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2023年06月07日

科学技術

再び「ワンモアシング」旋風起こるか? 「アップル・ビジョン・プロ」が社会にもたらす影響とは【時事まとめ】

「複合現実」を提供

 アメリカの大手ITメーカー、アップルが6月5日、新製品「Apple Vision Pro(アップル・ビジョン・プロ)」を発表しました。ゴーグル型の端末で、仮想空間と現実空間を組み合わせた複合現実(MR)を提供するというものです。完全に仮想空間に没入する仮想現実(VR)に対し、現実空間に仮想の画像を重ねる拡張現実(AR)と呼ばれる技術があります。この二つを組み合わせ、仮想と現実の空間をより融合させたのが複合現実(MR)です。

 ご存じの通りアップル社はこれまで、社会やビジネスの在り方を根本から変えるような新製品をいくつも生み出してきました。今回のアップル・ビジョン・プロは社会に何をもたらすのか。興味がつきないところです。(編集長・福井洋平)

(写真・アップル本社のロゴ=米カリフォルニア州クパティーノ)

目の動きで画面内が操作できる

 ゴーグル型の端末である「アップル・ビジョン・プロ」の特徴は、現実空間にデジタル空間の画像を重ね合わせていることです。立体的な空間に、写真や映画などの画像を重ねて見ることができるのです。今回のデモでは、現実の自分の部屋の風景の上にアプリのアイコンが表示され、映画や写真などを見る場面が紹介されました。コントローラーは必要なく、目の動きや音声だけで画面内の操作ができます。端末上のダイヤルを回すと、現実空間と仮想空間の風景の見え方も調節できるといいます。

 これが普及すれば、テレビやパソコンのモニターも不要になり、いつでもどこでもゴーグルをつけるだけであらゆるコンテンツを受け取ることができるようになるでしょう。未来が現実になろうとしている――そんな印象を受けます。

 なお、価格は3499ドル(約49万円)で、来年初めに米国で発売し、順次他の地域でも販売するとのことです。

(写真・アップル本社にある看板=米カリフォルニア州)

ワン・モア・シング

 「One more thing(ワン・モア・シング)……」

 6月5日、アップルが毎年開発者向けに開いている会議「WWDC」での新製品発表会の最後に登場したティム・クック最高経営責任者(CEO)は、人差し指を立ててそう告げ、アップル・ビジョン・プロを紹介しました。

 アップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が新製品を発表する際に印象的に用いたことからアップルの代名詞ともなっている「ワン・モア・シング」。ジョブズ氏を継いだクックも2014年、このフレーズとともにApple Watch(アップルウオッチ)を送り出しました(製品の発売は2015年)。アップル・ビジョン・プロは、このアップルウォッチ以来約9年ぶりの大型新製品とされています。ここ数年聞かれなかった「ワン・モア・シング」のフレーズに、興奮したアップルファンも多いのではないかと思います。

(写真・アップルCEOのティム・クック=中央)

新端末投入の狙いとは

 アップルはこれまで、斬新なデザインでパソコンのイメージを一変させた「iMac(1998年)、音楽をデータで取り込んで聴くスタイルを定着させた「iPod」(2001年)、スマートフォンを世界に浸透させた「iPhone(アイフォーン)」(2007年)など、革新的な製品を次々と世に送り出してきました。特にアイフォーンが世界に与えた影響の大きさは説明するまでもないでしょう。アップルでも、アイフォーンの売り上げが全社の売り上げの半分超を占めています。アイフォーンやPC、タブレットなど魅力的な端末で消費者を引きつけ、アプリや動画配信、金融など様々なサービスもあわせて稼ぐのがアップルのビジネスモデルなのです。

 ただ近年は、アイフォーンの進化も小幅なものになってきて、大きな驚きが減ってきたという指摘もありました。今回の「アップル・ビジョン・プロ」の投入は、アップルにおけるスマホの先を見越した戦略の一環と考えられます。

アップル・ビジョン・プロは社会を変えるか

 アップル・ビジョン・プロは、社会にどんな影響をもたらすでしょうか?

 アップルに先んじて、仮想空間に力を注いできたのが同じく米大手ITのフェイスブック(FB)です。2021年に社名を「メタ」に変えて仮想空間への注力姿勢を明らかにし、VR端末「クエスト2」を発売しています。ちなみにこの上位機種である「クエスト プロ」は今年に入って価格が999ドルとなり、アップル・ビジョン・プロに比べて大幅に安くなっています。

 しかし、端末の売れ行きは思ったほど伸びていないようです。米調査会社IDCによると、昨年の世界のVRとAR端末の出荷台数は880万台と、前年比で約21%減でした。今年は約1000万台に増える見込みですが、もともと同社は2021年時点で今年の出荷台数を2600万台と予想しており、当初の見込みを大幅に下回ります。「ChatGPT」などいわゆる「生成AI」が急激に進歩していることもあり、ジャンルに対する注目度が下がってきたといえそうです。ある専門家は、アップル・ビジョン・プロが浸透するためにはまず価格をアイフォーンに近い1000ドル程度に下げる必要があると指摘しています。

自分の進む道に引き寄せて考えよう

 しかし、「当面MRの時代は来ないな……」とのんきに構えていいわけではありません。アイフォンも発売当初は「そんな大きな携帯電話になんの需要が?」と思われていましたが、発売数年で人々の生活様式を塗り替えるまでに成長しました。技術が進化するスピードは常にめざましいものです。アップルとメタが競争することで、みなさんが社会に出て活躍されるころにはMR端末がごくあたりまえの時代になっている可能性も否定できません。

 そうなれば、サービスの提供方法も大きく変わることでしょう。最初に述べたようにテレビのモニター類が勢いを失う反面、現実世界と仮想世界を結びつけるエンタメ(町歩きゲームなど)やショッピングサイトが盛んになるかもしれません。ぜひこのジャンルに対してはどの業界を志望する方もなるべくアンテナを高くして、自分のすすみたい道でこの製品はどのように活用されていくのか、何を変える可能性があるのか、考えておく必要がありそうです。

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