話題のニュースを総ざらい!面接で聞かれる!就活生のための時事まとめ

2025年02月28日

国際

トランプ就任1カ月 「洪水」のなかでも目をこらすべき「国際課税」と「人員削減」【時事まとめ】

「フラッド・ザ・ゾーン」戦略

 就任から1カ月あまり、トランプ米大統領のニュースを目にしない日はありません。関税の発動や「DEI」(多様性・公平性・包摂性)推進の取り組み廃止、ロシアウクライナの停戦交渉にも乗り出し、パレスチナ自治区ガザ地区をアメリカが「所有」する意向を示すなど、質量ともにインパクトあるメッセージを打ち出し続けています。アメリカのメディアはトランプの戦略を、大量の情報をあふれさせて批判をかわす「フラッド(洪水)・ザ・ゾーン戦略」と呼んでいます。

 情報の洪水のなかでおもわず思考をとめてしまいたくなりますが、そんななかでも目をこらしてチェックしておきたい動きがいくつかあります。今回は、トランプ政権がすすめる政策のなかで2つのポイントに注目してまとめてみました。(編集部・福井洋平)
(写真・日米首脳会談の共同記者会見で発言するトランプ米大統領=2025年2月7日/写真はすべて朝日新聞社)

東大院教授が注目「国際課税に参加せず」

 朝日新聞デジタル版には、政権発足以降にトランプ氏が署名した大統領令(大統領覚書、布告も含む)を「関税・通商」「国際関係」「多様性」など分野ごとに時系列まとめた特設ページを設けています(リンクはこちらから)。トランプ情報の「洪水」を整理するためにもちょうどよいページです。

 この記事に、政治学者の遠藤乾・東大院教授がコメントを寄せ、いくつか注目すべきポイントを指摘しています。重要な指摘と思いますので、今回2点紹介したいと思います。

 ひとつは、1月20日に出した「国際課税に参加せず」という覚書です。遠藤教授は「グローバルな資本の移動については、貿易と違って、できるだけ無規制にしておきたい、という志向性が見て取れる」としています。どういうことでしょうか。
(写真・日米首脳会談に臨むトランプ米大統領=2025年2月7日)

「課税逃れ」防ぐルールから離脱表明

 国際課税制度とは、国際的に活動する企業や個人の課税関係を調整する仕組みのことです。経済のグローバル化やデジタル化が進んだことで、IT大手のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など世界中で活動する企業の規模は拡大しています。世界各国で法人税率には違いがあり、支店などの物理的拠点がない国は課税ができないという原則もありました。これを利用し、多国籍企業は低い税率の国や地域に稼ぎを移すことで実際に利益をあげている国には税金をおさめないという「課税逃れ」をしてきました。

 この「課税逃れ」を防ぐためのルールをつくろうという交渉が2012年から経済協力開発機構(OECD)を中心にスタート。2021年には日本や米国を含む約140カ国・地域が参加する新たな国際課税ルールがまとまりました。まず法人税に共通の最低税率を設け、税率は「15%以上」にすること。そして巨大IT企業のように支店などの拠点がない国でも大きな利益を出している多国籍企業に対し、サービスの利用者だけがいる国も部分的に課税できる「デジタル課税」を創設することが、新ルールの大きな柱です。

 GAFAはいずれもアメリカ発祥の企業ということもあり、第一次トランプ政権は交渉に消極的でしたが、その後をついだバイデン政権はコロナ禍で財政が悪化したこともあり積極姿勢に転じ、2021年の新ルール合意につなげました。その後、OECDの加盟国は国際的なデジタル課税ルールを検討してきましたが、トランプ氏は就任初日の1月20日に、OECDのルールは米国に適用されないとする文書に署名。新ルールの実現は絶望的となりました。
(写真・グーグルのロゴ=米カリフォルニア州マウンテンビュー)

自由貿易には反し、多国籍企業には自由な活動をさせる

 トランプ氏はさらに2月21日、米国のIT企業などに独自に課税する国に対して、関税で報復する覚書に署名しています。GAFAなどIT分野で世界をリードする米企業に対し、独自に多国籍企業にかけるデジタルサービス税(DST)をかけている国もあり、トランプ氏はそれを念頭に「デジタルに関して、他国が我々にやっていることは不快だ」と述べています。さきに述べたOECDルールが発効すれば、自国のDSTを撤廃するとしてきた国もあります。トランプ氏がOECDルールへの不参加を表明したことで、逆にDST導入に動く国も現れ、それにトランプ氏が関税で報復するという可能性も出てきているのです。

 トランプ氏はみずから「タリフマン=関税男」と名乗り、アルミニウムや鉄鋼をはじめさまざまな輸入品につぎつぎと高関税をかける政策を打ち出しています。安い輸入品を排除し、自国アメリカの産業を育てるための政策で、自由貿易の流れには反する動きです。しかし一方で国際課税をめぐる動きについては他の国が課税する動きにストップをかけ、多国籍企業が自由に活動できるように後押しをしているわけです。どこまでも、アメリカファーストな姿勢が見てとれます。格差の是正、利益の分配といった理念に背を向け、強いものがさらに強くなる世界をトランプ氏はめざしていると考えたほうがよいでしょう。

マスク氏はUSAID「犯罪組織」と言い切る

 もうひとつ、遠藤教授が「戦慄する」と指摘しているのが、政府機関の人員削減方針です。

 就任直後、トランプ氏は「政府効率化省(DOGE)」を大統領府内に新設する大統領令に署名。トップには「X(旧ツイッター)」オーナーでもある起業家イーロン・マスク氏がつきました。そして2月11日にはやはり大統領令で各省庁に大規模な人員削減を命じ、新規採用は限定的に認めるが政府効率化省と協議するよう定めたのです。

 トランプ氏は首都ワシントンの官僚機構を敵とみなし、民主党が力を入れてきた国際支援や多様性推進といったリベラルな政策に携わってきた職員をターゲットに「改革」を断交すると意気込んでいます。その意を受けているマスク氏は米国の対外援助の多くを担ってきた米国際開発局(USAID)について「犯罪組織」と言い切り「すべて取り除かなければいけない」として解体を要求。約1万人いる職員の大半は休職を命じられており、最終的には290人程度まで規模を削減する計画だと米紙は報じています。

 トランプ氏が所属する共和党はもともと「小さな政府」を志向しており、政府機関の縮小という政策は新しいものではありません。しかしトランプ政権の一連の動きは、政府の何が無駄かについて精密に見極める作業よりも、スピード感やわかりやすさを最優先しているように思えます。「敵」と決めつけて職を奪うやり方は職員を萎縮させ、政権に歯止めがかからない状況を生み出すことにもつながりかねません。
(写真・ドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の選挙集会に、オンライン参加したイーロン・マスク氏=2025年1月25日)

批判勢力の排除めぐる動きには特に注意を

 トランプ氏は2月15日、SNSに「国を救う者はいかなる法律にも違反しない」と投稿。司法を軽視するような言い分で、米メディアは批判的に報じています。また、連邦議会が法律に基づいて決めた仕組みを無視するような施策も出していますが、上下両院とも過半数を握る共和党は「トランプ氏に服従している」(米紙)という状況ともいいます。

 信念をもって政策を進めることは、政治家にとって大切なことです。しかしそのために自分たちを批判する、ブレーキをかける存在を排除していくと、国家や国民に苦難が降りかかる結果にならないとも限りません。その影響は、確実に日本にも及びます。トランプ政策の「洪水」のなかでも、特に批判勢力の排除につながるような動きは注意をはらい、アメリカの行く末がどうなるかをしっかり見届けていく必要があると感じます。

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