企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2019シーズン第７回は、皇居に面してそびえる第一生命保険の日比谷本社にお邪魔しました。終戦直後、連合国軍総司令部（GHQ）がおかれ、マッカーサー元帥も執務した重厚な建物に圧倒される一方、お話では「挑戦」「変革」など、大手金融のイメージとはちょっと違うキーワードが飛び出しました。（編集長・木之本敬介）

■採用実績
　──採用実績を教えてください。
　2018年入社予定は790人（男性154人、女性636人）です。
　2017年入社は例年よりも多めでしたが、このところ、800人前後の採用数です。。

　──職種が「基幹職」「機関経営職」「総合営業職」とはっきり分かれていますね。
　第一生命グループには、「リーテイル分野（個人向け）」「ホールセール分野（法人向け）」「資産運用分野」「海外事業分野」「企画・管理分野」「アンダーライティング分野」「IT・システム分野」「窓販・代理店分野」の八つのビジネスフィールドがあります。
　「基幹職」はその全ての分野で働く可能性があります。いろんな分野で多様な職務を経験しながら、保険のプロフェッショナルを目指していきます。「基幹職」にはさらに、国内外の転勤がある「グローバルコース」と、地域を限定して働く「エリアコース」があります。

　──将来の幹部候補は「グローバルコース」の社員ですか。
　いえ、分け隔てはありません。「エリアコース」の幹部も当然います。第一生命は女性の活躍推進に取り組んでいます。「エリアコース」はライフイベントが多い女性が続けやすい職種だと思います。

　──「機関経営職」はどんな仕事でしょう？
　先ほどの８分野で言うと、「リーテイル分野」に属する仕事で、生命保険販売を担う生涯設計デザイナーのマネジメント・育成に携わりながら、営業オフィス経営のプロフェッショナルを目指していく職種です。営業だけでなく、マネジメント・人財育成・マーケティングなどに携わりながら成長できるのが特徴です。営業オフィスは全都道府県に約1300拠点ありますので、転勤がある職種です。

　──「総合営業職」は？
　こちらも「リーテイル分野」に属する仕事なのですが、「総合営業職」は、主に企業や官公庁で働くお客さまを対象に、お客さま一人ひとりのライフステージの変化や多様なニーズに応じて最適な「生涯設計」のご提案を行うプロフェッショナル職種です。地域を限定して働く職種のため、転勤はありません。こちらは営業オフィスとは別で、首都圏など全国24都市にある組織に所属しています。

　――790人の内訳は？
　だいたい「基幹職」が240人、「機関経営職」が50人、「総合営業職」が500人くらいです。

　──理系対象の「アクチュアリー」「クオンツ」「建築・設計」という職種もありますね。
　これらは基幹職の一つですが、大学の研究や専攻で習熟した知識を活かして、専門性の高い特定の業務を希望する学生を対象とした職種です。
　2018年入社ではグローバルコースの中に、スペシャリティコース（アクチュアリー、クオンツ、建築・設計）とオープンコースを用意しました。オープンコースは、分野問わずさまざまな業務を経験しながら多様なキャリアを積んでいくことになります。

　──学部の指定はありますか。
　ありません。学部ではなく資質や能力をトータルに評価します。結果的に学部の偏りが生じることはありますが、受けるのに制限はありません。

　──採用人数は？
　2018年入社の採用では、スペシャリティコースとして15人くらいです。全体の理系の割合は10～15％ですね。

　──一般的に生保は「文系の会社」というイメージがあると思いますが、理数系の学生はこうした職種があることを知っているのでしょうか。
　もともと、アクチュアリー志望の学生は少なくないですし、こういった職種の内容や魅力を広く知っていただくために、アクチュアリー・クオンツに特化したインターンシップも開催しています。
　
　──理系に推薦での採用はありますか。
　いえ、推薦制度はありません。

■インターンシップ
　──インターンシップについて教えてください。
　インターンシップには力を入れていて、８月～２月まで毎月のように開催しています。2018年入社向けのインターンはサマー、オータム、ウィンターの３シーズン開催し、「基幹職」だけで計約1200人の学生が参加しました。
　最近の学生ニーズは多様化していて、ワンパターンのインターンではニーズを満たせないため、複数コースを用意しています。加えて、「基幹職」にはいろんな分野があり、ものすごく業務の幅が広いので、いろんな部署の就業体験を用意しています。
　たとえば「リーテイル分野」というと「営業」しかないと思われがちですが、仕事内容はさまざまです。お客さま接点の業務もあれば、４万人いる生涯設計デザイナーを育成する仕事、商品開発もあります。インターンでは、できる限り多くの業務への理解を深めて仕事の魅力を感じてもらいたいと思っているので、複数分野の就業体験を準備し体感してもらっています。講義は短めにし、主体的に考えてもらうプログラムで、グループワークを毎日のように行います。

　──インターンの期間は？
　昨年までは５日間のみでしたが、今年度から３日間とワンデーも加えました。「授業もあるし５日間は厳しい」という学生もいますし……。ワンデーは札幌、仙台、名古屋、福岡に限定して開催しています。弊社に興味はあるけれど、「東京まで行くのは負担」という学生に来てもらいたいと考えています。５日間と３日間は東京と大阪です。

　――「機関経営職」「総合営業職」のインターンも？
　はい。営業がメインの職種なので、コンサルティングや保険設計など「お客さまのニーズを満たすにはどうしたらよいか」を中心とした内容です。機関経営職のインターンは、５年間の育成カリキュラムを疑似体験し、営業・マネジメントに必要な力とは何かをワークを通じて習得してもらいます。

■スケジュール
　──2018年入社採用のスケジュールを振り返ってください。
　３月初めは合同企業説明会、弊社主催のセミナーなどを数多く行いました。セミナーは５月までに50回は開催したでしょうか。規模はさまざまで、１日に1000人入るホールを貸し切って、すべての分野の仕事内容や魅力を聞けるような大型イベントも行いました。３日間で約3000人の学生が参加しました。普通の規模のセミナーは１回あたり100人くらい。延べ約１万4000人が参加しました。

　──エントリーシート（ES）の締め切りは？
　４月中旬ごろでした。

　──書類選考に通った人が６月の面接に進むのだと思いますが、第一生命の内定者から、その間に「社員との座談会があった」と聞きました。
　キャリアセミナーをファースト、セカンド、サードの３段階に分けて行っていました。ファーストがいわゆる業界・会社研究で、生保業界と第一生命について理解してもらう、「会社を知る」段階ですね。３月ごろに行いました。
　セカンドでは、幅広い業務フィールドと第一生命の魅力である「人」について知ってもらいます。さまざまな分野で活躍している社員と直接話せます。分野ごとにテーブルを設け、好きな分野に行って話を聞くことができます。「仕事と人を知る」段階です。
　最後のサードは５月ごろで、１対１です。複数だと聞きづらいことがあったり、消極的な学生はあまり質問できなかったりするので、話しやすい環境をつくっています。そして、さらに「人の魅力を知る」段階です。
　内定者が言った「社員との座談会」は「キャリアセカンド・サード」のことだと思います。ただ、ここでは選考は一切行っていません。

　──どんな社員が担当するのですか。
　若手から中堅までですね。キャリアサードは１人の学生あたり３回行いますが、質問内容が深まっていくので、入社２～３年の超若手、５年目くらいの若手、10年目くらいの中堅と担当者が変わります。５月はずっとキャリアサードを行っていました。
　キャリアサードは延べ200人ほどの社員に全面的に協力してもらっています。

　──「座談会」は学生１人につき何分くらいですか。
　１人30分くらいですね。時間が短いので、回数を３回にしてフォローしています。

■ES
　──グローバルコースとエリアコースのESを見ると、「自分らしさを表したと思われる取り組みを二つ」のほかに、「自分らしさを表すキャッチフレーズ」を書かせるんですね。どんな狙いですか。
　端的に自分を伝えられるかどうかですね。「自分をどれだけ分かっているか」がわかります。オリジナリティーがあるかどうかも見たいので、アイデアは必要ですね。

　──どんなものが良いのでしょう。ユニークな表現に目がいきますか。
　「どうすれば良いですか」「どう書くんですか」とよく相談されますし、学生のみなさんは最後まで悩んでいるようです。やはり、面白さや自分らしさは重要ですね。

　──最後は「生命保険業界において、第一生命で働きたい理由」ですが、どんな記述が多いのでしょう。
　生命保険業界を志望する理由で多いのは「人や社会の役に立ちたい」ですね。第一生命を志望する理由としては「変革への挑戦」を魅力的だと感じている人が多いですね。

　──「人や社会の役に立ちたい」だけではありきたりですよね。ポイントは？
　自分の強みと絡めながら言えるかどうかで差がつきます。「自分の強みは○○である」「第一生命は○○な会社だ」「自分の強みを一番いかせるのは第一生命である」といったところまで伝えることができれば、こちらも納得します。「○○な会社だから魅力がある」というだけよりも、そこまで踏み込んだほうが自分の想いが企業に伝わるのではないでしょうか。

　──求める人財像は？
　第一生命は、人財育成の方針として「プロフェッショナル＆チームワーク」を掲げています。プロフェッショナルは、専門性を身につけるのはもちろんのこと、自立心と向上心を持って積極的に変革に挑戦できる人財です。チームワークは、多様な個性を発揮し、周囲を巻き込みながら成長できること。この二つを兼ね備えた人財を発掘したいと思っています。
　加えて大事なのは、向上心を持って失敗を恐れずに果敢にチャレンジできる人財ですね。これからの第一生命は変革へのスピードがさらに加速すると思うので、そうした人財が必要です。ESからもそういった部分が感じ取れるかどうかを見ています。

　──失敗を恐れずに果敢にチャレンジした経験を、「これまでの取り組み」に書けるといいわけですね。
　そうですね。大きなことでも小さなことでも構わないのですが、自分の未知の領域に飛び込める勇気があるといいですね。

　──学生が書く「取り組み」はアルバイトやサークルが多いと思いますが、「未知の経験に恐れず取り組む」とは、どんなものでしょう？
　レベルは問わないので、サークルでもアルバイトでも何でも構いません。その中で「今までの常識やルールを変えた」「自分が率先してやらなければいけないという使命感を持って取り組んだ」経験があるといいですね。
　たとえばアルバイトなら、「しょせんアルバイトだから」とあまり高い意識を持たず、言われたことだけをやる人、決められたルールを守るだけの人が多いのかもしれません。でも、「お客さまにとっておかしい」と思うルールがあったとき、そう思うだけなのか、意識を持って変えていくのか、そこで違いが出ると思います。「バイトの立場で指摘するのは、ちょっと……」と思うかもしれませんが、その垣根を越えて提言できる姿勢が見えるといいですね。
　ただ、ESでは限界があるので、面接でも同じような点を確認していきます。

■面接
　──面接は６月１日からですね。
　人事面接を２回程度。学生１人に対し、人事部の社員１人の個人面接を２回程度行います。時間は30分くらいですね。１回目は中堅クラス、２回目からは管理職以上です。

　──２回の面接後、最初の内々定が出たのはいつごろでしたか。
　６月上旬から内々定を出し始めました。留学生の採用にも力を入れているので、最後は特に決まっていません。

　──留学生はES受け付けなど、別日程ですか。
　基本的には同様のスケジュールですが、６月以降も留学生向けの採用イベントなどに参加して、適宜ESの受け付けや面接を行ってきました。

　──留学生とは海外留学をしていた日本人？　それとも日本に留学している外国人学生？
　両方採用しています。
　海外事業分野に限らず、その他の分野でも必要な人財だと思っています。外国人学生はもちろんのこと、海外経験のある人は多様な価値観にもまれているので重要ですね。

■社風
　──第一生命って、どんな会社でしょうか。
　お客さまのことを第一に考え、お客さまにとっての「最良」を追求するという考えをとても大事にしていて、そのための変革への挑戦については妥協しません。「変革への挑戦」は弊社の強みで、あまり常識では考えられないこともやってきました。

　──生保会社で初めて相互会社から株式会社化したり、ホールディングス化したりしてきましたね。
　個人的な考えですが、どこの会社でも経営層は「変革」を意識していると思いますが、第一生命は経営層だけではなく社員にまで変革の意識が浸透しているのが強みです。大きな変革は経営層だけが考えていても成し遂げられません。まさに株式会社化は全社員一丸となって成し遂げたプロジェクトでした。

　──2010年ごろですね。
　大変でした。当時は人事とは別の部署でプロジェクトに関わりましたが、いろんな部署と成し遂げた一大プロジェクトでした。大変でしたが、「みんなが同じ方向を向いている」と感じました。誰も妥協しなかったからこそ、成し遂げられたのだと思います。

　──変革の精神がトップから若手まで浸透する理由は？
　創業者である矢野恒太（つねた）は「最大たるより最良たれ」という言葉を残しています。お客さまにとって「最良」であることこそが生命保険事業の最大の価値であり、それを実現し続けるためには絶えず変革していかなければいけないということです。創業者の思いが第一生命のDNAとして脈々と受け継がれていて、この思いに共感している人が多いということに尽きるのかもしれません。

　──「全社員一丸」ということは、トップダウンの「軍隊的な組織」という面も？
　いえ、軍隊的ではないですね。若手に任せる文化です。少なくとも私が所属した部署ではそうでした。今は採用担当としていろんな場に行きますが、他社に私より若い人はあまりいません。資産運用の社員がアナリストの集まりに行ったときも、「自分より年下はいなかった」と言っていました。
　仕事を丸投げするのではなく、任せてフォローする体制です。仕事に面白みを感じ、第一生命が好きだと思っている社員が多いのかもしれません。

　──他社との社風の違いは？
　他社への言及は控えますが、当社の社風で一番大きいのは「挑戦」「変革」の意識が強いところだと思います。

　──2015年３月期決算では、売上高にあたる保険料収入で初めて業界トップになりましたね。社内は大騒ぎだったのでは？
　当時も社内に浮かれた雰囲気はありませんでした。規模を求めるよりもお客さまのことを第一に考える精神が根づいているからだと思います。

　──今まで日本の金融機関は「安定」の象徴でした。しかし今は低金利が続き、フィンテックなどの「金融革命」の時代です。「変化しないと生き残れない」ということでしょうか。
　そうですね。これからますます変化のスピードは速くなり、これまでの経験からは予測できないほど急激な変化が起こる時代になっていきますが、社内では変革に対する意識がさらに高まっています。保険ビジネス（Insurance）とテクノロジー（Technology）の両面から生命保険事業独自のイノベーションを創出する取り組み「InsTech」を推進して新たなサービスを生み出すなど、これからも新たな価値創造に向けて挑戦し続けます。

■小坂さんの就活
　──小坂さんはどんな就活をしたのですか。
　今37歳ですが、私のときは就職氷河期だったので大変でした。志望先は金融機関を中心に幅広く見ていました。
　私は小学校から大学まで野球をしていて、高校時代は甲子園にも出場しました。でも、実は全く強くないチームで、自分を含めて並の選手しかおらず、高校入学と同時に甲子園を諦めていたんです。それでも奇跡的に甲子園に出場できた。その経験から、チームワーク力の素晴らしさを学びました。真の意味でチームワークのある組織は、想像以上の力を発揮するんです。
　チームワークには「人」が大事なので、就活でも「徹底的に人を見てやろう」と思い、いろんな会社のいろんな人に会いました。とりあえず社員との接点を持って、「この会社はどんな人が多いのか」を徹底的に観察しました。嫌な学生ですね（笑）。その結果、第一生命に決めました。

　──業種より「人」で決めたと。
　金融機関を中心に見ていましたが、決め手は「人」でした。優秀な人が多いことと、強いこだわりを持ちつつも、ひとりよがりじゃない人が多いことです。チームワークを重視しそうな人が多かったですね。

　──第一生命の社員には何人会いましたか。
　延べ20人くらいは会いました。他の会社も含めると100人以上の社員に会ったと思います。

　──入社後の経歴を教えてください。
　2003年に入社し横浜支社に配属されました。そこで２年間FP（ファイナンシャルプランナー）として、中小企業のコンサルティングをしていました。FPの資格は入社してすぐに取りました。
　「営業はすごく面白いな」と思って続けたかったのですが、保険契約加入から保険金支払いまでの事務・システム全体を担うアンダーライティング分野の契約サービス部に異動になりました。1000万件超の契約を適切に管理しながらお客さまを支える仕事です。ここで10年くらい仕事をし、2016年に人事部に異動になりました。この会社では簡単にキャリアを語れるほうですね（笑）。

　──普通は３～４年に１回は異動がある？
　そうですね。15年もいたら４～５カ所は行っている社員が多いです。

　──一番印象的な仕事は？
　先ほども話した株式会社化ですね。契約サービス部でプロジェクトに関わっていたのですが、それはそれは大変でした。ただ、仕事の進め方などさまざまなことを学びましたし、全社員に変革の精神が浸透しているんだと再確認しました。
　具体的には、お客さまへの株式分配と、そのオペレーションに携わったのですが、期日が決まっている厳しいスケジュールの中で、いかに良いパフォーマンス出すかが大変でした。それを乗り切れたのも、チームワークがあったからです。