人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2023シーズン第1弾、伊藤忠商事の後編です。SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業に興味がある人は多いと思いますが、「SDGsをやっているから伊藤忠に行きたい」は本末転倒だといいます。いったいどういうことでしょう? コンサルとのビジネススタイルの違いやトラブル続きの現場体験の話から、「商社3冠」の秘訣も見えてきました。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら)
■DX人材
──DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。DX人材枠を設けて採用を始めた商社もあります。
2022年卒採用ではDX人材枠は設けず、人物本位での評価を貫きました。2023年卒採用でどうするかはまだ決まっていません。会社としては非常に必要な人材です。DXに特化した部署を新設し、特化した人員を全社から集めて横串を刺す形でプロジェクトも始めました。一方でDX人材を新卒に頼って採用するのは必ずしも正解ではなく、キャリア採用などで採るのが正しいのかなと今は思っています。
■配属
──以前は一部「配属先決め採用」をしていましたね。
今はいったん凍結しています。就活時点での本人の志と適性が一致しないパターンが多く、より良いマッチングのためになくしました。学生のやりたいことと会社の適性を模索して最善の方法を考えたいと思っています。
──最近は、「早く成長したい」「どこでも通用する力を早く身につけたい」と転職や独立を視野に入れて就活する学生や、やりたいことが明確で扱いたい商材がはっきりしている学生も多いといわれます。
成長スピードを求めて、外資コンサルや外資銀行を志望する学生が多いことは感じています。すごい量の仕事を受け持ち、それを切り抜けてキャリアアップしていくのですが、我々の求める人材とこういった働き方はイコールではありません。我々はよく「挑戦心」「厳しくとも働きがいのある」という言い方をします。働きがいは上司や周囲がくれるものではなく自分でつくっていくものです。自分から挑戦する人、仕事が降ってくるのを待つんじゃなくて先輩の仕事を奪うくらいの人に来てほしい。伊藤忠の機能や魅力、社員にほれて、共感して、伊藤忠に来てほしい。そこは二の次で「入れば成長できますよね?」だと、ちょっと違います。やりたいことが明確な場合も似ていて、「伊藤忠は〇〇の商材に強いので、それがやりたくて目指しています」も違います。商社の機能や伊藤忠という会社にほれて共感したうえで「この商材が担当できたら最高です」なら大歓迎です。
■インターンシップ
──2023年卒向けのインターンシップについて教えてください。
まだ決まっていません。夏は例年やっていなくて、2022年卒向けは3年生の12月に行いました。対面2日間、WEB2日間の計4日間で、班に分かれてビジネスプランを考えてもらい、現役の社員が精査しました。
──インターンからの採用ルートは?
ルートも先行採用もありませんが、12月から知っているので、6月の面接のとき「ここが良かった〇〇さんだな」と分かります。彼らもインターンを通じて会社や業界の理解が相当深まっていますし、伊藤忠への思いを強くしてくれているので、やりたいことも明確に話せて、選考で印象を残しやすい傾向はあると思います。
■ニュース
──商社では国際ニュースなどが大事だと思いますが、面接で聞きますか。
面接官に任せています。私が受けたときは聞かれました。
今は情報があふれてデマや噂話も真実もある中で、自分から情報を取りにいって、正しいのか正しくないのか、自分に必要なのか否かを判断する力は商社パーソンにとって非常に重要です。学生も世の中で何が起きているのかを知る自分なりの情報のリソースを持って、会話で出た話題について「あのニュースのことだな」と瞬時に把握し、自分なりの考えを言えるようになってほしい。そうしないと世の中の流れに置いていかれるし、社会人として信用も得にくいと思います。
伊藤忠商事
2023シーズン① 伊藤忠商事《後編》
「SDGsやってるから」は本末転倒 ほれて共感して志望を【人事のホンネ】
人事・総務部 採用・人材マネジメント室 古山馨(ふるやま・かおる)さん
2021年09月01日
「僕ってどんな人?」質問して書き出す 4カ月かけた自己分析
■社風
──どんな社風ですか。
ひと言で言い表すのは難しいですが、「家族」のような会社だなと思いますし、「無邪気」な人が多いと思っています。最近はコロナの影響もありまったくできていませんが、かつて自分の部署で飲み会を開いたときは、お店選びもプレゼント交換も誰よりも上司が真剣に向き合ってました(笑)。部署のメンバーはあくまでも仕事の仲間ですが、こういったプライベートの時間でつながりを深めることがその後の社内での仕事上での対話をより円滑にすることをよく知っているからだと思います。
──伊藤忠には、働き方改革も含め、資源系に強い旧来型の商社とは異なるスマートな印象もあります。
スマートだとは思いませんが、経営判断は早いですね。資源分野だけでは他社に勝てなかったとき、それでも資源を追い求める選択肢もありましたが、素早く非資源に舵を切りました。
──株価、時価総額、純利益の「商社3冠」を取りました。意識の変化は?
良い意味で、ないと思います。3冠はうれしいのですが、トップ3じゃなかった時代が長いので、いつ戻るか分からないという危機感をみんな持っています。昨日売れたものが明日も売れるとは限りません。私が営業にいたときも、ある年うまくいっても翌年には他社が真似てきました。それに勝つためにまた新しいビジネスモデルを創る。その繰り返しが染みついており、常に追いつかれる危機感を持ちながら働いています。
■SDGs
──ここは本社横の「SDGs Studio」です。SDGsに力を入れていますね。
SDGsを重視していることは間違いありません。新たなビジネスチャンスがあり、社会的なトレンドです。学生もそうした動きに敏感であってほしいですね。ただ「SDGsをやっているから伊藤忠に行きたい」というのは本末転倒です。伊藤忠がSDGsに取り組んでいるのは、今の世の中で求められているから、というのももちろんそうですが、伊藤忠は常に世の中が求めているものをいち早く発見し、「三方よし」の企業理念に合致すれば速やかに動く、これを実践しているからということだと思います。学生の皆さんにも、そこはしっかり見てほしいと思います。
■古山さんの就活
──古山さんの就活について教えてください。
2011年入社です。リーマン・ショックの影響で前年から「氷河期」と言われていました。
スペイン留学から帰ったのが大学3年の夏。みんなもう就活っぽいことを始めていて、私も秋に合同企業説明会に行きましたが、しっくりこなくて。どういう業界のどんな会社に行きたいのか分からないまま合同説明会に出てもつらいと思い、11月から3月初めまでずっと自己分析をしていました。
──4カ月間も何を分析したのですか。
小中高大の友人や家族に「僕ってどんな人だと思う?」みたいな質問をして、プラスもマイナスも、人からの印象や評価をひたすらノートに書き出しました。「面倒見がいい」という評価なら、どうして面倒見がいいのか、いつの友だちが言ったのか、ツリー形式で5回くらい問いを投げかけると原体験にたどりつく。それを繰り返し、どう育ってきたどんな人間なのかを理解したうえで、どういう会社で何をしたいのかを考え、それを軸に会社を探しました。完了したのは3月7日でした。
──何をもって「完了」だったのですか。
自分の性格、やりたいこと、どうしてやりたいのかを、自分の言葉で説明できる自信が持てたことです。その結果、商社、海運、コンサルティング業界を志望しました。そこからは3業界とカルチャーマッチしているかを知るため、ひたすらOB・OG訪問をしました。コンサルと商社では、より最後まで顧客に寄り添い続けるビジネススタイルの商社に興味があり、海運と商社ではより「人」に特化した商社に興味がありました。のべ30人ほどに会いましたが、伊藤忠はゼロ。たまたまOBが見つからなかったのですが、当時は志望度も低かったんです。
──ではなぜ伊藤忠に?
選考が始まるとダントツの第1志望になりました。5大商社のうち4社の1次面接に呼ばれ、いずれも突破しましたが、合格の連絡が伊藤忠だけメールではなく電話だったんです。数千人の応募者から私の名前と電話番号を見つけてかけてくれた。その手間を惜しまず、電話の口調も新入社員を選ぶというより一緒に働く仲間を探す雰囲気が伝わってきました。こういう会社なら、「人」を大事にするだろうと。その感覚を元に各商社を分析した時の自分のノートを見直したら、伊藤忠は仲間意識が強く、家族のような会社だと改めて分かりました。他社からも内定をもらいましたが、こうした対応や社風が決め手になりました。
それと、最終面接で「あなたの夢は何ですか」と聞かれました。私の答えを聞いた面接官の表情が温かくて、若い人の夢を聞くことに喜びを感じているようでした。そういう人が上にいる会社はいいな、と思ったのも覚えています。
──どんな夢を語ったのですか。
大学の専攻が国際関係論の平和学で、戦争が起きる理由について分析し、資源と宗教と思想によって起きると結論づけました。人の思想と宗教は変えられないが、資源の供給を通じてなら変えられる。「いつの日か『自分が資源の安定供給と安全供給を通じて、世界平和に貢献する』ことが夢です」と答えました。「夢」について聞かれたのは伊藤忠だけでした。なんだかうれしかったですね。
──どんな社風ですか。
ひと言で言い表すのは難しいですが、「家族」のような会社だなと思いますし、「無邪気」な人が多いと思っています。最近はコロナの影響もありまったくできていませんが、かつて自分の部署で飲み会を開いたときは、お店選びもプレゼント交換も誰よりも上司が真剣に向き合ってました(笑)。部署のメンバーはあくまでも仕事の仲間ですが、こういったプライベートの時間でつながりを深めることがその後の社内での仕事上での対話をより円滑にすることをよく知っているからだと思います。
──伊藤忠には、働き方改革も含め、資源系に強い旧来型の商社とは異なるスマートな印象もあります。
スマートだとは思いませんが、経営判断は早いですね。資源分野だけでは他社に勝てなかったとき、それでも資源を追い求める選択肢もありましたが、素早く非資源に舵を切りました。
──株価、時価総額、純利益の「商社3冠」を取りました。意識の変化は?
良い意味で、ないと思います。3冠はうれしいのですが、トップ3じゃなかった時代が長いので、いつ戻るか分からないという危機感をみんな持っています。昨日売れたものが明日も売れるとは限りません。私が営業にいたときも、ある年うまくいっても翌年には他社が真似てきました。それに勝つためにまた新しいビジネスモデルを創る。その繰り返しが染みついており、常に追いつかれる危機感を持ちながら働いています。
■SDGs
──ここは本社横の「SDGs Studio」です。SDGsに力を入れていますね。
SDGsを重視していることは間違いありません。新たなビジネスチャンスがあり、社会的なトレンドです。学生もそうした動きに敏感であってほしいですね。ただ「SDGsをやっているから伊藤忠に行きたい」というのは本末転倒です。伊藤忠がSDGsに取り組んでいるのは、今の世の中で求められているから、というのももちろんそうですが、伊藤忠は常に世の中が求めているものをいち早く発見し、「三方よし」の企業理念に合致すれば速やかに動く、これを実践しているからということだと思います。学生の皆さんにも、そこはしっかり見てほしいと思います。
■古山さんの就活
──古山さんの就活について教えてください。
2011年入社です。リーマン・ショックの影響で前年から「氷河期」と言われていました。
スペイン留学から帰ったのが大学3年の夏。みんなもう就活っぽいことを始めていて、私も秋に合同企業説明会に行きましたが、しっくりこなくて。どういう業界のどんな会社に行きたいのか分からないまま合同説明会に出てもつらいと思い、11月から3月初めまでずっと自己分析をしていました。
──4カ月間も何を分析したのですか。
小中高大の友人や家族に「僕ってどんな人だと思う?」みたいな質問をして、プラスもマイナスも、人からの印象や評価をひたすらノートに書き出しました。「面倒見がいい」という評価なら、どうして面倒見がいいのか、いつの友だちが言ったのか、ツリー形式で5回くらい問いを投げかけると原体験にたどりつく。それを繰り返し、どう育ってきたどんな人間なのかを理解したうえで、どういう会社で何をしたいのかを考え、それを軸に会社を探しました。完了したのは3月7日でした。
──何をもって「完了」だったのですか。
自分の性格、やりたいこと、どうしてやりたいのかを、自分の言葉で説明できる自信が持てたことです。その結果、商社、海運、コンサルティング業界を志望しました。そこからは3業界とカルチャーマッチしているかを知るため、ひたすらOB・OG訪問をしました。コンサルと商社では、より最後まで顧客に寄り添い続けるビジネススタイルの商社に興味があり、海運と商社ではより「人」に特化した商社に興味がありました。のべ30人ほどに会いましたが、伊藤忠はゼロ。たまたまOBが見つからなかったのですが、当時は志望度も低かったんです。
──ではなぜ伊藤忠に?
選考が始まるとダントツの第1志望になりました。5大商社のうち4社の1次面接に呼ばれ、いずれも突破しましたが、合格の連絡が伊藤忠だけメールではなく電話だったんです。数千人の応募者から私の名前と電話番号を見つけてかけてくれた。その手間を惜しまず、電話の口調も新入社員を選ぶというより一緒に働く仲間を探す雰囲気が伝わってきました。こういう会社なら、「人」を大事にするだろうと。その感覚を元に各商社を分析した時の自分のノートを見直したら、伊藤忠は仲間意識が強く、家族のような会社だと改めて分かりました。他社からも内定をもらいましたが、こうした対応や社風が決め手になりました。
それと、最終面接で「あなたの夢は何ですか」と聞かれました。私の答えを聞いた面接官の表情が温かくて、若い人の夢を聞くことに喜びを感じているようでした。そういう人が上にいる会社はいいな、と思ったのも覚えています。
──どんな夢を語ったのですか。
大学の専攻が国際関係論の平和学で、戦争が起きる理由について分析し、資源と宗教と思想によって起きると結論づけました。人の思想と宗教は変えられないが、資源の供給を通じてなら変えられる。「いつの日か『自分が資源の安定供給と安全供給を通じて、世界平和に貢献する』ことが夢です」と答えました。「夢」について聞かれたのは伊藤忠だけでした。なんだかうれしかったですね。
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