百数十名、一般職が数十名というのが例年の傾向です。2013年度は事業拡大傾向のある営業部門からのニーズも踏まえ、採用数が増えました。ここ数年はキャリア採用も増えており、毎年平均30名ほど。それ以前は10名以下の年もありましたが、来年も今年並みの採用を考えています。理系、院卒、外国籍、総合職の女性の比率などは、毎年自然体で採用しており、受験者数に近い比率となる傾向があります。

 ――総エントリー数はどれくらいですか。
 プレエントリーはざっくり3万名くらい。近年それほど変動はありません。本エントリーは、総合職が1万名を超えるくらいで、一般職が3000名弱です。一般職への男性の応募はほぼないため、近年は採用実績がありません。

■総合商社の仕事
 ――総合商社は事業領域が広いですよね。商社の仕事をわかりやすく教えてもらえませんか。
 社内には現在、12の営業部門がありますが、属している産業界、扱っている商品・商材、ビジネスの内容は様々です。したがって、配属された部署によって仕事も大きく異なるのが総合商社の特徴です。ただ、トレード(貿易)と投資を主体としてビジネスを展開しているという共通点はあります。トレードの世界では、全世界を舞台にあらゆる産業界で世の中のニーズを探り、必要とされているところへ必要なモノを届けるという需要と供給をつなぐ役割を果たしてきました。めまぐるしく変わっていく世界の政治経済の状況によって世の中のニーズも変化していくため、常に先を見据えて、ビジネスの内容も変化させていくことが総合商社には求められています。

 ――貿易だけでなく、今は投資によるビジネスが大きなウエートを占めていると聞きます。
 我々の投資は、トレードと切っても切り離せないものがほとんどです。トレードを大きくするために、もしくは我々の事業領域を広げていくために、投資をしているのです。例えばよくモノの流れを川の流れに例えて、原料調達の分野を「川上」、製造・加工などの中間分野を「川中」、卸売・小売といった消費者に近い分野を「川下」と表現します。我々は単に川上と川中をつなぐ、川中と川下をつなぐトレードのみを行うのではなく、そのトレードをより大きくしていくために、川上、川中、川下それぞれの分野で投資(買収や一部出資等)をし、我々がコントロールできる事業領域を拡大していっています。投資をした我々のグループ会社を成長させていけば、当然それに関わるトレードの収益も増え、またそのグループ会社の収益の一部が配当として還ってくれば投資収益も稼げます。私が入社した1996年頃も既に「トレード+投資」の重要性が叫ばれていましたが、年々投資の重要性は高まり、商社はトレード収益と投資収益の両輪で稼ぐようになってきています。

OB訪問受付ダイヤルで2人まで紹介 対話によって学生は磨かれる

■総合職と一般職
 ――総合職と―職種の違いについて教えてください。
 総合職と一般職の違いは、転勤があるかどうか、将来、課長・部長といったマネジメント職に就く可能性があるかどうかです。それ以外に明確な線引きはありませんが、業務のイメージを分かりやすく説明すると、総合職は全世界に転勤があり得る職種で、全世界を駆け巡って新しいビジネスの種を見つけ出してくる、ビジネスの仕組みをつくっていくような仕事です。一般職はその種がきちんと花が咲くまでフォローしていく、即ち契約を取った後の締結や履行、モノのデリバリー(輸出入・通関等)や支払・決済等の業務を遂行していくイメージです。

 ――商社といえば、総合職の営業のイメージが強いですね。商社の営業はどんな仕事ですか。
 営業といっても、テレビとかでよく出てくるようにノルマがあって、そのノルマを達成するために必死にモノを売り込むというイメージとはちょっと異なります。商社の営業は、BtoCと呼ばれる消費者相手であることは少なく、ほとんどはBtoB、企業に対するものです。したがって、取引先、パートナーとなる企業といかに信頼関係を築くかが重要となります。そのためには、まずは自らのビジネスの世界を地道に学ぶことから始まります。その業界にはどのようなプレーヤーがいて、世界においてモノやカネはどのように動き、当社はその中でどのような位置付けにあるのか、どのようなビジネスをして収益を上げているのか。そういったことを貿易や為替や経理や法務といったビジネスの実務を学びながら修得していく。そうして業界や商品の知識を増やし、また丸紅が持つ全世界のネットワークから入ってくる情報を有機的につないで、取引先・パートナーの立場に立ってニーズを見極め、必要な情報やビジネスアイデアの提案などをしながら、信用を築いていくのです。そこで重要なのは、ニーズを捉えることと、先を見据える力です。将来を見据え、今後の仕掛けを考えていくのが我々の仕事ですが、その考えられる裁量の範囲は本当に広く、自らストーリーを立て、関係者を巻き込みながらやっていく必要があります。数多くの困難が伴うタフな仕事ですが、その分やりがいも大きい世界です。

 ――時代とともに変わった面はありますか。
 以前は単純に企業と企業の間に入り、トレードの仲介を行うというビジネスも今よりは多かったかと思います。ただその後、「商社不要論」や「商社冬の時代」と言われた時代もあるように、商社の存在意義が問われ、我々のビジネスも変わってきました。我々の保有する情報力やノウハウ・ネットワーク、そしてリスクマネジメント機能や資金力などすべての機能を生かして、トレードに付加価値を付けるべく、様々な情報提供、事業提案、コンサルティング、投資など多彩な仕掛けをしていくようになっていると思います。

 ――総合職で入ると、最初はみんな営業ですか。
 いえ、特に割合は決めていませんが、例年新入社員の2~3割がコーポレートスタッフ(管理)部門に配属されています。いきなり営業部門に配属されると大局的な視点が持ちにくくなる傾向がありますが、管理部門では全社的な視点が養われます。また配属された部の専門性、例えば財務や経理など営業でも生かせる知識が身につくことから、最初は管理部門に配属し、その後、一定割合は営業に出すというローテーションを行っています。

 ――食品、エネルギーなど様々な部門がありますが、ずっと同じ部門で専門性を高めていくのですか。
 商社の仕事は、専門性を高め、その業界なり商品の知識・ノウハウが増え、ネットワークやコネクションができていくことで、ビジネスを俯瞰(ふかん)的に見ることができ、様々な新たなアイデアも湧いてくるという楽しさがある世界でもあります。したがって、ずっと同じ部門のままでいく人が非常に多いのは確かですが、これは異動を希望しない人が多いことが背景にあります。ただ、部門内のローテーションは多く、特に若手はいくつかの異なる経験を経て、成長させていくような部門毎のガイドラインもあります。また、人材育成という観点から、管理部門と営業部門間のローテーションを促進しています。部門間を越える異動の手段としては、入社5年目から使える2つの制度、社内公募制度とジョブ・マッチング(FA)制度もあります。所属上長を通さず人事部に直接異動申請を出すことができ、異動希望先の承認が得られれば、元の所属の上長の拒否権はなく異動できるというものです。

 ――新入社員の配属に関して、「この部門に行きたい」という希望はどの程度かなうのですか。
 内定者には例年、12月ごろに配属希望調査票を提出してもらい、2月頃に個別に配属面談を実施し、本人の希望を聞きます。希望する部門で働くことで一番モチベーションが高まり、本人にとっても会社にとっても望ましいと考えているので、できる限り本人の希望がかなうよう配属を検討します。加えて、語学力や専門性など、各部門のニーズと本人の保有する特性、専門性等を勘案して決定します。
 毎年、内定者の配属希望は人気部門に集中しがちなため、すべての人の要望をかなえるのは難しいのが現実です。どの程度希望が偏るかによって割合は異なりますが、平均すると第1希望で5~6割、第3希望までで7~8割がおさまっています。ただ、希望通りの配属でなくても、仕事を実際にやって、その世界を知っていくうちに面白みを発見し、どんどんはまっていくという人が多いのも特徴です。内定者の皆さんには何事にもまずは興味を持って前向きに取り組んでほしいということを伝えています。

 ――一般職の仕事について、もう少し具体的に教えてください。
 一般職の仕事も総合職の仕事と同様に多種多様ですが、先ほど言った通り、総合職が獲ってきた仕事がきちんと回るようフォローしていく役回りで、総合職と一般職が協力して一つのビジネスを創り上げていくようなところがあります。具体的には、契約書の中身のチェックや締結のフォロー、実際にモノが動き出したら輸出入や通関などの貿易関連実務の遂行、請求や支払などお金に関わる様々な手続きといったように幅広く営業サポートの実務面をカバーしています。中にはどんどん業務領域を広げ、お客さんへの窓口役を果たすだけでなく、総合職の社員と一緒に出張してお客さんとの交渉の場に出て行ったり、本来は総合職が担うようなより責任の重い管理業務を担ったり、企画・立案業務に携わったりする人もいます。

 ――一般職から総合職に換わることはできるのですか。
 一般職から総合職に転換する制度があり、実績も多数あります。一般職の社員には、もちろんサポート的な業務が好きでサポート職のプロフェッショナルを目指していく人もいますが、中にはどんどん職域を広げていずれは総合職を目指したいという人もいます。能力と意欲がある人にはどんどん総合職の仕事も実際にやらせてみるよう現場の上長には促しています。総合職的な仕事ができるようになり、かつ将来マネジメントが担い得る能力もあると判断される人であれば、ぜひ総合職に転換してもらいたい。総合職と一般職の併願はできない商社も多いのですが、当社は併願できるので総合職か一般職かで悩んでいる人は両方受けてみるのも一案です。一般職の業務領域も非常に多岐にわたり広いので、中には他の業界で総合職の内定を持っていた人が「他の総合職よりは商社の一般職の方がいい」と考えて入ってくることもあります。

■2015年採用
 ――2015年採用のスケジュールと会社説明会について教えてください。
 経団連の定める倫理憲章に則ったスケジュールで、12月から採用広報開始、4月から選考開始です。会社説明会とセミナーには本当にたくさん出ています。商社の仕事の面白さや丸紅の魅力を理解してもらうには、当社の社員に会ってもらうのが一番なので、説明会やセミナーでできる限り当社の社員と接する機会を作るようにしています。自社主催のセミナーも数多く開き、セミナーだけでも毎年のべ1万人以上の学生とお会いしています。
 会社主催のセミナーでは、うちのありのままを見てもらいたい。たくさんの仕事があってイメージがわきにくいという人も多いので、多種多様な部署の様々な個性を持った社員と会う機会を設けるよう意識しています。12月は合同説明会など大規模な形式が多かったですが、1~2月は学生100人以下の規模のセミナーや社員1人対学生10人といった小人数の座談会形式のセミナーも行うなど工夫しています。あとは個別に話を聞くことでさらに企業理解が深まるので、OB・OG訪問も促進しています。

 ――OB・OG訪問はどんな促進策をとっているのですか。
 OB・OGが少ない大学の人もいると思うので、マイページ上にOB・OG訪問の受付専用ダイヤルを設け、電話をくれた学生には、出身大学に関係なく、社員を2人まで紹介しています。多い時で1日20~30件かかってきますが、会いたい社員の部署や年齢層などの要望も可能な限り聞いています。OB・OGがいる大学のキャリアセンターには社員名簿を送っているので、そこからアプローチすることも可能です。

 ――OB・OG訪問は必須ですか。
 必須ではありません。実際にまったくしていない人も入社しています。ただ一般的にOB・OG訪問を数多くしている学生は、業界理解、企業理解が深まっている傾向があると思います。個別に会えば深い話が聞けるし、丸紅の人や社風もよりわかると思います。社員の話を聞くだけでなく、自分の考えを話すことで面接の練習にもなる。目上の人と話して敬語を使い慣れる面もあるし、話してみることで相手にどれくらい響くか分かったり、頭で考えていたことを言葉にしてみて初めて気付くこともある。OB・OGと話をすればするほど学生が磨かれていく。学生自身にとってもいい機会だと思いますね。
 OB・OGがゼミやクラブ・サークルの後輩のためにセミナーを開くケースもあります。後輩の面倒見がいいのは、丸紅のいい文化だと思います。ただ、リクルーター制度ではないので選考にはまったく関係ありません。

自己PR・志望動機で個性、強みを見る

■ESと面接
 ――筆記試験はどの程度重視しますか。
 例年2月下旬から3月中旬にESを受け付け、テストセンター形式の筆記試験の結果と合わせて一次選考をします。点数が良くてもESがちゃんと書けていない人を落とすこともあるし、ボーダーラインの人をESで引き上げることもあります。筆記試験は、最低限の言語・計数・語学力を見るために実施しています。仕事では企画書、報告書、入札書類など文章を書く機会が多く、その文章で周りの人に理解を促したり、説得したりしなければならないので、言語能力は重要です。事業計画策定や予決算業務、事業会社管理にも数字はつきもので、計数能力が求められます。

 ――面接には何人くらい呼ぶのですか。
 総合職の面接では4000~5000人に会います。応募学生の半分弱程度。東京と、支社がある大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡の全国6カ所で4月1日にスタートします。面接は例年3回で、前年の例では最初は面接官2名対学生1名、2次面接も同様で1人あたり20分程度。人事部員だけでなく営業や他の管理部門の社員も面接します。最初が若手・中堅クラスで、2次は課長クラスまでの管理職。最終面接は東京か大阪で実施し、学生3名の複数面接。面接官は役員を含む部長以上4~5名です。最終面接でもしっかり選考し、4月の中旬までには内々定を出します。

 ――ESの設問にはどんな特徴がありますか。
 学生時代にやってきた学業、課外活動、志望動機などオーソドックスな内容で、各項目200文字~300文字ほどです。会社によっては、志望度をはかるためにES段階で大きな負荷をかけることもあると聞きますが、当社は多くの人に受験をしてもらい、ES内容をしっかり見て判断したいと考えているので、ESは比較的シンプルにしています。オーソドックスな内容でも書いてくる人はきちんと書いてきます。

 ――ESは誰が、どんな視点で見るのですか。
 人事部員が全て見ています。文章の質や内容、そして文章量ももちろん見ますが、その人らしさが表れているESは魅力的に感じます。学生時代にやってきたこと、そして志望動機から、その人の人となりやどういう想いを持っているかが伝わってくるかどうか。一生懸命に自分自身と向き合って就職活動を行い、数多くの業界・企業を見て、悩んで、最終的に自分の中で納得した答えが出せていれば、説得力のある文章が書けていると思います。その人の個性や強みがどこにあるかが、わかりやすくきちんと書いてあることも大事だと思います。

 ――面接で見るポイントは?
 特に1次面接ではここ、2次面接ではここを見るなどと面接官に細かく指示はしていません。一緒に働きたいと思える人材かを見てもらっているので、自然と当社の社風に合う人材が選ばれているのではないでしょうか。特徴としては、誠実さや謙虚さ、挑戦心などです。あと面接官に伝えているのは、各学生の個性や強みを見てほしいという点です。その人の良さや強さを生かして会社で活躍できるイメージが湧くかどうかです。そのためには、その人がどういう考えを持って、学生生活をどう過ごして、どんな経験を積んできたのか、就職活動でもどう考えてどういう業界を回ってここまでたどり着いてきたのか。それらを掘り下げて見ていきます。志望動機など今後どうしたいのかももちろん聞きますが、その人の人となりは過去の学生生活を見ていくことでわかる部分が大きいので、面接官にも「掘り下げて質問して」と言っています。

 ――最終面接で見るポイントはありますか。
 1次、2次と大きな違いはありませんが、人生経験がより豊かな面接官が各学生の勉強してきた内容や注力してきた活動などについて、さらに深く、時事問題なども交えながらいろんな面から突っ込んで聞いていきますので、さらに密度の濃い面接と言えるかもしれません。1次、2次は比較的オーソドックス、最終面接は変化球が多く、どんな質問が飛んでくるかわからないというイメージでしょうか。

■求める人材
 ――エントリーする学生に多いタイプは?
 一概には言えませんが、商社の仕事を通して何かしら社会のために貢献していきたいという人が多い。日本のためにという人もいるし、世界のどこかの国や地域の発展に寄与するため、人々の生活を豊かにするためなど、人によって様々ですが、何かしらの想いがそこにはあります。もう一つは「世界」や「海外」と接点を持って働きたいという視点。当社の収益は8~9割が海外関連のビジネスであり、総合職の4人に1人以上が海外駐在。海外と繋がりがある仕事に就くチャンスは本当に幅広くあります。そういう意味では、海外にあまり行きたくないとか、どうしても仕事で英語は使いたくない人には向いていない職場とも言えますが、最初から非常に高い語学力を求めているわけではないので、仕事を通して語学力を磨いていきたいという気持ちがあれば大丈夫です。

 ――採用ホームページを見ると「己の強さで世界に挑め。」をキャッチフレーズに熱いイメージですが、どんな人材を求めているのですか。
 基本にあるのは、多様な「個」が集まる集団にしたいとの想いです。だから「求める人材」はあえて定めず、いろんなタイプの多様な人材に集まってほしいと思っています。ただすべての人に「己の強さ」を持って「世界に挑んで」行く気持ちは持っておいてほしい。「強さ」というのは、スキルとか資格ではなく、肉体的・体力的な強さでもなく、内面的な「強さ」です。商社というタフな仕事の世界で、物事をやり遂げていく、挑戦し続けていく「強さ」、それは「想いの強さ」と言えるかもしれません。商社の仕事を通して、何かしら自分なりの目標や志を実現したい、挑戦心を持って困難を乗り越え成長していきたい、是非そういった気持ちを持った人に入って来てほしいというメッセージがキャッチフレーズには込められています。

■印象に残る学生、落とす学生
 ――面接で印象に残るのは、どんな学生ですか。
 自らの言葉で生き生きと自分の経験や考えを述べる学生は輝いて見えます。そういう人は得てして、学生生活も就職活動も意識が高く、自分なりの考えを持って行動してきたことが伺え、会社に入ってからも同じように活躍していくイメージが湧きます。
 また、面接といえども会話のキャッチボールであることにかわりはないので、きちんとキャッチボールができるかどうかも重要です。質問の意図をきちんと理解してポイントをずらさずに回答をしながらも、自分自身のPRも含めて言いたいことをしっかりと伝えることができる人との面接は、会話が弾むものです。コミュニケーションと言うと、話す力に焦点が当たりがちですが、相手の立場に立って話ができるかどうか、つまり「聞く力」も大きなポイントです。商社の仕事で求められるコミュニケーションも同じなのではないでしょうか。

 ――落とす学生のタイプってありますか。
 特にタイプというものはありませんが、先ほどの裏返しで、会話のキャッチボールができない、自分のPRばかりに意識が向き質問の意図とは全然違う答えが返ってくる、自己PRを延々とし続けるといった人は、会社でもきちんとコミュニケーションを取ってやっていけるかなという面で不安を感じてしまいます。最低限の礼儀やマナーも大事です。自分の言葉で話せているかどうかも重要です。中には内定を取った先輩の志望動機や自己PRを正解と思って真似をしたり、その会社が求めている人物像に無理やり自分を近づけてみたりする人もいると聞きます。そうした自らの内面から湧き出たことではないことを話している学生の回答は、マニュアル的に聞こえたり、人となりが見えなかったり、感じるキャラクターと合致しなかったりするものです。是非面接では自然体で自分の言葉で話すことを心がけてほしいと思います。
 あと、面接をしていると、就職活動がうまくいっていないんだなと分かる人がいます。明るさや元気がない。就活していると、誰しも壁やうまくいかないことに直面することがあると思います。そのときの乗り越え方がわからず、切り替えができていないんですね。でも面接に臨む時は、切り替えて自分の気持ちを明るく前向きに持っていくことが大事です。自分にできることをやろうと割り切って自信を持って臨んだ方がうまくいく。うまく切り替えられない人は、どことなく悲壮感があって雰囲気に出てしまう。もったいないなと思います。「落とす学生」というより「落ちてしまう学生」ですね。つらい時でも切り替えて、いま自分にできることをやっていく。前向きに明るく、楽観的な視点を持っておくのは、就活のいろんな波がある中では大事なことだと思います。

 ――選考に大学名は関係ありますか。
 関係ありません。筆記試験とESで1次選考をして、あとは面接で見ていく。当たり前ですが、学校によって不公平がないよう全て同じ基準でフェアにやっているので、入社実績がなかった大学から内定者が出たり、毎年入っていた大学から今年は採用実績がなかったりということもあります。筆記試験については、対策をしっかりすれば点数が上がることもあるので、苦手な人は対策をしてほしいと思います。
 結果として、採用実績はエントリー数の多い大学が多くなる傾向にありますが、多様な人材を採用したいと考えているので、実績がなかったり、少ない学校であっても、丸紅の仕事に興味が持てる人には是非受験してもらいたいと考えています。

自分のビジネスが社会につながり感謝される

■英語力とライバル他社
 ――選考で英語力はどの程度重視しますか。
 テストセンターの筆記試験で英語力を見ます。それをクリアする最低限の英語力は必要です。それ以外にTOEICなどの基準は設けていないので、内定者の中にはTOEIC400点台という人もいます。ただ、入社5年目の昇格の際にはTOEIC730点以上というバーがあり、海外駐在の条件にもなっているので、それまでにその基準はクリアする必要があります。
 語学ができるに越したことはないですが、語学力は一つのツールであり、それだけではビジネスはできません。留学経験はその中身が重要です。当社を受験する人に占める留学経験者は年々増えている印象があり、1カ月とかの短期留学も含めたら半分以上の学生が経験しているのではないでしょうか。面接では留学の動機や留学中に何を考えながらどのような経験をしてきたのか、中身やプロセスを聞いています。海外に住んでいた人が語学が得意なのは当たり前です。その背景も含めて人を見るようにしています。

 ――内定者が競合する企業は?
 他の商社が一番多いですね。どこに行ってもできることはそれほど変わらないからと悩む人が多いようですが、最終的には自分に合う社風であったり、一緒に働きたいと思える人がいたり、ということで決める人が多い印象があります。その他の業界だと、その学生が大事にしている就活の軸によって競合は違います。グローバルに働きたい人は海運や海外展開に積極的なメーカーなど、自分で何かをつくっていくことに興味を持っている人は広告やマスコミ業界、事業や経営に興味がある人はベンチャーやコンサルといった感じです。

 ――起業したいという人はいずれ独立するかもしれませんが、それでも採用しますか。
 入ってしばらくすると(もしくは辞めてから気付いて戻ってくる人もいますが)、ベンチャー企業を立ち上げて自分でやるより、丸紅のネームバリューや信用力、資金力、社内に蓄積されている様々なノウハウや管理部門の機能といったリソースを使ってベンチャー的なビジネスを丸紅の中でやる方が簡単で、もっと大きなことができるとわかる。また、商社は連結経営の時代で、当社も440社を超えるグループ会社を全世界に保有しその経営を牽引する役割があるため、経営という視点についても社内で経験を積んでいくことができます。そう考えると、起業や独立したいと思っている人も「いずれ辞めるかもしれない」というより「いずれ丸紅の仕事にはまるかもしれない」という気持ちで見ています。

■丸紅カラー
 ――「人の三井、組織の三菱」と言われますが、丸紅のカラーは?
 学生や内定者からは「丸紅には個性豊かな社員がいる」「皆さん熱さはあるが、それを前面に押し出すよりも内に秘めている感じの人が多い」「温かい雰囲気で親しみやすい人が多い」などと言われます。よく商社は体育会系だと言う人もいますが、当社は「がつがつした体育会系という感じがしない」とよく言われます。取引先からは「丸紅さんは他社より若い人が出てくるね」とも言われるので、若手に任せる社風もあるのだと思っています。あと私自身が感じているのは、同期はもちろんのこと、先輩後輩や他部署の人も含め、社員同士仲が良いという点です。組織力よりは個性を大切にしている会社ですが、そういった人と人との連携やコミュニケーションはよく取れているのが丸紅の特徴だと思います。他商社から転職してきた者がいますが、彼曰く、上司との距離の近さ、意見の言いやすさが違うと。それも丸紅の自由闊達さが表れているところではないかと思います。

 ――弱みはありますか。
 他の商社と比べて人数が決して多くない中、業績を伸ばして差を縮め、業容を拡大してきているので、人が足りていない状況があります。現状の陣容を強化していく人材育成で補ったり、若手や中堅の頑張りでカバーしたりしていますが、新卒採用、キャリア採用の強化も図っています。
 あとはブランドマネジメントも課題の一つです。「丸紅」と聞いて、どういう会社なのかがパッとイメージできるような、企業のイメージ作りを採用活動の中でも行っていければと考えています。

 ――他の総合商社との違いをどうアピールしますか。
 各商社ともそれぞれ強い事業分野と弱い事業分野があります。例えばうちでいえば穀物や電力が強いという特徴はありますが、会社全体で見たビジネスの領域や規模、取扱商品などに大きな違いはなく、どこへ行ってもやれる仕事はほぼ同じかと思います。大切なのは、丸紅の良さ、特徴をきちんと理解してもらい、それに共感してくれる学生に入社してもらうことだと考えています。我々が求めている「己の強さで世界に挑んでいきたい」という大きな志やチャレンジスピリットを持っている人、「丸紅のような若いうちから任され、チャレンジさせてくれる会社がいい」と考えている人、「自由闊達な雰囲気の中、個性を生かして伸び伸びとやっていきたい」と考えている人を増やしていきたい。そのためには、我々もありのままを伝えることが大事だと考え、採用活動をしています。

 ――採用についての課題は?
 先ほどのブランドマネジメントの部分になりますが、わかりにくい総合商社というものをいかにわかりやすく伝えていくか、差別化が難しい総合商社の中での特徴、違いをどう伝えていくかを常に考えています。丸紅の社風などの特徴をわかってもらうためには、社員に会ってもらうのが一番わかりやすいので、セミナーや説明会を活発に行うとともにOB・OG訪問を促進しているんです。

 ――研修制度について教えてください。
 商社の仕事は、まさに人がビジネスをつくり出していく源泉であり、最大の資産は過去も未来も「人材」にあります。人を強くしていくことが会社の成長につながっていくため、人材育成には非常に力を入れています。2013年度から始まった3カ年の中期経営計画でも「人材戦略の更なる推進」を経営課題の一つに掲げ、研修制度の充実を図るとともに多様な経験施策を導入し、「若手を早く、大きく育てる」ことに注力しています。特に全ての総合職に対して、入社7年以内に少なくとも半年以上の海外勤務を経験させることを必須化しており、若いうちに海外経験、現場経験をさせることで成長を促そうとしています。

■やりがいと厳しさ
 ――総合商社の仕事は、大変忙しいんですよね。休みは取れますか。
 プライベートな時間が全く持てないほどではありませんが、どちらかと言えば忙しい業界に入るでしょうね。たとえば案件が立て込んでいたり、大きなプロジェクトの入札前だったり、急なトラブルがあったりした時には、土日に出社したり、毎日終電間際まで働いたり、時には終電を逃してもやらなければいけないこともあります。でもそれが1年間ずっと続くわけではない。入社1年目は周りが見えない中で、上司に言われるがままにやるしかないこともあるかもしれませんが、2年、3年と経験を積んでいくうちに全体が見えるようになり、自分の裁量も増え、自らある程度仕事を組み立てられるようになってきます。学生時代に比べると圧倒的にプライベートな時間は少なくなりますが、みなオンとオフをうまく切り分け、時間を大切に使っています。仕事をばりばりやるためにも、オフの充実は重要です!

 ――商社の仕事の厳しさとやりがいについて。
 商社の仕事は「グローバル」「投資」など華やかなイメージがあるかもしれませんが、結構地道な仕事、泥臭い仕事もあります。数字の取りまとめなどの細かい実務、社内で承認を得たり、報告したりするための文書作成、様々なアレンジの業務、様々な現場に出て行ってのプロジェクト管理や問題対応など、数え上げたら切りがありませんが、すべてが必要な仕事です。また我々のビジネスは、信用や付加価値がないと存在意義がありません。顧客、取引先、消費者に対する責任を果たすことで信用を得、付加価値を提供することで信用を高めていきます。信用を維持することは簡単ではなく、失うようなことは絶対にしてはいけない。そういった厳しさもあります。
 やりがいは、自分が担当しているビジネスが社会につながり、その貢献が感じられることであったり、自分自身の成長が感じられることであったり、人から感謝されることであったり、人によって様々です。食料でもライフスタイルでも化学品でも、自分の扱っている商材が最終的に何かしらの製品等になって、人々の生活を豊かにすることにつながっている。金属やエネルギーなら自らのビジネスが日本への資源の安定供給に寄与している。電力、プラントやインフラ関係の仕事なら、自分の仕事がその国や地域の発展に寄与したり、現地の雇用を生み出すことになったり……。みな社会的意義のある仕事をし、現地や取引先の人々に感謝されている。そういった経験を通して自分も成長し大きくなる。そんなやりがいがあるのだと思います。

■毛利さんの仕事
 ――毛利さんはどんな就活をしたのですか。
 入社した1996年当時はネットを使った採用は一般的ではなく、セミナーや説明会も今ほど盛んには行われていませんでした。採用ホームページを開設している会社もほぼなく情報も限られていたので、OB・OG訪問が一番の情報収集の手段という時代でした。私は体育会だったので、クラブのOBがいる興味のある会社をとりあえず回って、幅広く話を聞きにいきました。仕事内容を聞くと、どの会社も非常に面白そうで、これでは志望先が固まらないなと危機感を感じ、自らの学生時代を振り返って一番やりがいを感じた「自らの成長」に軸を置いて会社を見て行きました。どの業界のどの会社ならやりがいのある仕事ができ、仕事を通して視野が広がり、自分自身が成長していけるか。そうした視点で一番魅力的に映ったのがグローバルなフィールドでビジネスができる商社でした。また、自らがたどり着きたいイメージの40代、50代の人たちが一番多かったのも商社です。40~50代になっても元気にばりばりとやりがいを持って仕事をしている人が多い。なぜ商社がそういう業界なのか。自分なりに出した答えは、商社の仕事はいつまでたっても考え続けることが求められる仕事だということです。常に世界の政治、経済、社会、そして自らの属する業界や商材の動向、取引先や世の中の状況やニーズを見ながら、将来を見据え、自らの仕事を常に変えて行く。新しいビジネスを作り出して行く。そんな仕事に思えました。そんな厳しい仕事である分、やりがいもあり、常に張りがある。だからこそ成長もしていける。そう感じたので商社の道を選びました。

 ――総合商社の中で、なぜ丸紅に?
 当時は非常に商社の人気が高く、人気企業ランキングの上位10社以内に商社が5~6社入っている時代で、どの商社にも魅力を感じていました。商社各社の差別化は非常に難しく悩んでいましたが、何となく各社の空気感の違いというか、社風の違いを感じていた中で選考が進み、一番早く内定が出た丸紅に決めました。そこで丸紅の雰囲気が合うと感じていなかったら、おそらくそこで迷ったのではないかと思いますが、迷いなくすっと決めることができました。何名かのOBにあった印象や選考を通して、温かくかつ自然体な雰囲気、のびのびと楽しそうに社員の皆さんがやっている感じが直感的に合うと感じていたのだと思います。

 ――入社後の仕事の経歴を教えてください。
 食料やライフスタイルをやりたくて営業を志望していましたが、人事部に配属されました。正直驚きましたが、人事部の仕事も面白く、やりがいはあったので、入社して10年目ぐらいまでは営業と人事、どちらでもやりがいは感じられると言っていたところ、その後もずっと人事畑で今に至ります。人事部には、採用以外にも給与や福利厚生関連、人事評価や異動の仕事、そして人事制度の企画・立案や従業員組合対応など本当に幅広く、それらを一通り経験した後、2008年から4年間はロンドンにある丸紅欧州会社で人事総務のマネジャーを担い、2012年に戻ってきて現在のポジションです。

みなさんに一言!

 「前向き」に、「就活を楽しむ」という気持ちでがんばってほしいと思います。就活は、人間的に成長できる本当に良い機会だと思います。これまでの自分自身の人生を振り返り、自らとしっかりと向き合う、そして深く深く掘り下げることが成長につながるし、いろいろな業界の様々な人に話を聞くことで視野が広がり、社会を知ることにもつながります。それら一つひとつは、今後どんな人生を生きていくとしても、自らの糧になるはずです。そう思って取り組めば、つらいと思っていた就活を少し楽しく感じることもできるのではないでしょうか。また、就活をしていると、誰にでもうまくいかない時が出てくると思います。その時にも大切なのは、前向きな気持ちです。誰しも壁にぶつかるものだと考えれば、少しラクになると思いますし、これも成長のためと思えば、困難に立ち向かう力が出てくるはずです。たまには就活を忘れて、趣味に走ったり、家族や友人に悩みを打ち明けて相談してみたりすることで、道が開けることもあると思います。くよくよ悩むよりも、何とかなるさ、と思って開き直った方が運も向いてくるものです。面接では是非、皆さんの明るく元気で前向きな姿を見たいと思っています。皆さんがそれぞれ納得のいく就活を行い、自らが合うと感じた、自分が働くイメージが湧くすてきな会社にめぐり合えることを心からお祈りしています。それが丸紅であれば私も嬉しく思います。皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。

丸紅株式会社

【商社】

 国内11カ所、海外65カ国120カ所の拠点と442社のグループ会社により、グローバルにビジネスを展開。国内外のネットワークを通じて、食料、繊維、資材、紙パルプ、化学品、エネルギー、金属、機械、金融、物流、情報関連、開発建設その他の広範な分野において、輸出入(外国間取引を含む)及び国内取引の他、各種サービス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に行なっている。