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2024年01月26日

政治

正しく知って正しくあきれよう、自民党の「裏金」問題【時事まとめ】

「他山の石」とするために

 昨年から世間を騒がせている自民党の「裏金」問題は、長く続く「派閥」の解消論議にまで発展しています。長年問題視されてきた「政治とカネ」の問題がまるで進展していないうえ、派閥解消についても本気とは思えない議論が続き、あきれるばかりです。他人の正しくない行動をみて自分の戒めとする、という意味の「他山の石」ということわざがありますが、自民党裏金問題は他山の石とするにはぴったりの問題です。この機会に裏金問題をこれまでの経緯もふくめてざっくり理解し、正しくあきれて「他山の石」としていきましょう。(編集部・福井洋平)

(写真・自民党本部=東京都千代田区 写真はすべて朝日新聞社)

政治資金集めには抜け道がたくさん

 今回問題となっている「裏金」とは何でしょうか。「政治とカネ」の問題に立ち返って整理します。

・政治家は国や自治体から支払われる給料とは別に、政治活動に使うための「政治資金」をさまざまな方法で調達しています。たとえば、政党(国会議員5人以上などの条件あり)に対して税金をもとに支払われる「政党助成金」や、個人や企業から集める「寄付金」などです。

・「寄付金」については、多く寄付をした企業や団体に有利な政治をしてしまう=汚職につながる恐れがあるため、たびたび規制がくわえられてきました。いまは①5万円を越える寄付は「政治資金収支報告書」に寄付をした人の氏名や住所などを記載して公表する ②企業や政治団体などから、政治家個人へは寄付ができない という規制がかけられています。

・しかし、この規制には抜け道がたくさんあります。たとえば、議員個人への企業・団体献金は禁止ですが、議員が代表を務める政党支部には献金可能です。結果、2021年の収支報告書によると、430人の国会議員が代表を務める433の政党支部が少なくとも1万2千の企業・団体から約34億円の献金を受けており、額の9割が自民党の支部だったそうです。

(写真・岸田文雄首相の資金管理団体の政治資金収支報告書)

政治資金パーティーは事実上「寄付」

・もうひとつの抜け道が、「政治資金パーティー」です。パーティー券を売った収入から、会場費や飲食などの費用を引いた残りを利益として得ることができます。政治資金収支報告書への記載義務は、寄付の場合は5万円超ですが、パーティー券の場合は1回につき20万円超と緩くなっています。また、企業や団体が購入することも可能です。

・パーティー券は1枚2万円が相場だそうですが、パーティーによっては会場費や飲食費を抑えることで利益率が9割にのぼることもあるそうです。このため、実質的には寄付と同じだという指摘があります。しかも寄付するより高額の献金を、氏名を公表せずに受け取ることも可能になるわけです。「都合のいい政策をつくってほしい」「都合の悪いことは国会で言わないでほしい」と本音で思っている企業があっても、表だって献金をすればコンプライアンス違反に問われるわけで、政治資金パーティーはこっそり政治家とつながりたい企業にとっても都合のいい仕組みなのです。

(写真・自民党の清和政策研究会(当時は細田派)の政治資金パーティー=2019年5月、東京都港区)

ふつうの企業なら刑事罰も

 こういった抜け道がたくさんある制度をそのままにしていることもあきれますが、今回の裏金事件ではさらに悪質な手法がつかわれました。

・自民党は創設以来、「派閥」という掛け持ち禁止のグループが勢力を競い合ってきました。このうち最大派閥の安倍派(清和政策研究会)など複数の派閥で、派閥が主催するパーティーで集めたお金の一部を政治資金規正報告書に載せず議員に戻したり(キックバック)、議員が派閥に収めず自分の懐にしまっていたり(中抜き)していたことがわかりました。議員からすれば、誰からいくらもらったかも何につかったかもまったく明らかにしなくてよい「裏金」を手にしたことになります。もともとお金で政治がゆがめられないように政治資金についての仕組みが作られたにもかかわらず、まったくその趣旨を無視した裏金作りが長年まかりとおっていたわけです。裏金を得ていた議員は「秘書がちゃんと処理していたと思っていた」などと釈明しています。

・今回の問題を、ふつうの企業に置き換えるとどうなるでしょうか。製品やサービスを売って得たお金(売上)を報告せずに社員が自分の懐にいれた場合(中抜き)、「業務上横領罪」にとわれる可能性があります。これは10年以下の懲役という罰則があるかなり重い罪です。

・また、売上の一部を企業がなかったことにして社員などに配った場合(キックバック)、企業の収入を少なく偽装していることになり、法人税逃れにつながりかねません。キックバックを得た人が税金を納めなければ、これも当然脱税です。ちなみに政治資金パーティーの利益は実は税金がかからないため、脱税という問題にはなりません。いずれにしても今回のような裏金づくりを普通の会社でやったら大変な問題になるということは覚えておいて「他山の石」としましょう。

「派閥解散」繰り返してきた歴史

 今回の問題を受けて自民党は「政治刷新本部」を立ち上げ、政治改革の案をとりまとめましたが、これにもあきれるポイントがあります。

・一連の問題を受けて、岸田首相は会計責任者が立件された岸田派(宏池政策研究会)の解散をいちはやく表明。二階派や安倍派も解散を表明するなど、派閥解消に向けた動きが表面化していました。しかし政治刷新本部の中間とりまとめでは、「いわゆる『派閥』の解消、『派閥』から真の『政策集団』へ。カギは『お金』と『人事』から完全に決別すること」という表現で、派閥の存続は事実上認められました。これではすでに解散を表明した派閥も、本気で解散するつもりがあるのか分かったものではありません。

・派閥は解消する、派閥事務所は年末までに解散する――自民党は30年前の1994年にそう明確に宣言しています。このときは、前年に野党転落したことを受けての策でした。また、さらに前の1970年代、福田赳夫政権時にも派閥は解散しています。しかし、当時あった派閥の流れは分裂や合併はあったもののほぼ途切れず、現在の6派閥に続いています。党内最古の派閥という宏池政策研究会=宏池会のホームページには会の歴史が記されていますが、解散したということはどこにも書かれていません。なんども反故にされている約束を、今回だけは守れると考える理由は果たしてあるのでしょうか。

・不祥事を起こした場合に大切なことは、どのようにして再発を防止するかです。何度も不祥事が起こってしまう場合は仕組み自体に問題があると考え、仕組みを大きく変えるようにしていくことが再発防止につながります。同じような仕組みを温存して「気をつけます」というだけでは、本気で不祥事を防ぐ気はないと判断して差し支えないでしょう。自民党の今回の改革案が実現されるか注目し、もしうまくいかなかった場合は不祥事対策の際の「他山の石」としましょう。

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