少子化加速、年80万人割る出生数
岸田文雄首相が「従来とは次元の異なる少子化対策」を打ち出し、子ども・子育て政策を最重要課題と位置づけました。少子化対策は安倍晋三首相時代にも「最大の課題」とするなど歴代政権が取り組んできましたが、一向に歯止めはかからず、むしろ加速してきました。2022年の国内の出生数は、統計開始以来初めて80万人を割り込むと予想されています。今の大学生の世代は同い年が110万人ほどですから、少子化がいかに急速に進んでいるか分かりますね。「こども・子育て政策は最も有効な未来への投資」と語る岸田首相は子ども予算を将来的に2倍に増やす方針で、「今度こそ」と期待したいところですが、必要となる巨額の財源のめどは立っていません。今後の国会での議論に注目してください。少子化と人口減少は日本の経済の衰退につながる大問題であるとともに、子どもをほしい人が産み、育てられるかという一人ひとりの幸せの問題でもあります。仕事と子育てを両立しやすい会社かどうか、会社説明会で確認したり、ロールモデルとなる先輩社員に話を聞いたりしてみましょう。(編集長・木之本敬介)
三本柱は「経済支援」「保育支援」「働き方改革」
岸田首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べ、国会の施政方針演説では「急速に進展する少子化により、我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている。こども・子育て政策への対応は、待ったなしの先送りの許されない課題。こどもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と呼びかけました。
6月にまとめる政府の「骨太の方針」までに、①児童手当などの経済支援 ②学童や病児保育を含めた幼児・保育支援の拡充 ③育児休業強化などの働き方改革──を三本柱に、子ども予算倍増に向けた大枠を示す方針です。
(写真・衆院本会議で施政方針演説をする岸田文雄首相=2023年1月23日)
子育てへの公的支出はOECD平均の半分
政府が1990年代から取り組んできた少子化対策はまったく実を結んでいません。2022年に国内で生まれた日本人の子どもは、推計で77万3000人程度。第2次ベビーブームの1973年は209万人余りの子どもが生まれていましたが、その後は減少傾向が続き、1980年代のほぼ半分です。77万人台は政府の想定より11年も早く、少子化は一層加速しています。
その背景には、子育てや教育に国がお金をかけてこなかった現実があります。経済協力開発機構(OECD)の調査では、国内総生産(GDP)に対する子育てに関わる日本の公的支出の割合は2019年度で1.74%。スウェーデン(3.42%)、フランス(2.73%)を大きく下回ります。児童手当などの現金給付も0.65%で、OECD平均の1.16%の半分程度です。
「子育て、教育に冷たい国」返上なるか
教育への公的支出も低いレベルです。OECDが大学レベルの教育費の出どころについて2019年のデータで調べた報告書によると、日本は家計負担が52%で公的支出(33%)よりずっと多い割合。加盟国平均(22%)の倍以上で、比較可能な35カ国中4番目に高い水準でした(グラフ参照)。政府は2020年度から低所得世帯の学生に授業料減免と給付型奨学金を支給する修学支援の制度を始めていますが、OECDは「制度が導入されても私費負担に比べてまだ小さい」としています。報告書では、小学校から大学までの教育機関への2019年の公的支出が政府支出全体に占める割合も分析。日本は7.8%で、OECD平均(10.6%)を下回りました。GDPに占める割合でも、日本は2.8%でOECD平均(4.1%)を下回り、最下位は脱出したものの、比較できる加盟37カ国中36位でした。
日本は世界でも「子育て、教育に冷たい国」なのです。そこで岸田首相が打ち出したのが「異次元の少子化対策」で、高等教育の負担軽減に向けた出世払い型の奨学金制度の導入にも取り組むと表明しました。しかし、防衛費の大幅増額を先に決めた一方、子ども予算倍増の財源の議論はこれから。どこまで実現できるのか、国民の負担はどうなるのか、注視するとともに「自分事」として考えてみてください。
会社説明会で聞いてみよう
結婚や子どもを持つことは個人の選択です。結婚や子育てなどの希望がかなった場合に想定される「希望出生率」が1.8なのに、2021年の合計特殊出生率は1.30にとどまっています。国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査では、夫婦が理想の数の子どもを持たない理由の1位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」で、回答者の52.6%に上りました。アルバイトや派遣社員などの非正規雇用が増え、日本は一生懸命働いても、余裕がなくて、したくても結婚できない、ほしいのに子どもを持てない社会になってしまっていることが問題なのです。
将来、家庭を持って子どもも何人かほしいと考えている人も多いと思います。企業選びでは、給与水準や働き方についてもしっかり調べるようにしましょう。最近は働き方の改善や育児休業に積極的な企業が増え、採用ホームページでもアピールしています。キャリアセンターに置いてある『就職四季報』(東洋経済新報社)には、平均年収や有給休暇の取得率が載っています。会社説明会では、働き方や育休の取得率などについて質問してみてください。かつては、こうした質問はしづらい雰囲気がありましたが、今は本気で取り組んでいる会社なら、丁寧に答えてくれるはず。その回答から、企業の姿勢も読み取れますよ。
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