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2023年09月29日

社会

ジャニーズ問題から、ビジネスと人権の関係を理解しよう【時事まとめ】

ジャニーズのタレントが広告契約続々見直しに

 創業者・ジャニー喜多川氏が長年性加害を繰り返してきたことが明らかになり、ジャニーズ事務所の所属タレントとの広告契約を見直す企業が続出しています。この一件は、企業が人権を守る取り組みとされてきました。もともと人権は国家が尊重し、守るべきものとして位置づけられてきました。しかし、企業の活動が拡大していくなかで、企業もまた人権を守る意識を持つべきだという考え方が強まり、2011年には国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を定めています。対応が遅れていた日本でも、企業がサプライチェーン(供給網)全体で人権侵害が起きていないかを調べ、改善に取り組む「人権デューデリジェンス」(人権DD)が注目を集めるようになり、2022年には政府が人権DDの指針をつくりました。ジャニーズの件をきっかけに、企業と人権とのかかわりについて知っておきましょう。ビジネスの現場でもきっと役に立つはずです。(編集部・福井洋平)

(写真・ジャニーズ事務所の入るビル=東京都港区)

新しい人権も年々増えている

 まず、人権とは何でしょうか。1948年に国連総会で採択された「世界人権宣言」は、「生命、自由及び身体の安全に対する権利」「奴隷制と拷問からの自由」「言論と表現の自由」「労働権」「教育を受ける権利」など、様々な権利と自由を列挙しています。 そして、これらの権利と自由は、人種や性別、国籍、民族、言語、宗教その他いかなる地位とも関係なく、すべての人が享受できると宣言しています。人権はかつて、国家が強い権力を持ち自由自在に人々を抑圧できた時代にそれへの対抗手段として考えられるようになり、まずは身体を拘束されない自由、財産を奪われない自由、言論の自由といった「自由権」が確立しました。やがて資本主義が発達して低賃金で働かされる労働者が増えてくるにしたがって、適正な労働環境を要求できる「労働権」や人間らしい生活を保証する「生存権」といった「社会権」も確立していきました。社会が発達、変化していくに従って、人権の種類や範囲も増えてきました。近年ですとたとえば、プライバシーを守る権利や、結婚や出産、身なりやライフスタイルなど自分に関することを自分で決められる「自己決定権」などが新しい人権として定着しつつあります。

(写真・PIXTA)

企業にも人権を守る責任

 国家は強い権力をもっているため、人権をかんたんに侵害することができます。そのため、人権を守るべきなのはまず国家だという考え方が一般的でした。しかし経済活動がどんどん拡大してグローバル化し、企業の活動が世界中の人々に影響を及ぼすようになってくると、企業によって人権が損なわれる危険性も無視できなくなってきました。たとえばコストダウンのため危険な環境で労働者を働かせたり、商品を値下げするために原材料を安く買いたたくことで極端な低賃金労働を取引先に強いたりするといったケースです。これは企業活動により、労働者の「生存権」が脅かされているわけです。安全性を欠く自社の製品が人を傷つけたり、差別的な広告が人権を損なったりするというケースもあります。こういった流れを受けて、2011年に国連は「ビジネスと人権に関する指導原則」を定め、企業にも人権を尊重する責任があると宣言したのです。そこから9年後の2020年には日本でも「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されました。

 企業は自社の活動で人権侵害をしなければ、それでよいというわけではありません。近年は、人権を軽視する企業だけでなく、そうした企業と取引している企業についても、人権侵害に加担しているとみなされるようになってきました。そうした会社と取引をすれば、間接的に人権侵害企業を存在させていることにつながるからです。今回のジャニーズ事務所の件は、まさにこの構図です。社名に名を残す創業者が子どもに対して性加害を繰り返していたという重大な人権侵害があり、ジャニーズ事務所はそれを止めることができませんでした。ジャニーズ所属のタレントに罪はないという意見もありますが、ジャニーズ事務所と取引することは重大な人権侵害を起こした企業をそのまま生き残らせることにつながり、人権を守るという観点からは受け入れられないでしょう。

人権DD、義務化している国も

 人権はさきほど述べたように、社会の発達にしたがってその範囲や種類が増えていっています。原材料の調達から消費者に商品を届けるまで一連の流れを指す「サプライチェーン」全体で人権侵害がないかチェックするとなると、その作業はいかにも大変そうです。そこで2022年、経済産業省が人権DDの指針をつくり、企業が人権侵害をふせぐ方法を示しました(詳細はこちらから読むことができます)。指針では企業が守るべき人権の範囲を明記。人権DDの最初のステップとして人権へのマイナスの影響が大きそうな事業領域を特定し、それがどれくらい人権を損なうことになるのかを検討して、対応の優先順をつけるよう求めています。

 人権DDは欧米を中心に法制化が進み、たとえばドイツでは一定規模の企業に対して人権DDを義務づける法律も施行されています。日本では人権DDは努力目標にとどまっていますが、世界でビジネスをする際に日本の感覚のままでいると、人権に対する取り組みが甘いとして取引を見直されるリスクも十分にあります。今回のジャニーズの一件は、そのことをはっきりと示しました。性加害のようなあからさまな人権侵害はもちろんのこと、原材料を調達するときにきわめて短い納期を求めて相手に極端な負担をかけていないか、取引先の工場などがひどい環境になっていないか、つねに頭の片隅においてビジネスを進めていく必要があるのです。2021年には、中国の新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族に対する人権弾圧が指摘され、ウイグル自治区で生産される綿を使っているとされたアパレルメーカーが欧米諸国で強い批判を受けました。人権意識が低いと、ビジネスで大きな痛手を負う可能性もあることを知っておきましょう。

取引停止は「最後の手段」

 一方、今回のジャニーズの件では、広告契約を打ち切るという各社の措置について疑問視する声も出ています。経済産業省の指針では、取引を打ち切るのは「最後の手段として検討」すべきと書かれているからです。

 人権侵害をしている企業との関係をばっと打ち切ると、自社は損害を免れます。しかし、切り離された企業に対する監視の目がなくなったり、雇用が厳しくなったりして、いっそう人権侵害がひどくなる危険性もあるのです。そのため指針では、「まずは、サプライヤー等との関係を維持しながら負の影響を防止・軽減するよう努めるべき」と記しています。

 今回のジャニーズの件では、週刊誌の報道や告発本の出版があった時点で、遅くとも海外メディアが問題を報じた今年3月の段階で広告にタレントを起用している企業側が事務所に対して実態の調査などを求める、という対応が望ましかったといえます。しかし、そこまで深刻に問題をとらえて積極的に動く企業は私たちマスメディアを含めて、なかったわけで、強く反省しなければなりません。人権DDの方法について隅々まで理解するのは大変ですが、まずはそういう概念があるということを覚えておいて、「この取引先、何か変だぞ」「うちの会社の取り組みは人権上問題があるかも」という意識をもつことが大切です。

(写真・PIXTA)