「支援疲れ」出ているが……
ロシアがウクライナに全面侵攻してから2月24日で丸2年となりました。戦線は膠着状態で、「支援疲れ」という言葉が飛び交うようになり、日本での関心も開戦当初から大きく下がっています。
第二次大戦後も大小さまざまな戦争、国際紛争が続いてきましたが、第二次大戦後の国際秩序を担ってきた国際連合の常任理事国であるロシアが全く理のない侵略を続けている状態はそのなかでも指折りに危険な状況といえます。成り行きにまかせて関心を失っていては、これから起こるであろう世界の変化も見極められなくなってしまいます。侵攻2年を機に、ウクライナ侵攻の現状とこれから考えるべきポイントについて改めて整理しました。(編集部・福井洋平)
(写真・会見を開いたウクライナのゼレンスキー大統領=2024年2月25日、キーウ/写真、図版はすべて朝日新聞社)
戦争が止まる見通しは立たず
まずは、侵攻2年を経過した現状を整理します。
・戦線は膠着しています。
ロシアは当初、短期間で首都キーウなどを攻略し、親ロシアの傀儡(かいらい)政権を樹立する計画をたてていたとみられます。しかし想定外の反撃を受け、占領地から撤退を重ねました。ロシアの見積もりが甘かったと専門家は指摘します。
一方のウクライナは2023年6月から反転攻勢をはじめ、ロシア占領地の分断をはかりましたが、目立った成果を得られませんでした。ロシアは国内で兵器増産をすすめ、北朝鮮やイランからの軍事支援も受けて戦況を立て直し、いまは有利な状況を整えつつあります。
・戦争が止まる見通しはたっていません。
ロシアのプーチン大統領は、以前からロシアとウクライナは「歴史的に一体」とし、ウクライナを独立した存在と認めていません。侵略の最終目的はウクライナの無条件降伏に等しく、これをウクライナ側が受け入れることは難しいとみられています。
ウクライナが敗れればロシアの影響力はポーランド国境にまで及ぶことから、ヨーロッパ諸国の危機感は強く、2024年2月にはそれまで200年近く軍事非同盟・中立の外交方針を取ってきたスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)に加盟することが決まりました 。隣国のフィンランドもやはりロシアの侵攻を機に昨年NATOに加盟しており、ロシアはバルト海をはさんで直接NATOと対峙することになりました。
アメリカは支援控える動き
・ウクライナ支援の動きは弱まっています。
戦線膠着を招いている一因は、国際社会のウクライナ支援が弱まっていることです。とりわけ、最大の支援国であるアメリカの政治的混乱がウクライナ支援の流れを止めています。
今年行われる大統領選で共和党の候補になることが確実視されている前大統領のトランプ氏は、ウクライナ支援に否定的な立場をとっています。アメリカはロシアを刺激しないように配慮しながら武器を提供してきました。しかし、戦闘が長引き反転攻勢も不調に終わったことでアメリカの世論は冷め、ウクライナ支援を含む予算案はトランプ氏に近い共和党議員らの反対で成立のめどがたっていません。今年トランプ氏が大統領になれば、ウクライナ支援の行く先はさらに危ぶまれそうです。
・戦争終結のシナリオは描けていません
さらに2023年には、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するハマスからの攻撃を受けて、大規模な反撃に乗り出しました。アメリカはそのイスラエルを支援しています。民間人の犠牲もいとわないイスラエルを支持しつつ、ロシアの侵略を「人権無視」と批判する姿勢は「二重基準」と国際的な批判にさらされるようになりました。
ヨーロッパはアメリカの支援が弱まることを見越して動き始めています。ドイツのショルツ首相は先日、新しい軍需工場の起工式に参加し、生産能力を上げる意向を示しました。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、欧州の防衛産業への投資のための「欧州防衛産業戦略案」を3月にも発表する準備をしています。
ロシア、ウクライナとも戦闘終結を受け入れる理由がなく、アメリカは支援継続が難しく、ヨーロッパはロシアへの警戒を強める……。こう整理してみても、ウクライナとロシアの戦争は簡単に終わらなさそうだ、ということがわかります。
(写真・ノースカロライナ州グリーンズボロで開かれた集会で演説するアメリカ・トランプ前大統領=2024年3月2日)
日本は復興支援に力を入れる
さて、日本はどうでしょうか。政府は地雷探知機の提供、ウクライナ傷病兵の自衛隊の病院への受け入れなど、財政措置も含め86億ドルにのぼるウクライナ支援を継続しています。2月19日には「日ウクライナ経済復興推進会議」が開かれ、日本政府は官民による長期の支援を約束しました。
日本は憲法の制約で武器の輸出を厳しく制限しているため 、これからの復興に向けた支援に力を入れようとしています。必要な費用は巨額にのぼり、民間企業の資金力が欠かせません。会議で日本とウクライナが結んだ協力文書には現地の経済復興と産業高度化に向けた事業がずらりと並び、大手からベンチャーまで日本企業が名を連ねています。ビジネスチャンスとも言えますが、戦争が終わらないことにはビジネスは始められません。また、ロシアとの関係性からおおっぴらにウクライナ支援を打ち出せない企業もあるそうです。
一方で、世間的な関心は低下しています。朝日新聞が侵攻開始から昨年末までのX(旧ツイッター)の書き込みを分析したところ、世界的にみても投稿数は侵攻直後をピークに下がっていますが、特に減少率が高かったのが日本でした。昨年12月最終週の投稿数はピーク時に比べ、EUは11%、ドイツは10%、米国は8%でしたが、日本は3%でした。
(写真・ウクライナのシュミハリ首相(左)との共同記者発表を終え、握手を交わす岸田文雄首相=2024年2月19日)
今後も継続して関心を持とう
日本がウクライナを支援する大きな理由は、自国の安全保障です。
ロシアも日本の隣国ですが、日本がロシア以上に警戒しているのは中国です。岸田首相は台湾有事を念頭に、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」とこれまで繰り返してきました。核兵器を背景に力で国際秩序をねじまげようとするロシアの優勢が続けば、中国もその路線を踏襲し、東アジアで軍事的な圧力を一段と強めかねないという危機感があるのです。ロシアを増長させず国際秩序を守らせることは、日本の国を守ることにもダイレクトにつながっていると政府は考えています。
ウクライナ戦争は物価高を引き起こし、みなさんの生活に大きな影響を与えています。侵略開始から2年が過ぎ、だんだんその状況に慣れてきていることは否めません。しかし、日本の安全を考えるうえでも今後のビジネスチャンスを考えるうえでも、ロシアとウクライナの情勢に無関心でいるのは得策ではありません。明るい見通しが立ちづらくチェックするのがつらいニュースが続きますが、社会人力を高めるためにもぜひ、積極的に関心を持ち続けて下さい。
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