実質的には労働者なのに「フリーランス」?
今回の時事まとめでは「偽装フリーランス」を取り上げます。
「フリーランス」とは、会社員のように会社に雇われて働くのではなく、企業などから仕事を受注し、自分の専門性を生かして働く人たちのことです。国の2020年の調査では、全国で推計462万人いるとされています。働く時間や場所も自由に選べ、複数の仕事を並行して行うことも自由といったメリットがあります。
しかし、形式上は「フリーランス」扱いなのにもかかわらず、仕事を依頼している企業から細かい指示を受けており、自由な働き方ができていない人たちがいます。これを「偽装フリーランス」と呼んでいます。実態は「雇用」なのにもかかわらず、フリーランスと偽装されているという意味です。「雇用」されていると、法律上は「労働者」として扱われ、労働基準法などで守られます。たとえば簡単に解雇されなかったり、今週の週間ニュースまとめでも取り上げた最低賃金の保障があったりします。しかしフリーランスとして偽装されると、こうした保護を受けられなくなるのです。自由に働けないうえに労働者としても保護されない――いわば「悪いとこどり」の状態です。
みなさんがこれから就職活動を通じてライフプランを考えるうえでも、そしてビジネスの現場でフリーランスの方々と仕事をするとき(もしくは、自分がフリーランスとして企業から発注を受けるとき)のことを考えても、フリーランスと雇用の違いはしっかり知っておく必要があります。今回紹介する記事を通じて、基本的な知識を身につけておきましょう。(編集長・福井洋平)
●朝日新聞デジタルの連載「偽装フリーランス だれも守ってくれない(全4回)」はこちらから
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平日毎日出勤も「社員ではなかった」
7月25日の朝日新聞デジタルに、「工場で逝った夫『雇っていない』 勤続16年でも『偽装フリーランス』」という記事が掲載されました。内容を紹介します。
愛知県内の工場に勤務していた男性が2015年、勤務中に「両足が動かない」と訴えて意識を失い、55歳で亡くなりました。勤続16年で平日は毎日出勤し、土曜も仕事があることがほとんど。早朝に家を出て、帰宅は遅いと午後10時ごろ。疲れ果てて帰宅し、入浴と夕食を済ませて寝る生活だったといいます。
仕事が原因で病気になったりけがをしたりした場合、「労働災害(労災)」と認定され、労災保険から、治療にかかる費用が支払われるほか、休業中も賃金の一部が支給されます。労災保険は労働者(パート、アルバイトを含む)を1人でも雇っている事業主は必ず入らなければいけません。しかしこの記事に出てくる男性は、労災が適用されませんでした。会社側が、男性とは雇用契約を結んでいないと主張したためです。勤務先の会社社長は、男性の妻に「(男性は)下請け外注の格好になっていた」、社員ではなかったのだから、体調不良なら「自分で休めばよかった」と告げたそうです。
従業員との違いは「別にない」
平日毎日出勤し、土曜日も仕事があるような状態で、「自分で休む」ということができたのか。明らかにこれは会社が指示して働かせていたと考えられ、「労働者」扱いされるべきだ――。男性の妻は2017年に国を相手取り、男性の労災認定を求める裁判を起こしました。そして4年後、男性を「労働者」だとはっきり認める判決が出ます。決め手になったのは、会社側が業務の事細かな指示を記していた「生産計画表」でした。これをもとに、会社が勤務時間や仕事内容を決め、男性に拒む自由はなかったとして、「労働者にあたる」と判断したのです(ただし、労災は認定されませんでした)。
裁判長から「仕事の中身に着目したときに、男性と会社の従業員で、何か違うところはありましたか」と問われ、会社社長は「何って、別にないと思います」と返答したそうです。男性を雇用しなかった理由については「経営面のもので、すべてがうちの社員にすることは、難しいような状態でありました」と答えています。
(写真・会社が作成していた「生産計画表」のコピー。午前と午後に分けて、誰がどんな作業をするのか細かく指示されていた)
労働基準監督署は人手不足
雇用契約を結ぶと、働く側は「労働者」として扱われ、労働基準法によって保護されます。簡単に解雇されることはありませんし、賃金についても最低額(最低賃金)が保証されます。一方、会社はや、さきほど出てきた労災保険、雇用保険(仕事を失ったときに給付される保険)など、労働者の社会保険の保険料の全部もしくは一部を負担する必要があります。労働者をフリーランスに偽装することで、会社はこういった義務を免れることができるわけです。
労働者は「雇用契約」、フリーランスは「業務委託契約」を結んでいますが、最初に交わす契約の名称で労働者かどうかかが決まるわけではありません。記事で出てきたケースのように会社側が細かく業務を指示し、自由な働き方が選択できないような状態なら、それは実質的に「労働契約」として扱われます。ですがその判断をする労働基準監督署はつねに人手不足で、個々の判断をするのが追いつかないのが現状と言います。裁判で争うことはできますが、費用も時間もかかります。
(写真・労働基準監督署の窓口)
フリーランス新法を知っておこう
まずは自衛をするしかない――と思います。もし自分が会社と結ぶ契約が「業務委託契約」なら、あなたの立場はフリーランスです。何時に出社しなさい、休みはこの日にしてください、ほかの仕事(副業)はしないでくださいなどと、会社側が細かく指示することはできません。
逆に会社員となった場合、フリーランスの方と仕事するときは、そういった細かな指示はできません。仕事が忙しくなればなるほど、大変になればなるほど、こういう原則を忘れがちになります。ちなみに今年4月、フリーランスで働く人を保護する通称「フリーランス新法」が成立しました。弱い立場に置かれがちなフリーランスを保護するため、▽契約時に業務内容や報酬額を書面やメールなどではっきり示すことを義務化▽報酬を相場より著しく低く定めることや、契約後に不当に減らすことを禁止▽発注した仕事の成果を受け取った日から60日以内に報酬を支払うことを義務化 といった内容を定めました。こちらも仕事をする上で、必ず知っておくべき内容です。
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