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2022年04月13日

国際

国連は無力か!? ウクライナ侵攻で考える「安保理」「拒否権」…【時事まとめ】

国連総会決議無視するロシア

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、国連(国際連合)が毎日のようにニュースに登場しています。国連総会でロシアを非難し即時撤退を求める決議が2回も採択され、ウクライナで「重大かつ組織的な人権侵害」を行ったとしてロシアの国連人権理事会理事国の資格を停止する決議も採択しました。しかし、ロシアは侵略をやめないどころか、非人道的な攻撃や行いが次々に明らかになり、ウクライナ東部への攻撃をさらに強める姿勢です。国連は「国際の平和及び安全を維持する」ための組織ですが、機能不全に陥っているようにも見えます。ウクライナのゼレンスキー大統領は「国連改革」を世界に呼びかけています。国連は無力なのか。変えられるのか。今回は国連の「キホンのキ」を学びます。(編集長・木之本敬介)

(写真は、ゼレンスキー大統領の演説を聴き拍手を送る国連安全保障理事会=国連安保理のユーチューブから)

なぜ止められない?

 国連総会では3月4日、ロシアを非難し即時撤退を求める決議案を、加盟193カ国中141カ国の賛成で採択。続いて同24日には、ウクライナの人道危機を「ロシアの敵対行為の結果」として即時完全無条件撤退を求める決議も140カ国の賛成で採択されました。いずれも反対票を投じたのはロシアなど5カ国だけ。これだけの圧倒的多数による決議で世界の意思が明確に示されているのに、なぜロシアを止められないのでしょうか。総会決議には法的拘束力がなく、従わなくても何ら罰則がないからです。

 国連で最も大きな権限を持つのは「国際の平和と安全」を担う「安全保障理事会(安保理)」です。安保理決議には全加盟国に法的拘束力があり、国際社会で問題を起こしている国に経済制裁や武力行使も行うことができます。安保理は、会社でいえば意思決定を行う取締役会のようなものですね。

 ただし、この会議に参加できるのは193カ国中の15カ国。米国、英国、ロシア、フランス、中国の5カ国は「常任理事国」と呼ばれ、ずっと参加できる特別な立場にあります。残りの10カ国は任期2年で交代する非常任理事国です。常任理事国の最大の特権が「拒否権」です。安保理では拒否権を持つ国が1カ国でも反対すれば、残り14カ国が賛成しても決議案は通りません。

(写真は、米ニューヨークの国連本部=2021年4月)

第2次大戦の戦勝5カ国に特権

 なぜ、常任理事国の5カ国が特権を持っているのでしょうか。国連は、第2次世界大戦が終わった1945年10月にできました。第1次大戦後には「国際連盟」ができましたが、米国が参加しなかったうえ、日本、ドイツ、イタリアが次々脱退するなどして第2次大戦を防げませんでした。その反省に立ってつくられた今の国連は英語で「The United Nations」。直訳すると「連合国」です。第2次大戦で日独伊などの枢軸国と戦った戦勝国が主導して作った組織です。安保理決議に不満な国が脱退したらまた同じことになりかねないため、米英仏ロ中が拒否権を独占する仕組みにしたのです。

 第2次大戦でともに勝利した5カ国ですが、戦後は対立を深め、東西冷戦期には旧ソ連が拒否権を繰り返し発動。冷戦が終わった1990年から2009年までの拒否権は計23回で、年に1件程度に減りました。ところが、2011年に始まった中東シリア内戦については、独裁的なアサド政権を支持するロシアと中国が何度も拒否権を使い、親イスラエルの米国もパレスチナ問題をめぐって行使。2010年からの10年間の拒否権発動は計22回と約2倍のペースに増えるなど、近年はあまり機能していません。

国連改革、高いハードル

 ウクライナ危機をめぐっても、安保理で法的拘束力のある決議は一度も採択されていません。ウクライナのゼレンスキー大統領は4月5日、安保理にオンラインで出席し「国連システムは、拒否権が『死なせる権利』にならないように改革しなければならない」と主張。今回の侵攻に関してロシアを意思決定の場から排除するか、改革案を示すか、国連を完全に解体するかの三つが選択肢としてあると訴えて改革を迫りました。

 国連改革については日本政府も長年訴えています。ドイツやブラジル、インドと組んで常任理事国入りを目指す安保理改革の議論が盛り上がった時期もありました。しかし、拒否権に制限を加えたり、常任理事国を増やしたりする手続きも、常任理事国が反対したら進みません。特権を持つ国が自らの権限を弱めるような改革に積極的に賛成する動機は弱く、ハードルは極めて高いと言わざるを得ません。

(写真は、国連安保理で演説するゼレンスキー大統領=安保理のユーチューブから)

「国連はまだ生きている」

 ちなみに、国連憲章には日本、ドイツなど第2次大戦の敗戦国への武力行使などを容認する「旧敵国条項」が今もあります。国連憲章は第2次大戦終結前の1945年6月のサンフランシスコ会議で採択、署名されたからです。もちろん、旧敵国条項はいまや死文化しています。国連総会は1995年に旧敵国条項を「時代遅れ」とし、「将来の最も早く、適切な会期に憲章改正手続きを開始する」との決議を賛成155、反対ゼロで採択しました。削除の方針が国連特別首脳会議で確認されたこともありますが、憲章改正は容易ではなく、国連創設から70年が過ぎても削除の道筋は見えていません。国連改革はそれくらい難しい課題なのです。

 ロシアでプーチン政権が倒れるような事態になれば改革が動き出すかもしれませんが、その見通しもありません。それでも、常任理事国による侵略戦争を止められない国連のままでいいはずがありませんし、世界中の国が議論したり意思を示したりする場は国連しかありません。林芳正外相は記者会見で「国際社会の平和と安全に大きな責任を持つ国連安保理の常任理事国であるロシアの暴挙自体が、新たな国際秩序の枠組みの必要性を示している」と指摘。「各国の複雑な利害が絡み合い、決して簡単ではないと思うが安保理改革の実現に向けてリーダーシップを取っていきたい」と語りました。

 最初のロシア非難の総会決議の後、ウクライナのキスリツァ国連大使は「国連はまだ生きている。私は国連を信じている」と語りました。みなさんも希望だけは失うことなく、現状を理解したうえで、国連の動きに注目してください。

(写真は、ニューヨークの国連本部に掲げられている国連の紋章=2021年4月)

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