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2023シーズン① 伊藤忠商事《後編》
「SDGsやってるから」は本末転倒 ほれて共感して志望を【人事のホンネ】

人事・総務部 採用・人材マネジメント室 古山馨(ふるやま・かおる)さん

2021年09月01日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2023シーズン第1弾、伊藤忠商事の後編です。SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業に興味がある人は多いと思いますが、「SDGsをやっているから伊藤忠に行きたい」は本末転倒だといいます。いったいどういうことでしょう? コンサルとのビジネススタイルの違いやトラブル続きの現場体験の話から、「商社3冠」の秘訣も見えてきました。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■DX人材
 ──DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されています。DX人材枠を設けて採用を始めた商社もあります。
 2022年卒採用ではDX人材枠は設けず、人物本位での評価を貫きました。2023年卒採用でどうするかはまだ決まっていません。会社としては非常に必要な人材です。DXに特化した部署を新設し、特化した人員を全社から集めて横串を刺す形でプロジェクトも始めました。一方でDX人材を新卒に頼って採用するのは必ずしも正解ではなく、キャリア採用などで採るのが正しいのかなと今は思っています。

■配属
 ──以前は一部「配属先決め採用」をしていましたね。
 今はいったん凍結しています。就活時点での本人の志と適性が一致しないパターンが多く、より良いマッチングのためになくしました。学生のやりたいことと会社の適性を模索して最善の方法を考えたいと思っています。

 ──最近は、「早く成長したい」「どこでも通用する力を早く身につけたい」と転職や独立を視野に入れて就活する学生や、やりたいことが明確で扱いたい商材がはっきりしている学生も多いといわれます。
 成長スピードを求めて、外資コンサルや外資銀行を志望する学生が多いことは感じています。すごい量の仕事を受け持ち、それを切り抜けてキャリアアップしていくのですが、我々の求める人材とこういった働き方はイコールではありません。我々はよく「挑戦心」「厳しくとも働きがいのある」という言い方をします。働きがいは上司や周囲がくれるものではなく自分でつくっていくものです。自分から挑戦する人、仕事が降ってくるのを待つんじゃなくて先輩の仕事を奪うくらいの人に来てほしい。伊藤忠の機能や魅力、社員にほれて、共感して、伊藤忠に来てほしい。そこは二の次で「入れば成長できますよね?」だと、ちょっと違います。やりたいことが明確な場合も似ていて、「伊藤忠は〇〇の商材に強いので、それがやりたくて目指しています」も違います。商社の機能や伊藤忠という会社にほれて共感したうえで「この商材が担当できたら最高です」なら大歓迎です。

■インターンシップ
 ──2023年卒向けのインターンシップについて教えてください。
 まだ決まっていません。夏は例年やっていなくて、2022年卒向けは3年生の12月に行いました。対面2日間、WEB2日間の計4日間で、班に分かれてビジネスプランを考えてもらい、現役の社員が精査しました。

 ──インターンからの採用ルートは?
 ルートも先行採用もありませんが、12月から知っているので、6月の面接のとき「ここが良かった〇〇さんだな」と分かります。彼らもインターンを通じて会社や業界の理解が相当深まっていますし、伊藤忠への思いを強くしてくれているので、やりたいことも明確に話せて、選考で印象を残しやすい傾向はあると思います。

■ニュース
 ──商社では国際ニュースなどが大事だと思いますが、面接で聞きますか。
 面接官に任せています。私が受けたときは聞かれました。
 今は情報があふれてデマや噂話も真実もある中で、自分から情報を取りにいって、正しいのか正しくないのか、自分に必要なのか否かを判断する力は商社パーソンにとって非常に重要です。学生も世の中で何が起きているのかを知る自分なりの情報のリソースを持って、会話で出た話題について「あのニュースのことだな」と瞬時に把握し、自分なりの考えを言えるようになってほしい。そうしないと世の中の流れに置いていかれるし、社会人として信用も得にくいと思います。…続きを読む

みなさんに一言!

 「ガクチカ」に縛られてほしくありません。それより人生で何を大事にしてきたのか、人生の軸は何かを見てほしい。よく「体育会系の部活をやっているほうがいいんですか」「海外留学をしているほうがいいんですか」と聞かれますが、我々はその選択をした経緯、成し遂げる中で得た経験、身についた人間性を見ています。結果より過程に目を向けてほしいですね。部活に入らない、留学しないという判断をしたなら、そこで大事にしたかったものは何なのか。だから自己分析が大事です。最近2~3年と向き合うんじゃなくて、二十何年間の人生で自分が何を大事にしてきて、何をやりたいのかと向き合ってほしい、それが分かれば社会人になって企業で何をして、社会にどう貢献したいのかが分かると思います。
 面接は必ずしも企業が学生を選ぶだけじゃなく、学生のみなさんが企業を選ぶ瞬間でもあります。自分が企業を選ぶと認識することで、より対等でより良い会話が生まれると思います。「選んでもらう」と思うと、カスタマイズした自分になってしまいます。就活は、自分と会社が本音をぶつけ合い、お互いが評価し合い、響き合って行く先が決まる世界だと思ってほしい。だから素の自分で勝負してください。そして、何より楽しんでほしい。僕も今年、たくさんの学生の皆さんと出会い、刺激をもらうことを楽しみにしています。

伊藤忠商事

【総合商社】

 伊藤忠商事株式会社は、1858年初代伊藤忠兵衛が麻布の行商で創業したことにはじまり、一世紀半にわたり成長を続けてまいりました。現在は世界62ヶ国に約100の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しております。

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