「世界の工場」「巨大市場」どうなる?
世界最多を続けてきた中国の人口が減少に転じました。高い成長を誇ってきた経済も、ゼロコロナ政策の影響で急減速しています。ゼロコロナは撤回されましたが、成長を支えてきた人口が縮小に転じたことで、かつてのような高成長は望めません。「世界の工場」「巨大市場」としてグローバル経済を支えてきた中国の変調は世界中に影響を与えます。日本にとっても中国は輸出入の2割超を占める最大の貿易相手国。多数の日本企業が中国に進出しており、工場などの拠点数は3万超にのぼります。中国での生産や売り上げに支えられている会社も多く、長期的にはビジネス展開に変化が求められそうです。就活の企業研究で、志望企業の中国との関係を調べてみましょう。面接などで話題に出るかもしれませんよ。(編集長・木之本敬介)
61年ぶりの人口減少なぜ?
中国の2022年末時点の総人口は14億1175万人で前年末から85万人減ったと、中国国家統計局が発表しました。人口が減るのは1961年以来、61年ぶり。最大の要因は急速に進む少子化です。2022年の出生数は前年比1割減の956万人と1949年の建国以来最少を更新しました。高齢化も進み、65歳以上は2億978万人と過去最多となり、人口比で約15%に上昇しました。国連は、人口増が続くインドが今年にも中国を抜いて人口世界一になると予測しています。
経済成長に影響する働き手の割合をみると、2022年の16~59歳の総人口に占める比率は62%で前年比0.5ポイント減りました。中国の定年年齢は原則、男性60歳、女性50歳(幹部職は55歳)に定められています。建国からこれまで人口が減ったのは1960年と翌年だけ。「建国の父」毛沢東が鉄鋼や穀物の増産計画を打ち出した「大躍進」政策で飢饉(ききん)が発生、多数の餓死者を出したためです。その後は急増し、中国政府は人口爆発を抑えようと、1979年から夫婦が産める子どもを原則1人に制限する「一人っ子政策」を導入。しかし制限しすぎて少子高齢化が進み、2016年から2人目、2021年からは3人目を解禁しましたが、女性の社会進出や教育費の高騰などもあって出生数の減少は止まっていません。
ゼロコロナ政策で大きく減速
2022年の国内総生産(GDP、速報値)も発表され、物価の影響を除く実質成長率は3.0%。2021年の8.4%から大きく減速し、習近平(シーチンピン、シュウキンペイ)指導部が掲げた「5.5%前後」の目標を大幅に下回りました。長く続いたゼロコロナ政策による混乱で企業の生産が止まり、消費が落ち込んだことが影響しました。経済を牽引(けんいん)してきた不動産市場も停滞。さらに人口減少も始まったことで、今後の成長率低下は避けられません。中国政府関係者によると習氏は「経済成長率で米国に負けてはならない」と周辺に語っているといいます。中国は2010年に日本を抜いて米国に次ぐ世界2位の経済大国となった後も急成長を続けてきました。少し前まで「経済規模で米国を追い抜くのはいつか」が話題でしたが、こうした予想を修正する動きが出始めています。日本経済研究センターは「2033年にも米中のGDPが逆転する」と予想してきましたが、昨年末、中国の成長鈍化で、経済規模で米国を抜くことはないとの見方に変えました。
中国経済の減速は世界に大きな影響を及ぼします。高い成長率と巨大消費が世界経済を引っ張ってきたからです。「世界同時不況」を招いた2008年のリーマン・ショックリーマン・ショックからの回復をリードしたのも中国でした。
輸出入も企業の拠点数も中国がダントツ
隣国の日本はとくに大きな影響を受けそうです。中国の軍拡や覇権主義が目立つようになった最近は、米中対立もあって日中関係は微妙になっていますが、経済では切っても切れない関係です。日本の輸出入総額(2021年)のトップは中国で全体の23%弱を占め、2位米国の14%を引き離しています。日本企業の海外拠点数(同)も1位は中国の約3万1000、2位の米国が9000弱ですからダントツです。
その中国の人口縮小と経済減速を受けて、日本企業はどう動くのでしょうか。企業のコーポレートサイトにあるIR(株主向け)情報を見ると、海外拠点や世界の地域、国別の売上高やその推移などが出ていると思います。企業は成長を求めて中長期戦略を練っています。中国の割合が高い企業は、東南アジアやインドなど南アジアとの関係をより深めようとしているかもしれません。人口爆発が続くアフリカに目を向ける企業もあるでしょう。中国経済が急に小さくなるわけではありませんし、高齢者や「お一人様」向けビジネスの中国での展開にも可能性がありそうです。企業研究で調べたことをベースに、面接の「逆質問」などで今後の展開について聞けば、きっと相手に刺さると思います。
●世界の人口80億人、インドが世界一に 日本は?企業は?考えよう【時事まとめ】
(写真・中国・上海市で開催された中国国際輸入博覧会には、東芝や三菱電機など約400社の日本企業が出展した=2022年11月5日)
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