人事のホンネ

京セラ

2023シーズン④ 京セラ《前編》
チャレンジ精神重視 判断基準は「人として何が正しいか」【人事のホンネ】

総務人事本部 人材開発部 横浜人材開発課 責任者 木村陽平(きむら・ようへい)さん

2021年10月06日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2023シーズン第4弾は、京セラです。創業者・稲盛和夫名誉会長の経営哲学「京セラフィロソフィ」が脈々と受け継がれています。多項目にわたるフィロソフィのうち、志望する学生に欠かせないのは、チャレンジ精神と「人として何が正しいのか」に共感できるかどうかだそうです。詳しくうかがってきました。(編集長・木之本敬介)

■コロナ2年目の2022年卒採用
 ──2022年卒採用を振り返っていかがですか。
 2022年卒の学生は面談が始まる前に緊急事態宣言が発令されたので、WEBでやりきるのか、最終は対面でやるのか悩みました。やはり学生がイベントや選考を受けることによってコロナに感染してはならない、安全・安心が第一だとチームメンバー内で意思統一ができたので、すべてWEBでも充実した面談になるよう早めに準備を進められました。

 ──2021年卒との違いはありましたか。
 2021年卒採用ではコロナ前に行ったインターンシップは対面でできたのですが、2022年卒はインターンからすべてWEBになりました。学生にとって、WEBだけで決めてしまっていいのかは迷うポイントです。6月~7月はコロナ感染も比較的落ち着いたタイミングだったこともあり、少人数のフォロー会を行いました。迷っている学生に腹落ちしてもらうために、実際に会社に来てもらったんです。来てくれた学生は、WEBで感じた社員同士の仲の良さや温かさを改めて感じることができたと言ってくれましたし、最終的に納得して入社を決めてもらえました。 

 ──コロナ下2年目の採用で工夫したことはありますか。
 面談者のトレーニングですね。WEBだと面談者の表情や声のトーンで圧迫感を感じる学生もいます。WEBでも会社や社員の人となりが分かるよう、表情や話しかけ方についてアドバイスをしました。対面だと言葉少なに座っていても、うなずいたり反応を示したりすることで学生も「聞いてもらえてるんだ」と安心できます。一方でWEBだとそうした動きが読みづらいので、「いつもより3割増しで反応するように」と、面談者やインターンを担当する若手社員にお願いしました。学生は緊張しているので、まずはにこやかに笑顔で迎え入れてあげることも大事です。我々も普段の仕事をリモートでやっていますから、社員がWEBでのコミュニケーションにだんだん慣れてきたこともあると思います。
 内々定者アンケートを2021年卒と比較すると「社員の人となりが分からなかった」という回答が減りました。

 ──WEB説明会で工夫したことは?
 オンライン会議アプリのアンケート機能を使ったり、関連するURLをチャットに貼りつけたり、情報提供やコミュニケーションの取り方を工夫しました。「京セラに興味を持っているけれども、何をやっている会社か分からない」といった疑問に対して、対面よりきめ細かく、たくさんの情報を提供することができました。そこはメリットの一つだと思います。

■選考プロセス
 ──2022年卒採用の選考スケジュールを教えてください。
 3月からエントリーシート(ES)の受付を開始しました。文理ともに、ES提出とあわせて、適性検査を受けてもらっています。ESと適性検査の結果を踏まえて書類選考を行い、通過した学生には、本人の希望するプロダクトや職種の各部門の責任者とWEBですり合わせなどを行い、6月から順次選考して合否を決定しました。

 ──夏採用や秋採用は?
 2022年卒から通年採用を始めました。理系の博士課程の人、外国籍の人、海外の大学に留学している人は卒業時期が違うので、こうした人を積極的に採用するためです。30歳までの既卒者にも門戸を開いています。随時受け付けていて、いい人がいれば採用する形です。早速この10月にも数名が入社しました。多様な人材に来てもらうことで新しい知見やアイデアが生まれ、会社の成長につながると考えています。
 スモールスタートでまずは試験的に始めたので「通年採用始めました!」と大々的なアピールはしていません。海外留学生向けのWEBセミナーやフォーラムで京セラに興味のある学生と接触して、「興味あれば応募しませんか」と話しています。おかげで、これまで採用できなかった多様なバックグラウンドを持った良い人材と接触できていて、これから入社する予定の人もたくさんいます。

 ──2022年卒のエントリー数は?
 コロナでWEB化が進んだ影響か、マイページ登録数は約1.5倍に増えましたが、その後ESを提出してもらえる比率は下がっています。WEBでいろんな企業を見るようになって、とりあえずエントリーしておこうという感じなのでしょうか。京セラという会社名がある程度認知されている実感は持てたのですが、その後の応募につなげるにはまだまだ改善の余地があると考えています。

とがった人材求めるオンリーワンコース

■採用実績
 ──2022年卒の内定者数と文理の比率を教えてください。
 400人弱の採用を予定しています。うち約300人が理系で、そのうち8割が大学院卒です。

 ――男女比は?
 全体では男性8割、女性2割くらいですが、理系は男性が9割程度です。文系の営業管理部門の女性比率は5割以上です。いずれ技術職の女性を15%まで上げたいという目標を持っています。

 ──京セラは京都の会社ですが、出身地は関西が多いのでしょうか。
 出身地の統計は取っていないんですが、出身大学の内訳でいうとだいたい関西が5割を占め、関東が3割5分、鹿児島に大きな生産拠点があるので残りは九州の大学になります。
 とくに学生数が多い首都圏は今後も活動を強化したいと考えています。イメージから「関西企業」と思われがちですが、実は首都圏や東日本にも営業拠点や開発製造拠点が多くあります。また、関西地区や、鹿児島で働く関東出身者も多くいます。生活も便利だし、みなその土地になじんで生活しています。WEB見学会などを行って、拠点の雰囲気を知ってもらえるようにしたいですね。

■コース
 ──採用は、「営業管理コース」「技術コース」「オンリーワンコース」の3コースで、営業管理はさらに「チャレンジコース」と「職種別採用コース」に分かれていますね。
 「職種別採用コース」は、文系の専門職に近い経理部門と法務部門です。
 「チャレンジ採用コース」は総合職採用です。選考の段階で本人から「営業がいい」「物流に関心がある」「管理部門に行きたい」と希望は出してもらいますが、実際の配属先は内定後に希望調査をして決定します。

 ――「技術コース」は理系の総合職ですね。
 京セラは多角的に事業を展開しており、多数のプロダクトラインがあります。技術系の学生にはそれぞれの特色を理解してもらったうえで応募してもらい、選考の段階で希望部門とマッチングの面談をしていくので、配属は内々定の時期に決まります。

 ──「オンリーワンコース」はどういうものですか。
 5年ほど前にできた「一芸入社」のようなコースです。創業者である稲盛和夫名誉会長の経営哲学「京セラフィロソフィ」に「誰にも負けない努力をする」という項目があります。勉強や部活動でも何でもいいので誰にも負けない努力をしてきたことをアピールしてもらい、選考します。多様な人、ちょっととがった人材に来てもらうのが目的です。

 ──採用ホームページには、「運動」「学術・研究」「ビジネス」といった分野が例示されていますが、実際にはどんな人が来ますか。
 応募が多いのは部活動ですね。「ラクロスで日本一になりました」とか「カヌースプリント競技でオリンピック代表候補になりました」とか。体育会系に限定しているわけではないんですが、実際には6~7割が体育会系の部活ですね。

 ──体育会以外だと?
 たとえば「地元活性化のために友人と養蜂業を起業して、ハチミツを地域名産品にしました」とか、文化系の活動では「模擬国連の世界大会で優秀賞を取りました」とかですね。3年ほど前には「有名テーマパークのアルバイトとして働いていて、年間MVP賞を取りました」とアピールして入社した社員もいます。
理系・文系問わずに募集しています。「プログラミングコンテストで世界の何本の指に入りました」みたいな人にも、ぜひ来てもらいたいですね。

 ──全国的、国際的な成果が必要ですか。
 いろいろと考えていて、努力して実績を残すのも大事ですが、「能力を未来進行形でとらえる」ことも大事にしたいと。熱意も見たいし評価していく必要があると思っています。「過去にこんな輝かしい実績があります」という人だけでなく、「入社したらこういうことをしてみたいです」というPRの仕方もあるのかなと思っています。それを評価するのは非常に難しいところではありますが、現在模索中です。

 ──学生の認知度も高まっていると思いますが、人気は?
 開始当初は10数人程度の応募でしたが、年々応募者が増えて直近では100名近い応募者数になっています。