健康被害続出、機能性表示食品制度の見直しも
小林製薬(本社・大阪市)の紅麴(こうじ)原料を使ったサプリメントが原因と疑われる健康被害が多発していることが発覚し、波紋がひろがっています。紅麴はむかしから沖縄の伝統料理「豆腐よう」といった食品の着色料などにつかわれてきましたが、紅麴がつくりだす成分にいわゆる悪玉コレステロールを下げる作用があるとされ、サプリなどの「機能性表示食品」に使われてきました。今回、小林製薬のつくる紅麴が原料のサプリを飲んでいた人が次々に腎疾患を訴え、問題が表面化しました。
いまのところ、なにが原因で、どのような過程で健康被害が起きたのか詳細はわかっていません。ひとつ注目しておきたいのは、前述した「機能性表示食品」という制度です。2015年に創設され、一定の事項を企業が消費者庁に届け出れば「悪玉コレステロールを下げる」といった機能性を表示することができる制度で、健康被害を国に届けることは義務づけられていません。年々数は増えていますが、はたしてこの制度では、「食の安全」が守られているのでしょうか。食品業界をめざす人もそうでない人も、「機能性表示食品」をはじめとする日本の食にまつわる制度についてぜひ概略を知ってください。(あさがくナビ編集部・福井洋平)
(写真・立ち入り検査のため、小林製薬大阪工場に入る厚生労働省の職員ら=2024年3月30日/写真はすべて朝日新聞社)
機能性表示食品3製品に回収命令
現在、小林製薬が本社を置く大阪市は、食品衛生法に基づいて小林製薬が出している紅麴成分を含む機能性表示食品3製品に回収命令を出しています。3月22日から小林製薬が自主回収を進めていましたが、さらに強力に回収を進める方針です。3製品は以下の通りです。
(1)「紅麹コレステヘルプ」
(2)「ナイシヘルプ+コレステロール」
(3)「ナットウキナーゼさらさら粒GOLD」
大阪市によると全国の店頭や通信販売を通じ、(1)は約100万個、(2)は約40個、(3)は約60個が販売されていたそうです。厚生労働省は4月3日、小林製薬から4月2日時点で死者が5人、入院した人が177人、医療機関を受診した人が998人いると報告を受けたと発表しました。また日本腎臓学会は1日、サプリ摂取後に腎障害を起こした患者47人の分析結果を公表しました。尿細管間質性腎炎、尿細管壊死(えし)、急性尿細管障害などが確認されたといい、4分の1が薬物治療を受け、4分の3ほどはサプリの服用中止のみだったとしています。腎障害の原因はまだ明らかになっていませんが、小林製薬や厚生労働省は一部の原料やサプリから青カビから作られる「プベルル酸」という物質がみつかったと公表しています。これは細菌を殺す抗生物質としての特性があり、毒性も非常に高いといいます。
医薬品は製造も広告も高いハードル
人の口に入る食品はいうまでもなく、高い安全性が求められます。さらに医薬品 となると、少しの量で人間の体に大きな影響を与えるものですから、よりハイレベルな安全性が必要とされています。医薬品は、開発から審査のハードルを越えて発売するまでに10~15年くらいかかります。
医薬品の開発には高い技術が求められ、また莫大なコストもかかります。それに対し、健康食品やサプリメント(栄養補助食品)などは、あくまで食品ですので、医薬品のように厳しい審査を受ける必要はなく、比較的簡単に開発、販売ができます。その分、商品を開発・販売する業者も多く、さまざまな商品が出回っています。
3種類の「保健機能食品」
ただ、医薬品と違い、食品に関しては、いわゆる健康食品やサプリであっても、人体の健康に及ぼす影響については機能性を表示してはいけないことになっています。このトマトを食べると風邪が治ります、といったようなことは宣伝文句にしてはいけないのです。
例外となっているのが、健康維持や増進に関する機能を食品のパッケージに表示できる「保健機能食品」といわれる制度です。今回問題となっている「機能性表示食品」に加えて、「栄養機能食品」と「特定保健用食品」(トクホ)の3種類があります。栄養機能食品は、ビタミンやミネラルなど不足しがちな栄養成分を補給、補完するために利用できる食品で、たとえば「鉄は、赤血球を作るのに必要な栄養素です」など栄養成分の機能をパッケージに載せることができるものです。
「トクホ」という言葉は耳にされたことがあるかもしれません。体に影響を与える保健効能成分を含み、食べたり飲んだりすることで体にいい効果が出る、と表示できる食品のことです。この制度は1991年にできました。食品1点ごとに国が安全性や機能性の科学的根拠を審査し、許可されたものがトクホを名乗れます。また、食品を人間が実際にとって効果を確かめた臨床試験データも必要です。医薬品ほどではありませんが、かなり厳しいハードルが課せられているといっていいでしょう。
機能性表示食品は名乗るハードル低く
一方の機能性表示食品は、2015年にはじまった制度です。トクホ同様「悪玉コレステロールを下げる」といった表示が可能ですが、名乗るためのハードルはトクホから大きく下がりました。
まずトクホと違い、国は食品について審査を行いません。事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠といった必要事項を消費者庁の長官に届け出れば、それで機能性表示食品を名乗ることができます。また、実際に食品を摂取して行う臨床試験も必要ではなく、文献で調査するだけでOKとなっています。届け出された機能性表示食品の情報は消費者庁のサイトで公開されており、消費者がチェックできる仕組みとなっている、といいます。
制度の弱点が浮き彫りに
トクホから一気にハードルが下がったことで機能性表示食品の市場は年々増え、現在の商品数は約6800点となっています。しかし今回の事件で、健康被害を国に報告する義務がないなど、制度の弱点も浮き彫りになりました。小林製薬が最初に今回の問題を把握したのは1月15日ですが、消費者庁に問題を連絡したのは2カ月もたった3月21日のことでした。医薬品は製造工程についても厳しく定められていますが、機能性表示食品は企業が自分の責任で表示する制度のため、製造工程をチェックする仕組みも医薬品ほど厳しくはありません。原因究明はこれからですが、どちらかといえば消費者よりも企業側のメリットを考えてつくられた機能性表示食品制度については、改めてそのあるべき姿を考えるタイミングにきているのかもしれません。消費者庁では、小林製薬に問題のサプリの科学的根拠の再検証、すべての機能性表示食品の届け出事業者にこれまで健康被害があったかどうかの報告を求め、さらに検討チームを立ち上げて、制度のあり方をとりまとめるとしています。
食品業界をめざす人にとっては、トクホや機能性表示食品について基本的な知識を持っておくことは必須です。また、自社の商品やサービスにより消費者が命の危険にさらされることがあると、会社は存亡の危機に立たされます。今回の件はどこまで広がるかまだ見通せませんが、ぜひ高い関心をもってニュースをチェックしてほしいと思います。
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