人事のホンネ

株式会社ブリヂストン

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」の2023シーズン第11弾は、世界トップシェアを競うタイヤメーカー、ブリヂストンです。2022年卒採用から、従来の「ポテンシャル(総合職)採用」に加えて「職種別採用」を導入しましたが、その狙いは? みなさんが悩むコロナ禍のガクチカはどこを見る? じっくりうかがってきました。(編集長・木之本敬介)

■コロナ禍での採用
 ──2022年卒採用を振り返っていかがでしたか。
 最終面接は対面でやりたかったのですが、コロナ禍が落ち着かず実施できませんでした。安全を優先しました。2022年卒の学生にはまだ一度も対面では会えていません。WEB選考でもしっかり話を聞いて、見極めやお互いのマッチングはできたと思います。ただ、学生の全身の雰囲気や仕草が分からず、学生も当社の印象や雰囲気が分からないので不安はあると思います。会えなくてさびしいという気持ちもありますね。

 ──コロナ2年目でしたが、2021年卒採用との違いは?
 2021年卒では「WEBでもしっかり見極めなきゃ」というところに意識がいっていましたが、今回は「もっと会社の雰囲気も伝えなきゃ」に変わりました。
 アイスブレイクの時間を意識的に設けました。対面では面接会場に学生を案内する際に自然と会話をしていましたが、WEB面接では意識しないと「じゃあ面接を始めます。あなたの学生時代は……」となってしまいます。出だしで一呼吸おいてから本題に入るようにしました。意図して学生をほぐす、スモールトークを挟むといったことをしないと、学生が用意した以外の回答を引き出すのが難しいのかなと。

 ──学生側はどうでしたか。
 学生はすごく慣れていましたね。対面のときは身だしなみなど面接のTPOがありますが、そのWEB版が確立されてきた気がします。目線に気を使う人が増え、話す要点をメモにまとめていた人もいます。

 ──メモを見ながら話すと印象が良くないのでは? 丸暗記よりはいい?
 メモを見ているからダメ、ということはありません。対面でも丸暗記はあったと思うので、メモなのか、丸暗記なのかという違いです。私が学生の立場でも準備する気持ちは分かりますし、WEB面接を戦略的に使っているとも捉えられます。ただ、用意した答えではなく、背景にある考え方を引き出したいので、そこを踏まえたうえで質問をします。そこで本人の言葉を引き出せれば、最初は緊張してメモを読んでいても、背景や思いは伝わってきます。

 ──WEB面接のメリット、デメリットを改めて。
 メリットは移動時間がかからないので学生の参加のハードルが下がること、デメリットはやはり会社の雰囲気を伝えづらいことですね。対面だと面接会場の後ろのほうで社員同士がちょっと話している様子からも「普段はこういうコミュニケーションを取るんだ」とか、たまたますれ違った社員の雰囲気から「こういう人が働いてるんだ」と伝わりますが、それがないので。

 ――説明会で工夫したことはありますか。
 マイページ上でいつでも見られるWEB説明会のほか、あえて台本を用意せず、同期の社員同士の座談会をして、普段の会話や雰囲気を伝えるような動画コンテンツを制作しました。5年目ぐらいの中堅社員と、入社2~3年の若手社員の2種類を用意しました。
 ライブ配信のイベントでは、会社全体や面接選考に関するQ&Aの時間を設けました。印象的だったのは車の中から参加した人がいたことです。部活などの合間に参加したんでしょうね。学生が力を入れている活動と就職活動を両立しやすくなったと思います。

 ――学生もカメラをオンにするのですか。
 「今日は一方的に聞く場だな」というモチベーションだとオフの率が高くなるので(笑)、冒頭で明るく「今日はコミュニケーションの時間も設けています」と伝えると、参加する姿勢になるようでオンにしてくれます。オンにしてくれる人が3分の2ぐらいに増えました。

■採用実績
 ──採用実績を教えてください。
 2022年卒の内定者は事務系が16人、技術系が高専卒2人を含めて39人です。2021年卒が事務系19人、技術系が50人だったので、少し減りました。

 ──男女比は?
 2022年卒の女性は事務系6人、技術系4人です。2022年卒から職種別採用を導入して、事務系は「Sales&Marketing職」「SCM職」「調達職」「法務職」「財務職」そして「ポテンシャル採用」に分けました。

やりたいことが明確な人は職種別 総合職は「どこでも頑張れる」人が応募

■職種
 ──2022年卒採用から、「職種別採用」と「ポテンシャル採用」(総合職)を選べるようにしたそうですね。
 これまでは総合職採用だけだったので、特定の職種を希望する人が踏ん切りがつかなかったり、入社後の配属でミスマッチが起こったりするケースがありました。そこで、学生の志向を尊重して、本人が活躍したいフィールドにマッチするように採用の形を変えて、総合職とどちらかを選べるようにしました。
 技術系は、専門性によりある程度配属先が絞られるとはいえ、たとえば化学系専攻一つとっても活躍できるフィールドは「研究開発職」といった基礎寄りの職種から「フィールドエンジニア」などのお客様に近い職種まで、多岐に渡ります。同じ会社の中でも職種によってかなり雰囲気が異なるケースもあるので、今回の変更で入社後の働き方がより具体的にイメージしやすくなったのではないかと思います。

 ──業務内容が明確な欧米流のジョブ型採用ですか。
 ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を公開して募集をしているわけではないので、ジョブ型採用とはいえないですね。あくまでも、入社後の配属を確約する職種別採用ということです。実際に働いてみて違うところに興味を持つ人もいます。入社時の配属は確約したうえで、入社後のキャリア選択は総合職も職種別の人も一緒というハイブリッド型です。学生からは意外とポジティブな声をもらいました。

 ──「意外」だった?
 事務系は総合職に応募が集中するんじゃないかと心配していました。結果的には、エントリーシート(ES)の募集時期が若干違うので単純比較はできませんが、職種別のほうが多く2対1ぐらいでした。「Sales & Marketing」に応募した学生がマーケティングを勉強してきたとは限らないのですが、部門の面接官に入ってもらったので、配属されうる人を直接見る機会があるのは「お互いにとってポジティブ」という声をもらいました。職種別採用で、当社がどんな人を求めているかが明確になった面もあったと思います。

 ──職種の中身について教えてください。
 「Sales&Marketing職」はいわゆる営業です。配属は営業系の部門で、商品企画や戦略を練るところも含まれています。

 ──営業って大変そうで、マーケティングは面白そうというイメージもありますが。
 マーケティングに興味を持つ学生は多いですね。でも当社の営業では、市場調査やマーケティングを踏まえて顧客のニーズを引き出すのも仕事です。営業とマーケティングを分けて募集するのは、逆にイメージの齟齬(そご)につながるのではないかと思い、あえて一緒にしました。

 ──「SCM職」とは?
 サプライチェーンマネジメントの略で、モノの流れを通して生産性の向上を考える物流や生産の企画職です。この分野を専攻している学生も多く、コロナ禍でEC(通販)が伸びて関心を持つ人が増えた印象です。

 ──「調達職」は?
 財務や法務のように会社の基盤を支える機能がありつつ、購買に近くサプライチェーンの「上流」に位置する、両方の機能を持つ職種だと学生には説明しています。採用ホームページ(HP)の情報や職種別のイベントを通して興味を持った学生が多かったようです。

 ──職種別に応募した学生のほうが企業研究をしっかりしていましたか。
 そんなことはありません。「このフィールドにやりたいことがある」と明確なのが職種別の人で、総合職には「どこでも頑張れる」と考えた人が応募してくれました。

 ──技術系には「デジタル職」がありますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材は企業間の取り合いですね。
 学生の印象は「ブリヂストンにDX人財っているの?」かもしれません。その印象を変えようと、近年はさまざまな施策を打ち出しています。2023年卒に向けては、学生向けのデータ分析コンペに出資したり、デジタル分野に特化したイベントを実施したりしました。
 また、デジタル人財の育成のため、新たに東北大学と共創拠点を設置したほか、文部科学省の推進する「ジョブ型研究インターンシップ」制度を利用した長期インターンシップの受け入れなど、産学間の連携強化にも力を入れています。

 ──技術系の学校推薦制度はありますか。
 はい。技術系では例年「学校推薦方式」「自由応募方式」の2方式で応募を受け付けています。2022年卒採用では、職種別を「学校推薦方式」、総合職を「自由応募方式」で募集しました。