「こども未来戦略方針」が発表される
岸田文雄首相は6月13日、首相官邸で記者会見し、児童手当の拡充などを盛り込んだ少子化対策の「こども未来戦略方針」を発表。いわゆる「異次元の少子化対策」に関する具体的な方針が明らかになりました。政府は2028年度までに年3.5兆円規模を投じ、急激に進む少子化に歯止めをかけたい考えです。就活ニュースペーパーでは今年1月にも岸田首相の少子化対策について取り上げています(「異次元の少子化対策」って? 仕事・子育て両立できる会社探そう)。少子化対策は国のゆくすえを左右する重要政策であり、今後のビジネスを考えるうえで必須の課題であり、そしてみなさんのライフプランを考えるためにもきわめて大切な情報です。具体的に何が行われるのか、課題は何なのか。政府の少子化対策についてはニュースになるたびに、つねに自分ごとととらえてチェックしていきましょう。(編集長・福井洋平)
(写真・会見で「こども未来戦略方針」を説明する岸田文雄首相=2023年6月13日、首相官邸)
少子化の流れは長年止められず
改めて、現状の「少子化」について確認しましょう。厚生労働省が6月に発表した「人口動態統計」によると、2022年に生まれた日本人の子どもの数は77万747人で、統計を始めた1899年以降で最少となり、初めて80万人台を割り込みました。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」は1.26と、データのある1947年以降では2005年と並んで過去最低の水準になっています。いま大学生は同い年がだいたい110万人ですから、約20年で4分の3以下にまで子どもが減ったことになります。少子化は人口減につながり、日本の国内市場は縮小します。また、生産人口の減少は国の力を年々削いでいくことになります。しかし、日本は何十年間も少子化の流れをとめられないでいます。
少子化は国にも責任がある
多くの先進国でも、少子化が進行しています。しかし、フランスや北欧諸国など少子化を食い止めた国もあります。国の「選択する未来」委員会の報告書は、フランスは子どもを持つ世帯に支給する「家族給付」が手厚いと指摘。特に子どもが3人以上いる世帯への給付が充実しているといいます。さらに1990年代以降は、こうした「現金給付」に加えて、「保育」の充実や「働き方の選択肢」を増やすことにも取り組んでおり、育児と仕事の「両立支援」に力を入れていると分析しています。一方で、日本は少子化が進んでいたにもかかわらず、こうした取り組みを十分に行ってきたとはいえません。国が打てる手を打たなかったのですから、少子化は国にも責任があります。少子化は個人の問題なのではなく、国の政策の問題であるという前提を踏まえたうえで、岸田首相の取り組みをチェックする必要があります。
高等教育支援にも0.5兆円を投入
今回の「こども未来戦略方針」では、一定以上所得があると受け取れない「児童手当」について所得制限を撤廃し、さらに中学生までだった支給年齢を高校生まで引き上げて、給付額を1.2兆円増やしました。また、働き方にかかわらず時間単位で保育園を利用できる制度の創設や、両親で育休を取った際の給付金を手取り収入がカバーできる水準に引き上げ、育休によって所得が減らないようにすることも盛り込んでいます。プラン策定の最終段階で岸田首相がとくに指示して盛り込んだとされるのが、高等教育支援。大学などの授業料の減免や、返済の必要がない給付型奨学金制度の拡充などに0.5兆円をあてる方針です。
財源は社会保障費の削減で?
様々な施策を盛り込んだ「異次元の少子化対策」ですが、肝心の財源は不透明なままです。こどもが一人前になるまでには長い年月がかかります。財源が不透明なままでは、子育て途中で政策が骨抜きになってしまうことも十分考えられます。国民がそう感じてしまうようでは、出生率の上昇はのぞめないでしょう。
財源を確保する方策としては「国債」の発行が考えられますが、国の借金を増やすのでは将来にわたって安心できる財源とはなりえません。岸田首相は支持率低下をおそれてか、「財源確保を目的とした増税は行わない」と明言。それではどうするかというと、医療や介護といった「社会保障費」の歳出を抑え、さらに社会保障費の仕組みを活用して新たに徴収する「支援金制度」(仮)でまかなうとしています。
少子化と同時に日本では高齢化も進行していて、社会保障費の上昇は避けられません。物価高で生活が圧迫されるなか、社会保障費を削れば適切なサービスの提供ができなくなるという声が、すでに現場からあがっているといいます。はたして、社会保障費の削減で財源は確保できるのでしょうか。
(図は、朝日新聞の世論調査より)
高所得層は負担増の可能性も
もうひとつ、「扶養控除」をめぐる動きも見逃せません。いま、16歳から18歳までのこどもがいる世帯は所得税を計算する際に所得から38万円差し引くことができる「扶養控除」という制度があります。児童手当の拡充に際し、この扶養控除を廃止するという案が浮上しています。所得が多く、高い税率が適用される世帯にとっては、扶養控除廃止によって増える税額が児童手当を上回り。実質的に負担増になる可能性も指摘されています。国民が納得する形で制度設計できるか、現時点ではまだ見えていないと判断するしかないでしょう。
今回の「方針」では、どのように今後安定的に財源を確保するかについて、具体的な方策には踏み込みませんでした。財源確保の具体策があきらかになるまでは、本当に今回の方針が「異次元」なのか、少子化に効果があるかは判断できないと考えるべきです。また、社会保障費や扶養控除の見直しは、いずれもみなさんがこれから稼いでいく給料に直接響いてきます。詳細を知っておくことはライフプランを組み立てる上でもとても重要です。今回の「方針」だけでなく、今後の少子化対策に関するニュースにぜひ高い関心をもって接してください。
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