ライフスタイルも変わる暑さ
8月は連日猛暑が続きました。気象庁によれば6~8月の全国平均気温は平年より1.76度高く、統計のある1898年以降で最も暑かったそうです。長期的な地球温暖化が背景にあることから、来年以降も急激に夏が過ごしやすくなることはなさそうです。温暖化の影響か、洪水や台風といった風水害の頻度も増えています。
夏の高温化や風水害の増加は、日本人のライフスタイルにも影響を及ぼします。それにより伸びる業界、落ち込む業界も出てくると考えられます。就職先を選んだり、これからのライフプランを考えたりするうえで、気象の変化をビジネス目線で整理してみることはとても大切だと思います。夏も終わりに近づいてきましたので、今年のニュースをヒントにいろいろと考えてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・この夏、連続40日という猛暑日の全国最長記録を更新した福岡県太宰府市=2024年9月2日/写真、図版はすべて朝日新聞社)
「男性用日傘」売り上げ伸びる
気象庁によると、東京都心で最高気温が35度以上の「猛暑日」となった日数は、2014~2022年の平均は8.3日でしたが、2023年は22日。今年も8月末時点で19日に上っています。9月以降も、平年より気温が高い予測があるようで、しばらくは残暑が続きそうです。
この暑さは、人々の生活様式も大きく変えています。たとえば近年一般化してきたのが「男性用日傘」です。全国でスーパー「イオン」などを展開するイオンリテールは2019年に男性用日傘の売り場を設置。今年3~8月の売り上げは2019年同期比で460%、前年同期と比べても160%に達しています。以前は男性が日傘をさすことに抵抗感もあったようですが、さすがにそんなことも言っていられないということで需要が増しているようです。ちなみに筆者(男性)も痛みすら感じる直射日光に音を上げて、今年は出勤時に日傘を使うようになりました。体感温度もあきらかに下がりますし、今後は必携のアイテムになりそうです。
もうひとつ一般化したと感じるのが、手で持ったり首からかけたりして使う携帯扇風機です。ただこちらの製品ですが、炎天下で使うとドライヤーで熱風をあてられている状態になり、かえって表面温度が上がってしまう危険性もあるそうです。使うときは、霧吹きやしめったタオルなどで体をぬらし、そこに風をあてるといいそうです。また、携帯扇風機にはリチウムイオン電池が使われていることが多く、外部から衝撃を受けたり炎天下の車内など製品が高温になる場所に放置されたりした場合は、発火する可能性があるそうです。使う際には注意が必要です。
(写真・横浜高島屋の男性用日傘売り場=2019年6月)
省エネ・再エネ関連の売り上げも好調
民間調査会社の帝国データバンクは、今年の猛暑を受けて8月上旬に猛暑で売り上げが伸びた商品やサービスがあるか、アンケート調査を行いました(結果はこちらから)。回答のあった約1500社のうち、猛暑で売り上げが伸びた商品・サービスがあるのは11.4%。小売業は約3割が「ある」と回答しており、業界別でトップでした。
具体的に伸びた商品・サービスで最も多くあがっていたのはエアコン・空調設備関連。続いて多かった食品関連では、清涼飲料水やアイスクリームの包装資材、さらにスーパーなどで使われる「氷購入の専用コイン」といったものまで伸びました。ファン付きウェアやタオルなどの衣類関連、冷却グッズなどの熱中症対策関連のほか、エアコンがフル稼働することで電気代が上昇することから太陽光発電や蓄電池といった省エネ・再エネ関連も好調だったといいます。
関東では葉物野菜の栽培諦める農家続出
あまりの猛暑で外出控えが起こり、オンラインセミナーやオンライン教室、さらに室内遊びのゲームやジグソーパズルの売り上げが伸びた企業もありました。その反面ではたとえば運動器具など外で使う遊び道具などは売れ行きが停滞したり、建設現場などでは暑さの影響で作業効率が落ちたりするなど、マイナスの影響を受けている業界もあります。
猛暑は、農作業にも影響を及ぼしています。農林水産省によると、昨年5月から9月に田畑などでの農作業中に熱中症で救急搬送された人は2013人と、過去5年で最も多かったそうです。農業従事者は高齢化が進み、熱中症のリスクは今後さらに高くなっていくでしょう。また種苗メーカーによると、気温が高いと葉物野菜の発芽も生育も悪くなるため、関東では小松菜やホウレンソウなどの夏の栽培を諦める農家が増えているそうです。暑さに強い品種を作ってほしいという要望もあるそうですが、品種改良しているうちに温暖化が進むため、開発はもう限界ともいいます。食生活にも今後、大きな影響が出てくるかもしれません。
抜本的備えとしての中央リニア新幹線
今年の夏は猛暑に加え、大型台風の上陸やたびたびのゲリラ豪雨など、水害にも悩まされました。台風では航空便や東海道新幹線がたびたび運休するなど、交通機関にも大きな影響が出ました。
温暖化がすすめば、今後も風水害が増えることが予想されます。防災、減災のためのまちづくりがいっそう求められることになるでしょう。また、土砂災害や浸水被害が予想される土地に住むリスクはこれまで以上に高くなるとも考えられます。
いまJR東海が東京―名古屋間で建設をすすめている中央リニア新幹線は、大規模災害に対する抜本的な備えとしての意義もあるといいます。リニア新幹線の必要性についてはさまざまな議論がありますが、大規模な災害が続くなかで改めてその意義を考え直してみてもいいかもしれません。
(写真・東京-名古屋間の終日運休で閉鎖された東海道新幹線の改札口=2024年8月16日)
体調管理にはくれぐれも気をつけて
就活生にとって、夏はこれまで以上に過酷なものになっています。インターンシップの仕組みが変わり、夏休みなどの長期休みに集中するようになっているためです。就活ニュースペーパーの取材でも、インターンシップ中に家のエアコンが壊れ、無理してインターンに参加し続けた結果、体調を崩してしばらく外出できなくなった、というケースがありました。コロナ禍があけて対面形のイベントも増えてきており、体調管理はこれまで以上に気をくばる必要性が出てきています。
本来であれば学生が活動しやすい春や秋に就職活動のピークが来ればいいのですが、学業との両立を考えればどうしても夏休みにいろいろなイベントが集中せざるを得ず、就活生のみなさんには本当に負担をかけることになっていると大人として申し訳なく感じています。9月に入り暑さはかなりやわらぎましたが、これからも水分をしっかり補給する、睡眠を削らない、男性でもできるだけ日傘などで暑さから自衛するなど、体調管理にはぜひとも気をつけて就活を乗り切ってください。
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